【第71回】Don’t You Want Me / The Human League (1981)
今回も引き続きBritish New Wave の名曲をご紹介。年間チャートの圏外だったVideo Killed the Radio Star とは違い、1982年の米国ビルボード社のそれで堂々の6位に輝いたThe Human League のDon’t You Want Me という曲です(例によってこの曲もまた「愛の残り火」なんていう超ヘンテコな邦題が付けられていますが・汗)。ボーカルのPhilip Oakey が化粧をして演じた中性的な主人公が登場するこの曲の短編映画風のミュージック・ビデオも一世を風靡しました。The Human League は、1977年にコンピューター技師であったMartyn Ware とIan Craig Marsh が中心になってイギリスのシェフィールドで結成したシンセサイザー演奏中心のテクノ・バンドで、その後、ボーカルが必要だと考えた二人がバンドに誘ったのが、Ware の友人で音楽活動の経験がほとんど無かったものの、後にこの曲を歌うことになったPhilip Oakey でした。ところが、The Human League 結成の張本人であったWare とMarsh は1980年にバンドから脱退してしまい、残されたPhilip Oakey がディスコで偶々見つけた歌の上手い女子高生Joanne Catherall とSusan Ann Sulley(二人もまた音楽活動未経験)をバックコーラスとしてメンバーに加え、翌年に大ヒットさせたのがこのDon’t You Want Me です。メンバーの多くが音楽活動の未経験者だったなんて話を耳にすると、時に本人でさえもが気付いていない人間の隠れた才能というものは、ほんと、どこで開花するのか分からないものだと思いますね。You were workin’ as a waitress in a cocktail bar
When I met you
I picked you out, I shook you up, and turned you around
Turned you into someone new
Now five years later on, you’ve got the world at your feet
Success has been so easy for you
But don’t forget, it’s me who put you where you are now
And I can put you back down too
君はカクテルバーでウエイトレスをしてた
君に最初に会った時のことだよ
僕は君を誘って、君の心を揺さぶって、君を振り向かせたよね
君を別人に変えたのさ
あれから5年経って、君は多くの人から賞賛されてる
君にとって成功なんて簡単なことだったんだよね
だけど忘れないでくれよ、君が今あるのは僕のおかげだってことをさ
君を元に戻すこともできるんだから
Don’t, don’t you want me?
You know I can’t believe it when I hear that you won’t see me
Don’t, don’t you want me?
You know I don’t believe you when you say that you don’t need me
It’s much too late to find
You think you’ve changed your mind
You’d better change it back or we will both be sorry
僕のことが欲しくないのかい?
君が僕と会おうとしないなんて、信じられないよ
僕のことが欲しくないのかい?
君が僕のことが必要ないって言ったって、そんなこと僕は信じないよ
気が付くのが遅過ぎたんだな
君は自分が心変わりしたと思ってんだろうけど
考え直しなよ、じゃないと僕たち二人とも後悔することになるから
Don’t you want me, baby?
Don’t you want me? Oh
Don’t you want me, baby?
Don’t you want me? Oh
ああ、愛しの人よ、僕のことが欲しくないのかい?
僕のことが欲しくないのかい?ねえ
愛しの人よ、僕のことが欲しくないのかい?
僕のことが欲しくないのかい?
I was working as a waitress in a cocktail bar
That much is true
But even then, I knew I’d find a much better place
Either with or without you
The five years we have had have been such good times
I still love you
But now I think it’s time I live my life on my own
I guess it’s just what I must do
ええ、あたしはカクテルバーでウエイトレスをしてた
それは間違いないわ
だけどそうだとしても、あたしはもっといい居場所を見つけたのよ
あなたがいようがいまいがね
この5年間、あたしたちはとてもうまくやってきたし
あなたのことは今も愛してる
でも今は思うの、あたし自身の道を歩む時が来たってね
それがあたしのしないといけない事だって思うもの
Don’t, don’t you want me?
You know I can’t believe it when I hear that you won’t see me
Don’t, don’t you want me?
You know I don’t believe you when you say that you don’t need me
It’s much too late to find
You think you’ve changed your mind
You’d better change it back or we will both be sorry
僕のことが欲しくないのかい?
君が僕と会おうとしないなんて、信じられないよ
僕のことが欲しくないのかい?
君が僕のことが必要ないって言ったって、そんなこと僕は信じないよ
気が付くのが遅過ぎたんだな
君は自分が心変わりしたと思ってんだろうけど
考え直しなよ、じゃないと僕たち二人とも後悔することになるから
Don’t you want me, baby?
Don’t you want me? Oh
Don’t you want me, baby?
Don’t you want me? Oh
ああ、愛しの人よ、僕のことが欲しくないのかい?
僕のことが欲しくないのかい?ねえ
愛しの人よ、僕のことが欲しくないのかい?
僕のことが欲しくないのかい?
*このあと間奏が入り、最後にDon’t you want me?を狂ったようにコーラスで連呼して曲は終了します。
Don’t You Want Me Lyrics as written by John Williams Callis, Adrian Wright, Philip Oakey
Lyrics © Domino Pub Company of America and BMG Rights Management
【解説】
シンセサイザーの音色が全開のイントロに続きPhilip Oakey とSusan Ann Sulley の掛け合いのような歌が続くこの曲、前回のVideo Killed the Radio Star とは違って非常にシンプルで分かり易い歌詞となっていますので、今回の解説は瞬く間に終わりそうですよ!(嬉)。
第1節に特に難しい部分や解説の必要な部分は見当たりません。英語の教科書に出てくるような文で、洋楽歌詞の和訳初心者にはうってつけの練習材料になると思いまのすで、是非一度、ご自身でも和訳に挑戦してみてください。7行目以降のBut don’t forget, it’s me who put you where you are now. And I can put you back down too は、なんか上から目線の言動ですね。嫌味な野郎です(笑)。因みにPhilip Oakey は、最初の1行目の部分に関して次のように語っていますのでご参考まで。
「The first verse came more or less wholesale from a photo romance magazine I was reading. The first line was “You were working as a waitress in a cocktail bar」
第2節も和訳のとおりで解説不要ですが、少しだけ補足しておきましょう。まず、タイトルにもなっているDon’t you want me?というフレーズですが、この言葉には性的なニュアンスが含まれていて、ここでは「僕のことが欲しくないのかい?」という直訳の言葉を当てはめておきましたが、この歌詞の中での真意は「今までと同じように僕と寝たくないのかい?(sex したくないのかい)」ということです。7行目のYou’d better は「~した方がいいよ」という感じに日本人は受け止めがちですが、ネイティブ話者がYou’d betterと言った時は強い命令です。この節でも男は上から目線全開ですよねー。ほんと嫌味な野郎です(←クドいぞ・笑)。第3節も解説不要。第4節は、歌詞の主人公が男性から女性に変わり、ボーカルもPhilip Oakey からSusan Ann Sulley に変わります。この節も和訳のとおりで、特に解説は必要ないですね。この第3節では、主人公の女性が、第1節の歌詞の主人公が声をかけた人物であり、その後、彼の恋人になったことが分かります。それにしても、あんな風に上から目線でものを言う男に対してI still love you って、そんなことあり得ますかね?(汗)。よほどのドM女なのか、男の言うとおり、相当彼の世話になったかですよね(←あくまでも個人の勝手な想像です・笑)。第4節と5節は、第2節と3節の繰り返し。最後はDon’t you want me? を上から目線で連呼して曲は終了。おやおや、ほんとにあっという間に解説が終わってしまいました!
以上のように、誰が聴いてもこの曲、男女間の恋物語にしか思えないのですが、Philip Oakey は雑誌のインタビューに対して「This is not a love song but about power politics between two people」と答えています。この歌詞の主人公の男と同様、Philip Oakey もちょっとヘンな人なのかも知れませんね(笑)。
【第72回】West End Girls / Pet Shop Boys (1985)
もう1曲、音楽関係者の間では未だ評価の高い英国シンセ・ポップの名曲(迷曲でもあります)を紹介しておきましょう。イギリス、アメリカ両国の週間ヒットチャートで1位を獲得し、米国ビルボード社の1986年の年間チャートでも見事15位に食い込んだPet Shop Boys のWest End Girls という曲です。Pet Shop Boys は若者向けの音楽雑誌「Smash Hits」の記者兼編集者であったNeil Tennant とリバプール大学の建築学科の学生だったChris Lowe が1981年にロンドンで結成したデュオで、結成時は「West End」というグループ名でしたが「Pet Shop Boys」に改名して1984年にこの曲West End Girls でプロとしてレコードデビューしました。ところがレコードはまったく売れずじまいで、翌年、アレンジを徹底的に変えて売り出したところ爆発的にヒットしたというエピソードを持つこの曲、確かに、84年のオリジナル版を聴けば「これは売れんわぁー」と納得できます(笑)。とは言え、85年の新バージョンは全く違う別の曲としか言いようがない仕上がりで、イントロも名曲になる予感を感じさせる響きに大変身。何よりも曲中のほとんどすべての音がシンセサイザーで作られたものであるという事実に驚かされます(バックバンドが要らないということですね・汗)。そんな計算され尽くした音作りに対し、歌詞の方は難解というよりも支離滅裂、意味不明レベル。ですが、解説を書く為の下調べをしている中で歌詞を紐解く際に参考になるであろう幾つかの手掛かりを見つけることができましたので、そのことも含めて重要なポイントを解説に入る前にまとめておきましょう。① ロンドンのWest End は、行政、商業、文化施設などが集中している地区で、劇場が多く建ち並ぶことからイギリスのブロードウェイとも呼ばれる繁華街。一方のEast end は、正式な境界線が存在する訳ではないのですが、ロンドンの中心部の金融街The City より東側、且つテムズ河の北側にある地域がそれにあたり、19世紀後半にロシアや東欧から迫害を逃れるために渡英してきたユダヤ人が大量に住みつき、彼らが給与の安い単純労働の担い手となった為、長らくのあいだ生活水準の低い地区でした(つまりは貧民街。ロンドンの下町と言えばこのEast end のこと)。現在でもAdams Family などの地元ギャングや新興勢力の移民系ギャングが多く暮らしていて治安の良くない地区ですが、再開発によって徐々に変わりつつはあるようです。
② West End Girls の歌詞を書いたNeil Tennant は、曲の歌詞がアメリカ生まれで後にイギリスに移住した作家T.S. Eliot の長編詩The Waste Land(邦題:荒地)にインスパイアーされたものだと語っており、そのThe Waste Land について彼は「What I like about it is, it’s the different voices, almost a sort of collage. All the different voices and languages coming in and I’ve always found that very powerful. So on ‘West End Girls’ it’s different voices」と述べています。つまり、この曲の歌詞のVerse は様々な人々の声なのであり、それぞれのVerse に連続性や関連性は無いと考えて良さそうです。
③ Neil Tennant はこの曲の歌詞について当初「The song’s lyrics are about class, and inner-city pressure」と発言していましたが、後に「Some listeners thought the song was about prostitutes, but was actually, about rough boys getting a bit of posh」とやや違うニュアンスで語り、最近では、新聞社のインタビューに対し「It’s about the city at night. It’s about boys and girls meeting to have fun and presumably to bond. It’s about sex.It’s paranoid」と答えています。
このように作者の発言のブレが大きい場合、勝手ながら僕は、元から歌詞には大した意味がなかったと考えるようにしています(歌詞に何か深い意味があるように見せかけているものの、その実はできていないから、作者は一貫性や整合性のある説明ができない)。例えば、英国訛りのままで歌われたこの曲が、ロンドンのWest End やEast End がどのような場所かも想像できないアメリカ人に受け容れられたことがその証ではないでしょうか。アメリカ人はシンセ・ポップという新しい音の響きを評価したのであって、彼らにとってこの曲の歌詞は意味があろうがなかろうがどうでも良かったのではないでしょうか。英語で歌われているのにアメリカ人には外国語のようにしか聞こえていなかったから、意味不明な歌詞でも受け容れられたというような気がします(普通はその逆で、アメリカ人は歌詞の意味に結構こだわる人が多いのですが)。と、なんだか話がややこしい&小難しくなってきてスミマセン。ではでは、以上のことを頭に入れて歌詞を紐解いていくとしましょうか。
Sometimes you’re better off dead
There’s a gun in your hand, and it’s pointing at your head
You think you’re mad, too unstable
Kicking in chairs and knocking down tables
In a restaurant in a West End town
Call the police, there’s a madman around
Running down underground to a dive bar
In a West End town
死んだ方がましな時ってあるよね、人にはさ
拳銃を手に、頭に銃口を向けるのさ
頭がイカれて、情緒も不安定になってるって自分でも思うよね
椅子を蹴り壊し、テーブルを叩き壊すなんてこと
ウエスト・エンド街のレストランでだよ
警察が呼ばれ、あたりにいるのはイカれた男が一人
で、そいつは地下の安酒場に駆け下りるんだ
ウエスト・エンド街のね
In a West End town, a dead end world
The East End boys and West End girls
In a West End town, a dead end world
The East End boys and West End girls
West End girls
ウエスト・エンド街、行き止まりの世界で
イースト・エンドの少年たちとウエスト・エンドの少女たちが
ウエスト・エンド街、行き止まりの世界で
イースト・エンドの少年たちとウエスト・エンドの少女たちが
そう、ウエスト・エンドの少女たちさ
Too many shadows, whispering voices
Faces on posters, too many choices
If, when, why, what?
How much have you got?
Have you got it, do you get it, if so, how often?
And which do you choose, a hard or soft option?
(How much do you need?)
多すぎる影、囁く声
ポスターに写る顔、多すぎる選択肢
もし、いつ、なぜ、どこ?
いくら持ってるんだい?
買ったの?それとも買うの?そうだとして、頻度は?
それで、どっちを選ぶ?ハードそれともソフト?
(いくらかかるんだい?)
In a West End town, a dead end world
The East End boys and West End girls
In a West End town, a dead end world
The East End boys and West End girls
West End girls
West End girls
(How much do you need?)
ウエスト・エンド街、行き止まりの世界で
イースト・エンドの少年たちとウエスト・エンドの少女たちが
ウエスト・エンド街、行き止まりの世界で
イースト・エンドの少年たちとウエスト・エンドの少女たちが
そう、ウエスト・エンドの少女たちさ
ウエスト・エンドの少女たちだよ
(いくらかかるんだい?)
In a West End town, a dead end world
The East End boys and West End girls
Ooh, West End town, a dead end world
East End boys, West End Girls
West End girls
ウエスト・エンド街、行き止まりの世界で
イースト・エンドの少年たちとウエスト・エンドの少女たちが
ああ、ウエスト・エンド街、行き止まりの世界で
イースト・エンドの少年たちとウエスト・エンドの少女たちが
そう、ウエスト・エンドの少女たちさ
You’ve got a heart of glass or a heart of stone
Just you wait ‘til I get you home
We’ve got no future, we’ve got no past
Here today, built to last
In every city, in every nation
From Lake Geneva to the Finland station
(How far have you been?)
君はか弱い人か、それとも冷たい人かな
家まで送るからそれまで待っててよ
僕たちに未来はないし、過去もないのさ
そして、今日という日は永遠に続くようになってるのさ
どの街でもどの国でもね
ジュネーブ湖からフィンランド駅まででもね
(どこまで行ったことある?)
In a West End town, a dead end world
The East End boys and West End girls
A West End town, a dead end world
East End Boys, West End girls
West End girls
West End girls
ウエスト・エンド街、行き止まりの世界で
イースト・エンドの少年たちとウエスト・エンドの少女たちが
ウエスト・エンド街、行き止まりの世界
イースト・エンドの少年たちとウエスト・エンドの少女たちが
そう、ウエスト・エンドの少女たちさ
ウエスト・エンドの少女たちだよ
*このあとはWest End girls やEast End boys を連呼するだけなので省略します。
West End Girls Lyrics as written by Neil Tennant
Lyrics © Sony/ATV Tunes LLC, Cage Music Limited
【解説】
イントロのドラムの音色が印象的ですが、これは米国Oberheim 社のDMX というデジタル・ドラムマシンで作られた音だそうです。そのあとに続くNeil Tennant の歌声は、歌っているというよりもラップ風ですね。それでは、早速歌詞へ進みましょう。第1節目の最初に出てくるSometimes you’re better off dead. There’s a gun in your hand, and it’s pointing at your head という不穏なフレーズは(ここでのyou は総称人称としてのyou です)、Neil Tennant が親戚の家に宿泊した際、テレビでJames Cagney がギャングを演じる戦前の古いアメリカ映画を見た時に思いついたものであると本人が語っています。だけども、Cagney は多数のギャング映画に出演している為、彼の記憶の曖昧さもあって、どの映画だったのかは特定されていません。Be better off dead は「死んだ方がまし、役立たずの人間だ」といった意味で、耐えがたい苦痛を感じている時などに用いられる表現。警察に追い詰められているギャングが、捕まるくらいならその前に自ら死んでやるみたいな映画ではなかったかと想像しますが、この歌詞の主人公は、拳銃の銃口を自らの頭に突き付けるのではなく、レストランの椅子とテーブルをぶっ壊すことでその思いを馳せたようです(笑)。6、7行目のCall the police, there’s a madman around. Running down underground to a dive bar からは、当然、店は警察を呼び、周りから人がさっと離れて一人になったa madman(暴れた本人のことでしょう)が、我に返って地下の酒場に駆け込んでいくような情景が思い浮かびました。dive bar というのは一般的には安酒場、大衆酒場のことを意味していますが、Neil Tennant の話によると、West End のSoho 地区に「King’s Head and Dive Bar」という名前の店が実際にあり(今は閉店して中華レストランに変わってます)、1階がKing’s Head という普通のパブ、地下階がDive Bar という音楽がずっとかかっているクラブ風のバーだったそう。Neil やChris Lowe が足繁く通っていたその店がこの曲の歌詞に出てくるa dive bar のモデルだったという訳です。
第2節のコーラス部分は軽く聞き流してしまいがちですが、ちゃんと耳を傾けるとなんだか良く分からない内容。West End town がなぜにa dead end world なのかも不明ですし、The East End boys and West End girls と唐突に連呼しているのも意味不明です(汗)。なので、The East End boys and West End girls は、and の部分をmeet かcome across に入れ替えて考えました。In a West End でEast End boys とWest End girls が出会うということですね。冒頭のまとめで記したように、East End boys は下町のちょっとガラの悪いお兄ちゃんたち。一方のWest End girls は山の手の育ちのいいお嬢さんたちの総称として使われていると考えて間違いないでしょう。では、先程も述べたとおり、West End town がなぜにa dead end world であるのかですが、East End boys とWest End girls がWest End town で出会って恋に落ちても、その関係はいつか破綻する。なぜならそこには階級の壁(生まれた世界が違う)が存在するからで、その越えられない壁のある世界(West End)のことをa dead end world という言葉で表現しているのだと僕は理解しました。第3節も意味不明、ワケワカメ。男性ならこの節を聴いて一番最初に頭に浮かんでくるのは性風俗店ではないでしょうか。山の手とされるWest End ですが、実はその中のSoho 地区はかつて売春宿が建ち並ぶ風俗街だったんです(1980年代の再開発によって消滅しましたが)。6行目のwhich do you choose, a hard or soft option?は、SMクラブの受付でハードにするかソフトにするかを訊いているようにも聞こえますし、風俗店でsex の相手を男にするか女にするかを尋ねているようにも聞こえます(Neil Tennant は自らがゲイであることを1992年に公表しています)。最後のHow much do you need?は店側の言葉ではなく、訪問者側の言葉でしょう。そのサービスを受ける(遊ぶ)にはいくら必要なんだと店側に訊いているのだと理解しました。僕には第3節がSoho の風俗街の描写としか思えなかったですが、ネイティブ話者の中には麻薬取引の描写と捉える人も多いようです(←懲りない連中です・笑)。
第4節は第2節のコーラスの繰り返し。ここでも最後にHow much do you need?が入ってますが、ウエスト・エンドの少女たちと付き合う(遊ぶ)にはどれくらいの金がかかるんだろうかというくらいの意味ではないかと思います。第5節もほぼ同じコーラスの繰り返しなので解説不要。第6節もこれまた意味不明の言葉のオン・パレード。1行目のheart of stone は、石のように固い(強い)心という意味ではなくcold hearted を意味します。2行目のJust you wait ‘til I get you home から目に浮かぶのは、East End boy がWest End girl を連れてどこかへしけこむ情景。そのあとのWe’ve got no future, we’ve got no past. Here today, built to last は、第2節で述べたように、そんな両者の間に階級の壁が横たわっているという状況の暗喩であると僕は理解しました。そうすれば5行目も、その壁はevery city、every nation にあるときれいにつながります。じゃあ、6行目のFrom Lake Geneva to the Finland station は何なんだということになりますが、ここの部分は、スイスのチューリッヒで亡命生活を送っていたレーニンが列車でドイツ、スウェーデン、フィンランドを経由してサンクトペテルブルグへ向かい、市内のフィンランド駅(フィンリャンツキー駅)で下車して帰国を果たしたことを指していることが先人たちによって解明されていて、全世界で階級の壁を無くそうとした人物こそ、ロシア革命を成功させたこのレーニンであることを考えれば、この最後のフレーズの唐突感は消えますね。と、自分なりにこの曲の歌詞を解釈してみましたが、あくまでも僕個人の解釈ですので、悪しからず。
さて、このPet Shop Boys というデュオ、実のところ、現在も解散することなく活動中。とは言え、2024年の時点でNeil Tennant は既に70歳を超え、Chris Lowe も65歳。West End Girls のミュージックビデオに出演していた頃のすらっとした二人の青年の面影はもうどこにも見当たりません。Pet Shop Boys という名は、友人がペットショップで働いていたという安直な理由から付けたそうなんですが、ヨボヨボの爺さんたちがBoys を名乗るなんて、かなりハズいです。名前というものはちゃんと先のことも考えて付けなければなりませんね。まあ、日本でも、いい歳こいたおっさんが「少年隊」だとか「変態kids」とかを名乗っていた例がありましたけども(笑)。
【第73回】Mony Mony / Billy Idol (1987)
前回に紹介したPet Shop BoysのWest End Girlsがヒットした翌年の1987年、Billy IdolのMony Monyという曲が米国ビルボード社年間チャートの19位にチャートインしていたことを記憶している人はいらっしゃるでしょうか?そもそもからして「Billy Idol?誰ですかそれ?」って感じかも知れませんが、Billy Idolは元々はイギリスのパンクロック界でアイドル的存在であったバンドGeneration X でボーカルとして活動していたミュージシャン。パンクロックの衰退と共に目敏くソロ活動を始め、その後、渡米してこの曲をヒットさせました。ヒットさせたと言っても彼のオリジナル曲ではなく、Tommy James and the Shondellsというアメリカのバンドが1968年にリリースした同名のヒット曲のカバーです(81年にJoan Jett がカバーしてヒットしたCrimson and Clover もこのバンドの曲ですね)。因みにBilly Idol の本名はWilliam Michael Albert Broad。芸名のIdol という名は、スターを意味するidolではなく、彼が高校に通っていた際、彼の成績表の化学の欄にいつも先生が「idle(怠けている)」と書き込んでいたことに由来するそう。それと、彼のトレードマークでもある金髪の頭髪は染めたものであって、本物の金髪ではありません。名前も見た目もすべてニセモノです(笑)。Here she come now sayin’, "Mony, Mony"
Shoot ‘em down, turn around, come on, Mony
Hey, she give me love, and I feel all right now
Yeah! You gotta toss and turn
And feel all right, yeah, I feel all right
ほら、今彼女が来て言ってるよ「モニー、モニー」ってね
連中なんてほっといてさ、踵を返して、こっちに来てよ、モニー
さあ、彼女が愛してくれるから、僕はもう大丈夫さ
そう!君は寝返りを打たなきゃならなくなるよ
ああ、大丈夫、そうさ、僕は大丈夫さ
I said, yeah (Yeah), yeah (Yeah)
Yeah (Yeah), yeah (Yeah), yeah (Yeah, yeah)
僕は言ったんだ、いい感じってね(そうさ)、いい感じってね(そうさ)
いい感じってね(そうさ)、いい感じってね(そうさ)、いい感じってね(そう、そう)
‘Cause you make me feel (Ride the pony)
So good (Ride the pony)
So good (Ride the pony)
So good (Mony, Mony)
So fine (Mony, Mony)
So fine (Mony, Mony)
It’s all mine (Mony, Mony)
Well, I feel all right (Mony, Mony)
だってさ、君は僕を導いてくれるんだもの(やっちゃえ)
すごくいい気持ちにね(やっちゃえ)
すごくいい気持ちにさ(やっちゃえ)
すごくいい気持ちにだよ(モニー、モニー)
すごくいい感じにね(モニー、モニー)
すごくいい感じにだよ(モニー、モニー)
気持ちいいのは僕の方さ(モニー、モニー)
ああ、僕は大丈夫(モニー、モニー)
Wake it, shake it, Mony, Mony
Ah, shotgun dead, and I’ll come on, Mony
Don’t stop cookin’, ‘cause I feel all right now
Hey, don’t stop now, come on, Mony, come on, yeah
起たせて、振ってくれよ、モニー、モニー
あー、ショットガンで撃たれて、逝っちまうみたいさ、モニー
止めないでくれよ、僕は大丈夫だから
頼むよ、止めないでくれ、さあ、モニー、さあ、そうだ
‘Cause you make me feel (Ride the pony)
So good (Ride the pony)
So good (Ride the pony)
Well, I feel all right (Mony, Mony)
It’s all mine (Mony, Mony)
It’s all mine (Mony, Mony)
It’s all mine (Mony, Mony)
And I feel all right (Mony, Mony)
だってさ、君は僕を導いてくれるんだもの(やっちゃえ)
すごくいい気持ちにね(やっちゃえ)
すごくいい気持ちにさ(やっちゃえ)
そう、僕は大丈夫さ(モニー、モニー)
気持ちいいのは僕の方(モニー、モニー)
気持ちいいのは僕の方さ(モニー、モニー)
気持ちいいのは僕の方なんだ(モニー、モニー)
ああ、僕は大丈夫(モニー、モニー)
Ooo, I love you Mony, Mo-mo-mony
Ooo, I love you Mony, Mo-mo-mony, said I do
あぁー、君を愛してる、モニー、モ・モ・モニー
あぁー、君を愛してる、モニー、モ・モ・モニー、そう誓ったんだ
Come on, come on, come on, come on
Come on, come on, come on, feel all right
さあ、さあ、さあ、さあ
さあ、さあ、さあ、僕は大丈夫だから
Wake it, shake it, Mony, Mony
Up, down, turn around, come on, Mony
Hey, she give me love, and I feel all right now – hah!
I said, don’t stop now, come on, Mony
Come on, Mony
起たせて、振ってくれよ、モニー、モニー
上へ下へ、ぐりぐり回して、そうだ、モニー
彼女は僕を愛してくれるし、僕は大丈夫さ、へへっ!
言ったろ、止めないでくれって、そうさ、モニー
その調子だ、モニー
‘Cause you make me feel (Ride the pony)
So good (Ride the pony)
So good (Ride the pony)
So good (Ride the pony)
I feel all right (Mony, Mony)
All right (Mony, Mony)
You’re so fine (Mony, Mony)
Well, I feel all right (Mony, Mony)
だってさ、君は僕を導いてくれるんだもの(やっちゃえ)
すごくいい気持にね(やっちゃえ)
すごくいい気持にさ(やっちゃえ)
すごくいい気持にだよ(やっちゃえ)
僕は大丈夫(モニー、モニー)
大丈夫さ(モニー、モニー)
君って最高(モニー、モニー)
ああ、僕は大丈夫さ(モニー、モニー)
I want to
Ride the pony, ride the pony, ride the pony
Come on, come on (Come on)
Mony, Mony (Mony, Mony)
Feel all right (Mony, Mony)
(Mony, Mony)
僕はさ
やりたい、やりたい、やりたいんだ
さあ、さあ(さあ)
モニー、モニー(モニー、モニー)
大丈夫さ(モニー、モニー)
(モニー、モニー)
‘Cause you make me feel (Ride the pony)
So good! (Ride the pony)
So good! (Ride the pony)
So good!
Come on (Mony, Mony)
Yeah (Mony, Mony)
All right (Mony, Mony)
Well, we feel so good (Mony, Mony)
だってさ、君は僕を導いてくれるんだもの(やっちゃえ)
いい気持にね(やっちゃえ)
いい気持ちにさ(やっちゃえ)
いい気持ちにだよ
さあ(モニー、モニー)
そうだ(モニー、モニー)
大丈夫だから(モニー、モニー)
ああ、僕たちとても感じてるよね(モニー、モニー)
*リフレーンのI said, yeah の部分は最初の1回を除き、すべて歌詞から省略してあります(歌詞が長くなるので)。
Mony Mony Lyrics as written by Bobby Bloom, Ritchie Cordell, Bo Gentry, Tommy James
Lyrics © EMI Longitude Music
【解説】
やたらと歌詞が長い割には使われている語彙が少なく、なんだか訳の分からぬことをだらだらと繰り返し言ってるだけの歌というのが正直な印象ですね。タイトルにもなっているこのMony という言葉、僕はずっとmoney だと思っていましたが、今回改めてこの曲を聴いてみて「なんか違うぞ」という気がしてきました。それに、タイトルを良く見てみると「なんじゃーこれぇー!」です。e が一文字抜けてるじゃないですか!(←今更かよ・笑)。そこで、Mony について調べてみたところ、この曲のオリジナル版の作詞者であるTommy James の発言が直ぐに見つかったので紹介しておきます。
「Ritchie Cordell and I were writing it in New York City, and we were about to throw in the towel when I went out onto the terrace, looked up and saw the Mutual of New York building which has its initials illuminated in red at its top. I said, "That’s gotta be it! Ritchie, come here, you’ve gotta see this!" It’s almost as if God Himself had said, "Here’s the title." I’ve always thought that if I had looked the other way, it might have been called "Hotel Taft"」
つまり、Mony とはThe Mutual Life Insurance Company of New York という生命保険会社が本社として使用していたニューヨーク市マンハッタンの高層ビル、通称「The MONY building」の屋上付近にあった赤いネオンサインにヒントを得た言葉だったんですね。Tommy たちが目にしたinitials illuminated in red というのは、ビルの壁面に取り付けられていたMONY という巨大な文字で、O の中で$マークが輝いていたそうなんですが、この看板文字は2007年に撤去され、ビルの名前も「1740 Broadway」に変わっています。また、彼が言及している「Hotel Taft(現The Michelangelo)はMONY ビルから3ブロックほど離れており、目を横に逸らしたくらいで本当に見えたのかどうかはちょっと疑わしいですね。オリジナル版の歌詞ではドラッグを暗喩する言葉としてどうもこのMony が使われているようなのですが、Billy Idol のカバー版と聴き比べてみると、カバー版は歌詞が少し変えられていて、オリジナル版とは違った意味で使われているとしか僕には思えませんでした。それでは、それがどういうことなのか、詳しく歌詞を見ていくことにしましょう。
第1節目1行目、いきなりMony, Mony という言葉が出てきますが、ここでは呼びかけの言葉くらいにしか聞こえませんね(余談ですがThe Mutual Life Insurance Company of New York は、MONY をモニーではなくマネーと発音させていたそう)。2行目のshoot someone down には「someone の提案にノーを突き付ける」という意味があるので、このように訳しました。4、5行目は、オリジナル版ではYou got me tossin’ turnin’ in the night, and I feel alright. Let me feel alright となっているので、寝返りを打つ人が真逆です(toss and turn は寝返りを打つという意味)。なぜにtoss and turn なんて言葉がここで使われているのか良く分かりませんが、僕の頭には、ことが終わってベッドで二人が眠っている中、女が何度も寝返りを打つのを男が「いいよ、いいよ、大丈夫」と微笑ましく見守っているような姿が思い浮かびました。第2節のリフレーンのyeah は、いい感じ(気持ち)だから止めないでくれといったニュアンスでしょうか。このリフレーンはここを含めて曲中で10回も繰り返されます(←そんなに気持ちいいのかよ・笑)。第3節のコーラス部分の1行目にはRide the pony という表現が出てきますが、オリジナル版の歌詞にはこの表現はありません。では、一体これは何を意味しているのでしょうか?直訳すれば「ポニーに乗る」ですけども、その訳ではこの曲の歌詞においてはまったく意味を為しません。実はRide the pony、スラングでは「(麻薬の)ヘロインをやる」とか「sex しまくる」という意味がありまして(性的な意味で使う場合、ride the pink pony とかride the wild pony と言ったりもします)、この歌詞のRide the pony はどちらかと言うと、後者の意味だと僕は思います。なぜなら、Billy Idol が、自分が童貞を捨てた時にバックでかかっていたのがオリジナル版の方のこの曲だったと語っているからで、彼はその時の気分をこの曲の歌詞に重ね合わせて歌詞の一部に手を加えたのでしょう。アメリカでBilly Idol 版を聴いた多くの若者(男性)たちも同じように思うらしく、その証拠かどうかは分かりませんが、この曲がアメリカの高校のダンスパーティー等で演奏される場合、歌の出だし部分で下記の( )内のような下品な合いの手を入れることが恒例になっていました。
Here she come now sayin’, "Mony, Mony"
(Hey, motherfucker! Get laid, Get fucked!)
Shoot ‘em down, turn around, come on, Mony
(Hey, motherfucker! Get laid, Get fucked!)
合いの手には幾つかのバージョンがありますが、どれも共通して同じような卑猥な内容(笑)。なので、これらのことから考えると、Billy Idol はMony, Mony をsex を仄めかす言葉として使っているのではないかというのが僕の結論です。敢えて日本語に置き換えるとすれば「チョメチョメ」が妥当ではないかという気がします(笑)。チョメチョメなんて言っても若い方々には分からないかもですが、チョメチョメは故山城新伍さんが、テレビのクイズ番組で司会をしていた際「××」と伏字になっている答えの部分をそう読んだことから始まり、そこから転じて直接口にできない卑猥語をごまかす為に使われるようにもなりました。なので、その理解で話を進めると、第4節もエロのオンパレードのように聴こえてきますね。3行目のcookin’はオリジナル版でも使われている言葉で、オリジナル版ではヘロインの摂取(ヘロインを炙る)を意味していると思われますが、Billy Idol 版ではDon’t stop fucking(もしくはsucking)を想像させることを意図しているように僕は感じました(←あくまでもエロ親爺によるエロな推測です・汗)。第5節のコーラス部分、5行目のIt’s all mine は、The pleasure is all mine と言ってるように僕には聴こえたので、このように訳しています。第6節以降も歌詞はだらだらと続いていますが、同じような内容の繰り返しだけなので、解説は省略。最後のコーラスが、オリジナル版には無いWell, we feel so good というフレーズで終わっているのを聴くと「やっぱりそうかー」って感じですかね(笑)。
それでは、最後にBilly Idol のトリビアをひとつ。Billy はアーノルド・シュワルツネガー主演の人気映画「ターミネーター2」でコナー親子を抹殺する為に未来からやって来るアンドロイドT-1000 役として配役が決まっていたのですが、クランクイン前にバイクを運転中、一時停止を無視して通りに飛び出した直後に乗用車と衝突、一時は右足切断かと言われるほどの大怪我を負ってその出演が幻に終わっています。御多分に洩れずBilly も重度の薬物依存者だったので、事故はその悪影響によって引き起こされたんじゃないかという気がするのは僕だけでしょうか?(←あくまでも推測です・汗)。
【第74回】(I Can’t Get No) Satisfaction / The Rolling Stones (1965)
さてさて、そろそろこの辺りでイギリスの大御所の曲も紹介しておくとしましょうか。今日お届けすることにしたのは、ご存知ローリングストーンズが1965年にヒットさせた名曲Satisfaction です。別にストーンズが好きでもないので、僕が聴くのはこのSatisfaction かAngie、Start Me Up、Jumpin’ Jack Flash の4曲くらいですが、強いて一番好きな曲を挙げるとすれば、やはりこのSatisfaction でしょうか。1962年にBrian Jones がMick Jagger やKeith Richards らと共にロンドンで結成したこのグループ、一度も解散することなく今も存続中(Brian Jones は1969年に薬物絡みと思われる事故で早々に死去しています)。2024年の時点でもMick Jagger、Keith Richards、古参メンバーのRon Wood といったよぼよぼの爺さんたちが集って北米ツアーを行っていて、これを凄いと思うのか見苦しいと思うのかは各人の価値観によって違ってきますけども、僕は断然後者ですね。まあ、このグループについては既に語り尽くされていますので、早速歌詞に進みましょう。I can’t get no satisfaction
I can’t get no satisfaction
‘Cause I try and I try and I try and I try
I can’t get no, I can’t get no
俺はこれっぽっちも満足できねえ
これっぽっちも満足できねえんだ
だってさ、やっても、やっても、やっても
駄目なんだ、満足できねえのさ
When I’m driving in my car
And that man comes on the radio
And he’s telling me more and more
About some useless information
Supposed to fire my imagination
I can’t get no, oh no, no, no!
Hey, hey, hey! That’s what I’ll say!
車を運転してるとさ
ラジオの放送にあの男が出てきて
いろいろと言うんだよな
役に立たないくだらないことをね
俺の想像をかき立てようとしてるんだろうが
駄目なんだよ、駄目、駄目、駄目!
おい、おい、おい!って言っちまうね!
I can’t get no satisfaction
I can’t get no satisfaction
‘Cause I try, and I try, and I try, and I try
I can’t get no, I can’t get no
俺はこれっぽっちも満足できねえ
これっぽっちも満足できねえんだ
だってさ、やっても、やっても、やっても
駄目なんだ、満足できねえのさ
When I’m watching my TV
And a man comes on and tells me
How white my shirts can be
Well he can’t be a man ‘cause he doesn’t smoke
The same cigarettes as me
I can’t get no, oh no, no, no
Hey, hey, hey, that’s what I say
テレビを見てるとさ
画面に男が出てきて言うんだよな
俺のシャツがどんなに白くなるかってさ
でもさ、煙草を吸わない奴なんてお呼びじゃねえよ
同じ煙草を俺みたいに吸ってない奴はな
駄目なんだよ、駄目、駄目、駄目
おい、おい、おい!って言っちまうね!
I can’t get no satisfaction
I can’t get no girl reaction
‘Cause I try, and I try, and I try, and I try
I can’t get no, I can’t get no
俺はこれっぽっちも満足できねえ
女の子が感じてるのも見たことねえんだ
だってさ、やっても、やっても、やっても
駄目なんだ、満足できねえのさ
When I’m riding ‘round the world
And I’m doing this and I’m signing that
And I’m trying to make some girl
Who tells me baby, better come back, maybe next week
‘Cause you see, I’m on a losing streak
I can’t get no, oh no, no, no
Hey, hey, hey! That’s what I’ll say!
世界のあちこちを走り回ってるとさ
これをやって、あれにサインして
それでもって、女の子を口説きもするんだ
また来た方がいいわ、多分来週ねなんて言う女の子をね
なんでか分かるだろ、俺の人生、負け続きなのさ
駄目なんだよ、駄目、駄目、駄目
おい、おい、おい!って言っちまうね!
I can’t get no, I can’t get no, I can’t get no
I can’t get no satisfaction
No satisfaction, no satisfaction, no satisfaction
I can’t get no
駄目なんだ、駄目なんだ、駄目なんだ
俺はこれっぽっちも満足できねえ
満足できねえ、満足できねえ、満足できねえんだ
そう、駄目なんだ
(I Can’t Get No) Satisfaction Lyrics as written by Mick Jagger, Keith Richards
Lyrics © Abkco Music Inc
【解説】
歴史にその名を刻んだSatisfaction のギターリフ。その歪んだ音色が響く強烈なイントロは、何度聴いても飽きることがありません(エフェクターを介してわざと音を歪ませているそうです)。一方、歌詞の方はというと、難しい英語は使われていませんが、内容に関しては「なぁーんか、何を言いたいのかいまいち良く分かりませぇーん」といったところ。ですが、歌詞を書いたMick Jagger がこの曲に関して「“Satisfaction” was my view of the world, my frustration with everything…, disgust with America, its advertising syndrome, the constant barrage」と過去に発言しているので、彼のこの証言を参考に歌詞を紐解いていくことにしましょう。
1節目はタイトルともなっているI can’t get no satisfaction というフレーズでいきなり始まりますが、この部分を直訳すると「満足できないことはない」つまり「満足できる」という意味に普通はなります。文法用語で言うところの「二重否定」というやつですね。ところが、このフレーズ、当時の一部の黒人たちの英語では強い否定を表していて「まったく満足できない」の意味で用いられていたようです(難しい話になりますが、こういう用法をenallage と呼びます)。どうしてそうなるのか日本人にはちょっと理解し辛いですけど、こう考えれば分かり易いかと思います。この曲のタイトルのI can’t get no の部分がわざわざ( )で囲われていることに注目してください。この部分だけを直訳すると「ノーが得られない」となりますね。じゃあ、そのノーが何なのかと言うと、後に続くsatisfaction がそれ。なので「satisfaction が得られない」と言っているのと同じになる訳です(この部分を文法的に正しく書くならばI can’t get any satisfaction でしょう)。この第1節からは、前述のMick Jagger の言葉に出てきていたmy frustration with everything という感情が読み取れますが、everything が具体的に何なのかはまだここでは分かりません。第2節では、そのeverything の一端が吐露され始めます。4行目のsome useless information は、これまた前述のMick の言葉を参考にconstant barrage of useless information のことであると僕は推測しました。テレビの番組で無能なコメンテーターがしたり顔でぺらぺら喋っているのを見て「こいつ、馬鹿じゃねえのか」と思うようなことが多々ありますが、第2節にはそれと同じような感情がこもっているように僕には思えました。ですが、この種のフラストレーションの解決策っていうのは実に簡単で、ラジオなんて聞かなければいいだけの話なのです。なので、僕もテレビでは映画か海外ドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ中継以外の番組は一切見ません。
3節目は第1節と同じ内容。第4節の歌詞の趣旨は、前述のMick Jagger の言葉の中のits advertising syndrome についてであることは明白でしょう。僕が子供だった頃には「ほーら、洗濯物がこんなに真っ白に!」みたいなインチキっぽいCMがテレビで良く流れていたもんです。ただ、そんなCMと4、5行目のWell he can’t be a man ‘cause he doesn’t smoke. The same cigarettes as me とがどうつながるのかが僕には良く分かりませんでした。4行目のhe は2行目のa man を指しているとしか考えられませんから何か関係があるはずと思ったのですが、ここの部分は、当時のアメリカのそこら中に立っていた巨大な煙草の看板(例えば「煙草を吸ってこそ男だ」みたいなカウボーイを使ったマルボロの看板)を揶揄しているようです。5節目も第1節と同じフレーズの繰り返し、と思いきや、2行目がしれーっとno girl reaction という言葉に変えられていますね(笑)。この言葉が入っただけで、ここの節の全体の意味が性的なフラストレーションに一気に変化するところがとても面白いと思います(アメリカでも60年代はまだ社会全体がお堅い時代でしたから、当時は当然、ラジオやテレビの関係者から問題視されたようです)。そして、第6節は恐らく自らのことを語っているのでしょう。行く先々でMick たちに殺到するグルーピーの女の子たちの姿が目に浮かびます。3行目のmake some girl は「女の子を口説く」にしておきましたが実際はsex を意味していて(←またsex かよ・笑)、4行目のbetter come back, maybe next week は「今日は生理だから、来週また来て」ということだと理解しました。だからこそ、主人公は5行目でI’m on a losing streak なんてことを言っているのですが、Mick Jagger に限ってはそんなことあり得なかったでしょうね(笑)。
このように、Mick Jagger はこの曲でアメリカの商業主義やアメリカそのものを嫌ってコケにしていた訳なんですけども、その後、そんな彼がそのアメリカを舞台にそのアメリカの商業主義に乗っかって大儲けしたという事実は、あまりにも滑稽だと言わざるを得ません。
【第75回】You Really Got Me / The Kinks (1964)
前回に引き続き今回もイギリスの大御所の曲を紹介しましょう。本日お届けするのはSatisfaction 同様、歴史的名曲と位置づけられているThe Kinks のYou Really Got Me です。日本で偉大なUK4大バンドと呼ばれているのは、The Who, The Rolling Stones, The Beatles とこのThe Kinks ですが、前出の3つのグループに比べるとThe Kinks は知名度においても存在感においてもヒット曲の数においてもかなり弱いですね。若い方なら「そんなバンド名、初めて聞いた」と仰る方さえおられるかも知れません。そんな塩梅ですから「じゃあ、UK4大バンドじゃなくて、3大バンドでも別にいいじゃないか」という話になりがちなんですが、ハードロックの設計図を描いた先駆者であるとか、パンクロックの祖であるという風に形容されるThe Kinks がイギリスの音楽業界に残した功績を考えると、やはり3大バンドではなく4大バンドでないとならぬのです。The Kinks は1962年にRay Davies とDave Davies という労働者階級の家庭に生まれた二人の兄弟によってロンドンで結成されたバンドで、このYou Really Got Me という曲をひっ提げ、ビートルズを追うようにアメリカ進出を果たしましたが、ライブ会場での粗暴な振る舞いなどを理由にAFM(アメリカ音楽家連盟)からアメリカ国内での演奏活動禁止の処分を受けたことで、事実上、アメリカの音楽業界から追放され、その後、活動の軸足をアメリカに戻すことは二度とありませんでした。ですが、そのことは結果的にThe Kinks が自国に再び目を向ける良い機会となり、A Well Respected Man やWaterloo Sunset といった名曲が生まれる原動力ともなりました(曲はロックではなくフォーク調に変化してますが・汗)。Girl, you really got me goin’
You got me so I don’t know what I’m doin’
Yeah, you really got me now
You got me so I can’t sleep at night
Yeah, you really got me now
You got me so I don’t know what I’m doin’, now
Oh yeah, you really got me now
You got me so I can’t sleep at night
You really got me
You really got me
You really got me
君ってほんと、僕のテンションを上げてくれたよ
君に心を掴まれたもんだから、自分でも何してんのか分からないよ
そうさ、君にはもうほんと参った
君に心を掴まれたもんだから、夜も眠れないもの
そうさ、君にはもうほんと参った
君に心を掴まれたもんだから、もう自分でも何してんのか分からないもの
そうさ、君にはもうほんと参った
君に心を掴まれたもんだから、夜も眠れないもの
君にはほんと参った
ほんと参った
ほんと参ったよ
See, don’t ever set me free
I always wanna be by your side
Girl, you really got me now
You got me so I can’t sleep at night
Yeah, you really got me now
You got me so I don’t know what I’m doin’, now
Oh yeah, you really got me now
You got me so I can’t sleep at night
You really got me
You really got me
You really got me, oh no
ねえ、僕をほったらかしにしたら駄目だよ
僕はいつでも君の傍にいたいんだ
君にはもうほんと参った
君に心を掴まれたもんだから、夜も眠れないもの
そうさ、君にはもうほんと参った
君に心を掴まれたもんだから、もう自分でも何してんのか分からないもの
そうさ、君にはもうほんと参った
君に心を掴まれたもんだから、夜も眠れないもの
君にはほんと参った
ほんと参った
ほんと参ったよ、あー駄目だ
*最後に第2節と同じ歌詞を繰り返した後、曲は終了します。
You Really Got Me Lyrics as written by Ray Davies
Lyrics © Sony/ATV Songs LLC, Jay-Boy Music Corp
【解説】
一度聴けば二度と忘れることのないYou Really Got Me のギターリフ、やや単調ですがパンチ力は充分にありますね。この曲のギターの音色もストーンズのSatisfaction 同様にわざと歪みが加えられているのですが、distortion の元祖はこちらです。しかもSatisfaction がエフェクターを使っているのに対し、You Really Got Me はアンプのスピーカーのコーンにナイフで切り込みを入れて音を歪ませるという荒業を使っていたんだそうですよ(汗)。そんな音作りに比べると、歌詞の方は後にRay Davies が書くようになるイギリス社会を内省するような奥の深いものではなく実に単純なもので、同じ人物が書いたものとは思えないくらいです。それでは、そのシンプル過ぎる歌詞を見ていきましょう。
第1節1行目のget me going は、直訳すれば「自分を動かしてくれる」つまり「気分が上がる」という意味です。今風に言うならば「テンション上がるぅー」ってやつですね(余談ですが、英語のtension は緊張や不安を意味する言葉。「気分」の代わりに「テンション」を日本語の中で使うようになっているのは誤用です)。2、3行目のyou got me は、日本人にとってはなかなか手強い表現で、場面に応じて様々な意味に変わります。捕まえられた(あなたは私を捕まえた)、ばれたかぁー、(私が考えてること、私の性格などが)よく分かっているね、痛いところをつかれた、ツボを押さえられた、君には負けたよ、参ったなぁー、降参だ、やられたぁー、引っかけられたぁー、といった具合。英語ではこれらの感情表現をすべてyou got me の一言で片付けることができます。この歌詞の中では2行目には「(心を)捕まえられた(掴まれた)」、3行目には「参ったな」が一番しっくりくるのではないかと感じたので、このように訳しました。第2節は最初の2行は少し違いますが、残りの部分は第1節とほぼ同じですので、解説は必要ないですね。うぉぉぉー、なんてことでしょう!もう解説が終わってしまいましたよー!要するにこの曲、自らの心を女にがっつりと掴まれ、メロメロになってしまっている男の心情を歌っているものだということは誰が聴いても分かりますね。実際、Ray Davies は雑誌のインタビューで次のように語っています。
「I was playing a gig at a club in Piccadilly and there was a young girl in the audience who I really liked. She had beautiful lips. Thin, but not skinny. A bit similar to Françoise Hardy. Not long hair, but down to about there. I wrote ‘You Really Got Me’ for her.・ピカデリーのクラブでギグをやってた時、観客の中に僕の好みにぴったりの若い娘がいてね、唇がきれいだった。細いけどガリガリって訳でもなくてさ、ちょっとフランソワーズ・アルディ(フランスの女性歌手)に似てたんだ。髪は長くはないけどこれくらいの長さでね、僕はYou Really Got Me をその娘の為に書いたのさ」
因みにYou Really Got Me、The Kinks に影響を受けたというVan Halen が1978年にカバー曲を出していて、The Kinks のオリジナルを完全に凌駕する仕上がりになっていますので、興味を持った方は一度聴き比べてみてください(デビューアルバムのVan Halen に収録されています)。
【第76回】Caribbean Queen / Billy Ocean (1984)
本日紹介する1曲は、当時のイギリスの音楽業界では少数派であったソウルフル&ダンサブルなBilly Ocean のCaribbean Queen です。実はこの曲、1984年5月にイギリスでEuropian Queen というタイトルでリリースされたのですが、まったく売れずに在庫の山という結果に終ってしまっていて、途方に暮れたレコード会社の社長がイントロを短くしたり歌詞を少し省いてテンポを良くし、歌詞の中のEuropian Queen の部分をCaribbean Queen に変更。タイトルも同じように変えてその年の夏にアメリカ向けとしてリリースしたところ、急にヒットしたというちょっと面白いエピソードを持つ曲なんです(アフリカ向けとして同じように加工したAfrican Queen という曲も同時にリリースされ、当時はまだアパルトヘイト政策を続けていた南アフリカ共和国でヒットしました)。カリブ海はアメリカ人が大好きなリゾートエリアですし、この曲はアメリカでそこそこヒットした曲なので(1984年のビルボード社年間チャートで51位。週間チャートでは2週連続1位を獲得)、そのモータウン風の歌い方からしても、僕はBilly Ocean のことをアメリカ生まれの黒人だとずっと思っていたのですが、今回この曲のことを調べていた最中に、彼がトリニダード・ドバコ生まれで、イギリスのミュージシャンであることを初めて知りました(汗)。トリニダード・ドバコは南米のベネズエラ沖、カリブ海の東端に浮かぶ日本の福岡県とほぼ同じくらいの面積の大きな島で、Billy Ocean が生まれた1950年当時はイギリス領だったそう。10歳の時、彼は両親と共にイギリス本土へ移住しています。She dashed by me in painted on jeans
And all heads turned ‘cause she was the dream
In the blink of an eye I knew her number and her name, yeah
She said I was the tiger she wanted to tame
ペイントカスタムのジーンズを履いた彼女が僕に駆け寄ると
誰もが振り向いたんだよね、だって彼女は皆の憧れだったもの
そんな彼女の名前と電話番号を、僕は瞬く間に手にしたんだぜ
彼女、僕のことをこう言ったんだ、飼い慣らしたかった虎だってね
Caribbean Queen
Now we’re sharing the same dream
And our hearts they beat as one
No more love on the run
カリブ海の女王
と、僕とは今、同じ夢を分かち合ってる
僕たちの心はひとつになるんだ
恋の火遊びなんてもう御免さ
I lose my cool when she steps in the room
And I get so excited just from her perfume
Electric eyes that you can’t ignore
And passion burns you like never before
彼女が部屋に足を踏み入れてきた時、僕は冷静さを失ったね
彼女から漂う香水の香りにめちゃくちゃ興奮したからさ
彼女の輝く瞳を無視したりなんてできないことだし
情熱がかつてなかったほどに燃え上がったよ
I was in search of a good time
Just running my game
Love was the furthest
Furthest from my mind
かつての僕は楽しい時間だけを探し求めてたんだよね
ゲーム感覚でね
だから愛はほど遠いものだった
僕の心からはほど遠いものだったんだ
Caribbean Queen (can’t give her up)
Now we’re sharing the same dream (don’t wanna stop)
And our hearts they beat as one
No more love on the run
I love ya, I need ya
カリブ海の女王(彼女を諦めることなんてできないよ)
と、僕とは今、同じ夢を分かち合ってる(もう止めたくはないんだ)
僕たちの心はひとつになるんだ
恋の火遊びなんてもう御免さ
だって、君を愛してるんだもの、君が必要なんだもの
Caribbean Queen (can’t give her up)
Now we’re sharing the same dream (don’t wanna stop)
And our hearts they beat as one
No more love on the run
カリブ海の女王(彼女を諦めることなんてできないよ)
と、僕とは今、同じ夢を分かち合ってる(もう止めたくはないんだ)
僕たちの心はひとつになるんだ
恋の火遊びなんてもう御免さ
*このあとサックスのソロが入り、上記と同じコーラスを2回歌って、最後に下記のアウトロで歌は終わります。
She is the queen
My Caribbean Queen
I said she dashed by me in painted jeans…
彼女は女王なのさ
僕のカリブ海の女王なんだ
言ったよね、ペイントカスタムのジーンズを履いた彼女が僕に駆け寄って…
Caribbean Queen Lyrics as written by Leslie Charles(Billy Ocean の本名), Keith Diamond
Lyrics © Universal Music-Z Tunes
【解説】
とてもシンプルで分かり易い歌詞ですね。タイトルと歌詞の一部をEuropian Queen からCaribbean Queen に変えただけで、歌詞全体から醸し出される雰囲気が一気にカリブ海世界に変わってしまうのですから、曲のタイトルというものが如何に重要な役割を果たしているのかを痛感します。だから、映画や洋楽に勝手に付けられたヘンテコな邦題を見る度に絶望的な気分になるんですよね…。と、まあ、そんなことはさておき、この曲の歌詞も詳しい解説は必要なさそうですので、今回も早く終わりそうな気配(嬉)。早速歌詞を見ていきましょう。
先ずイントロ部分ですが、Billy Ocean がShe’s simply awesome(彼女ってとにかくイカしてるんだ)と呟いているのを皆さんは気付かれましたか?ここのsimply は「単に、単純に」といった意味での副詞として用いられているのではなくawesome を強調する為の用法です。第1節1行目のShe dashed by me in painted on jeans を聴いて僕の目に浮かんだのは、ケミカルウォッシュされたデニムに派手なペイントが施されたジーンズ(恐らく、この歌詞が書かれた頃の最新流行だったんでしょう)を穿いた女性の姿であり、She という主語の人物が流行の最先端にいるような華やかな女性であることの暗喩であると理解しました。dash by me は「僕に駆け寄る」という言葉を当てはめましたが、女性から男性にアタックした、モーションをかけたというニュアンスも含まれていると思います。そのことは4行目にもつながっていて、the tiger she wanted to tame というのは、この節に出てくるShe が相手の男性をプレイボーイ、女たらしの類だと分かった上でdash してくるような、かなり気の強い自信に満ちた人物であることを想像させます。第2節、Europian Queen では4節目のI was in search of a good time の部分の歌詞がここに入っていますが、Caribbean Queen では省略されていきなりコーラスに入る構成に変えられています。なので、2節目を聴くと男がCaribbean Queen に夢中になっていることが分かりはしますが、なぜそうなったのかの流れが欠けてしまっているのでやや唐突感がありますね。2行目のthe same dream は、遊びじゃなく互いに心から愛し合うことの言い換え。4行目のlove on the run は直訳すれば「走って逃げる恋」ですが、要は「(気軽な、真剣でない)一時の恋、刹那的な恋」という意味です。the same dream と対になっていると考えていいかと思います。
第3節も和訳のとおりですが、3行目のElectric eyes that you can’t ignore はちょっと難解。ここで言うelectric eyes というのは、恐らくmagic eye tube のことでしょう。大昔のラジオに搭載されていた「同調指示管」と呼ばれるもので、受信する電波の強弱によって瞳のような形をしたネオン管が輝いたり暗くなったりするんです。今の時代に実物を見る機会は無いと思いますが、見れば「あー、なるほど」となるはず。第4節は前述のとおりで、歌詞の主人公の男がずっとlove on the run みたいな恋しかしてこなかったことが分かります。なぜ、男が今回出会った女性に対してlove on the run とは違う結果になったのかの理由が吐露されているのが第5節の5行目。I love ya, I need ya と心の底から思ったからそうなったのです。どうやら男は、彼女のことを真剣に好きになったようですよ。このあと、同じコーラスが2度繰り返され、最後にI said she dashed by me in painted jeans という言葉で曲は終了するのですが、最後のこのフレーズがちょっとクセモノです。この種の言葉によって描写が最初のシーンに戻される場合、考えられるパターンは「ここまでに歌われてきた歌詞の内容が主人公の想像の世界であった、もしくは、実際にあったことの回想であった」なのですが、第1節が過去形で始まっていることから考えても、この曲では後者でしょう。となると、主人公はなぜ回想なんかしていたのでしょうか?僕の結論は、主人公が初めて真剣になった恋もまた、残念ながらいつものように終わってしまった(強気な彼女に捨てられた可能性が大)というものです。最後のフレーズがShe is the queen. My Caribbean Queenと現在形になっているのは、恋の駆け引きではプレイボーイの彼よりも一枚上手であった彼女への未練と尊敬にも似た気持ちを込めてそう言っているからではないでしょうか。カリブ海の女王は男に言い寄っては男を捨てるというドSの女王だったのかも知れません。恐るべし、カリブ海の女王(笑)。
さて、この曲が最初Europian Queen として売り出されたことは冒頭で述べましたが、ヨーロッパでの販売結果が振るわなかったのは、恐らくその響きのせいだったのでしょう。なぜなら、英国を始めヨーロッパには王室を存続させている国がまだ多数ある為、King やQueen と聞くと、どうしても本物の王族をイメージしてしまい、プレイボーイと強気の女が出てくるような歌詞の内容とうまく結びつかないと思うのです。だから、タイトルと歌詞の一部をバシッとCaribbean Queen に変えたのは「なかなかやるじゃないか」って感じですね(←なんで上から目線・笑)。
【第77回】I’m in the Mood for Dancing / The Nolans (1979)
イギリスのミュージシャンとして世に認識されてはいるけども、実はイギリス出身でないというアーティストを今回もご紹介しましょう。I’m in the Mood for Dancing で一世を風靡したノーランズThe Nolans です。The Nolans はその名のとおり、ノーラン・ファミリーの美人5人姉妹(なんだかダイアナ王妃が5人いるような華やかさ・笑)によって構成されていたガールズ・ユニットで、そのルックスと確かな歌唱力によって日本では非常に人気を博したグループですが、彼女たち、実はイギリス人ではなくダブリン郊外のRaheny という小さな町出身のアイルランド人。売れないクラブ歌手であった両親が仕事を求めて1962年に家族を引き連れイギリスのブラックプールへ移住したそうで、後にメンバーに加わる6女のColeen だけがイギリス生まれのイギリス育ちです。最近、長女のAnne Nolan が「The Nolans were so big in Japan selling more records then The Beatles」とツイッターで発信し、久し振りにノーランズが日本の洋楽ファンの間で話題に上りましたが、このビートルズよりレコードが売れたというのは、ビートルズのどのシングルよりも自分たちのシングルは売れたという意味でです。レコードの総販売枚数では日本でもビートルズがノーランズよりぶっちぎりで上であることは言うまでもありません。因みにノーランズはアメリカではまったく売れなかったので、アメリカ人に「Wow! The Nolans! Their songs bring back memories ノーランズだぁー!懐かしいなー」とか言っても「Who’s that?誰それ?」と言われるのがおちですね(笑)。I’m in the mood for dancing, romancing
Ooh I’m giving it all tonight
I’m in the mood for chancing
I feel like dancing
Ooh so come on and hold me tight
あたし、踊りたい気分なの、恋の予感よ
だって、今夜は気合が入ってるもの
恋に賭けてみたい気分なのよね
だから、踊りたい気分なの
ねえ、こっちへ来てあたしをぎゅっと抱きしめてよ
Dancing, (dancing) I’m in the mood, babe
So let the music play
Ooh I’m dancing, (dancing) I’m in the groove, babe
So get on up and let your body sway (body sway)
踊るの(踊るのよ)そういう気分なの
音楽を鳴らしてね
そう、あたしはもう踊ってるわ(踊ってるの)リズムに乗ってね
だから、あなたも立ち上がって体を揺らすのよ(体を揺らすの)
I’m in the mood for dancing, romancing
You know I shan’t ever stop tonight
I’m in the mood for chancing
I feel like dancing
Ooh from head to my toes
Take me again
And heaven who knows
Just where it will end
あたし、踊りたい気分なの、恋の予感よ
分かってるでしょ、今夜は踊るのを止めないわ
恋に賭けてみたい気分なのよね
だから、踊りたい気分なの
あー、頭のてっぺんから足のつま先まで
もう一度恋に浸らせて
誰にも分かることはないけどね
恋の行く末なんて
So dance, yeah let’s dance, come on and dance
Dance, yeah let’s dance, come on and dance
だから、踊ろうよ、こっちに来て踊ってよ
踊るの、そう、踊ろうよ、こっちに来て踊ってよ
Ooh I’m in the mood for dancing, romancing
Ooh I’m giving it all tonight
I’m in the mood for chancing
I feel like dancing
Ooh so come on and hold me tight
あー、あたし、踊りたい気分なの、恋の予感よ
だって、今夜は気合が入ってるもの
恋に賭けてみたい気分なのよね
だから、踊りたい気分なの
ねえ、こっちへ来てあたしと踊ってよ
Dancing, (dancing) just feel the beat, babe
That’s all you’ve gotta do
I can’t stop dancing (dancing)
So move your feet, babe
‘Cos honey when I get up close to you (close to you)
踊るの(踊るのよ)リズムを感じるの
それがあなたのしなくちゃいけないことよ
あたしはもう踊るのを止められないわ(踊るのをね)
だから、足を踏み出してよ
あたしがあなたの傍に行ったらね(あなたの傍にね)
I’m in the mood for dancing, romancing
You know I shan’t ever stop tonight
I’m in the mood, I’m in the mood
I’m in the mood to dance
Yeah let’s dance, come on and dance
I’m in the mood so baby dance
Yeah let’s dance, c’mon and dance
I’m in the mood to take a chance
Yeah let’s dance, c’mon and dance
Get on your feet now baby dance
あたし、踊りたい気分なの、恋の予感よ
分かってるでしょ、今夜は踊るのを止めないわ
気分なの、気分なのよ
踊りたい気分なの
そう、踊ろうよ、こっちに来て踊ってよ
気分なのよ、踊りたいっていうね
そう、踊ろうよ、こっちに来て踊ってよ
恋に賭けたい気分なの
そう、踊ろうよ、こっちに来て踊ってよ
さあ、立ち上がって踊ろうよ
I’m In The Mood For Dancing Lyrics as written by Ben Findon, Mike Myers, Robert Puzey
Lyrics © EMI Blackwood Music Inc, EMI Music Publishing Ltd
【解説】
I’m In The Mood For Dancing のメインボーカルを担当しているBernie Nolan は当時19歳。曲の歌詞はクサいですが、彼女の若くはつらつとした声がクサい歌詞を引き立てていて、逆に「いい歌詞じゃないか」なんて思えてしまいますね(笑)。歌詞をご覧のとおり、そこに描写されているのは、恋の予感を感じたティーンエイジャーの娘が(ティーンエイジャーかどうかは分かりませんが、そういうことにしておきます)、意中の相手を必死にダンスに誘おうとしている姿。分かり易い英語で書かれていて、英語として難しい部分も特に無いので、さっと歌詞を見ていきましょう。
第1節2行目のgive it all は、give it all I’ve got のI’ve got が省略されていると考えれば簡単に理解できます。直訳すれば「自分の持っているものをすべて与える」つまり「全力を尽くす、ベストを尽くす」という意味ですね。第2節3行目のbe in the groove は、上手くいっている、調子がいいといった、何かの事象の波に乗っているというイメージ。sway は体を前後左右に振り動かすという意味の動詞です。第3節2行目のshan’t はshall not の略で、いかにもイギリス英語といった感じ。アメリカ人はwon’t としか言いませんね(そもそもアメリカではshall 自体、ほとんど使いませんが)。shan’t の響きから感じるのは強い否定の意思で、won’t よりもさらに意思が固いような感じがします(←個人の意見です)。3行目のI’m in the mood for chancing のchance は「いちかばちかやってみる、思い切ってやってみる」というニュアンス。何をchance したいのかと言うと、それは目の前にいる意中の男性にアタックする行為(新たな恋)であるとしか考えられません。6行目のTake me againはちょっと難解。その理由は、どこへTake meしてくれと言ってるのか分からないからですが、主人公の少女がI’m in the mood for romancing, I’m in the mood for chancingと言ってることからして「再び恋に導いて」という思いがこもっているのであろうと理解しました。第4節以降は和訳のとおり。第6節の’Cosがbecauseの略であるということ以外、特に解説の必要な部分は無さそうです。
この曲を歌ったBernie Nolan、笑顔がとても素敵な女性でしたが、2013年に癌でお亡くなりになっています。52歳の若さでした。実は彼女の父親も癌で亡くなっていて、姉のLinda も現在、癌と闘病中とのこと。なんとも辛い話です(涙)。
【第78回】Wanted / The Dooleys (1979)
今日ご紹介するのは、前回のノーランズと同じく家族ぐるみで音楽活動をしていたThe Dooleys がイギリス、アイルランドと日本でヒットさせたWanted という曲です(ノーランズ同様、アメリカでは無名の存在)。The Dooleys はイギリス、ロンドン郊外に位置するイルフォード出身のドゥーリー一家によって結成されたグループで、この曲をリリースした時のメンバーは男女混合の8人(そのうち6人が兄弟姉妹)でしたが、ノーランズと決定的に違っていたのは、ボーカルのMarie Dooley とKathy Dooley 以外はギター、ドラム、キーボードといった楽器の演奏を担当していた点。つまり、ボーカル・ユニットではなくThe Dooleysはバンドだったということですね。日本では大手レコード会社であったEpic ソニーが彼らのプロモーションに力を入れていたせいなのか、Wanted が当時、ラジオで頻繁に流れていた記憶があります。You’re the kind of guy that I gotta keep away
But it’s all right
You know you can’t deny
It’s the price I’ve gotta pay
But it’s all right
‘Cause though your lips are sweet as honey
Your heart is made of solid stone
One look and boy you got me runnin’
I bet you saw me comin’ after you alone
あなたって遠ざけておかなくっちゃいけない類の男よね
でも、構いやしないわ
あなたは違うって言えないでしょうしね
あたし、報いを受けなくちゃならないのよね
でも、構いやしないわ
だって、あなたの唇って蜜のように甘いんだもの
あなたって非情な心の持ち主よ
一目であたしをときめかせるんだから
あたしが好きなのはあなた一人だったってこと、分かってるはずよ
Wanted
Boy, you’re everything I ever wanted
Now all I’ve got’s a memory, I’m haunted
Livin’ in the shadow of your love
Boy, you know you’ve got me
‘Cause you’re wanted
Boy, you’re everything I ever needed
But now you’re gone and let me down
And cheated
Livin’ in the shadow of your love
愛しいあなた
あなたはあたしが求めてたすべてだったわ
なのに今あるのは想い出だけ、悪夢に憑りつかれてるわ
あなたと愛し合った辛い想い出の中であたしは時を過ごしてるの
あぁ、あなたがあたしをモノにできたのは
あなたがあたしの求めていた人だったから
あなたはあたしが必要としてたすべてだったわ
でも、あなたはもういない、あたしは傷付けられ
欺かれた
あなたと愛し合った辛い想い出の中であたしは時を過ごしてるの
I’m the kind of girl that’ll swallow every line
But it’s all right
You only gotta call
And I’ll be there any time
And it’s all right
And now the flames are getting higher
I’m losin’ all my self control
So come on boy and feed the fire
I’m burning with desire
Don’t you leave me cold
あたしは何でも信じてしまうような類の娘
でも、構いやしないわ
電話してくれればいいの
あたしはいつでも電話に出るわ
そうよ、構いやしないわ
あたしの恋の炎が燃え上がり
もう自分を見失ってるの
だからここへ来て、もっと燃え上がらせてよ
あなたが欲しくてあたしの体が熱くなってきてるのよ
あたしを冷えたままにはしないで
Wanted
Boy, you’re everything I ever wanted
Now all I’ve got’s a memory, I’m haunted
Livin’ in the shadow of your love
Boy, you know you’ve got me
‘Cause you’re wanted
Boy, you’re everything I ever needed
But now you’re gone and let me down
And cheated
Livin’in the shadow of your love
愛しいあなた
あなたはあたしが求めてたすべてだったわ
なのに今あるのは想い出だけ、悪夢に憑りつかれてるわ
あなたと愛し合った辛い想い出の中であたしは時を過ごしてるの
あぁ、あなたがあたしをモノにできたのは
あなたがあたしの求めていた人だったから
あなたはあたしが必要としてたすべてだったわ
でも、あなたはもういない、あたしは傷付けられ
欺かれた
あなたと愛し合った辛い想い出の中であたしは時を過ごしてるの
Boy, you know you’ve got me
‘Cause you’re wanted
Boy, you’re everything I ever wanted
Now all I’ve got’s a memory, I’m haunted
Livin’ in the shadow of your love
Boy, you know you’ve got me
‘Cause you’re wanted
Boy, you’re everything I ever needed
But now you’re gone and let me down
And cheated
Livin’ in the shadow of your love
Boy, you know you’ve got me…
あぁ、あなたがあたしをモノにできたのは
あなたがあたしの求めていた人だったから
あなたはあたしが求めてたすべてだったわ
なのに今あるのは想い出だけ、悪夢に憑りつかれてるわ
あなたと愛し合った辛い想い出の中であたしは時を過ごしてるの
あぁ、あなたがあたしをモノにできたのは
あなたがあたしの求めていた人だったから
あなたはあたしが必要としてたすべてだったわ
でも、あなたはもういない、あたしは傷付けられ
欺かれた
あなたと愛し合った辛い想い出の中であたしは時を過ごしてるの
あぁ、あなたがあたしをモノにできたのは…
Wanted Lyrics as written by Robert Puzey, Michael Myers, Ben Findon
Lyrics © Songs of Windswept Pacific, BMG Rights Management Limited
【解説】
うーん、出だしのYou’re the kind of guy that I gotta の部分がなかなか聞き取れませんね(汗)。久し振りにこの曲を聴いてみて、最初はクサい歌詞だなと感じたんですが、何度か聴いているうちに「ちょっと待てよ、なんだか良く出来てる歌じゃないか」と思うようになってきました(←またかよ・笑)。実はこの曲の歌詞を書いたPuzey、Myers、Findon の3人はノーランズのI’m in the Mood for Dancing の作詞作曲をしたメンバーと同じでして、どうりで歌詞がクサいのも納得(笑)。ですが、少なくとも虫の名前が付いた大御所バンドのクサい歌詞よりはずっといいです。この曲の歌詞も分かり易い英語で書かれていて、解説が必要な部分はあまり無いので、さっと見て行きましょう。
第1節1行目のYou’re the kind of guy that I gotta keep away は、その男がプレイボーイや女たらしといった類の男であることの比喩。4行目のthe price I’ve gotta pay は、直訳すれば「私が支払わなくてはならない価格」つまり「代償を払う、報いを受ける」といった意味になります。自分は報いを受けないといけないとなぜ彼女が思っているのかと言うと、近づいてはいけない種の男に自分が近づき、付き合ってしまったからですね。7行目のYour heart is made of solid stone は、要するにその男がiron-hearted ということ。8行目のOne look and boy you got me runnin’のrunning は、何をrun させたのかと考えれば、この歌詞の主人公の女性のheart であるとしか考えられません。因みにこの曲の歌詞にはこの行のようにboy がやたら出てきますが、単なる呼びかけなので和訳する時は無視しても大丈夫です。9行目のyou saw me comin’ after you alone も、直訳すれば「あなたは私があなた一人を追いかけているのを見てた」になりますが、これは言い換えれば「ずっとあなた一人だけが好きだった」ということなのでこのように訳しました。この行のI bet は、確信していることを言いたい時や、後に続く内容を断言したい時に文の頭に付けて用いられます。
第2節の最初にあるWanted は、西部劇によく出てくるWanted(お尋ね者)や、求人広告のWanted(募集中)の張り紙を思い浮かべてしまう人も多いかもですが、ここのWanted は、2行目を見ても分かるとおりYou’re the one that I wanted のことでしょう。なので「愛しいあなた」という言葉に置き換えました。2行目のbe haunted は、何かに憑りつかれている状態のイメージ。3行目のLivin’ in the shadow of your loveは、直訳すれば「あたしはあなたの愛の影の中で時を過ごしている」ですから、要するに「(喧嘩別れしたとか男に捨てられたみたいな理由で)もう会えなくなった男との想い出にすがって生きている」ということ であると理解。その想い出がshadow という言葉を使って表現されていることから、思い出すだけで辛くな る(暗くなる)ことを想像させます。第3節1行目のswallow every line は、line をstory に置き換えれば分かり易いです。人の話を鵜呑みにするということですね。この歌詞の主人公は同じ行で自分のことをgirl と言っていますので、恐らく彼女はティーンエイジャーなのでしょうけど、前回に紹介したノーランズのI’m in the Mood for Dancing の主人公よりはずっと大人の女といった感じ。8行目のfeed the fire もignite に置き換えれば簡単に理解できます。そのあとのI’m burning with desire. Don’t you leave me cold は、文字どおりの意味(←要するにsex したいということ←またsex かよ!(笑)←どうもイギリス人は歌詞の中でsex を暗喩するのが好きなような気がするのですが…汗)。この節から僕が感じたのは「言い訳でもなんでも聞くから、あたしの所へ戻ってきてあたしを抱いて」という、主人公の切なくも激しい女心です。第4節以降は、ほとんど同じ歌詞の繰り返しなので、以上で解説は終了。
さて、冒頭で紹介したこの曲を作詞作曲したBen Findon、彼の本職はプロデューサーで、The Nolans やThe Dooleysのほとんどの曲の作詞作曲に絡んでいる他、Billy Oceanの曲も多数手掛けています。恐らくFindon は、スウェーデンのABBAや西ドイツのArabesqueがディスコソングで成功しているのを見て、The Nolans とThe Dooleys を使って同じことを仕掛けようとしたのではないでしょうか。陰の功労者であるFindonがいなければThe NolansやThe Dooleysの日本でのヒットも無かったのかも知れませんね(←個人の推測です)。
【第79回】Higher Love / Steve Winwood (1986)
いよいよ英国特集も今回が最終回。そのトリを飾る人物として、知る人ぞ知るイギリスの隠れた大御所Steve Winwood に登場願いましょう。1965年にThe Spencer Davis Group のボーカルとしてバーミンガムでデビューしたのを皮切りにTraffic やBlind Faith のメンバーとして活躍し、その後のソロ活動も含めると音楽活動を約60年も続けているベテラン・アーティストで、歌も上手いですが、ハモンド・オルガンやギター、ベースも弾きこなす他、サックスを吹いたりドラムも叩けるというマルチな才能の持ち主でもあります。本日ご紹介する曲は、彼が1986年に発表したアルバムBack in the High Life からシングル・カットされて大ヒットしたHigher Love。同年のビルボード社年間ヒットチャートで20位に食い込む大健闘でした。因みに、ゴスペル風のバックコーラスで曲を盛り上げているのはChaka Khan。彼女の声にも耳を澄ましてみてください。Think about it, there must be higher love
Down in the heart or hidden in the stars above
Without it, life is wasted time
Look inside your heart, I’ll look inside mine
考えてみて、もっと尊い愛があるってね
心の奥底や天上の星に隠れたね
それなしじゃ、人生なんて無駄な時間なのさ
自分と向き合ってみてよ、僕も自分と向き合ってみるから
Things look so bad everywhere
In this whole world, what is fair?
We walk blind and we try to see
Falling behind in what could be
物事ってのはどこででも悪く見えるもんだよね
この世では、何が公平なんだろうね?
僕たちは目を閉じて歩きつつも見ようとする
遅れをとることになろうともね
Bring me a higher love
Bring me a higher love, ohoh
Bring me a higher love
Where’s that higher love I keep thinking of?
僕はもっと尊い愛を求めてる
もっと尊い愛を求めてる
もっと尊い愛を求めてるんだけど
僕が思い続けてる至高の愛ってどこにあるんだろうね?
Worlds are turning, and we’re just hanging on
Facing our fear and standing out there alone
A yearning and it’s real to me
There must be someone who’s feeling for me
世界は回っていて、僕たちはそこにしがみついてるだけ
恐怖と向き合い、一人立ちすくんでる
切なる思い、それは僕にとって本物なんだよ
僕に共感してくれる者がいるはずなんだよ
Things look so bad everywhere
In this whole world, what is fair?
We walk blind and we try to see
Falling behind in what could be
物事ってのはどこででも悪く見えるもんだよね
この世では、何が公平なんだろうね?
僕たちは目を閉じて歩きつつも見ようとする
遅れをとることになろうともね
Bring me a higher love
Bring me a higher love, ohoh
Bring me a higher love
Where’s that higher love I keep thinking of?
僕はもっと尊い愛を求めてる
もっと尊い愛を求めてる
もっと尊い愛を求めてるんだけど
僕が思い続けてる至高の愛ってどこにあるんだろうね?
Bring me a higher love
Bring me a higher love, ohoh
Bring me a higher love
I could rise above on a higher love
僕はもっと尊い愛を求めてる
もっと尊い愛を求めてる
もっと尊い愛をね
至高の愛で僕は高みへ行けるんだ
I will wait for it
I’m not too late for it
Until then, I’ll sing my song
To cheer the night along
Bring it
僕は待つよ
遅過ぎるってことはないよ
それまで、僕は自分の歌を歌うさ
闇を照らす為にさ
だから、与えてくれないか
I could light the night up with my soul on fire
I could make the sun shine from pure desire
Let me feel that love come over me
Let me feel how strong it could be
魂を燃やして夜を照らすことができるかもしれない
純粋な思いで太陽を輝かせることができるかもしれない
愛が僕を包み込むのを感じさせてよ
それがどれほど強いものなのかを感じさせてよ
Bring me a higher love
Bring me a higher love, ohoh
Bring me a higher love
Where’s that higher love I keep thinking of?
僕はもっと尊い愛を求めてる
もっと尊い愛を求めてる
もっと尊い愛を求めてるんだけど
僕が思い続けてる至高の愛ってどこにあるんだろうね?
*このあと、Chaka Khan とSteve Winwood がBring me a higher love というフレーズを大合唱して曲は終わります。
Higher Love Lyrics as written by Stevie Winwood, Will Jennings
Lyrics © Irving Music, Inc, Blue Sky Rider Songs and Kobalt Music Pub America
【解説】
なんか、カリブ海のリゾートのビーチ沿いにあるオープンエアーのバーで夜風に当たりながら席に腰掛けていると流れてきそうなメロディーライン。この曲のシングル・レコードのジャケットの表紙も男女が今にもキスを交わそうとしているシーンなので、タイトルのHigher Love は男女間のlove に関係する何かであり、それについて歌っているものだとずっと思っていたのですが、今回改めて真剣に曲をよぉーく聴いてみると、どうも違うように感じました(←またかよ・汗)。そこで、いつものように手掛かりを求めてインターネットで検索してみると、出てきたのがSteve Winwood の次のような談。
「When I write a song, I don’t like to have to explain it afterwards. To me, it’s like telling a joke, then having to explain it. The explanation doesn’t add to the song at all」
Winwood は「歌詞についてあとからあれこれ語りたくはない」という姿勢のようですね(汗)。「こりゃ駄目だぁー、手掛かり無しで訳してみるか」と思った矢先、運よく見つけたのが、歌詞の共著者であるWill Jenningsへのインタビュー。JenningsはWinwoodと違ってお喋りが好きな人のようで、この曲の歌詞についてこう答えています。
「My earliest memories are of the music in church and of my aunts and uncles singing the beautiful old hymns.’Higher Love’ is a generation past that, when things were not so much taken for granted that one has to plea,’Bring me a higher love’ and the lines are all trying to explain why there must be higher love. A modern hymn, you might call it」
この「…Bring me a higher love の歌詞はすべて、なぜhigher love が存在するに違いないのかを説明しようとしてるんだ。現代の讃美歌と呼んでいいんじゃないかな」の最後の部分、modern hymn 現代の讃美歌という言葉から考えれば、この曲で歌われているlove は男女間の「love」ではなく、キリスト教的な博愛に近い「love」であるようです。なので、それをヒントにして歌詞を紐解いてみることにしてみましょう。歌詞に使われている英語にはこれといって難しい部分は見当たりませんけども、歌詞の解釈に関してはかなり手こずりそうな予感です(汗)。
第1節、いきなり最初から恐ろしく難しい問いかけです。こんなことを訊かれて直ぐに答えられる人なんているんでしょうか。この問いかけは、あくまでもキリスト教などの信仰心がある人たちに対してのみ通じるものであって、僕のような無神論者には無意味な問いかけですね(笑)。2行目のthe stars above は、恐らく天国の言い換え。神が与え給うであろうhigher love は自分の心の中か天国にしかないということでしょうか。3行目のWithout it のit はhigher love のことであるとしか考えられませんが、同時に神への信仰も意味しているのではないかと思います。4行目のLook inside your heart は直訳すれば「自分の心の中を見る」つまり「自分と向き合う」ということですね。Look inside your heart, I’ll look inside mineはまさしく、higher love を見つける(得る)にはそうすることが先ず必要だということであると理解しました。第2節も相当に難解です。行が前後しますが、3行目からのWe walk blind and we try to see falling behind in what could be を聴いて僕の頭を過ったのは、讃美歌Amazing Grace の「I once was lost but now I am found. Was blind, but now I see かつては迷ったが、今は自分の居場所があり、かつては盲目であったが、今は見える」の一節です(ここでの盲目という言葉は、悪行などに手を染めていても気にも留めない、自分が見えていないという意味で使われています)。なので、僕にはここの部分が「遅れをとっても良いから、盲目になるよりは正しい道を歩みなさい」と言っているように聴こえました。そう考えると、1、2行目のThings look so bad everywhere in this whole world, what is fair?は、Amazing Grace の作詞者で、奴隷貿易で暴利を得ていたJohn Newton が「自分はこんな人間のままで良いのだろうか?正しい道へ戻る時が来ているのではないか?」と自問している姿に重なるようにも思えてきます。自分と向き合ったNewton は、前 述のとおりI once was lost but now I am found. Was blind, but now I see という状態になるに至った訳ですからね。
第3節目は、higher love が自らの人生に現れることを求めている主人公の嘆願であることは分かりますが、いったい誰に対してbring me してくれと言っているのでしょう?その相手は神しかありませんね。ここのbring me はそれを求めている気持ちの表明であって神に命令している訳ではないので、このように訳しました。最後に主人公はWhere’s that higher love I keep thinking of?と自問していますが、そこから考えると、この人はこの世でhigher love なんてものを得ることは結局できないんじゃないかという諦めの気持ちも同時に持っているように思います。なぜ主人公がそのように感じてしまうのかの理由が、第4節で述べられているというのが僕の解釈で、「世間のあれこれにしがみついてるだけのちっぽけな自分(人生にしがみついていて、誰にもいつかは必ず訪れる死を恐れている自分)は神の前に出るのに相応しくない存在であり、それ故に神と直接向き合うことはできない(神に直接会うと自分に死が訪れるのではないかという恐怖)」そういう思いに至った主人公が「だから自分がhigher love を得ることはないだろうけども、同じような思い(現実)を抱えている人間は他にもいるはずだ」と自分を納得させているように僕には思えました。
第5節、6節は第2節、3節と同じフレーズの繰り返し。第7節は最後の1行だけI could rise above on a higher love に変えられています。なんだかんだ言っても、やはり主人公はhigher love を諦めていないようで、その思いが吐露されているのが第8節。彼の下した結論は結局「higher love を得る日が来ることを待つ」みたいですよ(笑)。3行目のUntil then, I’ll sing my song to cheer the night along は、何を歌うつもりなのかが分かりませんが、恐らくはAmazing Grace のような讃美歌なのでしょう。ここを直訳すれば「夜をずっと盛り上げる為、それまで自分の歌を歌うだろう」ですが、僕は「正しい道を見つける(闇を照らす)為に讃美歌を歌い続けるだろう」という風に理解しました。最後に主人公がBring it と言っているように、やはりこの人はhigher love が欲しくて仕方ないようで、その熱い気持ちを次の節で語っています(笑)。
第9節1行目のI could light the night up with my soul on fire は、前節と同じく正しい道を見つける(闇を照らす)ことができるということでしょう。2行目のI could make the sun shine from pure desire は、自らの強固な意思があれば、higher love を得ることができるような変化を生み出すことができるということを示唆しているのではないかと思いました。次のLet me feel that love come over me は、愛に憑りつかれるような状態を感じたいといった感じでしょうかね。ここの最後の2行を聴いて分かるとおり、主人公はそれほどまでにhigher love を求めているようです。では、結局のところ、この曲の歌詞に出てくるhigher love とはいったい何なのでしょう?僕は無神論者であり神とか宗教に対する感性は備わっていないのでうまく捉えることが難しいですが、精神的なレベルで人生を高め、豊かにする為の神の導きのようなものではないかという気がします。
以上、ちょっと小難しくなってしまったHigher Love の解説でした(笑)。
【第80回】No Woman, No Cry / Bob Marley & The Wailers (1974)
本コーナーを書き始めてほぼ一年、気付けばもう80回目じゃないですか!さてさて、そんな今回は、カリブ海の真ん中に浮かぶ美しい島で、かつては英国の植民地であったジャマイカが生んだ英雄、ボブ・マーリーのNo Woman, No Cry を紹介しましょう。皆さんもご存知のとおり、ボブ・マーリーは、ジャマイカという狭い世界の中でしか知られていなかった「レゲエ」というオリジナリティ溢れる音楽を世界に認めさせたアーティスト。No Woman, No Cry は1974年にリリースされた曲ですが、この曲の歌詞をより深く理解する為には、ボブの生い立ちと1970年代前半のジャマイカの政治状況を知っておくことが必要だと感じましたので、少し簡単に触れておきましょう。先ずは彼の生い立ちですが、ボブ・マーリーことRobert Nesta Marley は1945年、ジャマイカ北部のNine Mile という密林に囲まれた小さな村で生を受けました。母親はジャマイカ人、父親はイギリスの元軍人で実業家の白人でしたが、彼が生まれて直ぐに母子を捨てた為、ボブは白人の父親を激しく憎むようになったと言われています(その割には、彼が父親の姓であるMarley を死ぬまで名乗っていたことが僕には解せませんが)。そのことが影響しているかどうかは分かりませんけども、首都キングストン郊外のスラム街Trenchtown に政府が建てたGovernment Yard と呼ばれる公営住宅(高層住宅ではなく、トイレ、キッチン共同の長屋のような平屋の建物です)に12歳の時に母親と共に引越した彼は、政府の無策によって貧困が渦巻くその街で成長するにつれ、ラスタファリ運動や汎アフリカ主義に傾倒していきます。ラスタファリ運動Rastafarianism というのは、植民地に蔓延っていた肌の色による身分の固定化や差別への反感とエチオピアのキリスト教的思想が結びついて1930年代のジャマイカの労働者階級と農民の中に生まれた思想運動のことですが、詳しく説明すると長くなるので興味を持った方は各自にて勉強してください。また、ボブ・マーリーは、この曲の作詞作曲をしたことになっているTata ことVincent Ford にこのGovernment Yardで出会っています。車椅子生活を送りつつもTrenchtown の生活困窮者の為に無料の炊き出しを行っていたVincent はスラムの有名人物だった人で、彼が脚を失って車椅子生活になったのは、幼い頃にその貧しさから糖尿病の治療を受けられなかったからだそうです。No Woman, No Cry がボブによって作詞作曲されたものに間違いないことは研究者の手によって明らかにされていますけど、なぜクレジットがVincent Ford になったのかは、税金対策だったとかなんだとか色々と説があってはっきりしたことは分かっていませんし、2009年に死去したVincent がこの件に関して語ることもありませんでした。とは言え、僕としては、貧民街で苦しむ仲間たちを助けていたVincent の功労に対するボブからの一種の寄付でありオマージュであったと信じたいですね。
そしてもう一方の70年代前半のジャマイカの政治状況ですが、ジャマイカがイギリスの植民地状態から脱して独立したのは1962年のこと。支配者が去って行くと、ジャマイカ人自らによって議会選挙が行われ、人民国家党とジャマイカ労働党という二大政党が政権を争うようになりましたが、彼らは政争に明け暮れるだけで、独立を果たしたジャマイカの最大の課題であった貧困対策は遅々として進みませんでした。ボブ・マーリーは政治的には中立を表明していたものの、そんな政治家たちに怒りを感じていたのは間違いなく、1976年に「二大政党の対立により混迷するジャマイカに微笑みを」というスローガンの下でコンサートを開催しようとしたのですけども、そのコンサートの2日前に自宅で正体不明の武装集団の銃撃を受け、胸と腕を撃たれました。家にはコンサートのリハーサルの為に集まっていた多数の人々がいましたが、幸いにも銃撃による死者は出ず、ボブは気丈にも2日後のコンサートに出演して「人々の愛のためだけに僕は演奏したかったんだ」と聴衆に語りかけ、その目的を遂げています。事件は、既に国民的スターとなっていたボブの暗殺を、キューバに接近しジャマイカの社会主義化を進めようとする人民国家党の仕業にして、国民の怒りが人民国家党に向かうようにする為に、ジャマイカ労働党と結託したアメリカのCIA が裏で関与した疑いが持たれていますが、アメリカが中南米で行ってきた数々の悪行のパターンに照らし合わせば、恐らくそれが真実でしょう。ボブの暗殺には失敗しましたが、その後もアメリカ政府はジャマイカへの干渉を陰で続けて親キューバ派を排除し、1980年には望みどおりの親米政権をジャマイカに誕生させています。
それでは、これらのことを予備知識として頭に入れた上で、一度曲を聴いてみてください。No Woman, No Cry の歌詞は、74年にジャマイカで初リリースされた時の歌詞と、翌年にロンドンのライシーアム劇場でアルバム「Live!」の為に録音された際の歌詞との間に若干の差異がありますので、ここでは後者の歌詞を取り上げます。
No woman, no cry
No woman, no cry
No woman, no cry
No woman, no cry
駄目だよ、女が泣いちゃ
駄目だよ、女が泣いちゃ
駄目だよ、女が泣いちゃ
駄目なんだよ、女が泣いちゃあ
I remember when we used to sit
In the government yard in Trenchtown
Oba, observing the hypocrites
As they would mingle with the good people we meet
Good friends we have had, oh, good friends we’ve lost along the way
In this great future you can’t forget your past
So dry your tears I say, and
よく腰掛けてたあの頃のことを思い出すよ
トレンチタウンの貧乏長屋の前でさ
ははっ、偽善者たちに気をつけながらね
連中、僕たちの知る良き人たちとうまくやろうとしてたからさ
僕たちには良き友人たちがいたよね、もういなくなっちゃった良き友人たちがね
素晴らしい未来の為には、忘れちゃいけない過去があるもんなんだ
だから僕は言ってるんだよ、涙を拭いてってね、そうさ
No woman, no cry
No woman, no cry
Here, little darling don’t shed no tears
No woman, no cry
駄目なんだよ、女が泣いちゃ
駄目なんだ、女が泣いちゃ
さあ、愛しの君、涙を流さないでおくれ
駄目なんだよ、女が泣いちゃ
I remember when we used to sit
In the government yard in Trenchtown
And then Georgie would make the firelight
As it was log wood burning through the night
Then we would cook corn meal porridge
Of which I’ll share with you
My feet is my only carriage
And so I’ve got to push on through
But while I’m gone, I mean a…
よく腰掛けてたあの頃のことを思い出すよ
トレンチタウンの貧乏長屋の前でさ
でもって、ジョージは焚火をするんだよね
夜通し薪をくべながらね
で、そのあと僕たちはトウモロコシの粥を作るのさ
皆で分け合う粥をね
僕の足は歩く為にあるのさ
だから、僕は前に向かって進まなくちゃいけないんだ
でも、僕がいなくたってその間は、なんてのかな
Everything’s gonna be alright
Everything’s gonna be alright
Everything’s gonna be alright
Everything’s gonna be alright, I say
Everything’s gonna be alright
Everything’s gonna be alright
Everything’s gonna be alright
Everything’s gonna be alright
So woman, no cry
No no woman, no woman no cry
Oh,my little sister, don’t shed no tears
No woman, no cry
なんとかなるから大丈夫さ
なんとかなるから大丈夫
なんとかなるから大丈夫
なんとかなるから大丈夫だ、何度でも言うよ
なんとかなるから大丈夫
なんとかなるから大丈夫
なんとかなるから大丈夫さ
だから、駄目だよ、女が泣いちゃ
駄目なんだよ、女が泣いちゃあ
あー、妹よ、涙は流さないで
駄目なんだよ、女は泣いちゃね
Little darling, don’t shed no tears
No, woman, no cry
Little sister, don’t shed no tears
No, woman, no cry
愛しの君、涙を流さないでおくれ
駄目なんだよ、女が泣いちゃ
妹よ、涙を流さないでおくれ
駄目なんだよ、女は泣いちゃね
No Woman, No Cry Lyrics as written by Vincent Ford
Lyrics © Kobalt Music Pub America
【解説】
のっけからタイトルのNo woman, no cry の連呼で始まってますが、このフレーズを初めて聞くと、ネイティブ話者も含めて多くの人が「No money, No honey 金が無ければ、楽しいこともない」と同じように「女がいなければ、泣くこともない」というニュアンスで捉えてしまいますね。もちろん僕も最初はそのように理解してしまっていましたが、ボブ・マーリーを愛する先人たちによって、このフレーズは「No! Woman, Don’t cry!」と言っているのだと解釈されていて、インドや東南アジアなどのイギリス植民地であった地域でも禁止や否定の構文をNo と動詞を組み合わせて一言で片付けることが普通に行われていることを考えてみても、この先人たちの説明は「なるほどな」と納得です。
次の第2節1行目、I remember の前には、say, said, ‘cause, you see など、ライブでのノリによって様々な言葉が付け加えられる場合が多く、2行目のgovernment yard とTrenchtown の意味は冒頭で述べたとおりです。ここの部分は予備知識がないと、何のことを言ってるのかチンプンカンプンですね(笑)。この1、2行目を聴いて目に浮かぶのはまさしく、昔は日本でも良く見かけた長屋の住人たちが井戸端会議をする情景。3行目のOba の意味は良く分かりませんが、僕はブラジルなどで使われているポルトガル語のOba(軽い驚きや感嘆を表す語)と同じようなものではないかと感じました(カリブ海地域では、スペイン語やポルトガル語の影響を受けた語彙も多いのです)。ライブではこのOba をボブは省略して歌っていることも多々ありますので、いずれにせよ大した意味は無いと考えていいでしょう。ここのhypocrites は勿論、偽善者と言うよりも為政者たちのことを指していてobserve は、彼らの動きに目を光らせるという感じですかね。なので、4行目のmingle with も本来の「付き合う、交流する」という意味よりかは「接近してうまく言いくるめる」ということの暗喩のように感じました。そう考えると、5行目のGood friends we have had, oh, good friends we’ve lost は、良き友人だった多くの人が為政者たちに懐柔されてしまったと言っているように聴こえてきませんか?だからこそ6行目ではIn this great future you can’t forget your past と続けているのではないかと思います。ここのpast とは、為政者たちに懐柔される前の正しい姿、行い、言動といったものであるというのが僕の理解。7行目の「dry your tears 涙を乾かせ」というのも面白い表現ですが、要は涙を拭けということですね。第2節から僕に伝わってきたのは「政治家や為政者の偽善にたとえ絶望しようとも、泣いてはいけない」ということです。
第3節のlittle darling のlittle は、特に大小を表しているのではなく、little darling でhoney と同じ意味。第4節の3行目には唐突にGeorgie という男が登場しますが、これは冒頭で紹介したVincent Ford のことかと思われます。ボブ・マーリーの曲の歌詞は、基本的にはジャマイカ人に向けてのメッセージですので、ジャマイカ人が3行目から6行目までを聴いて「これはTrenchtown で炊き出しをしているTata のことだ」と分かれば、名前なんて何でも良かったのではないでしょうか。7行目My feet is my only carriage とそれ以降のフレーズはちょっと唐突感が否めませんが、炊き出しのトウモロコシ粥を分け合うようなスラム街から抜け出して新しい人生へと踏み出そうとうする主人公の決意のようなものを感じます。ひょっとすると、車椅子生活のVincent がこれだけのことをやってのけているのだから、自らの足で歩ける自分は、尚更、前へ向かって進まなければならないという思いが込められているのかも知れません。そして、主人公はスラム街に残していく恋人や家族に向かってこう言うのです。僕はここを出て君たちを幸せにする為に新しい道を切り開く。道が開けば必ず迎えに来るから何も心配することはない。Everything’s gonna be alright だと。だから泣かないでと。このように、No Woman, No Cry という曲は、為政者たちへの批判が若干入ってはいるものの、本筋はTrenchtown で暮らし愛し合う人々が離れ離れになることとなり、その別れの辛さに涙している女たちを旅立つ側の人間が慰めているという歌のようにしか僕には聴こえなかったのですが、皆さんはどう感じられましたか?
因みにこの名曲、アメリカのヒットチャートでは年間チャートはもとより週間チャートでも圏外でした。本コーナーでは度々、米国ビルボード社のチャートを引き合いに出していますが、それはどれくらいその曲が売れたか、あくまでも商業的に成功したか否か、の目安として紹介しているだけで、ヒットチャートというものが作品の良し悪しを示すインジゲーターでないことは、このNo Woman, No Cry のチャート圏外という事実が証明しています。まあ、世の中の賞とかそういったものもすべて同じことが言えるんですけどね。
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