【第41回】Got My Mind Set On You / George Harrison (1987)
前回、ジョージ・ハリスンの話題が出ましたので、ついでにという訳ではないですけども、今日は彼が1987年にリリースしたGot My Mind Set On You という曲を紹介します。この曲は翌年の米国ビルボード社の年間チャートで3位にもなった大ヒット曲ですが、ハリスンが作詞作曲したのではなくニューヨーク出身の黒人歌手James Ray が1962年にリリースした同名の曲のカバーです。オリジナルの曲の方はルンバ調の古臭いというか、どこか悲し気なメロディーラインであるのに対し、ハリスン版は彼のアレンジによって現代的でノリのいいポップな曲調に生まれ変わっています。ビートルズ時代には、どうしてもジョン・レノンとポール・マッカートニーという二人の天才の間に埋もれてその才能が目立たなかったハリスンですが、作曲に関してはこの曲でのアレンジ力を見ても分かるように、二人にひけをとらぬ実力の持ち主であったことは確かでしょう。あとひとつ、ハリスンの才能として付け加えておくならば、ギター演奏の腕前はレノンやマッカートニーより遥かに上。彼はギターソロをあまりやらなかったですが、それは単にやらなかっただけで、スライドギターのレベルはクラプトン級ですし、シンプルな造りですが演奏がとても難しいとされるインドの民俗楽器シタールも直ぐに弾きこなせるようになっていますので、彼には弦楽器全般の才能があったのでしょう。I got my mind set on you
I got my mind set on you
I got my mind set on you
Got my mind set on you
君に決めたよ
君に決めたよ
君に決めたよ
君に決めたんだ
But it’s gonna take money
A whole lotta spending money
It’s going to take plenty of money
To do it right, child
It’s gonna take time
Whole lotta precious time
It’s gonna take patience and time
Mmm, to do it, to do it, to do it, to do it, to do it
To do it right, child
でも、お金がかかるんだよね
お金をいっぱい使わなきゃね
すごくお金がかかるんだ
うまくやるにはね、坊や
時間だってかかるし
大切な時間をいっぱい使わなきゃね
時間と辛抱が必要だけど
そう、やるんだ、やるんだ、やるんだ、やるんだ、やるんだ
うまくやるんだ、坊や
I got my mind set on you
I got my mind set on you
I got my mind set on you
I got my mind set on you
君に決めたよ
君に決めたよ
君に決めたよ
君に決めたんだ
And this time I know it’s for real
The feelin’ that I feel
I know if I put my mind to it
I know that I really can do it
See upcoming rock shows
Get tickets for your favorite artists
今度ばかりは本気さ
僕が感じてるのはそんな気分
気持ちをしっかり持てば
絶対やれるんだ
ロックコンサートを見に行こう
君のお気に入りのアーティストのチケットを買ってね
I got my mind set on you
Set on you
I got my mind set on you
Set on you
君に決めたよ
君にね
君に決めたんだ
君にね
*このあとは、第2節以降のフレーズを順番にもう一度繰り返し、アウトロでSet on you を連呼して曲は終了します。
Got My Mind Set On You Lyrics as written by Rudy Clark
Lyrics © Carbert Music Inc, Warner Bros. Records Inc
【解説】
ちょっとノスタルジックなドラムソロの音色で始まるGot My Mind Set On You という曲、なんかビートルズのShe Loves You を思い出してしまうのは僕だけでしょうか?この曲の歌詞に関しては特に難しい部分はありませんが、簡単におさらいをしておきます。
第1節のI got my mind set on you は、I got my mind set on loving you と言い換えても良いでしょう。つまり「君を愛すると心に決めた」ということです。2節目の2行目のlotta はlot of の口語で、A whole の前にThere is を付け加えれば分かり易いですね。4行目のdo it right はオリジナルの詞では「do it up right うまいことやれ」になっていて、それに続いているchild は呼びかけの言葉です。3節目は1節目の繰り返しになっていますが、オリジナルには下記の歌詞が入っているのにハリソン版では省略されています。オリジナル版を歌ったJames Ray は、一度は歌謡界で成功したもののその後はヒットに恵まれず、落ちぶれてホームレス生活をしていた際、この曲を作詞したRudy Clark と出会って再起を賭けて活動を再会したのですが、程なくして麻薬の過剰摂取で亡くなりました。オリジナル版の曲調にどこか絶望感のようなものが漂っているのはRay がこの歌をレコーディングするほんの前まで惨めな生活を送っていたからだと考えられていて、ハリスンはそんなRay へ敬意を示す為に歌詞にあった以下のネガティヴな部分を省略し、曲調も明るくしたと言われています。
Everywhere I go, you know
Bad luck follows me
Every time I’ve fallen in love
You know I’m left in misery
どこへ行ってもさ、僕には
不運がつきまとうんだよね
恋をしたっていつも
惨めな気持ちのままなんだ
4節目の3、4行目は「You can do it if you put your mind to it やればできる」という定番フレーズを変形させたもの。5行目のrock shows はオリジナルの詞ではpop shows だったものが時代に合わせてrock に変更されています。それにしても「女を口説くには金も時間もかかるんだ」とあれだけ言っておきながら、コンサートのチケットってオチは「えっ!それで済むの!?」って感じですが、ホームレス生活者にとっては人気アーティストのコンサートに行くなんてことは夢のまた夢だったのかもですね。
因みにジョージ・ハリスンはマリワナ愛好家として知られていて、ポール・マッカートニーの結婚式の日に大麻の不法所持で逮捕されたのは有名な話。そのハリスン、1999年にジョン・レノンと同様、自宅で暴漢にナイフで襲われて重症を負い(刺傷は40ケ所に達したそう)、その傷は回復したものの、2001年、肺癌が原因で天に召されています。ヒンドゥー教に傾倒して(彼の長髪、髭面の姿はどう見てもイエス・キリストですが・笑)ヨガや菜食主義を実践し、どちらかと言えば健康に気を使っていたジョージ・ハリスンが病を患って早死にし、麻薬、酒、煙草と、とんでもなく不健康な生活を送り続けていたエリック・クラプトンが長生きしている姿を見ると、天がそれぞれの人間に与える寿命というのはほんと分からないものだとつくずく思います。
【第42回】La Grange / ZZ Top (1973)
クラプトンのLayla に続き今回も、演奏時間は長いけども歌詞は短いという曲をご紹介。1973年にZZ Top がリリースしたTres Hombres(トレス・オンブレス)というアルバムに収録されているLa Grangeという曲です。ZZ Top は1969年にBilly Gibbons が中心になってテキサス州ヒューストンで結成されたバンドで、Tres Hombres がスペイン語で「3人の男たち」を意味するとおり、Billy Gibbons、Dusty Hill(2021年に死去)、Frank Beard(この人も重度の薬物中毒だった人で、稼いだ金のほとんどを薬物に使ってしまったと公言しています)というZZ Top の3人のメンバー(全員テキサス州出身)によって生み出されたアルバムです(結成時のメンバーは違っていましたが、直ぐにこの3人に落ち着きました)。ZZ Topという名前の由来は、Gibbons がブルース界の著名人であり尚且つ尊敬するB.B.King とZ.Z.Hill を組み合わせて自らのバンド名をZ.Z.King にしようとしたものの、それでは余りにもB.B.King と似通っていて平凡だったので、King は頂点top に立つものだと考え、最終的にZZ Top としたということにあるそうです。この曲をリリースした頃はBilly Gibbons もDusty Hil も、その後ZZ Top のトレードマークとなるイスラム原理主義者のようなあの長い髭をまだ生やしておらず、彼らが髭を長くし始めたのは1977年頃からのこと。髭を長くしてからは見た目が双子のようになってしまい、晩年はギターの形を見ない限り、どっちがどっちなのか分かりませんでしたね(笑)。一方、曲名のLa Grange はテキサス州にある人口5千人の田舎町の名前、つまりは地名(日本ではラ・グランジェと紹介されてますが、正しいカタカナ読みはラ・グレインジです)。アルバムのタイトルがスペイン語なので、これもスペイン語?と思われる方もおられるかもですが、こちらはフランス語の人名が語源です。何でもアメリカ独立戦争の際、米国の独立派の軍に志願してイギリスと戦ったラファイエットという名のフランス貴族がいて、その貴族はアメリカの独立に大いに貢献したとしてその名が米国の各地で地名になって残っているそうなのですが、テキサスにあるファイエット郡もそのひとつで、その郡で郡都の名を決める際、ラファイエットのフランスでの居城であったChâteau de la Grange-Bléneau という城の名前からLa Grange の部分を使わせてもらって町の名にしたらしいです。ところがLa Grange とタイトルがつけられたこの曲、実はその町のことを歌っているのものではなく、由緒正しい歴史などまったく関係がないLa Grangeの郊外にあった売春宿のことを歌っている曲なんですよね(笑)。それがどういうことなのか、歌詞を見ていきましょう!
Rumor spreading round in that Texas town
About that shack outside La Grange
And you know what I’m talking about
Just let me know if you wanna go
To that home out on the range
They gotta lotta nice girls
Have mercy
A-haw haw haw-haw
Heh, a-haw haw-haw
あのテキサスの町で噂が広まってるぜ
ラ・グレインジの外れにある館のことさ
何のこと言ってんのか分かるよな
行きたいなら俺に言ってくれ
この地の我が家へさ
あそこはかわい娘(こ)ちゃんだらけなんだ
なんて言ったらいいもんやら
へっへっへっへ
にやけちまうぜ
Well, I hear it’s fine if you got the time
And the ten to get yourself in
A hmm, hmm
And I hear it’s tight most every night
But now I might be mistaken
Hmm, hmm, hmm
Have mercy
時間があるならいいとこらしいぜ
お代は10ドルときたもんだ
うーん、いいね
ほとんど毎晩いい感じなんだってよ
今じゃ、違ってるかもしれねえがな
うーん、うーん、どうだろう
なんて言ったらいいもんやら
*1分10秒くらいまでに歌詞は歌い終わり、そのあと3分半過ぎまでギターソロが延々と続いて曲は終了します。
La Grange Lyrics as written by Frank Beard, Billy Gibbons
Lyrics © BMG Rights Management
【解説】
ご覧いただいたとおり、この曲の歌詞は非常に短いです。「えっ、もう終り?」って感じですね。僕が知る洋楽の曲の中では、これより短い歌詞の曲はR.E.M のThe One I Love かJohn Cougar Mellencamp のアルバムScarecrow に収録されているGrandma’s Theme の歌詞(John が歌ってる訳じゃないですが)くらいでしょうか。この曲La Grange のイントロはまさしくブルース。そのあとBilly Gibbons とDusty Hill が交互に歌詞を歌いますが、当時のレコードを聴くと、録音技術に問題があったのか、訛っているというよりも発音が不明瞭で何を言ってるのか良くわかりませんけども(汗)、デジタルのリマスター版を聴けばかなり鮮明に聞き取れます。
先ず第1節目。ここのRumor は、テキサスのLa Grange 郊外にあるshack に関するそれだと言ってる訳ですが、このshack(掘っ立て小屋)というのはChicken Ranch(Ranch は牧場の意)の言い換え、要するにBrothel(売春宿)のことです。アメリカでは売春行為は伝統的に違法行為であり(例外的にネバダ州では1971年に管理売春のみ合法化。ロードアイランド州も嘗てはそうでしたが2009年に非合法化しました)、ここに出てくる噂とは「その売春宿が無くなっちまうんじゃないか」という類のものでなかったかと思われます。なぜなら、この曲がリリースされた1973年当時、テキサスのテレビ局KTRK-TV の報道番組がLa Grange 郊外で長らく違法営業を続けていたChicken Ranchを番組で取り上げ問題視していた為、施設の閉鎖は時間の問題と考えられていたからです(実際、そうなりました)。なので、And you know what I’m talking about. Just let me know if you wanna go は「テレビの報道知ってるだろ?俺が連れてってやるから今のうちに早く行っとけ」ということなのだと思います。5行目のhome out on the range は、フォスターの民謡Home on the range(日本では「峠のわが家」と訳されていますが)の原曲が、1871年にホームステッド法に基づいてカンザス州スミス郡に土地を取得し、インディアナ州から移住してウエスト・ビーバークリークという地で小さな小屋に住み始めたBrewsterHigley という人物によってその時に作られたものである為、前述のshack とその小屋、そしてLa Grangeとthe range の両方をかけている言葉遊びなのだろうと僕は理解しました。7行目のHave mercy は「おやまぁ」みたいな軽い驚きや感嘆を表したい時に口にする言葉ですので、第1節と2節の同じ部分にうまくはまる言葉として「なんて言ったらいいもんやら」にしてみました。8行目のhaw-haw は、高笑いなどを表す際に使う英語のオノマトペです。2節目のAnd the ten to get yourself in は、下品ですが僕には「1発やるのに10ドルだぜ」という風にしか聞こえませんでした(因みに、La Grange 郊外のChicken Ranch のサービス料金は1950年代で既に15分15ドルだったようですので、10ドルというのはちょっと安く言い過ぎですね・笑)。4行目のit’s tight のtight はcool(イケてる)と同じ意味で使われることも多く、ここでは別のちょっとエッチな意味も同時に含ませているのかもしれません(←あくまでもエロ親爺の思考回路による推測です・笑)。5行目のBut now I might be mistaken は、第1節の噂が確かであるなら「店はもうやってないかもしれないけどな」ということではないかと思います。
ZZ Top のLa Grange、如何でしたか?歌詞は凡庸で芸術的な輝きもありませんが(おまけに女性蔑視も加わってますけど)男性の僕としてはなぜだかhaw-haw と、彼らと同じように口にして思わず頬を緩めてしまいますから、その点では面白い歌詞ですね。まあ、歌詞はさておき、音色の方はBilly Gibbons のギター演奏が素晴らしく、70年代前半という時代に既にこの完成度に達していたことを考えると(もう半世紀以上も前のことですよ・驚)名曲であるとしか言いようがありません。
【第43回】I Come Undone / Jennifer Rush (1987)
今回お届けするのは、Jennifer Rush(ジェニファー・ラッシュ)のI Come Undone という曲。彼女のヒット曲と言えば1984年にリリースしたThe Power of Love(1993年にセリーヌ・ディオンがカバーして全米チャート1位にランクインしたあの名曲です)ですが、僕はこのI Come Undone というパワフルなメロディーラインの曲の方が断然好き。それに、なんと言ってもジェニファー・ラッシュは声がいいし歌も上手いです。父親がプロのオペラ歌手で母親も元歌手、ジェニファー自身もジュリアード音楽院で学んだ経験ありという彼女のバックグラウンドを知れば、なるほど歌が上手い訳だと納得ですね。ジェニファー・ラッシュはニューヨーク州生まれのアメリカ人ですが、本国での知名度はそれほど高くなく(ジェニファーがThe Power of Love を歌った時、イギリスではヒットチャートの1位となりましたが、全米チャートでは57位止まりでした)、父親の仕事の関係で幼少期に住んでいたドイツ(その後、移住)や、現在の居所があるイギリスなどヨーロッパの国々で人気の高い歌手です。Time heals the wounded
But my heart still bleeds
I can’t get you out of my life
Here is my confession, you’re all I need
I don’t want to love you but oh, oh oh
時は傷を癒すけど
あたしの心はまだ傷ついてる
あなたのことが頭から離れないの
告白するわ、あなたがあたしのすべてだって
でも、あなたのことを愛したくない、あぁ、だけど
With the touch of your hand
I come undone
With the flash of your burning eyes
I know that you’re the only one
I come, I come undone
I come undone
あなたの手に触れるだけで
あたしの心はぐらついちゃう
あなたの燃える瞳の閃光を目にするだけで
あなたしかいないって思っちゃうの
そう、我を失っちゃうの
心がぐらぐらついちゃうの
Your footsteps are heartbeats
There’s knocking on my door
I swore that I won’t let you in
Love’s got its heroes but I know that I just
Can’t hold out forever and oh, oh oh
あなたの足音は心臓の鼓動
ドアをノックしてるのが聞こえるけど
あたしはあなたを部屋に入れないって誓ったの
愛には理想の男ありきだけど、あたしには分かってる
そんな男をずっと傍に留めておけないことをね、だけど
With the touch of your hand
I come undone
With the flash of your burning eyes
I know that you’re the only one
I come, I come undone
I come undone
あなたの手に触れるだけで
あたしの心はぐらついちゃう
あなたの燃える瞳の閃光を目にするだけで
あなたしかいないって思っちゃうの
そう、我を失っちゃうの
心がぐらついちゃうの
Don’t know what you’re doing to me
Cause when your arms reach out I’m gone
あなたがどうやってあたしをその気にさせてるのかがわからない
だって、あなたの腕が伸びてくるだけで気がへんになっちゃうもの
Here is my confession, you’re all that I need
I don’t want to love you but oh, oh oh
告白するわ、あなたがあたしのすべてだって
でも、あなたのことを愛したくない、あぁ、だけど
With the touch of your hand
I come undone
With the flash of your burning eyes I know
That you’re the only one
I come, I come undone
I come, I come undone
あなたの手に触れるだけで
あたしの心はぐらついちゃう
あなたの燃える瞳の閃光を目にするだけで
あなたしかいないって思っちゃうの
そう、我を失っちゃうの
そうよ、心がぐらついちゃうの
I Come Undone Lyrics as written by Morrie Brown, Ellen Shipley
Lyrics © BMG Rights Management
【解説】
シンセサイザーが奏でる音とジェニファーの美しい声がクロスオーバーするこの曲のイントロ、しびれます。イントロでしびれる曲ってのは例外なくすべて名曲というのがこの世の常ですね(←思い込みではなく、自信あり・笑)。そんなI Come Undone の歌詞ですが、とてもシンプルで分かり易いので、久し振りに解説が短くて済みそうですよ!
第1節目からして難解な部分は皆無。my heart still bleeds は直訳すれば「私の心からはまだ血が流れてる」ですが、日本語ではそういう言い方はしないので、やはりここは「あたしの心はまだ傷ついてる」でいいと思います。I can’t get you out of my life も同じで、直訳だと「あなたのことを私の人生から切り離せない」ですが、こちらも「あなたのことが頭から離れない」にしました。第1節の歌詞から推測できるのは、事情は分かりませんが男に心を傷つけられた女が、その男のことを忘れようと努力をしてみてはいるものの踏ん切りがつかないという状況ですね。第2節もシンプルなフレーズが連なっていて和訳のとおり。女がどうして男を切ることができないのかの理由が語られています。come undone は通常、主語に物を持ってきて緩む、ほどける等の意味で使われる動詞ですが、この歌詞では人が主語になっているので、イメージ的には心がほどける、つまり、心がぐらぐらする、ぐらつくといった感じで、要はlost control of myself の状態ということかと思います。5行目はIcome で一旦区切っていて、3節目にknocking やI won’t let you in といった言葉が出てくるので、僕のようなエロ親爺は、別の意味が込められているのではないかと直ぐに妄想してしまうのですが、この歌詞を書いたEllen Shipley がインタビューに「It wasn’t meant to be sexual」と答えている記事を読んで、この詞に性的な意味合いは含まれていないことがはっきりしました(恥&汗)。3節目も特に難しい部分はありません。強いて言えば、4行目のheroes でしょうか。この詞の中では、恋愛における理想の相手、もしくは理想像の言い換えであると僕は理解しました。4節目は2節目のフレーズの繰り返し、4節目のDon’t know what you’re doing to me は、直訳すれば「あなたが私にしていることは何なのかわからない」ですが、言い換えるなら「私にあなたのことを好きにさせるのにいったいどんな魔法を使ってるのかわからないんだけど」という感じでしょうか。以降、再び同じフレーズの繰り返しに入り、曲は終了です。おっと、やはり、あっという間に解説が終わってしまいました!(別に手を抜いた訳ではないです・笑)
昔、伊勢正三さんがヒットさせた曲に「あなたにさようならって言えるのは今日だけ。明日になってまたあなたの暖い手に触れたらきっと、言えなくなってしまう」って歌詞がありましたから、女心ってのは洋の東西を問わないってことですね。
【第44回】I Love Rock’N Roll / Joan Jett & The Blackhearts (1981)
僕の青春時代がBlondie のCall Me の音色と共に幕開けしたせいなのか、僕は女性の歌声の方が断然好き。ということで、先週Jennifer Rush を紹介したのを機に、暫くは特集として魅惑的な声を持つ女性アーティストたちを紹介していきたいと思います。今回お届けするのは1982年の米国ビルボード社年間チャートで堂々3位に輝いたJoan Jett & The Blackhearts のI Love Rock’N Roll です。Joan Jett (ジョーン・ジェット)は元々、下着みたいな恰好で歌うボーカルのCherie Currie が一世風靡したThe Runaways というキワモノバンドのメンバーでしたが(このバンドに興味のある方は、彼女たちの青春を描いた同名のアメリカ映画がありますので見てみてください)、The Runaways が解散後の1979年にThe Blackhearts を結成し、この曲の大ヒットで「ロックンロールの女王(女番長?・笑)」という地位を獲得しました。なので、I Love Rock’N Roll=Joan Jett というイメージが定着してしまいましたが、実はこの曲、Arrows という英国のバンドが1975年にリリースした同名の曲のカバーなんです。そのうえ、カバーの曲というのは歌詞やメロディーラインに手が加えられることが多いですけども、ジョーン版はどちらもオリジナルとほぼ同じ。ほぼ同じというのは、Arrows のボーカルAlan Merrill が男性だったからで、オリジナル版では曲の主人公が男性ですが、ジョーン版では女性に替えられています。余談ですが、Alan Merrill はI Love Rock’N Roll を作詞しただけでなく、1960年代末から70年代初頭の一時期、日本で芸能活動をしていたという変わった経歴を持つ人で、2020年、コロナ騒ぎの初期にウイルスに罹患して亡くなりました(彼が来日したのは、ジャズ・ミュージシャンである母親がその当時、日本に居住していたからだったようです)。ついでに余談をもうひとつ。ジョーン・ジェットはその見た目からもレズビアンではないかと言われ続けていますが(長髪をブロンドに染めていたデビューしたての頃の彼女は可愛らしい娘さんだったんですがね)、本人は肯定も否定もしていません。The Runaways のメンバーであったLita Ford が自らの脱退原因を「When I found out that the girls were all gay in the band, I wasn’t sure how to take it. I didn’t know what it was(他のメンバーが全員レズビアンだって分かった時、どう受け止めていいのかも分からなかったし。それが何なのかも分からなかったわ)」と雑誌のインタビューで語っていますので、真相はこの辺りにありそうです。I saw him dancin’ there by the record machine
I knew he musta been about 17
The beat was goin’ strong
Playin’ my favorite song
And I could tell it wouldn’t be long
‘Til he was with me, yeah, me
And I could tell it wouldn’t be long
‘Til he was with me, yeah, me, singin’
あそこのジュークボックスの傍で彼が踊ってんのを見たんだ
彼、17くらいに違いなかったかな
鼓動は高鳴るし
お気に入りの曲はかかってるしだったから
時間はかからないだろうなってのは分かってた
彼と恋人同士になるのにね、そう、あたいがさ
時間はかからないだろうなって分かってた
彼と恋人同士になるのにね、そう、あたいがさ、こんな風に歌いながらね
I love rock ‘n’ roll
So put another dime in the jukebox, baby
I love rock ‘n’ roll
So come and take your time and dance with me
あたいはロックンロールが好きなのさ
だから10セント硬貨をもう一枚ジュークボックスに入れてよ
あたいはロックンロールが好きなの
だからここへ来て、焦らないでいいから、あたいと踊ってよ
He smiled, so I got up and asked for his name
"That don’t matter," he said, "’cause it’s all the same"
Said, "Can I take you home where we can be alone?"
And next we were movin’ on
He was with me, yeah, me
Next we were movin’ on
He was with me, yeah, me, singin’
彼、微笑んだんだよね。だからあたいはぱっと名前を訊いたんだ
そしたら彼「そんなのどうでもいいだろ。名前なんて同じなんだから」だってさ
こうも言ったね「うちへ送ろうか?二人っきりになれる」って
次の瞬間、あたいたちはおうちへ向かってた
彼と一緒にね、そう、あたいがさ
あたいたちはおうちへ向かってたのさ
彼と一緒にね、そう、あたいがさ、こんな風に歌いながらね
I love rock ‘n’ roll
So put another dime in the jukebox, baby
I love rock ‘n’ roll
So come and take your time and dance with me
あたいはロックンロールが好きなのさ
だから10セント硬貨をもう一枚ジュークボックスに入れてよ
あたいはロックンロールが好きなの
だからここへ来て、焦らないでいいから、あたいと踊ってよ
Said, "Can I take you home where we can be alone?"
Next we were movin’ on
He was with me, yeah, me
And we’ll be movin’ on and singin’ that same old song
Yeah, with me, singin’
こう言ったんだ「うちへ送ろうか?二人っきりになれる」って
次の瞬間、あたいたちはおうちへ向かってた
彼と一緒にね、そう、あたいがさ
あたいたちはおうちへ向かうんだ。あの同じ古い歌を口遊みながらね
そう、あたいとね、こんな風に歌いながら
I love rock ‘n’ roll
So put another dime in the jukebox, baby
I love rock ‘n’ roll
So come and take your time and dance with me
I love rock ‘n’ roll
あたいはロックンロールが好きなのさ
だから10セント硬貨をもう一枚ジュークボックスに入れてよ
あたいはロックンロールが好きなの
だからここへ来て、焦らないでいいから、あたいと踊ってよ
このあと、同じコーラスを延々繰り返して曲は終わります。
I Love Rock N’ Roll Lyrics as written by Jake Hooker, Alan Merrill
Lyrics © BMG Rights Management, Kobalt Music Publishing Ltd., Exploration Group LLC
【解説】
キタァァァ…!って感じですね。久し振りにクサい歌詞の登場ですよ(笑)。クサい歌詞は大抵そうですが、この曲の歌詞も非常にシンプルなフレーズで構成されているので、難しい部分は特に見当たりません。第1節目の1行目、the record machine は第2節のコーラスで出てきますが、ジュークボックスのことです(ジュークボックスについては本コーナーの第30回の記事も参考ください)。2行目のmusta はmust have の口語。3行目のThe beat は心臓の鼓動とロックの鼓動の両方の意味を含めているのだろうと思います。5行目からのAnd I could tell it wouldn’t be long till he was with me(クドイです。駄目な詩の典型です)は直訳すれば「彼が私と一緒にいるようになるまでに長い時間はかからないと言えるでしょうね」ですので、このような訳にしてみました。2節目の2行目のdime ですが、これは米国の10セント硬貨のこと。オリジナルの歌詞でもdime になってまして「イギリスの硬貨ってペニーじゃないの?」と疑問に思った方は優秀です。Arrows は英国のロンドンで結成されたバンドとは言え、この曲を作詞したJake Hooker はイスラエル生まれのアメリカ育ち。Alan Merrill に至ってはニューヨーク市生まれのアメリカ人。なのでdime という単語を使っている訳です。60年代頃のアメリカのジュークボックスの料金は機械によってまちまちですが、1曲5セント、2曲10セント、4曲25セント(機械の構造上の問題なのか、なぜか5曲ではなく4曲です)というのが相場だったみたいです。なのでSo put another dime in the jukebox というのは「ご機嫌になれるロックンロールをもう1曲かけてくれと」いうことになります。
3節目も和訳のとおりで難しい部分はありません。2行目のThat don’t matterは、正しい文法ではdoesn’t ですね。4節目は2節目のコーラスの繰り返し。5節目も一見、難解な点は見当たりませんが、1か所だけひっかかる部分があります。4行目のAnd we’ll be movin’ on and singin’ that same old song です。なぜ、ここがひっかかるのか皆さんは気付かれましたか?その理由は、ここまでの歌詞が過去形で語られているのに、ここのフレーズだけwill という未来形が使われているからです。なので、その瞬間、僕の頭に浮かんだのは「その夜、バーに現れた女が、店の片隅にあるジュークボックスを眺めながら昔会った若いイイ男のことを思い出していると、その夜にもまたまた別のイイ男が現れ、昔と同じあの歌を歌いながら性懲りもなく昔と同じように男としけこもうとしている」といった感じの情景でした。勿論、あの歌というのはI love rock’n roll から始まる4行のコーラス部分のことですね。あれれれぇー、またまた今回も短い解説で済んでしまいましたよ!ちょっとやりがいがないですね(←嘘です。短くて済む方が断然楽でいいです)。
では、最後にJoan Jett の名前に関するエピソードをひとつ。このJett という苗字、あまり聞かない苗字なので、タイガー・ジェット・シンみたいなインド系かと思い(Joan Jett の顔立ちって、インド系と言わ れれば、そんな風に見えませんか?笑)調べてみたんですが、何の関係もありませんでした。彼女の本名は Joan Marie Larkin(Larkin の苗字を持つ人は大抵アイルランド系です)で、スターになる為にはLarkin で はダサいので、恰好のいい響きの苗字にしようとJett にしたそうです(←たいしたオチもなくてスミマセン・汗)。
【第45回】Seven Wonders / Fleetwood Mac (1987)
今回ご紹介するのは、ほぼ60年という恐ろしく長い活動歴を誇る英国の老舗バンドFleetwood Mac が1987年にリリースした18枚目のアルバムTango in the Night に収録されているSeven Wonders という曲です(1977年リリースの名曲Dreams にするかどうか迷いましたが)。Fleetwood Mac はJohn Mayall が率いるThe Bluesbreakers に所属していたPeter Green が、同じバンドのメンバーであったドラムのMick Fleetwood とベースのJohn McVie を誘って1967年に結成したバンドで、二人をメンバーに誘う餌としてバンド名をFleetwood Mac としました(と言ってもJohn McVie の方は直ぐには参加してくれなかったのですが・笑)。長い歴史を持つバンドはどこもそうですが、このバンドもメンバーが頻繁に入れ替わっていて、バンドを結成した張本人のPeter Greenからして、薬物(LSD)で精神錯乱を起こし1970年に自ら脱退しています(←って言うか、昔のアーティストってこんな奴ばっかだったんですよね・汗)。Seven Wonders をリリースした時代のFleetwood Mac のボーカルはStevie Nicks というアリゾナ州フェニックス生まれのアメリカ人女性で(小柄なせいか、いつも厚底靴を履いているのがご愛嬌)1974年にメンバーとなりました。彼女の父親はアメリカの長距離バス会社の最大手Greyhound 社の副社長だった人だそうなので、ちょっとしたお嬢様ですね。Stevie の名は概して男性の愛称と考えられがちですけども、女性名のStephanie の愛称としても用いられ、実際、Stevie Nicks の本名もStephanie Lynn Nicks なのですが、彼女の場合は、彼女が幼少の頃、自分の名前をteedee としか発音できなかった為、父親が面白がって彼女をStevie と呼ぶようになったと伝えられています。この曲Seven Wonders の歌詞は、クレジットにStevie の名が並んでいるものの、歌詞の大部分は歌手兼作詞作曲家であるStevie の友人Sandy Stewart が手掛けました。とは言え、Stevie も大学を中退してはいるものの国語の教師を目指していただけあって、実のところ、歌が上手いだけじゃなくて(ちょっとしゃがれ気味のあの声、いいです)作詞の方もなかなかの才能の持ち主なんですよね(←上から目線はいい加減やめろ・怒)。さてさて、Seven Wonders の歌詞はと言うと、難解な単語も文法も全く使われてはいませんが、暗喩だらけで歌詞を理解するのはちょっとひと苦労。かなり手強い相手ですので、先ずは歌詞にざっと目を通してみてください。
So long ago
Certain place
Certain time
You touched my hand
On the way
On the way down to Emmeline
ずっと遠い昔
とある場所で
とある時に
あなたはあたしの手に触れたわ
あの道でよ
エマラインへと向かう途中のね
But if our paths never cross
Well, you know I’m sorry, but
でも、あたしたちの運命が重なることはもうないんだから
なんてのかな、悪いんだけど
If I live to see the seven wonders
I’ll make a path to the rainbow’s end
I’ll never live to match the beauty again
この世で七不思議を目にすることができると思って
あたしは虹の向こうに続く道を切り開くわ
あの甘美さに代わるような世界に生きることはもうないけどね
The rainbow’s edge
(Aaron)
(Aaron)
虹の入口に向かうの
(そうすべきでしょう)
(アーロン)
So it’s hard to find
Someone with that kind of intensity
You touched my hand, I played it cool
And you reached out your hand to me
とても難しいことなのよ
ある種の情熱に溢れた人を見つけるのはね
あなたがあたしの手に触れた時、あたしは冷静に振る舞った
あなたはあたしに手を差し伸べてくれたの
But if our paths never cross
Well, no, I’m not sorry, but
でも、あたしたちの運命が重なることはもうないんだから
なんてのかな、悪いって訳じゃないんだけど
If I live to see the seven wonders
I’ll make a path to the rainbow’s end
I’ll never live to match the beauty again
この世で七不思議を目にすることができると思って
あたしは虹の向こうに続く道を切り開くわ
あの甘美さに代わるような世界に生きることはもうないけどね
The rainbow’s edge
(Aaron)
(Aaron)
虹の入口に向かうの
(そうすべきでしょう)
(アーロン)
So long ago
It’s a certain time
It’s a certain place
You touched my hand and you smiled
All the way back you held out your hand
ずっと遠い昔
とある時に
とある場所で
あなたはあたしの手に触れ、微笑んだわね
帰り道に手を差し伸べてくれたの
If I hope and if I pray
Ooh, it might work out someday
望み、祈れば
あぁ、いつか願いはかなうかもしれない
If I live to see the seven wonders
I’ll make a path to the rainbow’s end
I’ll never live to match the beauty again
(Well if I hope and I pray)
(Well maybe it might work out someday)
If I live to see the seven wonders
(if I live to see the seven wonders)
この世で七不思議を目にすることができると思って
あたしは虹の向こうに続く道を切り開くわ
あの甘美さに代わるような世界に生きることはもうないけどね
(望み、祈れば)
(いつか願いがかなうかもしれないし)
この世で七不思議を目にすることができるとして
(そう、この世で七不思議を目にすることができるとしてね)
Seven Wonders Lyrics as written by Stephanie Nicks, Sandy Stewart
Lyrics © Universal Music Publishing Group, Kobalt Music Publishing Ltd.
【解説】
シンセサイザーを使ったイントロが印象的で、その直後からStevie の美声が響くこの曲を聴いて、皆さんは何のことを歌っている曲だと感じられましたか?いまいち良く分かりませんよね(汗)。この曲の歌詞、一般的には、もう二度と会えなくなった(もしくは別れた)恋人に対して、あなたと過ごした時間は世界の七不思議だって敵わない甘美なひと時であったという気持ちを歌っているとされていますが、果たしてそうなのか歌詞を見ていきましょう。
先ず1節目は、6行目までは短い簡単なフレーズの羅列でとても分かり易いですが、6行目にいきなり謎が出てきます。On the way down to Emmeline のEmmeline です。このフレーズからするとEmmeline は地名であるとしか受け止められませんね。Emmeline にいろいろな意味を持たせようとする方もおられるようですが、僕の中では「これって地名?」ってこと以外には特に何も頭に浮かんできませんでした(因みにEmmeline は女性の名前でもあり、発音をカタカナにするとエマリーンとエマラインの2種類があるのですがStevie がしている発音は後者です)。とは言え、このEmmeline とは何なのか、なぜここに唐突に出てくるのかが理解できなかったので調べてみたところ、ファンの間では、Sandy Stewart から曲のデモテープを受け取って聴いたStevie が、本来のフレーズをEmmeline と聞き間違えたというのが定説になっていることが分かりました(最初はプロの歌手が聞き間違いなどするものかなと思いましたが、Stevie もご多分にもれず強度の麻薬依存者だった人でして、この頃からその治療を受け始めているという事実から考えると、そういった薬物の影響があったのかもしれませんね)。では、その本来のフレーズとはいったい何だったのかと言うと、これも二つの説があって、ひとつはheld the line、もうひとつはend of the line というものでした。前者だとOn the way down とつなげてみても意味が良く分かりませんが、後者だとなるほどと思えるので、僕は後者ではないかと考えています。その理由は後ほどに(但し、この人が書いてる詩の構成から考えると、ここの部分は4行目のhand と韻を踏むはずなので、本当はOn the way you held out your handではなかったのかという気がしないでもないのですが…)。
2節目の2行目も何が言いたいのか、この言い回しの趣旨が良く分かりませんけど、要はour paths never cross なのだから、第3節に続く内容は確かなことであるということの強調でしょう。3節目のthe seven wonders はSeven Wonders of the World 世界の七不思議(ギザのピラミッド、バビロンの空中庭園、エフェソスのアルテミス神殿、オリンピアのゼウス像、ハリカルナッソスのマウソロス霊廟、ロドス島の巨像、アレクサンドリアの大灯台という七つの古代建造物を指します)のことで、この曲のプロモーション・ビデオを見てもそのことは明らかです。2行目のrainbow は未来に向かって架かる橋の暗喩であり、4節目のThe rainbow’s edgeは未来へと向かう橋の袂(入口)と僕は理解しました。つまり、第3節目で歌われているのは「あなたと過ごした日々に代わるものにはならないけど、私は未来に向かって歩む」という決意ではないかと思います。次のたった1行しかない第4節目に現れるのはこの曲で最大の謎です。なぜなら、The rainbow’s edge と歌ったあと、小声で囁くように2回、Stevieが「Aaron」と言ってるからです(キーボード担当のChristine McVie の声かもしれませんが)。「Aaron?なんじゃそれ!?」って感じなんですけど(Aaron は男性の名前ですが、ネイティブ話者の人たちの中にはここの部分がSara とかTara に聞こえる人がいるようです。どう聞いても僕にはAaron としか聞こえなかったですが・笑)こちらも調べてみたところ、真偽のほどは分かりませんが、Aaron はSandy Stewartの亡くなった友人の名前で、この歌のタイトルも当初はAaron にする予定であったという噂があるようです。その噂話を眉唾物だと僕が思えないのは、our paths never cross とあるとおり、この曲がAaron という故人に対する追悼の意味も込められていると考えれば合点がいくからで、そうでもなければここでわざわざAaron と囁く意味がありません。冒頭でend of the line の話に触れましたが、Aaron が故人であるのなら、On the way down to end of the line を死へと向かう途中、即ち死の間際でと考えればすべての辻褄が合うのです。つまり、この曲の歌詞は、もう二度と会えない恋人に対する思いを歌っているというよりも、亡くなった友人(嘗ては恋人関係にあったかもですが、どちらかと言えば恩人的な存在の人)への思いを歌ったものではないかというのが僕の結論です。If I live to see the seven wonders は、いくら故人のことを想ったところでその人と再会することは世界の七不思議以上のこと、つまりは「あり得ないことだけど」ということの暗喩なのでしょう。だから、Aaronという囁きは、私は前へ向かって進んでいかなくっちゃという主人公の決意を「そうでしょう、アーロン」と自らで念押しをしているように僕には聞こえました。第5節の2行目kind of intensity はpassionの言い換えと考えてこのように訳しました。3行目のplay it coolは「冷静に振る舞う、さりげなく振る舞う」といった意味で使われるスラングです。6~8節目はほぼ同じフレーズの繰り返し。9節目のIf I hope and if I pray. Ooh, it might work out somedayは、故人がもうこの世には戻ってこないことを承知で言っているのであればとても切ないですね。
と、いろいろ勝手に解釈しましたが、僕自身も小説を書きますので、表現者としての立場から言わせてもらうなら、自分の作品にどういった思いが込められているのかなど、所詮は他人に分かるはずがないと思うことがしばしばあります。なので、この曲の歌詞に込められた思いというのも、作者であるSandy Stewartが自ら語らない限り、誰も分かる者はいないというのが正直なところです。
【第46回】Don’t Get Me Wrong / Pretenders (1987)
さてと、今回お送りするのはPretendersが1987年にリリースしたDon’t Get Me Wrongという曲です。Pretenders は1979年に英国で結成され、今も活動中の老舗バンド。このバンドもメンバーの入れ替わりは激しいですが、ボーカルは結成時からずっとChrissie Hynde(この人もオハイオ州生まれのアメリカ人です)が務めていて、勿論この曲のボーカルも彼女が担当してます。珍しい低音域で歌う彼女の声はとても魅力的で、一度聴いたら忘れられない声だし、歌い方も独特だと僕なんかは思うのですが、声はいいけど歌が上手くないという評価を下す人もいるみたいですね。この曲は1987年度の米国ビルボード社の年間チャートで92位と、それほどヒットした訳ではなかったものの、どこか明るい調子のメロディーラインとその旋律にミスマッチな歌詞が僕は好きで、お気に入りの1曲でもあるんですけど、この曲を作詞したChrissie Hynde がDon’t Get Me Wrong は彼女の友人であるプロのテニス・プレーヤーで、その短気な言動からとかく誤解されがちであったジョン・マッケンローの為に作ったと語っていたことを先日に知って「えぇぇー、そうなのぉぉぉ」と衝撃を受けました。世の中には知らずにいる方が良いこともあるというのは確かなようですよ。Don’t Get Me Wrong のエピソードとしてもうひとつ付け加えておくと、この曲のプロモーション・ビデオは、1960年代にイギリスのテレビで放映されていたスパイアクションドラマ「アベンジャーズ(日本では「スパイ㊙作戦」のタイトルで放送)」へのオマージュといった仕立てになっていますが、この曲の歌詞とは全く関係性がありません。関係性も整合性もゼロ!意味不明です(笑)。Don’t get me wrong
If I’m looking kind of dazzled
I see neon lights
Whenever you walk by
勘違いしないでよね
あたしが眩しそうにしてても
ネオンサインを見つめてるだけだから
あなたが傍を通り過ぎる時はいつもね
Don’t get me wrong
If you say hello and I take a ride
Upon a sea where the mystic moon
Is playing havoc with the tide
Don’t get me wrong
勘違いしないでよね
あなたの誘いにあたしが乗っても
海の水面の上に浮かぶ神秘的な月が
潮の満干をおかしくしてるだけだから
勘違いしないでよね
Don’t get me wrong
If I’m acting so distracted
I’m thinking about the fireworks
That go off when you smile
勘違いしないでよね
あたしがぼおっとしていても
花火のことを考えてるだけだから
あなたが微笑むと打ち上がる花火のことをね
Don’t get me wrong
If I split like light refracted
I’m only off to wander
Across a moonlit mile
勘違いしないでよね
あたしが屈折した光みたいに二つになっても
単にさ迷い始めてるだけだから
月に照らされた道を横切りながらね
Once in a while, two people meet
Seemingly for no reason
They just pass on the street
Suddenly, thunder showers everywhere
And who can explain the thunder and rain?
But there’s something in the air
二人はたまに会うわよね
取りたてて理由もないのに
それで、通りを歩いてたりすると
突然、そこらじゅうで雷雨になったりするよね
その雷と雨のことを説明なんてできる?
何かが起こりそうな感じってことは言えるけどさ
Don’t get me wrong
If I come and go like fashion
I might be great tomorrow
But hopeless yesterday
勘違いしないでよね
あたしの恋心が流行みたいに長続きしないとしたら
明日は輝く日になるかもしれないわよ
だって、昨日は望み薄だったんだから
Don’t get me wrong
If I fall in the mode of fashion
It might be unbelievable
But let’s not say so long
It might just be fantastic
Don’t get me wrong
勘違いしないでよね
あたしが流行に乗るようなことがあったら
かなり信じられないわよね
でも、お互いさよならなんて言わないでおきましょうよ
だって、その方がいい感じじゃない
勘違いはしないで欲しいんだけどさ
Don’t Get Me Wrong Lyrics as written by Chrissie Hynde
Lyrics © Hipgnosis Songs Group
【解説】
歌詞を見ていただけば分かるとおり、冒頭で触れた「誤解されがちであったジョン・マッケンローの為にこの曲を作った」というChrissie Hynde の言葉はちょっと真に受けられませんね。この曲がリリースされたのは1987年。前年にジョン・マッケンローは女優のテータム・オニールと結婚してますから、この曲はジョン・マッケンローの為に作ったと言うよりも、Chrissie Hynde の嫉妬心も含んだマッケンローに対する横恋慕な気持ちを歌っているのではないかという気がしてなりません(←あくまでも勝手な推測です・汗)。ジョン・マッケンローは自らもギターを弾く大の音楽好きだそうなので、Chrissie は当時既婚者でしたが(夫はロックミュージシャンのJim Kerr、後に離婚)仕事に関係なく気軽につきあえる彼に意外と気があったのかもです(←これも、あくまでも勝手な推測。ですが、第8回でも紹介したとおり、ジョン・マッケンローは薬物依存を改めようとしないテータム・オニールと離婚後、Patty Smyth と再婚しているんですよね。意外とマッケンローは女性アーティストに好かれるタイプの男性なのではないでしょうか)。
では、問題の歌詞をもう一度ゆっくりと見ていきましょう。歌詞は「Don’t get me wrong と言ったあと、その理由を比喩で述べる(言い訳をする)」という節を繰り返す構成になっていて、韻はあまり踏んでいないものの、歌詞自体にはそこそこのセンスが感じられます(←また出た!上から目線)。1節目、最初に出てくるタイトルと同じDon’t get me wrong は、日常会話でもよく使われるフレーズ。「私のことをwrong(間違ったふうに)get しないでね」ということですから「誤解しないで、勘違いしないで」という意味。つまり、Don’t misunderstand me と同じです。第1節では「あなたが傍を通り過ぎる時、あたしが眩しそうな顔をしていても(あなたを見て瞳を輝かせていてもということです)ネオンサインを見つめてるだけだから、そのことをget me wrong しないでと言ってる訳です。つまりDon’t get me wrongと言ってはいるものの、それ以降のフレーズで述べられていることは、何を誤解しないでと言ってるのではなく、それらのことこそ事実なのだという逆説であると僕は考えます。主人公がI see neon lights と言い訳をしているのはそれが故ですね。要するにひねくれた女なのです(笑)。2節目はちょっと難解です。If you say hello and I take a ride の部分を聴いて僕の脳裏を過ったのは「やあ,(車に)乗ってくかい?」「じゃあ、乗ってこうかな」ってな情景でしたので、このように訳しました。Upon a sea where the mystic moon is playing havoc with the tide は相当に難解で、僕には女性の生理(月のもの、つまりはメンス)のことを言っているように聞こえました。車に乗ることにした(誘いに乗ることにした)のは、生理の周期の関係でちょっと積極的(ムラムラしていた)になっていたからだとここでも言い訳をしている訳です(←あくまでも僕の勝手な推測です・汗)。
第3節も第1節と同じパターン。「あなたがにっこり微笑むのを見るだけで、花火を目にして見とれるくらいにぼおっとしちゃう」ってな感じでしょうか。distract という動詞はDon’t distract me(私の気を散らさないでくれ、集中してるから邪魔するな)という表現として日常生活でも良く使われ、be distracted だと「ぼおっとしている、気もそぞろである」といった意味になります。やはり、この歌詞の主人公は相手にぞっこんのようですね。第4節はさらに難解で、何を言いたいのやら良く分かりませんが、写真の撮影技術にsplit lighting というテクニックがあることから(被写体の半分の面に光を当て、陰陽半分ずつにして撮影する技術)、主人公が持つもうひとつの顔(別の顔)が現れても、それはI’m only off to wander(出来心みたいなもの。be off to は、今いるところから離れてどこかへ向かうというイメージです)ということではないかと考えました。「あなたの誘いに乗ったとしても、それは出来心からだ」とでも言いたいのでしょう。第5節ではDon’t get me wrong のフレーズが消え、二人の関係の描写に入ります。6行目のthere’s something in the air は「なんだか何かが起こりそうな予感がする」という気持ちを表現したい時に使われる決まり文句で、この第5節を聴くと、やはり歌詞の主人公は恋が次の段階に進むことを期待しているとしか思えません。にも拘らず、第6節では再び思わせぶりな台詞を主人公は口にしています。2行目のcome and go は読んで字の如く「行ったり来たり」の意味ですが、そのコアには「何かが長続きせず一定期間だけ存在する」というイメージが存在します。このあとに続くfashion は、流行、流行りの意味ですが、流行は直ぐにすたれるものであり、燃え上がるような恋も同じように直ぐに冷めることから、love の暗喩ではないかと考えました。なので、2行目のI は「恋心を持つ私」であり、I might be great tomorrow, but hopeless yesterday は「私の恋心は長くは続かないから、早く私を口説かないと気が変わってしまうわよ」と相手をせかしているように僕には聞こえました。そして、相手が乗ってきたとみるや、主人公はまたまたひねくれた態度を取ります。それが第7節。2行目のfall in the mode of fashion は前述のようにfall in the mode of love と言い換えれば分かり易いです。つまり、主人公は自分で相手をせかしておきながら「あたしが恋に落ちるなんて考えられないわよね」なんてことを言ってる訳なんです。しかも、たとえそうなってもlet’s not say so long.It might just be fantastic と嘯くのですが(so long はgood bye の言い換えとして70年代くらいまではよく使われていたフレーズです)、最後にDon’t get me wrong と言うところがこの歌詞のミソ。二人の恋が真剣なものであるというような勘違いはするなということだと僕は理解しました。おっ、お、恐ろしい女です…(汗)。
【第47回】99 Red Balloons / Nena (1983)
今日ご紹介する女性歌手は、英米中心の洋楽界では珍しいドイツの一発屋、Nena です(失礼な紹介の仕方でスミマセン・汗)。その名のとおりの一発屋なのでヒット曲はこの99 Red Balloons(原曲のドイツ語版タイトルは99 Luftballons)しかありませんが、1983年から84年にかけて世界中で大ヒットしました(米国ビルボード社の84年の年間チャートで第28位。でも、後追いで作られた英語版は人気がなく、チャートインしたのはドイツ語版の99 Luftballons の方です)。心地良いテンポのこの曲のメロディーラインとそれにぴったりはまったNena の歌声が人気を後押ししたこともありますが、99 Red Balloons がヒットした背景には(世界中の若者に反戦歌として受け容れられました。歌詞の内容に関しては解説で)、自由主義陣営と共産主義陣営とが世界を二分して激しく対立していたという当時の緊張状態、いわゆる冷戦があったと思います。この曲がリリースされた80年代初頭というのは、ソ連が新たに開発した核兵器搭載可能な中距離弾道ミサイルSS-20(どうでもいい話ですが、NATO がそう名付けただけで、ソ連での正式名称はRSD-10 と言います)を脅威に感じた西ヨーロッパ諸国がその配備を止めるようソ連に強い圧力をかけていた時代。とは言え、ソ連がそんな圧力に屈するはずもなかったので、ドイツは対抗処置としてアメリカ製の同様のミサイルPershing II の国内配備を始めようとしていました。99 Red Balloonsが生まれたのはそんな状況下のこと。1982年に西ベルリンで行われたローリング・ストーンズのコンサート会場を訪れていたこの曲の作詞者Carlo Karges が、会場から飛ばされたいくつもの風船が塊になってUFOのような形で空を舞っているのを見て「この風船がこの形のままベルリンの壁を越えてソ連軍が駐留する東ベルリンに飛んで行ったら何が起こるだろう?」と思った瞬間、歌詞が頭に浮かんできたそうです(実際、オリジナルのドイツ語版の歌詞にはこのUFOという言葉が出てきます)。この曲で歌われているような、何か些細なことが切っ掛けとなって核戦争が起こるというシナリオは、あの時代、決して絵空ごとではなかったんですよね。その切迫感が、この曲のヒットにつながったのではないかと思います。Nena はボーカルの女性の愛称であるのと同時に、Gabriele Kerner(Nena の本名)とドラマーのRolf Brende が西ベルリンで結成したドイツ人5人組のバンド名でもあり、Nena の名はスペイン語のniña(girlの意味。ニーニャと発音します)に由来するそうです。You and I in a little toy shop
Buy a bag of balloons with the money we’ve got
Set them free at the break of dawn
‘Til one by one, they were gone
Back at base, bugs in the software
Flash the message, "Something’s out there!"
Floating in the summer sky
Ninety-nine red balloons go by
あたしたち二人、小さなおもちゃ屋で
ありったけのお金で沢山の風船を買って
夜明けに飛ばしたの
ひとつひとつ、全部なくなっちゃうまでね
そのあと基地に戻ったら、コンピューターが誤作動してて
「未確認物体発見!」なんてメッセージが画面に点滅してた
夏の空に浮かんだ
99の赤い風船がそっと飛んでるだけなのに
Ninety-nine red balloons
Floating in the summer sky
Panic bells, it’s red alert!
There’s something here from somewhere else!
The war machine springs to life
Opens up one eager eye
Focusing it on the sky
When ninety-nine red balloons go by
99の赤い風船が
夏の空に浮かんでるだけなのに
警告音が鳴って、警戒警報発令!
どこかしらからやって来た未確認物体発見!だってさ
急に動き出した迎撃システムが
どんなものでも見落とすまいと
空に焦点を合わせてた
99の赤い風船がそっと飛んでる時にね
99 Decision Street
Ninety-nine ministers meet
To worry, worry, super-scurry
Call the troops out in a hurry
This is what we’ve waited for
This is it, boys, this is war
The president is on the line
As ninety-nine red balloons go by
デシジョン通りの99番地じゃあ
99人の大臣が集まって
まずいぞ、まずいぞ、急ぐんだ
急いで部隊に出動命令だって大騒ぎ
この時を待ってたんだ
遂にだぞ、君たち、これは戦争だって
大統領も電話で大騒ぎ
99の赤い風船がそっと飛んでる時にね
Ninety-nine knights of the air
Ride super high-tech jet fighters
Everyone’s a superhero
Everyone’s a "Captain Kirk"
With orders to identify
To clarify and classify
Scramble in the summer sky
Ninety-nine red balloons go by
As ninety-nine red balloons go by
99人の空の騎士が
最新鋭のジェット戦闘機を操縦
みんなが英雄
みんながカーク船長
正体を突き止めろって命令で
それが何だかを突き止める
夏の空に緊急発進
99の赤い風船に向かって
99の赤い風船がそっと飛んでる時にね
Ninety-nine dreams I have had
In every one, a red balloon
It’s all over and I’m standin’ pretty
In this dust that was a city
If I could find a souvenir
Just to prove the world was here
And here is a red balloon
I think of you, and let it go…
あたしが寝てるあいだに見た99の夢
どれもが赤い風船だったの
すべてが終った時、あたしは無傷のままでいたわ
塵になった街の中でね
もし何かあなたへのプレゼントが見つかるとしたら
ここに世界があったと示すことくらい
そして、ここにあるのは赤い風船がひとつ
あなたを思って、飛んで行かせる…
99 Red Balloons Lyrics as written by Kevin McAlea (ドイツ語のオリジナル版はCarlo Karges)
Lyrics © Sony/ATV Music Publishing LLC
【解説】
99 Red Balloons の歌詞、如何でしたか?最後のオチがコワ過ぎですよね。この歌詞は英語版ですが、ドイツ語版は趣旨とオチは同様なものの歌詞はかなり違っているとの噂だったので、どれくらい違っているのだろうかと思ってドイツ語版の最初の3行だけがんばって訳してみました。
Hast du etwas Zeit für mich?
Dann singe ich ein Lied für dich
Von 99 Luftballons
あたしに少し時間をくれるかしら?
そしたらあなたの為に一曲歌うわ
99の風船の(歌を)ね
やはり、かなり違っている、って言うか、全く違うじゃないですか!(笑)。これは、英語版の歌詞がオリジナルの作詞者Carlo Karges の手によるものではなく、アイルランド人のKevin McAlea という別人が手掛けたということが原因のようです。Carlo Karges が後に英語版は失敗だったと語っているように、この曲の英語版はその響きがどこか間の抜けたものになっていて(オリジナルの歌詞を別の言語で歌うと、大抵の場合そうなるんですが)ドイツ語版の方が断然いいのは誰が聴いても明らかです。アメリカで英語版の人気が出なかったのも頷けますね。タイトルにもなっているRed Balloons の部分も、オリジナルではLuftballons(ドイツ語で風船、気球の意)。でも、英語で風船を表す単語はBalloon と綴りが短く、間が空いてしまうので語呂のいい響きのred を付け加えただけとのこと。英語版のこのred には何の意味もないそうです(どうせなら、そのままLuftballons にしておくか、緊張状態にある国境で風船を飛ばしたことを悪い冗談だと揶揄する意味を込めてbad balloons にして欲しかったと僕なんかは思いますが)。なので、ほんとはドイツ語版の歌詞を紹介したかったんですけど、ドイツ語は勉強したことがないので3行でご勘弁を(汗)。
それでは、ドイツ語版ではなく(←まだ言うか!)英語版の歌詞をを見ていきましょう。英語版は簡単な単語ばかりが並んでいて、日本語に訳すのに特に難しい部分はありません。1節目は日本語訳のとおり。6行目のSomething’s out there は直訳すれば「向こうに何かがある」ですが、緊張感を出す為にこのような訳語にしました。8行目のgo by は、僕の中では、誰にも気付かれぬまま上空を通り過ぎて行くというイメージですね。2行目のPanic bell はemergency bell やalart bell の類と理解。5行目のThe war machine は、話の流れから「迎撃システム」という言葉を使いました。spring to life は「突然に活気づく」といった状態を表す際に使われる慣用表現です。6行目のeager eye は、日本語で言う「鵜の目鷹の目」のこと。何も見落とさないぞとばかりに熱心に目を凝らすといった感じでしょうか。3節目の最初に出てくる99 Decision Street は勿論、架空の通りの名前。議事堂や大統領官邸といった政治を決定decision する場所をイメージさせる言葉遊びです。4節目4行目のCaptain Kirk はテレビドラマ・シリーズの「スタートレック」に出てくる宇宙艦USSエンタープライズのカーク船長のこと(勇敢な行動でどんな困難も切り抜ける有名船長です)。このCaptain Kirk のくだり、オリジナルのドイツ語版ではHielten sich für Captain Kirk(自分がカーク船長だと思って)とスクランブルで飛び立って行ったパイロットたちを形容する言葉として使われています。そのあとに続くWith orders to identify to clarify and classify はちょっとクドイ表現ですね。複数の物の差異を明確にして特定したい時に使うのがidentify、結論や正体がわからないといった曖昧な状態が実際はどうなのかを明確にしたい時に使うのがclarify。classify は複数あるものを分類する、仕分ける、整理するといった意味です。まあ、それぞれの細かなニュアンスは違いますが、僕には同じことばかり言っているようにしか聞こえません(汗)。そして、最後の5節目。1行目のdreams は将来の夢といった夢の方ではなく、寝床で見る夢のこと。5行目のsouvenir はお土産のことですが、ここでは、あなたの為に探したプレゼントといった意味合いですかね。そして、It’s all over and I’m standin’ pretty in this dust that was a city(ここのstand の使い方は状態を表す用法なのでstand pretty は「美しいまま」となり、intact の言い換えと理解しました)とthe world was here が語っているのは、夢で見た話だということにはなっているものの、要は、遊びで飛ばされた空に舞う風船を敵と勘違いして核戦争(必ずしも核戦争という訳ではないですが、時代背景を考えれば核戦争でしょう)が始まり、街が灰になってしまったということです。冒頭で述べた「コワいオチ」の意味が分かっていただけたでしょうか?
僕がベルリンの街を東西に分離していた落書きだらけのコンクリート製の壁の前に立ったのは冷戦の最中の1985年のこと(勿論、落書きだらけだったのは西ベルリン側の壁だけです)。その時、チェックポイント・チャーリーを通って東ベルリンも訪れたんですが、結構な数のソ連軍が駐留してるはずなのに街にソ連兵の姿はなく、出稼ぎのベトナム人が街の通りを歩いている光景の方が僕には衝撃でした(当時の東ドイツとベトナムは社会主義国同士。東ベルリンで東洋人を何人か見かけたので声をかけてみたら、彼らは西ドイツに定住したベトナム難民ではなく、出稼ぎの為に本国からやって来た労働者たちだったんだです)。その後、1988年に再びベルリンの壁を越え、今度はアルバニアを除く東ヨーロッパの国々をすべて訪れましたが(東ドイツは外国人旅行者に対しても移動の自由を与えていませんでしたが、それ以外の東欧諸国は共産主義下であっても自由旅行をすることが可能だったんですよ!但し、当時のアルバニアは鎖国状態で個人旅行者は入国不可でした)、どこの国へ行っても耳にするのは共産主義体制の陰口、悪口のオンパレードで(多くの人々の不満はやはり、言論と移動の自由が制限されていることと、共産党関係者など特権階級化した人間だけがいい思いをしているということでした)、人々が不満しか感じていないような体制はいつか崩壊し、ベルリンの壁が取り払われる日も近い将来やってくるであろうということをひしひしと感じました。まさかその日が翌年やって来ることになろうとは流石に思いもしていなかったですけども。その時に東欧で体験したことをもとにベルリンの壁やルーマニアの日常を描いた短編小説『過去からやってきた旅人』という作品を本サイト内の『小説の棚』にアップしてありますので、興味のある方は読んでみてください。
【第48回】Papa Don’t Preach / Madonna (1986)
この人のことは好きではないのですが、80年代に青春を過ごした僕らの世代はこの人の曲を避けて通ることはできません。それに、いつも言ってますように、作者がどんな糞な人間であっても、素晴らしいと認めざるを得ない作品の価値がそのことによって下がることはないという真理は不変です。ということで、今回は「この人」ことマドンナの名曲Papa Don’t Preach を紹介することにしました。1986年にリリースされたこの曲は、全米でヒットすると同時に(この年のビルボード年間チャートで29位)アメリカ社会に大きな衝撃を与えた曲でもあります。何が衝撃的だったのかと言うと、歌詞の中で未婚のティーンエージャーの妊娠について言及されていたからです。今でもそうですが、米国では人工妊娠中絶を認めるかどうかという意見の表明は国を二分するほどにセンシティヴな問題で、それが歌になって公共の電波であるラジオやテレビでバンバン流れたのですから、多くの人が衝撃を受けたのも当然のことだったのです(日本人の感覚からすれば「えっ、なんで?」って感じですけども)。この曲は中絶賛成派からは激しい反発を食らい、逆に賛成派は大いに擁護しましたが、それがどういうことだったのか、先ずは歌詞をご覧ください。Papa, I know you’re going to be upset
‘Cause I was always your little girl
But you should know by now
I’m not a baby
You always taught me right from wrong
I need your help, daddy, please be strong
I may be young at heart
But I know what I’m saying
パパ、パパが気を悪くするのは分かってるわ
だってあたし、ずっとパパのいい娘だったもの
だけどもう分かってもらいたいの
あたしは子供じゃないって
パパはいつも善悪の区別を教えてくれたわよね
そんなパパの助けが必要なの、パパ、気を確かにね
あたしはまだ小娘かもしれないけど
自分が何を言ってるのかくらいは分かってる
The one you warned me all about
The one you said I could do without
We’re in an awful mess
And I don’t mean maybe, please
気をつけろってパパが言ったあの人
やめとけってパパが言ったあの人と
すごく困ったことになってる
多分じゃなくて本気で言ってるの、だから
Papa, don’t preach, I’m in trouble, deep
Papa, don’t preach, I’ve been losing sleep
But I made up my mind, I’m
Keeping my baby, ooh
I’m gonna keep my baby, mm
パパ、お説教はやめて、あたし、すごく困ってるのよ
パパ、お説教はやめて、眠れないほど悩んできたの
だから決めたのよ、あたし
子供を産むってね
お腹の中の子を産むつもりなの
He says that he’s going to marry me
And we can raise a little family
Maybe we’ll be all right
It’s a sacrifice
彼、結婚しようって言ってくれてるから
あたしたち、ささやかな家庭を築けるわ
多分、うまくいくと思う
この身を捧げるんだもの
But my friends keep telling me to give it up
Saying I’m too young, I ought to live it up
What I need right now
Is some good advice, please
なのに友達はみんな、やめときなってずっと言ってる
あたしが若過ぎるだなんて言ってる、人生を楽しむべきだって
でも、あたしに今必要なのは
まともなアドバイス、だから
Papa, don’t preach, I’m in trouble, deep
Papa, don’t preach, I’ve been losing sleep
But I made up my mind, I’m
Keeping my baby, ooh
I’m gonna keep my baby, ooh, ooh
パパ、お説教はやめて、あたし、すごく困ってるのよ
パパ、お説教はやめて、眠れないほど悩んできたの
だから決めたのよ、あたし
子供を産むってね
お腹の中の子を産むつもりなの
Daddy, daddy if you could only see
Just how good he’s been treating me
You’d give us your blessing right now
‘Cause we are in love
We are in love (In love), so, please (So)
パパ、彼がどんなにあたしに優しくしてきてくれたか
パパが分かってくれるなら
今すぐに祝福してくれるはずよ
だって、あたしたち愛し合ってるんだもの
そう、あたしたち愛し合ってるの、だから
Papa, don’t preach, I’m in trouble, deep
Papa, don’t preach, I’ve been losing sleep
But I made up my mind, I’m
Keeping my baby, ooh
I’m gonna keep my baby, ooh, ooh
パパ、お説教はやめて、あたし、すごく困ってるのよ
パパ、お説教はやめて、眠れないほど悩んできたの
だから決めたのよ、あたし
子供を産むってね
お腹の中の子を産むつもりなの
*このあと、アウトロでPapa, don’t preach を連呼して曲は終了しますが、下記のコーラス部分だけ違っています。
Papa, don’t preach (don’t stop loving me, daddy)
Papa, don’t preach (I know I’m keeping my baby)
パパ、お説教はやめて(あたしのことをずっと愛して、パパ)
パパ、お説教はやめて(子供は産む気だけどね)
Papa Don’t Preach Lyrics as written by Brian Elliot
Lyrics © Reservoir Media Management, Inc.
【解説】
なんかビートルズのEleanor Rigbyみたいなオーケストラ演奏で始まり、そのあとドラムとベースの音色が加わることで一気にアップテンポになってマドンナの歌声が続くという構成のこの曲のイントロ、ここだけで何かドラマを感じさせてくれてとてもいいです。マドンナはカリスマ性だけが売りで歌は下手だという意見もあるようですが、彼女のDon’t Cry For Me Argentinaなんかを聴くと、歌唱力がないとは言い切れませんね。全米を騒がせたこのPapa Don’t Preachという曲は、西海岸在住のBrian Elliotというアーティストがたまたま地元で耳にした女子高生の立ち話からヒントを得て作詞したもので、彼自身はこの曲について「a love song about a young girl who found herself at a crossroads in life and didn’t know where to turn ・人生の岐路に立った時、どこへ向かっていいのか分からなかった少女のラブソングだ」と語っています(とは言え、ラブソングでは起こり得ない騒ぎが起こることを彼は分かっていたというのは間違いないでしょう)。この曲の歌詞の英語は比較的分かり易いものの、やや難解な部分もありますので一緒に詳しく見ていきましょう。
先ず第1節の最初に出てくるPapa と6行目のdaddy ですが、これは通常、子供が使う言葉です。ティーンエイジャーで使う人はあまりいません(高校生くらいのティーンエイジャーがpapa とかdaddy とか言ってたら逆にちょっと気持ち悪いです・汗)。このことは、歌詞の主人公がまだ精神的には子供の域を出ない少女(恐らくはローティーン)であることを示唆しており、7行目のI may be young at heart がそのことを証明しています(普通be young at heart は、年老いた人に対して気が若いと言いたい時に使う表現です)。5行目のteach someone right from wrong は「どんなことが正しく、どんなことが悪いことなのかを教える」ということであり、一般的に英語圏におけるその区分はキリスト教的価値観に基づく道徳を基準にして行われます。2節目のThe one は人のことを指していますが、ここではそれがまだ誰であるかは明確ではありません。物事を敏感に察する人ならそれが誰だか想像はつきますが、The one が少女の彼氏のことであることがはっきりするのは第4節目に入ってからです。1行目のall about はその前の文の内容を強調する為に付け加えられているもので、2行目のThe one you said I could do without はYou said I could do without the one と考えれば分かり易いでしょう。4行目のAnd I don’t mean maybe、これも、その前にある文の内容を強調したい時、文尾に付けて使われる決まり文句です。
そしていよいよ問題の3節目。don’t preach はsomeone gives you advice in a very serious or boring wayといった状況にある時、その相手に対して発する言葉で、正確にはdon’t preach at me となります。2行目のI’ve been losing sleep はI’ve been losing sleep over と理解しました。眠れないくらい気をもんできたということでしょう。4行目のKeeping my baby は、直訳すれば「私の赤ちゃんを保持する」ですが、この歌詞の中では「お腹の中の赤ちゃんを中絶せずに産む」ことを意味しているのは明らかですし、実際、若い娘さんがI’m gonna keep my baby と言うのを聞けば、ほとんど大多数の人はそう受け止めると思います。そして、米国社会に衝撃を与えたのがまさしくこのフレーズ。「そうよ、どんどん産みなさい」と中絶反対派や保守層が色めき立ったのは当然ですが、その逆に中絶賛成派が猛反発した理由はこのフレーズのせいだけではなく、第4節の歌詞も大いに関係していたと思われます。その4節目、He says that he’s going to marry me のフレーズから推測できるのは、第2節のThe one が少女のボーイフレンドであることであり(2節目で述べられていたのは、父親が娘の彼氏のことを最初から良くは思っていなかったということだったんです)、彼氏から結婚しようと言われている段階ですので、当然、少女は未婚ですね。未婚で妊娠、つまりは婚前交渉をしたということになりますから、馬鹿らしい話ですが、このくだりはカトリック教会という名の偽善者集団から非難されることにもなりました。中絶賛成派が憤ったのはそのあとに続く歌詞部分で、特に最後のIt’s a sacrifice がとどめを刺したのでしょう。賛成派の人たちは「家庭を築くという理由で男に人生を捧げるという伝統的な価値観に縛られたこの少女は、中絶という女性の権利を最初から放棄している。そんな風に女性を描くような歌詞は認められない」と考え、激しく反発したのではないかと思います。因みにこの曲が論議を巻き起こしていた最中のマドンナはというと、歌を賛美する反対派、歌をこき下ろす賛成派、どちらの派に対しても距離を置いていたようですが、後に彼女は雑誌のインタビューでこの曲のことを「It just fit right in with my own personal zeitgeist of standing up to male authorities(男性権力に立ち向かうという私の時代的な精神に合致していた)」と答えています。つまり、マドンナ自身は家庭を築くという理由で男に身を捧げるような女性ではなく、歌詞の内容とは違って中絶賛成派だったと言えますね。
第5節目の1行目のgive it up は、何を諦めろと言ってるのかというと、勿論、子供を堕ろさずに産むことです。少女のまわりの人間はそんなありきたりのことしか言わないので、彼女は父親に対して、説教はいいからまともな助言をしてくれと言ってる訳ですね。つまり、少女は父親のことを頼りになる人と考えているのです。6節目は第3節の繰り返し、7節目ではそんな父親に対し、二人は愛し合ってるし、彼氏が少女の事を大切にしてると思うなら素直に祝福して欲しいという思いを吐露しています。アウトロの部分で少女がdon’t stop loving me, daddy と言っているとおり、彼女は父親のことが好きなのであり、関係の悪化は望んでいないのです。この歌詞には母親は一切出てきませんので、父親が男手ひとつで愛情を注ぎつつ娘を育てていたのであろうことが推測できると言えるでしょう。
さて、このあと、この二人の親子関係はどうなったのでしょうか?マドンナが自ら出演しているこの曲のプロモーション・ビデオを見る限りでは、最後のシーンで父親が娘を抱きしめて終わっています。なので、父親は娘の意思を尊重し、ありのままの娘を受け容れたということなのだと理解しました。つまり、この曲で重要だったのは「少女が子供を産むという選択をしたことの是非」ではなく「たとえ少女であっても、自分のことは自分自身で決める権利がある」ということだったのだというのが僕の結論です。1983年のアルバムデビュー以来、マリリン・モンローに似せたそのルックスとダンスという武器を使ってMTV人気に乗っかりLike a Virgin やMaterial Girl、Crazy For You などの曲を次々にヒットさせてスターダムにのし上がったマドンナ。それでもまだその時点での彼女の位置付けは流行歌手程度のものでしたが、Papa Don’t Preachを歌ったことを機に本物のアーティストとして認められるようになった気がします。
【第49回】Upside Down / Diana Ross (1980)
女性ボーカル特集も今回で最終回(←勝手に最終回・汗)となりますので、米国の芸能界の大御所ダイアナ・ロスを大トリとしてお迎えすることにしました(←勝手に迎えるな・笑)。今日ご紹介するのは、彼女の代表曲のひとつUpside Down です。ダイアナは1944年、ミシガン州デトロイト生まれ(第二次世界大戦末期。ノルマンディー上陸作戦が行われた年ですよ・驚)。まだ女子高生であった1961年にデトロイトの新興レコード会社「モータウン」と契約し、黒人女性3人組のユニットThe Supremes としてデビューするやヒット曲を連発して(ビルボード社の週間チャートで1位になった曲は実に12曲)たちまち大スターとなり、グループ解散後はソロシンガーとしてさらに名を高めただけでなく今でも現役という、60年以上に渡って歌い続けてきたスゴい歌手なんです(2015年の時点でも尚、来日して武道館でコンサートをしてましたね)。マイケル・ジャクソンが家族のように慕い、絶対的な信頼を寄せていた人物としても知られています。Upside Down は、後に天才プロデューサーの名を欲しいままにするNile Rodgers(彼がプロデュースした様々なアーティストのアルバムはトータルで5億枚以上売れたと言われています。5億枚ですよ・汗)がプロデューサーとしての活動初期に初めて大物アーティストとタッグ組んだ際の作品で、米国ビルボード社の1980年の年間チャートで18位にランクインしました。Bee Gees のNight Fever みたいな出だしのこの曲、メロディーラインはファンキー&ダンサブル。歯切れのいいギター演奏とベースの音色も素晴らしく、ダイアナの声も良くマッチしていますが(ちょっと白人みたいな歌い方ですが)、何よりも歌詞がなかなかユニークですので、先ずは歌詞をお楽しみください。I said, "Upside down, you’re turning me"
You’re giving love instinctively
‘Round and ‘round, you’re turning me
言ったでしょ「逆さまだって、あんたがあたしをその気にさせてるんだ」って
あんたって誰かに愛を感じさせてる人、無意識なんだろうけどね
ぐるぐるとかき回して、あたしを翻弄してるわ
Upside down
Boy, you turn me inside out
And ‘round and ‘round
Upside down
Boy, you turn me inside out
And ‘round and ‘round
逆さまなのよ
癪だけど、あんたが逆にあたしをその気にさせてんの
ぐるぐると惑わせてね
逆さまなのよ
癪だけど、あんたが逆にあたしをその気にさせてんの
ぐるぐると惑わせて
Instinctively, you give to me the love that I need
I cherish the moments with you
Respectfully, I say to thee
I’m aware that you’re cheating
When no one makes me feel like you do
あんたにはそのつもりがなくとも、あたしが求めてる愛をあんたは感じさせてくれる
あんたと過ごす時をあたしは大切にしたいの
謹んで汝に申し上げさせてもらう
あんたが浮気をしてることなんて分かってるけど
あんたみたいにあたしに愛を感じさせてくれる人はいないの
Upside down
Boy, you turn me inside out
And ‘round and ‘round
Upside down
Boy, you turn me inside out
And ‘round and ‘round
逆さまなのよ
癪だけど、あんたが逆にあたしをその気にさせてんの
ぐるぐると惑わせてね
逆さまなのよ
癪だけど、あんたが逆にあたしをその気にさせてんの
ぐるぐると惑わせて
I know you got charm and appeal
You always play the field
I’m crazy to think you’re all mine
As long as the sun continues to shine
There’s a place in my heart for you, that’s the bottom line
あんたが魅力ある人だってのは分かってる
いつもいろんな女と遊びまわってるものね
あんたがあたしのもんだって考えるなんてイカれてるけど
太陽が輝き続ける限り
あたしの心の中にはあんたが居てる、問題はそこなの
*このあとは上記と同じ節の繰り返しが続き、アウトロでUpside down, you’re turning me. You’re giving love instinctively を連呼して曲は終了します。
Upside Down Lyrics as written by Nile Gregory Rodgers, Bernard Edwards
Lyrics © TuneCore Inc., Sony/ATV Music Publishing LLC, Songtrust Ave, Warner Chappell Music, Inc.
【解説】
この曲の歌詞で要となるのはUpside down と’round and ‘round(この言い回しはChuck Berry の名曲Around and Around から着想を得たのかもですね)という言葉なんですが、この曲においてこれらの言葉を元の英語の響き、感覚を損なうことなく日本語に置き換えるというのは至難の業でした。上記の和訳はあくまでも自分の感性に従って訳したものですので悪しからず。
では歌詞をみていきましょう。第1節、曲のタイトルにもなっているupside down は「上下逆さま」、2節目に出てくるinside out は「裏表逆さま」というのが本来の意味です。余談ですが「左右逆さま」はそれじゃあleftside rightなのかと言うと、面白いことに英語ではそういった言い回しは存在せず wrongやopposite、backwards などを使って表現するしか他はありません。2行目にはinstinctively という長ったらしい単語。3節目にもRespectfully という単語が使われていますが、これらの単語は多音節語と呼ばれるもので、音節の強勢をリズムに乗せたかったのかどうなのかは良く分かりませんが、何らかの意図があってこういった多音節語を使っているのではないかと思われます。3行目の’Round は正式な文法書では認められていませんがaround の綴りと同じことで、’Round and ‘round というフレーズのコアのイメージは何かが円を描くような動きです。’Round and ‘round, you’re turning me は直訳すれば「私をぐるぐると回転させている」ですが、僕には歌詞の主人公が恋の相手に翻弄されている情景が頭に浮かんだので、このような訳にしました。コーラスに入る2節目、2行目のBoy は感嘆詞のBoy と理解。日本語に置き換えれば「えぇーっ!」とか「ちぇっ!」みたいな感じの言葉で男性でも女性でも使います。第1節と2節を聴いて受けた印象は、歌詞の主人公は本来は好きになってはいけない相手(既婚者や恋人のいる人、危険な匂いの漂ってる人など)を好きになってしまって翻弄されている状況であり、なぜそんなことになってしまっているのかというと、第3節で語られているようにInstinctively, you give to me the love that I need だからです。
3節目3行目ではRespectfully, I say to theeと急にあらたまった言葉遣いになっていますが、Respectfully という普通、相手に敬意を示す際に使う言葉のあとにI say to thee という芝居がかったフレーズが使われていることから考えれば(thee はシェークスピアの小説なんかによく出てくるthou と同様、中世の英語で使われていたyou を意味する言葉です)わざとそういう言い方をしている訳で、I wanna tell youとかI have something to say to you とか言うよりも、どこか嫌味たらしさを込めている感があります。4行目のcheating はゲームなどでズルをするという意味もありますが、ここでは浮気のことでしょう。第4節は2節目のコーラスの繰り返し。第5節目のplay the field は、元々は競馬で全部の馬に賭けることを意味していた言葉で、そこから転じて「手広くやる」となり、口語ではさらに「手当たり次第に異性と付き合う、遊び回る」という意味で使われるようになった表現です。5行目のthe bottom line も、元々は企業の決算書の最後のページの一番下の最後の数字(つまりは決算の結果を表している数字)から転じて、結論や肝心な事という意味でも使われるようになった言葉。第5節を聴いて分かるのは、この歌詞の主人公が相手に対して相当夢中であるということであり、There’s a place in my heart for you, that’s the bottom line というフレーズで締め括っているように、その原因が自分にあるという自覚もあるようです。このUpside Down という曲はアルバム「Diana」に収録されていたもので、アルバムを制作するにあたって事前にダイアナ・ロスに対して長時間のインタビューを行っていたNile Rodgers は、ダイアナがそのインタビュー中に「I just wanna turn my whole career upside down 今までの自分のキャリアをひっくり返したい」と吐露するのを聞いてこの歌詞を書いたと最近になって語っています(ダイアナのその発言の根底には、16歳のデビュー時から在籍し、腐れ縁になってしまったモータウンから離れたいという気持ちがあったようです)。彼女のそんな思いがどう転じてこんなラブソングに変わってしまったのかは良く分かりませんが(笑)。
締めくくりはダイアナではなくNile Rodgers のエピソードを少し。彼はニューヨーク市Lower East Sideの生まれで、今では高級住宅街に生まれ変わっていますが彼が生まれた1952年当時のLower East Sideは貧民街だった所です。そんな環境のせいか、Nile の母親が彼を妊娠したのは13歳の時でしたし(まさしくPapa Don’t Preach の世界ですね)、Nile 自身も13歳で麻薬常用者となり、革命による黒人解放を掲げて武装蜂起を黒人に呼びかけていた過激派「ブラックパンサー」に所属していたこともあります。学歴もコネも何もない貧民街生まれの黒人がギャングになって死ぬことにならずに億万長者になれたのは、彼には音楽の才能だけではなく他人の才能を引き出すマネージメントの才能もあったからで、Nile Rodgers という人はとても頭の切れる人なのだろうと思いますね(←勿論、彼と会ったことも話したこともないので何の根拠もアリマセン・汗)。
【第50 回】Stairway to Heaven / Led Zeppelin (1971)
Woo-hoo! I made it!!(本当はHip hip hooray!と何人かで集まってやりたいところですが、一人孤独にこのコーナーを書いてますので自己満足の証としてI made it にしときます・涙)。ということで、洋楽紹介も早いものでついに50回目を迎えました!(パチパチパチーと一人で虚しく拍手)。このコーナーで紹介している曲は僕の青春と共にあった古い曲ばかりですけど、皆さん、楽しんでいただけてるでしょうか?このコーナーにいったいどれくらいの読者がいるのかは僕には分かりませんが(恐らく数人でしょう・汗)僕の解説を読んで一人でも洋楽ファンが増えたのであれば本望です。さて、第50回という節目となりました今回、何の曲を選ぼうかといろいろ迷った結果、僕にとってはすごくお気に入りの曲という訳ではないのですが、レッド・ツェッペリンの名曲Stairway to Heaven(日本でのタイトルは「天国への階段」)を紹介することにしました。なぜかと言うと、この曲が紹介される時にはお約束のように「歌詞が難解だ」という解説が付け加えられているので、果たしてそれが事実なのかどうかを初心に戻って確かめてみようと思ったのです(←できるんだろうか…。汗)。レッド・ツェッペリンはRobert Plant、Jimmy Page、John Paul Jones、John Bonham という4人の英国人ミュージシャン(全員イングランド出身)が集まって1968年にロンドンで結成した伝説のロックバンドで、Jimmy Page のギター演奏を中心にしたスピードとパワーを感じさせるダイナミックな音作りは後に多くのアーティストに影響を与え、ハードロック、ヘビーメタルの祖とも位置づけられています。ですが、同時に傍若無人なミュージシャンの祖でもあり(麻薬乱用のせいなのか、商業的に成功して天狗になってたのか、良くは分かりませんが)、1971年の来日時には宿泊していたホテルの備品を土産物屋で買った日本刀(土産物屋で売ってるような代物なので、恐らくは真剣ではなく模造刀でしょう)で次々に切りつけて破壊するという蛮行に及び、ホテル側は多大なる迷惑と損害を被りました(彼らの乱痴気ぶりについては、本コーナーの第3回Hotel California の解説欄も参考ください)。このバンドに関する情報は巷に溢れてますので、レッド・ツェッペリン自体に関する歴史やエピソードはそれらに譲ることにして、先ずは難解とされる問題の歌詞を一読ください。
There’s a lady who’s sure all that glitters is gold
And she’s buying a stairway to Heaven
When she gets there she knows if the stores are all closed
With a word she can get what she came for
Ooh-ooh, ooh-ooh, and she’s buying a stairway to Heaven
きらめくすべての物は黄金だと信じてる女性が一人いてさ
天国への階段を買おうとしてる
彼女は分かってるんだよね、そこへ行けば、お店が全部閉まってたって
彼女がひと言発すれば、目的のものが手に入ることを
あぁー、それだから、彼女は天国への階段を買おうとしてるんだ
There’s a sign on the wall, but she wants to be sure
‘Cause you know sometimes words have two meanings
In a tree by the brook, there’s a songbird who sings
Sometimes all of our thoughts are misgiven
壁には道しるべがあったんだけど、彼女は疑ってかかったね
だって、言葉ってのは時に違う意味で使われることがあるじゃない
小川の傍の木ではさ、小鳥がメロディーをさえずってる
人の思いってのは、時に疑いを引き起こすものだって
Ooh, it makes me wonder
Ooh, makes me wonder
あー、なんだか気になる
ほんと、気になる
There’s a feeling I get when I look to the West
And my spirit is crying for leaving
In my thoughts I have seen rings of smoke through the trees
And the voices of those who stand looking
西の方を見る時、感じることがあるんだ
ここから離れたいって魂が叫ぶんだよね
僕にはこんな気がしたんだ、樹々の間に煙の輪が見えてさ
目を逸らさず見つめている人たちの声がしたって気がね
Ooh, it makes me wonder
Ooh, really makes me wonder
あー、なんだか気になる
ほんと、気になる
And it’s whispered that soon if we all call the tune
Then the piper will lead us to reason
And a new day will dawn for those who stand long
And the forests will echo with laughter
噂じゃさ、僕たちが思いどおりに物事を決めれば
笛吹き男が正しい道へ導いてくれるって話だよね
長いこと耐えてきた人たちの為に新しい日の朝がやって来てさ
森の中で笑い声がこだまするんだ
If there’s a bustle in your hedgerow, don’t be alarmed now
It’s just a spring clean for the May queen
Yes, there are two paths you can go by, but in the long run
There’s still time to change the road you’re on
生垣が騒がしくたって、心配しないでよ
5月の女王の為に春の大掃除をしてるだけだから
そう、君には二つの道がある、結局のところ
今君がいる道を変える時間はまだあるのさ
And it makes me wonder
Oh, woah
気になるんだよね
なんだか
Your head is humming and it won’t go, in case you don’t know
The piper’s calling you to join him
Dear lady, can you hear the wind blow?
And did you know
Your stairway lies on the whispering wind? Oh
頭の中でブンブンと鳴る音は消えないよ、知ってるだろうけど
笛吹き男がいっしょにやろうぜって君のことを呼んでるんだもの
親愛なるお嬢さん、君にはあの風が吹く音が聞こえるかい?
知ってたかい?
君の求めてる天国への階段はその風のささやきから延びてるってことを
And as we wind on down the road
Our shadows taller than our soul
There walks a lady we all know
Who shines white light and wants to show
How everything still turns to gold
And if you listen very hard
The tune will come to you at last
When all are one, and one is all, yeah
To be a rock and not to roll
あちこち寄り道しているうちに
陰の背丈は魂より大きくなり
皆が知ってるあの女性がそこを歩いてて
白い光で照らしながらどうやるかを示したがるんだ
あらゆるものをさらに黄金色に変える方法を
でも、耳を澄ませば
最後にはあの曲が流れてくるだろうさ
みんながひとつに、ひとりがみんなになった時にね
分裂するのではなくひとつにまとまるために
And she’s buying a stairway to Heaven
なのに、彼女は天国への階段を買おうとしてるんだ
Stairway to Heaven Lyrics as written by Robert Plant, Jimmy Page
Lyrics © Warner Chappell Music, Inc.
【解説】
さてさて、Stairway to Heaven の歌詞、皆さんはどう受け止められましたか?はっきり言って、英語で読んでも日本語で読んでも、何を言いたいのやらよく分かりませんよね(笑)。ただでさえそうなのに、その状況をさらに混乱させているのが、この歌詞を書いたRobert Plant のこれまでの発言です。なぜなら、この人は目立つのが好きなのかメディアのインタビューによく応じていて、その度にStairway to Heaven の歌詞についていろいろと語っているのですが(本来なら、その種の発言は歌詞を理解する手掛かりとなるので歓迎のはずなんですけどね)、Robert Plant の発言が逆に混乱を招く原因となってしまっているのは、同じ質問であっても彼はしばしば異なる(以前の発言とは矛盾する)回答をするからです。しかし、彼が今までに発言してきた内容を順番に追って行くと、一貫してブレていない発言も中にはあることが分かってきました。僕が気付いた昔も今も変わらぬ彼の発言は3つ。その要点は以下のとおりです。
① Stairway to Heaven は「何の考えも思いやりもないまま(何も返すことなく)欲しいものをいつでも何でも手に入れる女性のことを歌ったものである。it was about a woman getting everything she wanted all the time without giving back any thought or consideration」
② Stairway to Heaven の中で彼が試みたのは「人里離れた牧歌的なイギリスやほとんど語られることのない古いケルト文化への関連性を作品に取り入れようとしたことである。I was really trying to bring the remote, pastoral Britain, the old, almost unspoken Celtic references into the piece」
③ Stairway to Heaven は「希望の歌である。I used to say it in Zeppelin, This is a song of hope」
これらの事はRobert Plant が若い頃から今に至るまで繰り返し口にしていますから、この3点をStairway to Heaven の歌詞を理解する鍵と考えても良いかと思います。なので、この鍵を手掛かりに歌詞を紐解いていくことにしましょう。先ず、第1節1行目ですが、このフレーズが前述した3つの要点の①を指していることに疑いの余地はありません。glitter はただ単に光る、輝くではなくキラキラと光る、輝くというイメージ。ここのgold は、世界共通の認識であるgold=money です。2行目に早速、a stairway to Heaven という言葉が出てきますが、ここで言うHeaven とは勿論、キリスト教によって定義されている天国のことであり、天国へ向かう階段という言葉を聞いて僕の頭に浮かんだのは「最後の審判を受けずに天国へ行くことを手助けするインチキな手段」といったイメージでした。つまり、そのような手段を主人公の女が欲しがっていることを示唆することによって「金で何でもできる、金があればなんとでもなる」という女の根底にある強欲さ(悪)を暗喩しているのだと思います。3、4行目のフレーズも、1、2行目の表現を変えただけであり、4行目のword をmoney に置き換えれば、ここで言及されていることも「金で何でもできる、金があればなんとでもなる」であることが分かります。僕には3行目のthe stores が天国の門のことのように思え、天国の門が閉まっていても、金さえあれば門番であるペテロから鍵を手に入れることができると女は信じていると言っているように聞こえました。では、なぜに天国への階段を買おうとしている者をa lady を使って表現したのでしょうか?あくまでも推測ですが、恐らくRobert Plant の周囲に強欲を地で行く性格を持つ人物モデルのような人がいて、たまたまそれが女性であっただけのことだと思います。ここでのlady は世の女性が強欲だと言うために使われているのではなく、男女を問わない強欲(悪)の象徴であると僕は理解しました。
第2節目で歌われているのも同じことで、天国への階段を欲しがっている女がどんな女であるのかを比喩しています。1行目の壁にあるサインは恐らく、天国への道を示す標識。でも、女はその標識が本当に天国の方向を指しているのかどうかを疑っており、words have two meanings と思うのも他人の言葉を信用しないことの裏返しだと考えます。つまり、歌詞の主人公である強欲女が信じるのは金だけで、何も信じない、誰も信じないということでしょう。女は金(欲)が自分から人々を遠ざけてしまっていることに気付いていないようです。3行目のIn a tree by the brook, there’s a songbird who sings は唐突で良く分からないフレーズですね(汗)。a songbird に続く関係代名詞がwhich ではなくwho なので、songbird は人のことなのかもと考えてもみましたが、ペットの愛犬など家族同然の存在の場合や話者がその対象を愛らしい存在と思っている場合なんかは動物に対してでもwho を使うことがありますので、やはりここに出てくるsongbird は鳥なのでしょう(一般にsongbird は、その鳴き声が歌っているように聞こえる鳥のことを指します)。songbird という言葉をここで使ったことに特にこれといった意味や意図はなく、a tree、the brook、a songbird という単語を並べることで単に英国の田園風景をイメージさせようとしただけではないかと思います。この節が3つの要点の②のことであるのは間違いなさそうですね。因みにRobert Plant は、イングランドのWest Bromwich 出身で、West Bromwich 自体は大都市バーミンガムの経済圏内なので街中には都市の景観しかありませんが、郊外へ行けば典型的な田園風景が広がっています。そのあとに続くSometimesall of our thoughts are misgiven は、人を信じることのできない女に対する助言のようなものではないかと理解しました。
3節目に登場するのが、この曲の歌詞の中でa stairway to Heaven 同様、記憶に残って忘れられなくなるit makes me wonder という印象的なフレーズ。直訳すれば「そのことが私に考えさせる」ですが、日本語に置き換える場合、感覚的には「なんか気になるなー」と言う時の感じと同じかなという気がします。第4節も唐突感が否めず、何が言いたいのかその内容もいまいち良く分かりません。なぜなら、ここまで語り手が第3者の目で女と天国への階段について語っていたのに、ここにきて突然、自らの感情を剥き出しにし始めるからです。先ず、1行目のthe West ですが、これは世界の多くの地域で日の沈む西には死後の世界があると考えられているとおり、この歌詞においても死後の世界の代替語としてthe West が使われていると思われます。2行目のmy spirit is crying for leaving は、語り手の魂が死後の世界へ行きたがっていることを匂わせていて、3、4行目でその理由が語られています、rings of smoke through the trees は何のことか意味不明ですが、3つの要点の②を参考に考えた結果、僕はケルト神話に出てくるナナカマドRowanという木から出た煙ではないかと推測しました。ケルト神話ではナナカマドを燃やした時に出る煙は霊を呼び出すと言われていて、4行目のthe voices はその霊に導かれて死後の世界へ向かう故人を見つめている人々の声(stand looking は「直視することに耐える」の意味であるstand looking at と理解)、つまり、嘆き悲しむ声ではないかという気が僕にはしました。語り手は、霊に導かれて死後の世界へやすらかに向かう人の姿を、強欲女に見せたかったのかもしれません。今のままの君では天国の階段を手に入れたところで、霊に導かれるような安らかな死を迎えることはできないとでも言いたかったのかもですね(←あくまでも僕個人の勝手な見解です・汗)。
第5節は3節目の繰り返し。6節目はまたまた意味不明なフレーズの羅列です。難解ではなく意味不明なんです(笑)。1、2行目はHe who pays the piper calls the tune という諺がベースになっていることは誰の目にも明らかですね。直訳すれば「金を払うものが笛吹きに曲を指示できる」。即ち「金を出す者に決定権がある。金を出す者は口も出す」といった意味です。it’s whispered that は、that 節以降のような噂がありますよと言いたい時の用法。英国において英国人がthe piper と言った場合、普通はバグパイプ奏者のことを指しています。2行目のreason は、ここではものごとの分別、良識、道理といった意味で使われていると理解し「正しい道」という訳語にしてみました。3行目のAnd a new day will dawn for those who stand longは、この曲を理解しようとした世界中の先人の方々の間では、ルカの福音書第1章78節であるA new day will dawn on us from above because our God is loving and merciful(これは私たちの神の憐み深い御心による。また、その憐みによって、日の光が上から私たちに臨み)からの一部引用であるというのが定説になっているようです。因みに第79節にはHe will give light to those who live in the dark and in death’s shadow. He will guide us into the way of peace(暗黒と死の陰とに住む者を照らし、私たちの足を平和の道へ導くであろう)という言葉が続いていて、この第79節も歌詞に影響を与えているような気がします。僕にはこの6節目が、伝統や習慣、社会、政治システムなどに縛られて自分の思う本心を隠したり行動できなかったり、それらのことを我慢している人々に対して「自分が思うように自由にやればいい、それこそが正しい道であり、そうすれば明るい未来が開けて、あなたたちも笑顔になれる」と言っているようにしか聞こえませんでした。そのことが強欲女と天国への階段の話とどう関係しているのかは、理解不能としか言いようがありませんが、3つの要点の③の根拠はこの節にあるような気がします。
第7節はさらに意味不明です(笑)。there’s a bustle はなんだか騒がしい、騒々しいといったイメージで、hedgerow は生垣、つまり、庭に低木を連なるように植えて塀代わりにするというあれです。「あなたの生垣が騒がしい」だなんて何のことかさっぱりですが、調べてみたところ、英国の田園地帯における生垣は自分の土地と隣人の土地を分ける境界線の象徴だそうで、境界線が騒がしいというのは、隣人(他者)と揉め事のような何らかの問題が起こっているような状況を想像させます。2行目のa spring clean は、日本でいうところの大晦日にやる大掃除みたいなもので、ヨーロッパでは、冬に薪や石炭の暖房を使って煤けた部屋を春の到来と共に掃除するという習慣が昔はありました(英国では今でもこの習慣を続けている家庭も多く、特に日は決まっていませんが3~4月に行われます)。そのあとのthe May queen というのは、その年の豊穣を祈る春祭りの日(日本では労働者の日というイメージしかない5月1日が春祭りの日です)に少女の中から選ばれる豊穣の女神の代理のような存在で、選ばれた少女はサンザシの花の冠を頭にかぶります。では、If there’s a bustle in your hedgerow, don’t be alarmed now. It’s just a spring clean for the May queen とはいったい何を意味してるのでしょうか?先程も申し上げたとおりワケワカメではあるのですが(←出た!必殺オヤジギャグ!)、僕はa bustle in your hedgerow は時として人が味わうことになる人生における苦難、the May queen は明るい未来の象徴と考えてみました。つまり「人は時として苦難を味わったり問題を抱えることもあるが、そういった状況は未来へ向かう為の自分自身の整理整頓(誤った過去の清算)の為だから、心配は要らない」と言ってるのではないかと。そう考えると、3行目がYes という言葉で受けていることも納得できるのです。そのあとに続くtwo paths は誤った過去に戻るか正しい未来に進むかであり、but in the long run, there’s still time to change the road you’re on で「今ならまだ間に合う」と強欲女を諭しているように僕には聞こえました。
と第7節を無理矢理に解釈して乗り切ったかと一安心したのも束の間、8節目もまたまたワケワカメです(笑)。Your head is humming and it won’t go って「なんじゃこれ?」ですよね。僕が思うに、彼女の頭に鳴り響くブンブンという音は「天国への階段を金で買おうなんて考えはそもそも悪である」と見做すような善良な人々の怒りにも似た声であり、3行目のthe wind blow と同じものであると考えます。2行目のThe piper はこの歌詞の中ではそんな善の側の人間の象徴であり、正しい未来へ進もうという人々の思いが消えることは永遠に無いということではないでしょうか。だからこそ最後にDid you know your stairway lies on the whispering wind? と尋ねているのだと思います。天国への階段は、金で手に入るようなものではなく、正しい道を歩む(善良に生きる)ことでいつか目の前に現れるものだということなのでしょう。おぉぉー、最後はなかなかうまくまとまったじゃないかと思ったら、このあとギターのソロが終わってからのブリッジにまたまた意味不明なフレーズが…。「あー、もう勘弁してくれー」と言いたいところですが、最後までがんばってみます。1行目のwind は主語にwe を取ってますので、名詞のwind ではなく動詞のwind です(ワインドと発音する方です)。ここで主語がwe に変わりましたが、このwe は善の側にいる人間全体を指していると思われます。we wind on down the road の部分を聴いて頭に浮かんだのは、蛇のようにうねりながら道を進んでいるようなイメージでしたので、このように訳しました。2行目のshadow は悪い欲望、soul は汚れのない善良な心と理解しました。3行目に出てくるa lady we all know は、天国への階段を買おうとしている強欲女のことであり、悪の側の象徴です。4行目のwhite light は何のことなのかまったく分かりません(←もうなげやりデス)が、強欲女が再び出てきてOur shadows taller than our soul という状況に対して「ほーら、見たことか」と言ってる感じですかね。7行目のThe tune は善良な人々の声であり、皆がひとつにまとまる(ひとつになって希望に満ちた正しい未来に向かう)時、その声が最後には聞こえてくるだろうと強欲女をいさめているのだと理解しました。ここの部分も、3つの要点の③と関連しているのではないでしょうか。最後の行のrock は一枚岩、roll は船を揺さぶって転覆させようとしているような情景が頭に浮かんだのでこのような訳にしています(ロックンロールという言葉を歌詞に入れてる曲は山ほどありますが、この曲のそれは類のない表現ですね)。
ここで最後の疑問。果たして強欲女は、反省し善良な心を取り戻したのでしょうか?残念ながら、アウトロで歌われているのがAnd she’s buying a stairway to Heaven というフレーズであるとおり、そうではなさ
そうです。強欲なだけあって、やはり一筋縄ではいかない女のようですね(汗)。僕が最近見たRobert Plant の姿は2023年にテレビのインタビュー番組に出演していた時のもので、そこでStairway to Heaven の歌詞について訊かれた彼は、やはりこう答えてました。「It was a song about fate and somerhing very British almost abstract, but they were coming out of a 23 years old guy, you know・あれは運命やとても英国的な事柄の歌なんだ。まったくもって抽象的なね。だってさ、23歳の若造が作った歌詞なんだもの」そして、そのあとも「It was a great achievement to take such a monstrously dramatic musical piece and find a lyric that was ambiguous enough and a delivery which was not over pumped just it almost was like the antithesis of the music was this kind of lyric and this vocal delivery that was just about enough to get in there」ってな調子で語ってたんですが、その話しぶりから僕が感じたのは「この人は、簡単なことを小難しく言いたがる人なんだ」ということでした。日本にもそういった人はいますよね(笑)。そして、その瞬間、僕はStairway to Heaven の歌詞には取り立てて深い意味などないことを確信しました。実際、Robert Plant はStairway to Heaven の歌詞がもう自分でも何のことだか良く分からなくなっていると最近は言ってるようで、なぜそんなことになってしまうのかというと、元から歌詞には大した意味がなかったからです。
「ごく簡単なことを小難しく言いたがる若造が作った出鱈目な歌詞が、自らの思わせぶりな声と神がかったJimmy Page のギターの音色によって昇華されてしまい、聴くものに何か深い意味があるかのように思わせてしまった」これが僕のStairway to Heaven の歌詞に対する結論であり、この曲の歌詞は難解なのではなく、そもそもからして筋が通っていないだけのことではないかと思います。まあ、歌詞はともあれ、ラベルのボレロをロックで再現したようなこの斬新な曲、歴史に名を残す名曲であることに変わりはないですが…。
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