『洋楽の棚』傑作選「ローズ」

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今週お届けするのは、第18回で取り上げたベット・ミドラーの永遠の名曲「ローズ」。この曲の何が素晴らしいかと言うと、メロディーも歌詞も両方が美しいということです。美しいメロディーというのは数多く存在しますけど、歌詞が「美しい」と思うような曲は世界広しと言えど、なかなか見当たりませんね。そんな「ローズ」の歌詞に使われている英語はとてもシンプルですが、その理解となるとなかなか手強い相手。ここに記した解説が皆さんの理解の手助けになれば嬉しいです。

【第18 回】The Rose / Bette Midler (1980)

今回は心に沁みる曲を一曲紹介しましょう。女優のBette Midler(ベット・ミドラー)が歌った名曲The Rose です。なぜ女優が歌っているのかというと、この曲がジャニス・ジョプリンの生涯を描いた同名の映画の主題歌だからで、Bette Midler がこの曲を熱唱するシーンが映画の中に出てきます。ただ、ブロンディのCall Me と違ってこの曲は映画の為に新たに作られたものではなく、シンガーソングライターのAmanda Mcbroom(女優も兼業していて、昔のアメリカのテレビドラマなんかを見てると、端役で登場している姿を偶に目にします)の持ち歌でした。映画の主題歌を探していることを知った彼女の友人が、関係者にこの曲を薦めたことから主題歌として採用されることになったのです(こんなの讃美歌じゃないかと、映画の担当者に一度は採用を却下されたようですが)。Amanda 本人の談によると、曲は既に1970年頃に完成していて、当時、彼女が愛車で高速道路を飛ばしていた際、カーラジオから「Your love is like a razor. My heart is just a scar」という歌声(Leo Sayer が歌うMagdalena という曲でした)が流れてきて、そのフレーズを大変気に入ったことがThe Rose の誕生につながったそうです。Amanda はその部分を聞いた瞬間、その頃の自分はまだ若かったので、愛がlike a razor であることには同意できないと思ったけれど、それをきっかけに自分は愛のことを考えたことがあるだろうかと自問し始めると、あっという間に言葉が頭の中に湧き出してきて止まらなくなり、家にすっ飛んで帰って、その日のうちに歌詞を書き上げたとも述べています。

Some say love, it is a river
That drowns the tender reed
Some say love, it is a razor
That leaves your soul to bleed
Some say love, it is a hunger
An endless aching need
I say love, it is a flower
And you, its only seed

人はこう言うの、愛は川だって
柔らかな葦が流されてしまうね
人はこう言うの、愛は鋭い刃だって
魂を傷つけてしまうね
人はこう言うの、愛は渇望だって
疼くような願望がどこまでも続くね
でも、あたしはこう思うの、愛は花だって
そしてあなたが、その唯一の種なんだよね

It’s the heart, afraid of breaking
That never learns to dance
It’s the dream, afraid of waking
That never takes the chance
It’s the one who won’t be taken
Who cannot seem to give
And the soul, afraid of dying
That never learns to live

心ってのは、折れることを恐れてしまうもの
踊れるようになんてなる訳ないみたいにね
夢ってのは、目覚めることを恐れてしまうもの
チャンスなんてつかめっこないみたいにね
愛を受け入れることができない者に
愛を与えるなんてこと、できそうにないよね
そして魂ってのは、その死を恐れてしまうもの
魂が永遠だなんてことはないのにね

When the night has been too lonely
And the road has been too long
And you think that love is only
For the lucky and the strong
Just remember in the winter
Far beneath the bitter snows
Lies the seed that with the sun’s love
In the spring becomes the rose

あまりに夜が孤独過ぎて
ゴールへの道程も長過ぎる時って
あなたは思うわよね、愛って
ただ幸運で強い人の為にあるものなんだって
でも、冬を思い出してみて
ひどく積もった雪のずっと下でね
眠る種のことを、太陽に育まれる種のことを
春にバラの花を咲かせるね

The Rose Lyrics as written by Amanda Mcbroom
Lyrics © Word Collections Publishing, Warner Chappell Music, Inc.

【解説】
この曲の歌詞はこれまで何度かこのコーナーで紹介した曲と同じように二行連で韻を踏むという西洋詩の形式で書かれていますが、他の同種の歌詞とは完成度が比べ物にならないくらい高いですし、その響きも甘美で聴くものをたちまち魅了します。この詩を書いたAmanda Mcbroom も、かなりレベルの高い教育を受けた人なのでしょう。そんなこともあってか、The Rose の歌詞は中学校で習うレベルの語彙しか使われていないのに、日本語に訳すとなるとなかなか苦労します(汗)。

Some say love, it is a river で始まるこの歌詞はあまりにも有名で、この歌は多くの人の手によって和訳されていますが、その後に続くThat drowns the tender reed のreed を「葦」と単に訳して終わるだけで、それが何なのか、なぜなのかについてきちんと考える人はほとんどいないようです。確かにreed は川辺などに茂る植物の葦の意味ですが、植物の葦がdrown する(溺れる)ことはありません。水に溺れるのは人か動物(場合によっては昆虫もですかね)だけでしょう。そのことを考えた時、僕にはフランスの哲学者のとある言葉以外、頭に思い浮かべることができるようなものはありませんでした。「人間は大自然の中では一本の葦のような弱い存在に過ぎないが、人間は単なる葦でなく考える葦である」という言葉です。つまり、ここでのreed は「人間」の代替語として使われていることに疑問の余地はなく、か弱い人に対して試練を与えるのが愛であることを暗喩しているのです。第1節では、愛とは何なのかという問いかけが続いたあと、love, it is a flower, and you, its only seed との結論に主人公は達しますが、その結論とは「人は誰しも人を愛する能力(種)を持ってはいるけど、その能力を開花させることができるかどうかは本人次第」ということではないかと僕は考えます。

第2節も英語として理解するのが難かしいと言うよりも、うまく日本語に置き換えることが難しく、韻を踏んでいる原文を大切にしようとすれば尚更そうなります。1行目から6行目までは2行がワンセットになっているフレーズで、すべてIt’s で始まっていますが、このIt’s はlove を意識しつつも形式主語として使われていると考えるべきでしょう。最初の2行を例にすると、the heart はafraid of breaking しているのであり、そのafraid が何なのかをthat 以下の文が補足しています。ここでのnever learns to dance は「そんなこと私にできるだろうか?」といった人が持ちがちな不安や怖れを比喩しているのではないかと僕は思いました。アメリカ人なら「私にプロムの相手なんか見つかりっこない」と受け止める人もいるかも知れませんね。第2節に出てくるlearns to はすべて、何かができるようになるの意味で使われています。It’s the one who won’t be taken, Who cannot seem to give も難解で、the one who won’t be taken は受け取られることがない人、即ち、受け止めることがない、もしくは受け容れない人であり、そんな人がgive することはcannot seem to(やってはみるんだけどもできないというニュアンス)だと言っていて、take とgive が対になっています。言い換えるなら、One who won’t be taken love can’t seem to give love であり、まさしく、人間関係の基本となるギブ&テイクというやつですね。And the soul, afraid of dying that never learns to live のフレーズもとても難しく、僕にはdying が人の死ではなく魂の死としか聞こえなかったのでこう訳しました。

最後の第3節はここまでと打って変わってとても分かりやすいです。強いて解説を入れるとすれば2行目のthe road。このthe road は真の愛に目覚める、真の愛を得るといったことのゴールへの道程を意味していて「孤独にもがくあなたはそんなゴールに達することができるのは幸運であったり、メンタルの強い人だけだと思うだろうけど、そうじゃないよ」と語り手は伝えようとしています。なぜそうじゃないのか?それは、和訳のとおりです。あぁー、ほんと、素晴らしい歌詞ですよね。ほぼピアノだけの伴奏で静かに、そして力強く歌われるこの歌を聴いて勇気づけられた人はきっと多くいることでしょう。世界中にたくさん。

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