洋楽の棚③

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【第21回】Rock Me / Great White (1987)

僕がヘビーメタルと呼ばれるジャンルの曲を聴くことはほとんどないんですが、昔、それっぽいもので気に入っていた曲があるので紹介しておきたいと思います。その名はRock Me。米国のGreat White というバンドの曲です。Great White なんてバンド名、なんか白人至上主義者の集まりみたいな感じがして僕は好きでなかったんですけども、それがいつもと同じような僕の思い込みであったことを最近になってから知りました。このバンドはもともとGreat White Shark(ホオジロザメ、映画「ジョーズ」に出てくるあの人食い鮫と同じ種です)という名で活動していて、それがバンド名の由来になっているそう。確かにRock Meのシングルカットのレコード・ジャケットにも鮫のヒレが描かれていますね(笑)。この曲を作詞し、自らボーカルも担当しているのはJack Russell(ジャック・ラッセル)というカリフォルニア州生まれのアメリカ人(なかなかいい声をしてます)。実はこの人、かなりのお騒がせ野郎で、若かりし頃、知人の家からコカインを強奪しようと拳銃を持って押し入り、銃を乱射してその家で雇われていたベトナム人の女性メイドを殺害、駆け付けた警察官に逮捕されるという犯罪歴を持っています。本人の談によれば、PCP をやってから犯行に及んだらしく(PCP は超強力な幻覚作用のある化学合成麻薬で、その作用中なら人を殺していても本人は覚えていないとも言われる恐ろしい薬物)、後に行われた裁判の記録によると、トイレに逃げ込んだメイドに向かってドア越しに発砲したところ、不運にもメイドに当たってしまったとなっています。ですが、前述のとおりラッセルはPCP をやっていた為に記憶を失っていて、今も真相は不明のまま。結局、Jack は裁判で懲役8年を言い渡されましたが、恐らくその頃まだ未成年者であった彼は、麻薬中毒者向け更生プログラムの対象者となって1年も経たぬうちに出所しています。何の落ち度もない人間を一人殺してるのに、たった1年で出所ですよ。信じられませんよね(怒)。仮にこの事件の犯人が黒人で、撃たれたメイドが白人少女だったのなら、その黒人は間違いなく今も刑務所の中にいることでしょう。アメリカっていうのは、そういう出鱈目な国なんです。

しかし、こんなのはまだ序の口で、最大の悲劇は2003年に起こりました。2000年にバンドのオリジナルメンバーが全員脱退した後、ラッセルが「Jack Russell’s Great White」として一人でバンドを率いてロードアイランド州でツアーを行っていた際に会場となったナイト・クラブ「ザ・ステーション」で大火災が発生し、観客を始めとして100名もの人々が猛火に巻き込まれて亡くなったのです(10名の書き間違いじゃないです。100名です)。火災の原因は、バンドのマネージャーが演出の為に発火させた花火の火がカーテンに引火し、瞬く間に火が室内に燃え広がったことでした。このマネージャーは後に裁判で過失致死罪に問われ、懲役10年の判決を受けて刑に服しています(但し、満期を待たずに仮釈放)。火災の直接の原因がラッセルにあった訳ではなく、事件の被害者たちには、後に総額1億8千万ドルという莫大な額の損害賠償が為されているとは言え、事件後、バンドを再結成し、完全復活を果たしたジャック・ラッセルは、ほんと鉄面皮というのか、何というのか、良くわからない人ですし、それを許すアメリカの社会っていったい何なんでしょうね…。因みに彼は、2024年までミュージシャンとして現役で活動していましたが、その年に認知症を発病して急死しています。

Sweet little baby, you don’t have to go
Little baby, tell me you won’t go
We’d be so good together if we had the time
Being alone is a nowhere state of mind

なあ、行くことねえじゃないか、ベイビー
行かないって言ってくれよ、ベイビー
あの時、時間があれば、俺たちいい感じになってたのにさ
一人でいるなんて考えられねえよ

Loving ain’t no crime, oh no
I see your man ain’t here, he don’t care
The way of the night has gone and we’ll move on
Got to find a way to face another day

人を愛するってことは罪じゃねえ、そう、違うんだ
おまえの男は今ここにいねえし、奴は気にもしちゃいねえ
帰り道はもう無くなったんだぜ、前に進もうじゃねえか
明日を迎える手立てを見つけなくっちゃいけねえよ

I search the world for someone I’ll never find
Someone who ain’t the hurting kind
If you stay the night, oh yeah
We’ll make the wrong seem right

俺は決して見つからない誰かをこの世界で探してるんだ
人を傷つけない誰かをだ
おまえがこの夜を共に過ごしてくれるなら、ああ
俺たち、間違ってることでも正しく思えるようになれるさ

So come on now
Rock me, rock me, roll me through the night
Rock me, rock me, roll me through the night
Rock me, rock me, roll me through the night
We’ll burn in love tonight

さあ、今こそ
俺のハートに火を点けてくれ、夜通し俺を抱きしめてくれよな
俺のハートに火を点けてくれ、夜通し俺を抱きしめてくれよな
俺のハートに火を点けてくれ、夜通し俺を抱きしめてくれよな
二人で愛の炎を燃やすんだ、今夜な

Sweet little baby, oh don’t you go
You ain’t so innocent, I know
I know your heart’s like mine, oh yeah
And I will find the time to make you mine
And if your love goes bad, if it makes you sad
But I’ll be back for more at your door

なあ、行かないでくれ、ベイビー
おまえが初心なんかじゃねえってことは分かってる
分かってるのさ、おまえの気持ちは俺とおんなじなんだって
だから、俺はおまえをものにするんだ
たとえそれがおまえの心を駄目にしても、悲しくさせても
俺は何度でもおまえの前に現れるさ

Rock me, rock me, roll me through the night
Rock me, rock me, roll me through the night
Rock me, rock me, roll me through the night
Before the morning light, we’ll burn with love tonight
Burn with love tonight

俺のハートに火を点けてくれ、夜通し俺を抱きしめてくれよな
俺のハートに火を点けてくれ、夜通し俺を抱きしめてくれよな
俺のハートに火を点けてくれ、夜通し俺を抱きしめてくれよな
朝がやって来る前に、二人で愛の炎を燃やすんだ、今夜な
愛の炎を燃やすのさ、今夜な

And when your man don’t care, I will be there
Still be loving real good love, so baby now
Rock me, rock me, roll me through the night
Rock me, come on, rock me, roll me through the night
Rock me, rock me, roll me through the night
There’s no wrong or right we’ll burn with love
Rock me, rock me, roll me through the night
Rock me, come on, rock me, roll me through the night
Rock me, rock me, roll me through the night
There’s nothing left to do but make sweet love to you
Come on and rock me

おまえの男が気にもしねえってのなら、その時は俺がいるぜ
俺はほんとの良き愛を求めてる、だからベイビー
俺のハートに火を点けてくれ、夜通し俺を抱きしめてくれ
俺のハートに火を点けてくれ、そうさ、夜通し俺を抱きしめてくれ
俺のハートに火を点けてくれ、夜通し俺を抱きしめてくれ
正しいか間違ってるかなんて関係ねえ、俺たちは愛の炎を燃やすんだ
俺のハートに火を点けてくれ、夜通し俺を抱きしめてくれ
俺のハートに火を点けてくれ、そうさ、夜通し俺を抱きしめてくれ
俺のハートに火を点けてくれ、夜通し俺を抱きしめてくれ
おまえに甘美な愛を捧げる以外、他はないんだ
さあ、今こそ俺のハートに火を点けてくれ

*この曲には幾つかのバージョンがあり、これより長い歌詞のバージョンもありますので悪しからず。

Rock Me Lyrics as written by Jack Russell, Alan Niven
Lyrics © BMG Rights Management, Sony/ATV Music Publishing LLC, Warner Chappell Music, Inc.

【解説】
ジャック・ラッセルの人となりはともかくとして、この曲がなかなかイケていることは否定できない事実でして、場末の街角で今まさに何かが起ころうとしているかのような緊張感を感じさせるイントロが特にいいですね。歌詞の内容は、彼氏のいる女(もしくは既婚者)に惚れてしまった男の心情というクサいものですが、ラッセルの声がメロディーラインに良く合っているし、ギターとベースの音色もパワフルで聴く者を魅了します。歌詞の解説に入る前にこの曲のタイトルである「Rock Me」について少し説明をさせてもらうと、実はRock Me というタイトルの曲(もしくはそれに類似したタイトルの曲)は、洋楽界では何十曲も存在していて、古くはステッペン・ウルフが同じタイトルで歌っていますし、アバのアルバムにも同名の曲があります。それらの曲中においてRock という言葉は、様々な意味で使われているのですけども、大抵は「魂や心を揺さぶる、興奮させる」といった意味で用いられていて、今回、この曲の歌詞を和訳するにあたっては「ハートに火を点ける」という言葉に置き換えることにしました。理由は後述します。では、歌詞を見ていきましょう。

第1節で注意しないといけないのは、3行目のWe’d be so good together if we had the time。この文は仮定法過去と仮定法過去完了の組み合わせになっていますから「もしあの時~だったら、今は~なのに」という現在の事実とは異なる願望を表しています。そこから窺えるのは、男とSweet little baby の二人が恋に陥る可能性が過去にあったということ、そして、女の側の気持ちも満更ではないということです。4行目のBeing alone is a nowhere state of mind は、直訳すれば「一人でいるということは気持ちの中のどこにもない」ということですから、このように訳しています。2節目と3節目に関しては、特に難解な部分はありませんが、第3節のWe’ll make the wrong seem right は、二人の関係が禁断の関係(浮気もしくは不倫)であることを連想させ、この歌詞に出てくる相手の女が既婚者ではないかと思わせる響きがあります。第4節はRock me の連呼に入りますが、僕がこの歌詞のRock me を「ハートに火を点ける」としたのは、4行目にWe’ll burn in love というフレーズが使われていたからで、burn のイメージをそのままrock に重ね合わせました。第5節も和訳のとおり。I’ll be back は映画「ターミネーター」でお馴染みのフレーズですね。第6節も解説の必要なし。第7節のAnd when your man don’t care, I will be there は、以前にも解説したように、正しい文法ではdon’t ではなくdoesn’t で、このフレーズのここでの意味は「君が去ることを君の彼氏が気にしないのなら、彼氏の立場に僕が収まる」といった感じでしょうか。

あれっ!?今回はもう解説が終わってしまいましたよ!この曲、フルバージョンは7分以上とやたら長いんですが、歌詞自体はとってもシンプルだったんですね(笑)。

【第22回】Ride Like the Wind / Christopher Cross (1979)

前回同様、ワルい奴の歌をもう1曲。と言っても、今回は歌っているのがワルい奴ではなく、歌詞の主人公が人を10人も殺した悪人(と言うかアウトロー)という人物設定になっている曲です。歌っているのはChristopher Cross というテキサス州のサン・アントニオ(メキシコ国境まで約200キロ、人口百万人を超える大都市)出身の歌手で、この曲を歌っていた頃の彼は丸々とした肥満気味の顔に熊のような髭を生やした、どこから見ても優しそうな兄ちゃんって感じの人なんですが、Christopher も御多分に洩れずヤク中だったアーティストでして(よく見ると、ちょっと悪そうな顔ではありますが・笑)この曲の歌詞もLSDでハイになっていた時に書いたものだと自ら語っています。この曲はタイトルがRide Like the Wind なのに、題名を見ても歌詞を聴いてみても、何にride するのか具体的なことが示されていないという不思議な曲なものですから、風に乗ると勘違いしてしまう日本人も多いようですが、それだとRide Like the Wind ではなくRide the wind でなければなりません。となると、現代社会でride するものと言えば自動車などの乗り物、特にバイクや自転車といったものになりますけども、歌詞を紐解いていくと、歌詞の主人公が乗ろうとしているのはそれらの乗り物ではなく馬であることが分かってきます。なぜなら、この曲の舞台設定がアメリカ映画の西部劇に出てくるみたいな開拓時代であるとしか考えられないからです。詳しくは解説で触れますので、先ずは和訳を読まないようにしながら以下の英語の歌詞に目を通してみてください。

It is the night
My body’s weak
I’m on the run
No time to sleep
I’ve got to ride
Ride like the wind
To be free again

夜の帳が下りた
体は弱ってきてるが
逃亡を続けてる俺に
寝てる暇なんてない
そろそろ馬にでも乗んなきゃならねえかな
風のように駆けるのさ
もう一度自由になる為に

And I’ve got such a long way to go
To make it to the border of Mexico
So I’ll ride like the wind
Ride like the wind

俺にあるのは遥か彼方へと向かう長い路
メキシコ国境へと続く逃亡の旅路
だから、俺は馬に乗って風のように駆けるんだ
そう、風のように駆けるんだ

I was born the son of a lawless man
Always spoke my mind with a gun in my hand
Lived nine lives
Gunned down ten
Gonna ride like the wind

俺は無法者の子として生まれ
銃を手にいつでも自分の言い分を通してきた
この世で9回の生を受け
10人を撃ち殺しちまったから
あとは風のように駆けるつもりさ

And I’ve got such a long way to go
To make it to the border of Mexico
So I’ll ride like the wind
Ride like the wind

俺にあるのは遥か彼方へと向かう長い路
メキシコ国境へと続く逃亡の旅路
だから、俺は馬に乗って風のように駆けるんだ
そう、風のように駆けるんだ

Accused and tried and told to hang
I was nowhere in sight when the church bells rang
Never was the kind to do as I was told
Gonna ride like the wind before I get old

起訴後の裁判で俺に告げられたのは絞首刑だった
けどな、教会の鐘が鳴った時、俺の姿はどこにも無かった
俺は言われたとおりにするような柄じゃなかったのさ
歳を食っちまう前に、風のように駆けるつもりさ

It is the night
My body’s weak
I’m on the run
No time to sleep
I’ve got to ride
Ride like the wind
To be free again

夜の帳が下りた
体は弱ってきてるが
逃亡を続けてる俺に
寝てる暇なんてない
そろそろ馬にでも乗んなきゃならねえかな
風のように駆けるのさ
もう一度自由になる為に

And I’ve got such a long way to go
To make it to the border of Mexico
So I’ll ride like the wind
Ride like the wind

俺にあるのは遥か彼方へと向かう長い路
メキシコ国境へと続く逃亡の旅路
だから、俺は馬に乗って風のように駆けるんだ
そう、風のように駆けるんだ

*このあと、同じフレーズをもう一度繰り返し、アウトロでGonna ride like the wind を連呼して曲は終わります。

Ride Like The Wind Lyrics as written by Christopher C.Cross
Lyrics © Kanjian Music, Universal Music Publishing Group, Royalty Network, Warner Chappell Music, Inc.

【解説】
英語の歌詞に目を通してみて、皆さんは西部劇に出てくるような光景が目に浮かびましたか?いまいちピンとこなかったという方もおられるかも知れませんので、もう一度一緒に歌詞を見ていきましょう。第1節に英語として難しい部分はありませんね。ごく短いフレーズをテンポ良く連続させるこの曲の第1節の形式は他の曲では見たことのない大変ユニークなもので、荒野を思い浮かばせるようなピリっとしたメロディーラインと相まって曲調に緊迫感を醸し出しています。第1節からは、歌詞の主人公が(男女の明示は無いですが、男ということにしときましょう)、何かの事情で逃亡をしている最中だということは示されているものの、ここの部分だけではまだ何にride するのかは特定できませんし、To be free again の為になぜride しなくてはならないのかも良く分かりません。ですが、第2節に入ってメキシコ国境という言葉が出てくることで、逃亡中の男が目指しているのはメキシコであり、メキシコに逃れて権威、権力(警察)から追われることのない自由な生活を取り戻そうとしていることが判明します。となると、アメリカ合衆国政府は1978年にメキシコ政府との間で犯罪人引き渡し条約(extradition treaty)を締結してますので、歌詞の舞台はそれより以前の時代ということです(余談ですが、犯罪人引き渡し条約の締結により、アメリカで犯罪を犯した者がメキシコへ逃亡したところで、昔と違って現在では自由にはなれません。まあ、メキシコの警察官の多くは腐敗してますし、賄賂を使ってうまく切り抜けることはできるかもですけど)。第2節でも何にride するのかは特定できず、ここではまだ、バイクの可能性も捨てきれませんね。

しかし、第3節に入ると舞台背景に関するヒントが一気に現れます。先ず1行目のlawless man、これはoutlaw の言い換えで、2行目のAlways spoke my mind with a gun in my hand は、男が常に拳銃を携帯するような生活を送ってきたことを連想させますし、3行目のLived nine lives は、生きるか死ぬかの人生を男が日々過ごしてきたことを伺わせます。そして、それに続く4行目のGunned down ten を聞いて僕の頭に浮かんだのは、西部開拓時代に実在した強盗『ビリー・ザ・キッド』の姿でした。現在なら10人も人を殺すような人物はシリアル・キラーと呼ばれる連続殺人犯くらいでしょうが、ビリー・ザ・キッドの生きた西部開拓時代では荒くれ者同士の諍いも多く、キッドも生涯で8人(一説では21人)の男を射殺したとされています。さらに、第5節で男がGunned down ten の結果としてtold to hang、吊るし首を宣告されていることを考えあわせると(現在、アメリカで絞首刑が認められているのはワシントン州とニューハンプシャー州だけです)、この歌詞の舞台が、男たちが日常的に腰に拳銃をぶら下げ自らの身を守っていた西部開拓時代であることに疑いの余地はなく、ここに来てようやくride の対象が馬であることが分かります。なぜなら、その時代に陸上でride するものと言えば、馬か馬車以外に他は無かったからです。第6節のI was nowhere in sight when the church bells rang は、絞首刑を宣告されたものの、埋葬されるようなことになる前に逃亡したということだと思いますが、結婚式で教会の鐘が打ち鳴らされることから「拘束の多い不自由な結婚生活から逃げた」と受け取るネイティブ話者もいるようです(それは考え過ぎだろうと僕は思いますが)。いずれにせよ男は、Never was the kind to do as I was told、権威、権力には決して従わない、我が道を行く男だったのであり、男にとって一番大切なものはbe free、自由でいることだったのでしょう。その気持ち、僕には良く分かります。

さて、男はその後、疾風の如く馬を駆ってメキシコ国境にたどり着けたのでしょうか?その結末は歌詞のどこにも出てきません。この曲を聴いた人だけが、心の中でそれを決めることができるのです。

【第23回】I Don’t Like Mondays / The Boomtown Rats (1979)

ワルい奴シリーズの第3弾として(←勝手にシリーズ化・笑)、今回は実在のワルい奴が引き起こした凶悪事件をモチーフにして作られた曲を紹介します。1975年にアイルランドのダブリンで結成されたBoomtown(バンド名は歌手Woody Guthrie の自伝に出てくるギャング団の名前に由来)というバンドのI Don’t Like Mondays という曲です。この曲の主人公のモデルとなっているのはBrenda Ann Spencer(ブレンダ・アン・スペンサー)というアメリカ人女性で、1979年1月29日、月曜日の早朝、カリフォルニア州サンディエゴで、自宅の前にあった小学校に通学してきた児童たちに向けて自宅の窓から22口径の半自動ライフルを乱射し、生徒たちを守ろうとした学校職員を2名射殺するという事件を引き起こしました。その後、逮捕されて裁判を受けたBrenda は、終身刑を言い渡されて現在も服役中ですけど、逮捕された当時の彼女は16歳の女子高校生。無差別殺人の犯人が女子高生であったというその事実だけでもセンセーショナルだったのですが、何よりもこの事件が世間を騒がせることになったのは、銃撃後に自宅に立てこもっていた彼女に電話でインタビューを試みたアホな新聞記者の「なぜ犯行に及んだのか?」という質問に対して答えた台詞でした。彼女はこう答えたのです「I just don’t like Mondays. Do you like Mondays? I did this because it’s a way to cheer up the day. Nobody likes Mondays. あたし月曜日が嫌いなの。あんたは月曜日が好き?あたしがこんなことしたのは今日一日を盛り上げる為よ。月曜が好きな人なんて誰もいないもの」と。

初めてこの曲を聴いた時の僕は英語がチンプンカンプンな中学生。それでも、ピアノ鍵の連打で始まるどこかメランコリックなイントロの後に続いて響くI don’t like Mondays という声くらいは聞き取れたので、休み明けの月曜日に学校や会社に行きたくなくなる憂鬱な気分を歌っているのだと勝手に思いながらよく聴いていたのですが(汗)、随分とあとになってから、雑誌の記事を読んでこの曲のI don’t like Mondaysの意味がそうではないことを知りました。ですが、この曲はたとえ英語がよく分かる人であっても、乱射事件の背景を知らなければ、聴いただけで歌詞の意味を理解するのは難しいだろうなというのが正直なところです。

The silicon chip inside her head
Gets switched to overload
And nobody’s gonna go to school today
She’s gonna make them stay at home
And daddy doesn’t understand it
He always said she was good as gold
And he can see no reasons ‘cause there are no reasons
What reason do you need to be shown?
Oh oh oh

彼女の頭の中にあるコンピューターチップの
スイッチが入って、もう彼女はいっぱいいっぱい
今日、誰も学校に行こうとしないのは
彼女が家に閉じこもるように仕向けてるから
父親がそのことを理解できないのは
彼女がおとなしい子だっていつも思ってるから
それに、理由がないんだから、理由なんて見つかりっこない
そもそも、どんな理由を示す必要があるって言うんだい?

(Tell me why) I don’t like Mondays
(Tell me why) I don’t like Mondays
(Tell me why) I don’t like Mondays
I wanna shoot-ooh, the whole day down

あたしは月曜日が嫌いなの(どうしてだか教えてよ)
あたしは月曜日が嫌いなの(どうしてだか教えてよ)
あたしは月曜日が嫌いなの(どうしてだか教えてよ)
月曜日をまるごと撃ち落としちゃいたいの

The Telex machine is kept so clean
And it types to a waiting world
And mother feels so shocked, father’s world is rocked
And their thoughts turn to their own little girl
Sweet 16 ain’t that peachy keen
Now that ain’t so neat to admit defeat
They can see no reasons ‘cause there are no reasons
What reasons do you need?
Oh oh oh whoa whoa

テレックスの機械ってのは手入れが行き届いててね
知らせを待つ世界へと向けて印字を始める
その知らせに母親たちはショックを受け、父親たちは震えあがり
そして、彼らの思いは自分の娘へと向けられる
16歳の小娘がいい子じゃないなんて
そんなことを簡単に認める訳にはいかないってね
それに、理由がないんだから、理由なんて見つかりっこない
そもそも、どんな理由が必要だって言うんだい?

(Tell me why) I don’t like Mondays
(Tell me why) I don’t like Mondays
(Tell me why) I don’t like Mondays
I wanna shoot-ooh, the whole day down
Down, down, shoot it all down

あたしは月曜日が嫌いなの(どうしてだか教えてよ)
あたしは月曜日が嫌いなの(どうしてだか教えてよ)
あたしは月曜日が嫌いなの(どうしてだか教えてよ)
月曜日をまるごと撃ち落としちゃいたいの
落とすの、落とすのよ、すべてを撃ち落とすの

And all the playing’s stopped in the playground now
She wants to play with the toys a while
And school’s out early and soon we’ll be learning
And the lesson today is how to die
And then the bullhorn crackles and the captain tackles
With the problems of the how’s and why’s
And he can see no reasons ‘cause there are no reasons
What reason do you need to die?
Die, oh oh oh

校庭でのお遊びが今は止まってるけど
彼女はもう暫くおもちゃで遊びたがってる
早く終わっちゃった学校でそのあと学ぶことになるのは
どうやって死ぬのかっていう授業
やがて、拡声器が音を立て、指導員は取り組むことになる
どうやって、どうしてかって問題にね
でも、理由がないんだから、理由なんて見つかりっこない
そもそも、死ぬのにどんな理由が必要だって言うんだい?
死ぬってのにさ

*この後コーラスに入り、Tell me why とI don’t like Mondays の連呼で曲は終わります。

I Don’t Like Mondays Lyrics as written by Bob Geldof
Lyrics © Universal Music Publishing Group, Mute Song Limited

【解説】
アメリカの学校校内では、銃による殺傷事件がすでに19世紀の中頃から起こっていたそうですけども(大日本帝国憲法の発布より前の時代ですよ・汗)、その多くは怨恨がらみでした。無差別な銃撃による大量殺人となると、1966年にテキサス大学で起こったライフル乱射(死者15名)が最初の事件となるようです。その後もアメリカでは毎年のように同様の事件が起こり、何の落ち度もない人々の多くの命が奪われてますが、いまだ銃の規制は進んでいません。似非民主主義の国なのだから当然の結果と言えるでしょう。特定の利益享受者に選ばれた者たちが、特定の利益享受者の為に政治を行う。それが民主主義の名を勝手に使っている似非民主主義というシステムなのですから。まあ、つまらない話はこれくらいにしておいて、歌詞を見ていきましょう。

第1節には特に難しい部分はありませんが、6行目のbe good as gold の部分は注意してください。この表現は文字通り「黄金のように良いものである、価値がある」という意味で使われることも勿論あるのですけど「とてもおとなしい」とか「行儀が良い」という意味で使われることもあり、この歌詞の場合は後者です。第1節を聴いただけなら「何らかの理由で登校拒否にでもなっている少女の歌?」と思っても不思議ではないですし、続く第2節を聴いても尚「登校拒否は休み明けの月曜日が嫌いだから?」と考えてしまうかもです。4行目のI wanna shoot-ooh, the whole day down も「月曜日なんてぶっ飛ばしてやりたい」くらいにしか聞こえないかも知れませんね。第3説も英語としての難解な部分はないですが、この歌詞が書かれた背景を知らない限りは意味不明な部分が多いです。先ず1行目のTelex machine、こんな代物が家庭にある家なんてありませんね。テレックスは今のような電子メールなんて便利なものが無かった時代、主に国際通信に用いられた通信機器で、送信側が打ったタイプの文字が即座に受信側の機械に印字されるという装置でした。テレックスを日常的に使っていたのは商社や通信社で、通信料金は文字数でカウントされるだけでなく1文字当たりの料金も大変高価だったので、利用者はテレックス用に略語を作ってより短い文で相手に用件が伝わるよう工夫を凝らしていたくらいです。では、なぜここでTelex machine なんて言葉が唐突に出てくるのでしょう?僕も長らくその理由が分かりませんでしたが、この歌詞を書いたBoomtown Rats のボーカルBob Geldof(ボブ・ゲルドフ)へのインタビュー記事を見つけてようやく謎が解けました。ゲルドフの談によると、彼は乱射事件のあった日、米国のアトランタのラジオ局内で局員からインタビューを受けていて、その際に局にあったテレックスが音を立てて印字を始めたのが、サンディエゴで16歳の少女が銃を乱射して2人を殺害したというニュース速報だったそうなのです。「そんなこと知るか!」って感じですよね(笑)。つまり、5行目のSweet 16は、この16歳の少女だという訳です。同じ行のpeachy keenは、アメリカではvery good, fine, excellentといった意味で用いられます。6行目のNow that ain’t so neat to admit defeat は「自分の子供をうまく育てることができなかったことをすんなりとは認められない」であると考えてこう訳しました。第5説も難しい英語は使われていないのですが、下手くそな比喩が多くて理解に苦しみます。1行目のall the playing は少女による銃の乱射行為、2行目のtoys は銃のことではないかと僕は推測しました。5行目のthe bullhorn crackles は、恐らく、児童や近隣住民たちに向けて避難を促している、もしくは犯人に投降を呼びかけている拡声器の音でしょう。the captain は現場に駆け付けた警官か現場の責任者、学校の校長(校長は少女に撃たれて亡くなっています)あたりを指しているのではないかと考えてみたものの、僕には今もって良く分かりません。

この曲がヒットしてから5年後の1984年、ボブ・ゲルドフはエチオピアの飢餓救済を目的にバンド・エイドという活動を立ち上げDo They Know It’s Christmas?を大ヒットさせていますが、どうもこの人には他人の不幸を飯の種にするというカスゴミと同じ匂いしか感じなかったので、その頃からこの人の曲を聴くことはなくなりました。

【第24回】Sunday Bloody Sunday / U2 (1983)

前回にアイルランド出身のバンドを取り上げたので、ついでと言っては大変失礼ですが、今回もアイルランド出身のグループを紹介します。アイルランドから羽ばたいた世界的スターU2 です。僕がU2 の曲で一番好きなのはWith Or Without You なんですけど、世界中で無意味な殺し合いが止むことのない愚かな現状を憂い、今回はSunday Bloody Sunday という曲を敢えて選びました。この曲は1972年1月30日の日曜日、北アイルランドのロンドンデリーでイギリスの支配に抗議するデモ行進を行っていた市民に対してイギリス陸軍の部隊が発砲し、14名の市民が亡くなった(そのうち6名は17歳の少年でした)という「血の日曜日」と呼ばれる事件をモチーフに作られたものなんですが、歌詞が伝えようとしているメッセージは、発砲したイギリス陸軍を非難しているのでも、北アイルランドにおけるイギリスの支配を打倒する為に戦っている人々(例えばIRA といった組織)を肯定しているものでもなく、歌に込められているのは「暴力はもう止めてくれ、殺し合いはもう止めてくれ」という切なる願いだそうです(北アイルランド問題の歴史や背景、その結末については、書き始めれば長くなってしまいますので、興味を持った方は各自で勉強願います・汗)。10年以上も前の1972年に起こった事件を今更といった感のある1983年に取り上げることになったのは、この年に彼らがリリースしたWAR というアルバムと関係しているからで、このアルバムには核戦争や権力に立ち向かう労働者といった戦いをモチーフにした曲ばかりが収録されています。

I can’t believe the news today
Oh, I can’t close my eyes and make it go away

今日のニュース、信じられない
あー、目を閉じて事実から目を逸らすなんてできない

How long? How long must we sing this song?
How long? How long?
‘Cause tonight
We can be as one tonight

どれくらい、どれくらいこの歌を歌わなきゃならないんだい?
どれくらい、どれくらいだい?
だってさ、今夜
僕たちはひとつになれるんだから、今夜

Broken bottles under children’s feet
Bodies strewn across the dead end street
But I won’t heed the battle call
It puts my back up, puts my back up against the wall

子供たちの足元には砕け散った瓶が
行き止まりの通りには散乱する遺体が
でも、僕は戦いの呼びかけには耳を貸さないね
呼びかけに後押しされれば、壁に押し付けられることにもなるからね

Sunday, Bloody Sunday
Sunday, Bloody Sunday
Sunday, Bloody Sunday
Sunday, Bloody Sunday
Oh, let’s go

日曜日、血に塗れた日曜日
日曜日、血に塗れた日曜日
日曜日、血に塗れた日曜日
日曜日、血に塗れた日曜日
さあ、行こうぜ

And the battle’s just begun
There’s many lost, but tell me who has won?
The trench is dug within our hearts
And mothers, children, brothers, sisters torn apart

戦いが始まってさ
多くの命が失われたけど、教えてくれよ、いったい誰が勝利者なのさ?
みんなの心の中に溝が掘られ
母親、子供、兄弟、姉妹、みんなが引き裂かれてるだけじゃないか

Sunday, Bloody Sunday
Sunday, Bloody Sunday
日曜日、血に塗れた日曜日
日曜日、血に塗れた日曜日

How long? How long must we sing this song?
How long? How long?
‘Cause tonight
We can be as one tonight

どれくらい、どれくらいこの歌を歌わなきゃならないんだい?
どれくらい、どれくらいだい?
だってさ、今夜
僕たちはひとつになれるんだから、今夜
Sunday, Bloody Sunday (Tonight, tonight)
Sunday, Bloody Sunday (Tonight, tonight)
Come get some

日曜日、血に塗れた日曜日(今夜、今夜)
日曜日、血に塗れた日曜日(今夜、今夜)
殺っちまおうぜ

Wipe the tears from your eyes
Wipe your tears away
I’ll wipe your tears away
I’ll wipe your tears away

瞳の涙を拭いなって
涙を拭い取りなよ
僕が君の涙を拭ってあげるよ
僕が君の涙を拭ってあげるよ

Sunday, Bloody Sunday (I’ll wipe your bloodshot eyes)
Sunday, Bloody Sunday
Sunday, Bloody Sunday
Sunday, Bloody Sunday, oh
Sunday, Bloody Sunday
Sunday, Bloody Sunday, oh
Yeah, let’s go

日曜日、血に塗れた日曜日(血走ったその目を僕が拭ってあげるよ)
日曜日、血に塗れた日曜日
日曜日、血に塗れた日曜日
日曜日、血に塗れた日曜日
日曜日、血に塗れた日曜日
日曜日、血に塗れた日曜日
そうさ、行こうぜ

And it’s true we are immune
When fact is fiction and TV reality
And today the millions cry (Sunday, Bloody Sunday)
We eat and drink while tomorrow they die (Sunday, Bloody Sunday)
The real battle just begun (Sunday, Bloody Sunday)
To claim the victory Jesus won (Sunday, Bloody Sunday) on

僕たちが慣れっこになってるのは事実さ
真実が作り話にされて、テレビの方がほんとのことを言ってるんだなんてことにね
何百万もの人々が今日も涙に暮れてる
そんな人たちが明日は死ぬかもなのに、僕たちは飲んで食っての平穏暮らし
今こそ本当の戦いが始まったのさ
イエス様が勝利したことを世界に知らせる為にね

*この後コーラスでSunday, Bloody Sunday を連呼して曲は終了。

Sunday Bloody Sunday Lyrics as written by Adam Clayton, Paul David Hewson
Lyrics © Universal Music Publishing Group

【解説】
この曲の歌詞はU2 のギター担当David Howell Evans(エッジEdge の名で知られている人物で、ダブリン育ちですが、英国生まれのイギリス人)が書いたとされているようですが、クレジットにその名は無く、Edge が綴った詩をPaul David Hewson(この聞き慣れない名前こそ、U2 のボーカルであるBono の本名)が書き直し、さらにベース担当のAdam Clayton(彼もダブリン育ちですが、英国生まれのイギリス人)が意見を加えて最終的な形になったというのが真相のようです。軍楽隊が打ち鳴らす太鼓のような勇ましいドラムの音色とどこか陰鬱なBono の叫び声が交錯するイントロの後に続く第1節はシンプルな2行の歌詞のみで構成されており、イントロの響きと相まって何か悲劇が起こったことを聴く者に感じさせます。第2節はこの曲が意味のない暴力、殺し合いを非難するものであることが前提となっていて、第1節で明かされた悲惨なニュースに対して、この世のすべての人間は皆、仲良くできるはずなのに、いつまでこの歌を歌わなければならないのかと悲しみをぶつけています。

第3節も難解な部分は見当たらず、前半の2行では72年の血の日曜日事件の状況が淡々と語られていますが、後半の2行では、暴力には迎合しない、自分が暴力を用いれば、暴力によって自分が抑えつけられることにもなるという反暴力の強い意思が表明されています。にも拘らず、第4節では人々がSunday, Bloody Sunday と怒りを露わにする中、Oh, let’s go という言葉に乗ってしまい、主人公は暴力の現場へと足を運んでしまいます。そして、そんな暴力の嵐の中に飛び込んでしまった主人公を待ち受けていたのが何であったのかが描かれているのが第5節です。trench は塹壕のことで、暴力の場を戦場と見立ててその言葉が使われていると考えましたので、和訳では単に「溝」という言葉を当てはめました。mothers, children, brothers, sisters torn apart は、聖書のマタイの福音書第10章35節「For I have come to turn‘a man against his father, a daughter against her mother, a daughter-in-law against her mother-in-law(わたしがきたのは、人をその父と、娘をその母と、嫁をそのしゅうとめと仲たがいさせるためである)」からの引用だと考えられています。6、7節目は解説不要。8節目のCome get some は「イギリス兵やイギリスの警官の一人や二人、殺ってしまえ」にしか僕には聞こえませんでしたので、このように訳しました。懲りずにまた暴力に誘われているという訳ですが、結果は同じことになったようで、第9節がそれを暗示しています。ここの節でも、聖書のヨハネの黙示録第21章4節「And God shall wipe away all tears from their eyes(人の目から涙をまったくぬぐいとって下さる)」の言葉が引用されています。にも拘らず、10節目で再びYeah, let’s go という言葉が入れられているのは、終わりない暴力に繰り返し迎合してしまう者たちに対する皮肉と警鐘ではないでしょうか。

第11節ではまとめに入っていて、1行目のwe are immune は直訳すれば「免疫がある」ですので、このように訳しました。2行目のfact is fiction and TV reality は、日本でも同じですが、事実を捻じ曲げるカスゴミに対する揶揄であると考えます。4行目のWe eat and drink while tomorrow they die もまた、聖書のコリント人への第一の手紙第15章32節「Let us eat and drink, for tomorrow we die(わたしたちは飲み食いしようではないか。あすもわからぬいのちなのだ)」の引用ですが、かなり解釈が変えられています。そして最後に「イエス・キリストの博愛精神(イエスの勝利)を世界に伝えることが本当の戦いだ」という言葉で歌詞は終わりますが、イスラム教徒なんかは「そんなの絶対認められない。この世で勝利を与えることができるのはアッラーのみだ」と反論すること間違いなしです。キリスト教という観点からでしか物事を見ることのできないこの偏狭な思考回路は、Bono という人が持つ思想の限界点を表しているとも言えるでしょう(因みにBono は幼い頃より敬虔なキリスト教徒であり、U2 の初期の曲も宗教染みた歌詞が多いです。なので、この曲の歌詞に聖書からの引用が多いのは決して偶然ではありません)。まあ、最後のあたりのフレーズは、なんだかモニョモニョと濁しているようにしか聞こえませんが。

僕にはこのBono という人物もBob Geldof と同じ匂いしか感じないので、この人のことは好きじゃないし、この人の思想なんてどうでもいいんですけど、U2 というバンドが生み出してきた音楽が、紛れもなく超一流のものであるということだけは認めない訳にはいきません。

【第25回】Roxanne / The Police (1978)

アイルランドのミュージシャンを続けて紹介したので、今日はそのお隣の国の大御所の曲もついでに(おっと、またまた失礼・笑)紹介しておきましょう。Police のデビュー・アルバムOutlandos d’Amour に収録されていたRoxanne(ロクサーヌ)という曲です。ロクサーヌというのは女性の名前で、この曲はPoliceがまだ無名時代の1977年にライブ演奏をする為パリを訪れた際、宿泊先のホテル周辺の路上にたむろして客を引いていた娼婦の姿にボーカルのSting がインスパイアーされて作詞作曲したと伝えられています。僕はロンドンのソーホーあたりの売春宿(赤線)で働く娼婦の話だと勝手に決めつけていたのですが、確かに英語圏でRoxanne という名前を持つ女性がいないという訳ではないものの、この名はどちらかと言えばフランスで使われる名前ですね。名前と言えば、このバンドの名前The Police もおかしな名前で、どうして「警察」なんていうくだらないバンド名にしたのだろうと思って以前に調べてみたことがあるんですが、その由来が何なのかについては二つの説があって、ひとつは、ロンドンの通りを歩いていたSting が、通りに停まっていたパトカーにふと目を向けた際、車体に大きく描かれていたPOLICE の文字のインパクトの強さに衝撃を受けてバンド名にしたというもの。もうひとつは、ドラム担当のStewart Copeland が、バンドを結成しようとしていた当時、新たなトレンドとして現れたパンク・ムーブメントと国家権力、即ち警察との間に次々と摩擦が生じ始めていた状況(パンクの魂が反権力、反体制なのだから当然なのですが)を逆手に取って自分たちの側の名にしたというものでした。因みにStewart Copeland はイギリス人ではなく、アメリカのバージニア州生まれのアメリカ人。父親がCIA の要職に就いていたことから(つまりは、中央情報局のエージェントです)幼少期を父親の赴任先であったカイロやベイルートなどの中東で過ごしたというユニークな経歴の持ち主でもあります。あくまでも、CIA の局員であったのは彼の父親であって彼自身ではないのでお間違えないように(笑)。

Roxanne
You don’t have to put on the red light
Those days are over
You don’t have to sell your body to the night
Roxanne
You don’t have to wear that dress tonight
Walk the streets for money
You don’t care if it’s wrong or if it’s right

ロクサーヌ
赤いランプを灯さなくったっていいんだ
そんな日々はもう終りさ
夜になっても体なんか売らなくっていいんだ
ロクサーヌ
今夜はあんな服に身を包まなくてもいいのさ
金の為に通りをうろつくことが
いいか悪いかなんてことを君は気にもしてないけどさ

Roxanne
You don’t have to put on the red light
Roxanne
You don’t have to put on the red light

ロクサーヌ
赤いランプを灯さなくったっていいんだ
ロクサーヌ
もう赤いランプを灯さなくったっていいんだ

(Roxanne) Put on the red light
(Roxanne) Put on the red light
(Roxanne) Put on the red light
(Roxanne) Put on the red light
(Roxanne) Put on the red light, oh

なのに、ロクサーヌは赤いランプを灯してた
ロクサーヌは赤いランプを灯してた
ロクサーヌは赤いランプを灯してた
ロクサーヌは赤いランプを灯してた
ロクサーヌは赤いランプを灯してた、あぁー

I loved you since I knew you
I wouldn’t talk down to ya
I have to tell you just how I feel
I won’t share you with another boy
I know my mind is made up
So put away your makeup
Told you once, I won’t tell you again
It’s a bad way

君と出会って以来、僕は君の虜なんだから
気持ちを抑えることなんてないよ
僕の気持ちを正直に伝えないとね
他の男の好きにはさせないってことをさ
その気持ちがもう変わらないことは自分でも分かってるよ
だから化粧を落としなよ
一度口にしたことを、僕は何度も言わない
それって良くないことだもの

Roxanne
You don’t have to put on the red light
Roxanne
You don’t have to put on the red light

ロクサーヌ
赤いランプを灯さなくったっていいんだ
ロクサーヌ
もう赤いランプを灯さなくったっていいんだ

*この後、アウトロでRoxanne, You don’t have to put on the red light, Roxanne, Put on the red light を連呼して曲は終りとなります。

【解説】
ご存知の方も多いかと思いますが、Police の司令塔であったSting(本名Gordon Sumner)は苦学の末に教育大学に通って教員資格を取り、小学校で2年間、国語と美術を教えていたという経験を持つ人物です。ポリスのヒット曲にDon’t Stand So Close to Me というのがありますけども、あの曲には先生を誘惑する女子高生が登場するので、Sting の教師時代の実体験に基づいて書かれた歌詞であると勘違いしてしまう人が多いのですが(僕もそうでした・汗)、前述のとおりSting が勤務していたのは小学校で、本人も歌詞は学校で働いていた時の体験によるものではなく、有名ミュージシャンのもとに集まってくるグルーピーの少女たちの姿にインスパイアーされたと語っています。Sting が教えていた国語というのは、伝えたいことを明確に正確に伝える技術を教える科目であり、そのせいかどうかは分かりませんが、概して彼の書く歌詞は分かり易く綴られていて、この曲の歌詞もそれに違わぬものとなっています。なので、中学校の英語教材なんかにお薦めなのですけども、教育委員会や現場の先生方が許さないでしょうね。なんたってこの曲、英国の国営放送(BBC)で当時は放送禁止になってましたから(笑)。

このRoxanne という曲の歌詞も、第1節からして簡便な言葉で語られていて、中学生でも訳すのにそれほどの苦労はないと思います。但しYou don’t have to put on the red light の部分は日本語に訳すことはできても、中学生だとその意味を理解することは恐らくできないのではないかと思います。というのも、実はヨーロッパでは、ドイツやオランダ、イギリスなど多くの国で売春が合法化されていて(合法化されているのは、国の許可を得ている施設でのみ行える管理売春と呼ばれるものだけですが)、売春業の許可を受けている大抵の施設には、店の入口に赤のライトが取り付けてあります。なぜなら、そのライトのオン、オフで営業中かどうかを示すようになっているからで、それこそがこの歌詞に出てくるred light の正体なのです。従って、6行目のthat dress も普通の服ではなく、娼婦が男の興奮を煽る為に着ているセクシー衣装を意味しています。てなこと、中学校の英語の授業では教えられませんよね(笑)。2節目は解説の必要なしですが、3節目はちょっと戸惑うかも知れません。前節でYou don’t have to put on the red light と言っているのに、どうしてここではPut on the red light なんて逆のことを言ってるのかと。そして、多くの人はYou don’t have to が省略されているんだなという結論で落ち着くようなのですが、僕はここのPut は命令形として使われているのでもYou don’t have to が省略されているのでもなく、過去形のPut として使われていると考えます。You don’t have to put on the red light と諭したにも拘らず、ロクサーヌはその夜も赤いライトを灯していたという訳です。そして、そのことを知った主人公は、再びロクサーヌのもとへ向かい、最後の説得を試みます。それが第4節で述べられていることなのだと考えると辻褄が合いますね。第4説も難しい部分はなく和訳のとおり。強いて言えば、4行目のI won’t share you with another boy は、直訳だと「他の男と君をシェアしたくない」ですが、その理由は言わずもがなでしょう(汗)。

残念ながらポリスは早くに解散してしまいましたけども、3人のメンバーは今も健在。とは言え、時代はあっという間に過ぎていくもので、Sting とStewart Copeland も既に70歳を超え、Andy Summers に至っては80歳を超えています。「3人とも存命ならPolice の再結成はまだ可能だ」なんてことは言わないでくださいよ。そんなよぼよぼ爺さんの集まりなど見たくもないです(笑)。

【第26回】Money for Nothing / Dire Straits (1985)

ポリスのスティングつながりでもう一曲、イギリス発で大ヒットした面白い曲を紹介しておきましょう。1975年にMark Knopfler(マーク・ノップラー)によってロンドンで結成されたDire Straits が1985年にリリースしたMoney for Nothing という曲です。Knopfler なんて苗字、大変珍しいものですが、これはMark の父親が第二次世界大戦中にナチスの迫害から逃れてイギリスへやって来たハンガリー系ユダヤ人だったからだそうです。因みにDire Straits の名は、メジャーデビューする前、生活の為の稼ぎの大部分を注ぎ込むまでして音楽活動を続けているせいで経済的に困窮状態にあったバンドのメンバーたちのことを友人が揶揄ったことに由来しているらしく(be in dire straits で、経済的に大変困窮するという意味です。direはterrible と同意、strait は単数なら海峡の意味ですが、複数で使うと困窮の意味にもなります)、このDire Straits という名に変えるまではCafé Racers というダサいバンド名で活動していました(笑)。

I want my, I want my MTV
I want my, I want my MTV
I want my, I want my MTV
I want my, I want my MTV

欲しいね、自分専用のMTVが欲しい
欲しいね、自分専用のMTVが欲しい
欲しいね、自分専用のMTVが欲しい
欲しいね、自分専用のMTVが欲しい

Now look at them yo-yos, that’s the way you do it
You play the guitar on the MTV
That ain’t working, that’s the way you do it
Money for nothing and your chicks for free
Now that ain’t working, that’s the way you do it
Lemme tell ya, them guys ain’t dumb
Maybe get a blister on your little finger
Maybe get a blister on your thumb

頭が空っぽのあの連中を見て見なよ。あのやり方をさ
MTVに出てギターを弾くのさ
そんなの仕事って呼べるもんじゃねえけど、それがそのやり方さ
ただで金と女どもを手に入れるな
そうさ、そんなの仕事って呼べるもんじゃねえけど、それがそのやり方さ
ただ、言っとくけどな、奴らは能なしって訳じゃねえ
小指にマメくらいはできてんだろうし
親指だって同じだろうね

We got to install microwave ovens
Custom kitchen deliveries
We got to move these refrigerators
We got to move these colour TVs

俺たちは電子レンジの据え付けもやるし
オーダーメードのキッチンを運んだりもする
この冷蔵庫は移動させて
こっちのカラーテレビも動かしてってな感じでな

See the little faggot with the earring and the makeup?
Yeah buddy, that’s his own hair
That little faggot got his own jet airplane
That little faggot, he’s a millionaire

イヤリングして化粧顔のあの小柄なオカマ野郎を見て見なよ
まじ、あの髪って本物なんだぜ
あのオカマ野郎はプライベート・ジェットだって持ってるし
なんたって億万長者さ

We got to install microwave ovens
Custom kitchen deliveries
We got to move these refrigerators
We got to move these colour TVs
Hoover mover, uh

俺たちは電子レンジの据え付けもやるし
オーダーメードのキッチンを運んだりもする
この冷蔵庫は移動させて
こっちのカラーテレビも動かしてってな感じでな
掃除機かけて、さあ、作業だ

Got to install microwave ovens
Custom kitchen deliveries
He’s gotta move these refrigerators
Got to move these colour TVs
Looky here, look out

電子レンジの据え付けもやるし
オーダーメードのキッチンを運んだりもする
この冷蔵庫は移動させて
こっちのカラーテレビも動かしてってな感じでな
左右よし、前後ろよしってやってんだ

I should a learned to play the guitar
I should a learned to play them drums
Look at that mama, she got it sticking in the camera
Man, we could have some
And he’s up there, what’s that? Hawaiian noises?
He’s banging on the bongos like a chimpanzee
Oh, that ain’t working, that’s the way you do it
Get your money for nothing, get your chicks for free

俺もギターを習っておくんだったな
ドラムだって習っておくべきだった
あの娘を見て見なよ、カメラの前で張り付いてたよな
あぁー、俺たちもおこぼれに預かりたいもんだぜ
おっ、今度は奴のお出ましだ、なんだ、あれ?ハワイの音楽かよ?
チンパンジーみたいにボンゴを叩いてやがる
そんなの仕事って呼べるもんじゃねえけど、それがそのやり方さ
ただで金と女どもを手に入れるな

We got to install microwave ovens
Custom kitchen deliveries
We got to move these refrigerators
We got to move these colour TVs

電子レンジの据え付けもやるし
オーダーメードのキッチンを運んだりもする
この冷蔵庫は移動させて
こっちのカラーテレビも動かしてってな感じでな

Listen here
Now that ain’t working, that’s the way you do it
You play the guitar on the MTV
That ain’t working, that’s the way you do it
Money for nothing, and your chicks for free

なあ、聞いてくれ
あんなの仕事って呼べるもんじゃねえけど、それがそのやり方さ
MTVに出てギターを弾くってことがな
そんなの仕事って呼べるもんじゃねえけど、それがそのやり方さ
ただで金と女どもを手に入れるな

*この後のRefrain はMoney for nothing, chicks for free と同種のフレーズの繰り返しでやたら長いので省略します。ギターのソロも長く(Mark Knopfler のギター演奏はめちゃくちゃ上手いですが)フルバージョンを最後まで聴くと8分超えとなります(汗)。

Money For Nothing Lyrics as written by Gordon Sumner, Mark Knopfler
Lyrics © Universal Music Publishing Group

【解説】
1981年8月、その後の音楽業界の流れを劇的に変えてしまうひとつの試みがアメリカのニューヨークのケーブル・テレビのチャンネルで開始されました。毎日24時間、ミュージシャンのビデオクリップを流し続けるというMTV(Music Television)時代の幕開けです。今回取り上げたMoney for nothing がリリースされた1985年頃は、そのMTV が全盛期に入り始めた時代であったことを先ず頭に入れておいてください。では、歌詞を見ていきましょう。この曲はI want my, I want my MTV の連呼で始まりますが、実はこのイントロの声の主、ポリスのスティングなんです。冒頭でスティングつながりと書いた理由がここにあります。8分超えのフルバージョンだと、このイントロ部分がやたらと長く「もういいって!」てな感じの間延び間があって僕は好きではありません。I want my MTV と1回だけ最初にスティングの声が入り、それに続いてパンチの効いたドラムの連打音が響いたあとMark Knopflerのノリノリのギターサウンドが炸裂する4分台に短縮されたバージョンのイントロが一番いいですね。

この曲の歌詞の内容はなかなかの難易度で、第1節(イントロ)のあとの次の節からいきなり意味不明なフレーズが連なっています。先ず1行目のyo-yo、これは玩具のヨーヨーのことですが、人に対して使われる際は「人に操られるバカ」そこから転じて「愚かな人」といった意味で用いられます。つまり、1行目から4行目の歌詞で表されているのは「MTV に出てくるアホそうな連中を見て見ろ、奴らはギターを弾いてるだけで、金も女も簡単に手に入れてる(chicks は本来、ひな鳥やひよこの意味ですが、日本語でも若い女性を子猫ちゃんと言ったりするのと同じですね)」という主人公の男がMTV に出てくるロックスターに対して持つに至った羨望の思いです。とは言え、ギターを弾いてるだけなんてthat ain’t working と蔑んではみるものの、その一方では単なるアホではできないことも理解しているようで、それが6行目のLemme tell ya から始まるフレーズです、指にマメができるくらいの練習くらいはしたんだろうから、その結果としてMTV にも出演できるようになったのだということくらいは認めてやろうってな感じでしょうか。Lemme tell ya はLet me tell you の口語での発音をそのまま綴りにしているもので、この発音からしても、男がさほど学の無い労働者階級の人間であることが推察できます。

次の第3節も一見何のことなのかさっぱりですが、男の仕事について語られていると考えれば納得がいきますね。その仕事が引越し業なのか家電取付業なのか何なのかは分かりませんが、歌詞を聴く限りでは、肉体労働であることは確かで、だからこそ男は、ギターを弾いてるだけなんてthat ain’t workingと馬鹿にしているのではないでしょうか。第4節では再びMTVに出てくるミュージシャンへの言及に戻り、See the little faggot with the earring and the makeup?とまたまた蔑みモードに入るものの、結局ここでもThat little faggot got his own jet airplane, That little faggot, he’s a millionaire と現実を認めています。ここではfaggot(オカマ野郎)という言葉が登場しますが、決して唐突に出てきたのではなく、MTV 全盛時代に入ると、映像というその特性からビジュアルが重視されるようになり、見る者にインパクトを与えようと化粧や奇抜なファッションを用いるミュージシャンが増加していたからで(ヴィサージやカルチャークラブ、デュラン・デュランなどがその典型例でしょう)、この男にとってはそんな彼らがオカマ野郎(あくまでも見た目)にしか映らなかったということではないかと思います。5節目は第3節のフレーズの繰り返しですが、最後にHoover mover, uh という言葉が付け加えられています。このHoover はイギリスの有名掃除機メーカーの社名で(今で言えばダイソンみたいなもんですかね)、かつてのイギリスでは、電気掃除機と言えばHoover であった為、Hoover という名詞自体が動詞化して「掃除機をかける」という意味でも使われるようになったと辞書には書いてあります(僕自身は、掃除をするの意味でHoover を使う人なんて見たことはないですが・笑)。第6節にも同じフレーズにLooky here, look out という言葉が加えられてますが、Looky はlook の口語表現でLooky here, look out は、日本の現場作業員が作業の前に口にする「左右よし、前後ろよし」ってな感じです。

第7節も難解フレーズのオンパレード。最初の2行のI should a learned は文法的に考えればどう見てもおかしな構文です。learned が名詞化することはありませんし、should の後に名詞が来ることもないですから。ここに当てはまるのはI should have learned 以外には無く、should have をshoulda と口語で発音するネイティブ話者もいることから、第3節のLemme tell ya と同様に発音をそのまま綴っているものと考えるのが自然です。3行目のshe got it sticking in the camera も難解で、この部分を聴いて僕の頭に浮かんだのは、MTV の局のスタジオ内でロックスターが演奏する小さな舞台の前でグルーピーの娘たちが食い入るような目でスターを見つめている姿をカメラが背後から映し出しているような光景であったので、このように訳しました。そんなに女が群がってるのだから、we could have some 一人や二人くらい分けてくれよという訳です。4行目のHawaiian noises も良く分からない表現ですが、男は自分には理解できないものの代名詞としてHawaiian を使っているのではないかと推測します(It’s all greek to me といった表現と同じ根でしょうかね)。なので、Hawaiian noises は「訳の分からん曲を演奏しやがって」みたいな意味で使っているのではと考えてこう訳しました。勿論、ハワイの住民にとっては気分の悪い表現なので、ハワイのラジオ局ではこの曲を放送禁止にしている局もあるようです(←真偽は定かではありません)。He’s banging on the bongos like a chimpanzee も同じで、MTV に出てくるロックスターの演奏を揶揄っているのですが、結局はここでもまたthat ain’t working, that’s the way you do it. Get your money for nothing, get your chicks for free という同じ結論に達しています。つまり、なんやかんや言っても男は、金と女を簡単に手に入れているMTV のロックスターのことが羨ましくて仕方ないのです(笑)。

この曲の歌詞内容は低レベルなミュージシャンを大量生産するMTV への批判のようにも聞こえると言う批評家は多いですけども、この曲のビデオ・クリップをMTV が流しまくったことが曲の大ヒットにつながったというのは皮肉な話です。そして、時代は変わり、一世風靡したそんなMTV も、スマホなどを使って24時間いつでも好きな時に好きな曲に接することができるようになった今ではすっかりと下火になってしまいました。まさしく「邯鄲の夢」ってやつですね。

【第27回】Can’t Stop This Thing We Started / Bryan Adams (1991)

イギリスの次はカナダへ飛んでみましょう。本日紹介するのは、カナダはオンタリオ州のキングストン(カナダ軍の大きな基地があります)出身のBryan Adams の曲です。僕の中での彼の若かりし頃のイメージは「いつもジーンズに白のTシャツ姿のアメリカの元気な兄ちゃん」でしたが、アメリカ人ではなくカナダ人だったんですよね(汗)。余談ですが、つい先日、ネットでBryan の現在の姿を目にしてしまった時、彼がいい年のおっさんになっていてびっくりしてしまいました。どのアーティストもそうなのですが、僕の中では、僕がその曲を良く聴いていた頃の彼らの姿のままで時が止まってしまっていますから、現在の姿なんて見るもんじゃないとつくづく思った限りです。Bryan Adams は1980年代初頭からヒット曲を連発していますので、この曲はだいぶ後の時代のものなんですけど、個人的には90年代に入ってからの曲の方がそれ以前の彼の数々のヒット曲よりも僕は好きです。Bryan Adams の曲はロックじゃないという評論もありますが、この曲を聴けばそれが間違っていることが分かります。彼は充分にロックしてますよ。歌詞はクサいですが(笑)。

Yeah…
Baby, I’m coming to get you

よし
ベイビー、君を奪いに行くぜ

You might stop a hurricane
Might even stop the drivin’ rain
You might have a dozen other guys
But if you wanna stop me, baby, don’t even try
I’m going one way
Your way
Now it’s such a strong way
Let’s make it our way
Now baby

君はハリケーンを止められるかもしれないし
土砂降りの雨も止められるかもしれない
付き合う男だって1ダースはいるかもしれない
けど、俺を止めたいと思ってるんならよしときなよ
俺はただひとつの道を進んでるんだ
君と同じ道をだ
今やその道はびくともしないんだ
俺たちで共に道を切り開くんだ
今この時に

Can’t stop this thing we started
You gotta know it’s right
I can’t stop this course we’ve plotted, yeah
This thing called love we got it
No place for the brokenhearted
I can’t stop this thing we started, no way
I’m goin’ your way, yeah

俺たちが始めたことはもう止められない
それが正しかったって思わなきゃいけないよ
二人で描いた道を止めることなんて俺にはできない
俺たちが得たもの、それが愛ってやつさ
恋に破れた者に居場所なんてない
俺たちが始めたことはもう止められない、そうさ
俺は君と同じ道を進んでるんだ

You might stop the world spinning around
Might even walk on holy ground
I ain’t Superman and I can’t fly
But if you wanna stop me baby, don’t even try
I’m going one way
Your way
Oh, it’s such a strong way
Let’s make it our way
Now baby…

君は地球が回るのを止められるかもしれない
聖域を侵しさえするかもしれない
俺はスーパーマンじゃないし、飛ぶこともできないよ
けど、俺を止めたいと思ってるんならよしときなよ
俺はただひとつの道を進んでるんだ
君と同じ道をだ
今やその道はびくともしないんだ
俺たちで共に道を切り開くんだ
今この時に

Can’t stop this thing we started
You gotta know it’s right
I can’t stop this course we’ve plotted, yeah
This thing called love we got it
No place for the brokenhearted
Can’t stop this thing we started, no way
I’m goin’ your way
That’s where I’m goin’

俺たちが始めたことはもう止められない
それが正しかったって思わなきゃいけないよ
二人で描いた道を止めることなんて俺にはできない
俺たちが手にしたもの、それが愛ってやつさ
恋に破れた者に居場所なんてない
俺たちが始めたことはもう止められない、そうさ
俺は君と同じ道を進んでるんだ
それが俺の向かう先なのさ

Oh, why take it slow
I gotta know
Hey, ‘cause nothing can stop
This thing that we got, yeah

あー、何ぐずぐずしてんだってな
思わなきゃな
だって、止められるものは何もないんだから
二人が手に入したものをさ

Oh yeah
I can’t stop this thing we started
Yeah, you gotta know it’s right
Can’t stop this course we’ve plotted, ohh yeah
This thing called love we got it
Ain’t no place for the brokenhearted
I can’t stop it
I can’t stop it

俺たちが始めたことはもう止められない
それが正しかったって思わなきゃいけないよ
二人で描いた道を止めることなんて俺にはできない
俺たちが手にしたもの、それが愛ってやつさ
恋に破れた者に居場所なんてない
俺には止められないのさ
俺にはさ

*この後、同じフレーズが繰り返され。Can’t stop it を連呼して曲は終わります。

Can’t Stop This Thing We Started Lyrics as written by Robert John Lange, Bryan Adams
Lyrics © Universal Music Publishing Group

【解説】
ギターとドラムが織り成すパンチのあるイントロの後、その容姿には似つかわぬBryan のダミ声が炸裂するこの曲、メロディーラインは素晴らしいのですが、タイトルのCan’t Stop This Thing We Started ってのがイケてません。長過ぎますね(笑)。直訳すれば「僕たちが始めたことは止められない」ですが、歌詞を読み解いていくと、それが「恋をすればもう止まらないcan’t stop loving」の意味で使われていることが分かりますので、そのクサい歌詞をゆっくり見ていきましょう。

第1節のI’m coming to get you は、直訳だと「君を迎えに行こうとしているところだ」ですが、この言葉に続く歌詞全体の流れからこの訳としました。第2節の1行目から3行目では「洋楽あるある」の大袈裟フレーズが続いていますが、この3行から僕が受けたのは、男が恋する相手の女性が自分の思うことは自分の思うとおりに何でもやってのけるような女性であり、男にもモテモテの女性であるという印象です。5行目以降はやや難解で、I’m going one way, Your way は、I’m going, one way, your way と考えれば理解し易いでしょう。I’m going your way という言葉をネイティブ話者が口に出すのは、例えば、街中で出会った友人がたまたま同じ方向を目指しているのが分かった時などで、その意味は「僕も同じ(方向)だよ」となります。つまり、ここで語られているのは、恋する相手の女と共に同じ道を進んで行くという男の決意です。way で韻を踏む為にこういう歌詞にしたのでしょうが「なんだかなぁー」って感じですね。第3節のCan’t stop this thing we started は前述のとおりで、2行目のI can’t stop this course we’ve plotted, yeah からは、男と女の二人が既に自分たちの将来を思い描いている姿が目に浮かびます。This thing called love we got it も和訳のとおりで、日本語では恋と愛にはある程度の区別がありますが、英語ではどちらもlove なので、love という言葉の入っている歌詞は、常にそれが恋なのか愛なのかに注意を払いながら訳すことが重要です。5行目のNo place for the brokenhearted は「この恋に破れれば行き場はない」即ち、それくらいの覚悟でもってこの恋をしているという男の強い意思だと思いました。4節目も再び大袈裟フレーズが続きますが、この節が言わんとしているのは、思うことは自分の思うとおりに何でもやってのけるような女に対して、自分はそんな風にはできないけど、君を愛するということにおいてだけは、絶対にやってのけるという男の熱意でしょう。5節目以降はほとんどが同じフレーズの繰り返しで、内容は和訳のとおり。つまりこの曲は、恐らくは奔放な性格なのであろう女性に恋をした(そして、付き合ってもいる)男の一途な気持ちを歌っていると言えそうです。

では最後に、ブライアンにまつわるエピソードを紹介して話を締め括りましょう。彼の父親は元イギリス陸軍の将校で(サンドハースト王立陸軍士官学校を卒業したエリート軍人でした。つまりは上流階級の人です)、退役後にカナダへ移住してカナダ軍に勤務(ブライアンがキングストン生まれなのはそれが故)、最終的にはカナダの外務省に入省して外交官になったという変わった経歴の持ち主でして、父親の赴任先の関係でブライアンは少年期をポルトガルやイスラエルといった国々で過ごしています(ブライアンの成人後、父親は日本のカナダ大使館でも勤務していました)。父親が定期的に転勤する為、ブライアンにはこれといった親友ができず、少年期はネクラな性格だったようですが(←真偽不明)、その半面、いろいろなことを体験する機会には恵まれていて、彼が人生で初めて目にしたライブ・パフォーマンスが、父親の休暇で訪れたスペインで9歳の時に見たフラメンコであったというのは興味深いところ。ポリスのスチュワート・コープランドもそうでしたが、若いうちに様々な世界を見ておくことが芸術を生み出す力のひとつになることは間違いはなさそうですね。

【第28回】First We Take Manhattan / Jennifer Warnes (1986)

カナダつながりでもう1曲。Bryan Adams 以外のカナダ出身のアーティストで僕の頭に浮かぶ人と言えば、Neil Young、Joni Mitchell、Leonard Cohen くらいですが、今回紹介するのはその中のLeonard Cohenの曲です。と言っても、この曲を歌っているJennifer Warnesはカナダ人ではなくアメリカ人なんですが(汗)。「Jennifer Warnes?誰ですかそれ?」って思った人は、リチャード・ギアが主演した映画「愛と青春の旅立ち」を思い出してみてください。あの映画の主題歌をJoe Cocker とデュエットしていたのが彼女です。Leonard Cohen はシンガーソングライターである以前に本業が詩人という人だけあって(10冊以上の詩集を出版しています)、その歌詞は非常に難解。さてさて、うまく和訳できるでしょうか…。

They sentenced me to twenty years of boredom
For trying to change the system from within
I’m coming now, I’m coming to reward them
First we take Manhattan, then we take Berlin

奴らは僕に20年間に渡って退屈しろって言い渡したんだ
思考回路を内側から変えようとしてさ
僕は今、やつらに報いてやっている、報いてやってるんだ
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ

I’m guided by a signal in the heavens
I’m guided by this birthmark on my skin
I’m guided by the beauty of our weapons
First we take Manhattan, then we take Berlin

僕は天のメッセージに導かれてるんだ
肌にあるアザに導かれてるのさ
武器の美しい輝きに導かれてるんだ
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ

I’d really like to live beside you, baby
I love your body and your spirit and your clothes
But you see that line there moving through the station?
I told you, I told you, told you, I was one of those

ほんとは君の傍で暮らしたいんだよ
君の身体も魂も着てる服も好きなんだ
けど、君には駅を通り抜けてくあの列が見えるだろ?
言ったよね、言ったよね、言ったよね、僕はそのうちの一人だったって

Ah you loved me as a loser, but now you’re worried that I just might win
You know the way to stop me, but you don’t have the discipline
How many nights I prayed for this, to let my work begin
First we take Manhattan, then we take Berlin

君は敗者としての僕が好きだったんだろうけど、今は恐れてるよね、僕が勝者になるかもしれないってさ
そんなことだから、分かってても僕を止めることができないんだ
いったい幾晩祈ったかな、僕の仕事を始めさせてくれってさ
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ

I don’t like your fashion business mister
And I don’t like these drugs that keep you thin
I don’t like what happened to my sister
First we take Manhattan, then we take Berlin
I’d really like to live beside you, baby …

僕は流行りの服を追うような君の仕事は嫌いなんだ
ドラッグで痩せた身体を保とうなんてすることもさ
僕の妹に起きてることが嫌なんだ
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ
ほんとは君の傍で暮らしたいんだけどね

And I thank you for those items that you sent me
The monkey and the plywood violin
I practiced every night, now I’m ready
First we take Manhattan, then we take Berlin

君が送ってくれたものには感謝してるよ
猿とベニヤ板のバイオリンのことさ
毎晩練習もしたし、今や準備は万全だ
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ

I am guided
僕は導かれてるんだものね

Ah remember me, I used to live for music
Remember me, I brought your groceries in
Well it’s Father’s Day and everybody’s wounded
First we take Manhattan, then we take Berlin

あー、僕のことを覚えてるかい、音楽の道で生きてた僕を
覚えてるかい、食料品をせっせと運び込んでた僕をさ
さあ、父の日だ、皆が傷ついてるね
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ

First We Take Manhattan Lyrics as written by Leonard Cohen
Lyrics © Universal Music Publishing Group, Sony/ATV Music Publishing LLC

【解説】
Leonard Cohen の歌詞、如何でしたか?やはり詩人の書くそれは、そのあたりのへっぽこロックスターが書くようなクサい歌詞とはレベルが違うと言わざるを得ないですよね(笑)。英語で読んでも日本語で読んでも何が言いたいのかよく分からないこの曲の歌詞ですが、Cohen はそれを理解する為の最高の手掛かりを残してくれていました。インタビューでこの曲の歌詞について尋ねられた彼が「I think it means exactly what it says. It is a terrorist song. I think it’s a response to terrorism. There’s something about terrorism that I’ve always admired」と答えていたという事実がそれです。彼のこの言葉に偽りがないのであれば、この曲はテロリストの歌ということになります(汗)。実際、この曲のイントロには緊迫した感じの口調のドイツ語のアナウンスみたいなものが入ってまして、ドイツ語はほとんど分からないので確かなことは言えませんが、聞き取れたin Berlin やAnschlag, Polizei といった言葉から想像するに「ベルリンで起きたテロで警察がなんちゃらかんちゃら」と言っているみたいなんです。やはり、この歌はテロリストの歌で間違いなさそうですね(但し、コーエンの真意はテロリズムをadmire しているのではなく、テロリズムの「決して妥協はしない」という基本原理をadmire しているということのようですが)。実のところ、この曲の歌詞の構文は英語として難しい部分はありません。なので、今回は英語の解説ではなく、英語歌詞の裏に潜む意味を中心に紐解いていきたいと思います(←で、できるかな・汗)。

先ず第1節のThey sentenced me to twenty years of boredom というフレーズを聞いて僕の中に思い浮かんだのは、男(女かもしれませんが、ここでは男とします)が裁判で20年の刑を言い渡されている姿です。For trying to change the system from within は和訳のとおりで、この最初の2行は、独房で20年間、退屈な日々を送らなければならないし、その間に権力者は受刑者を洗脳する気だということの比喩でしょう。3行目のI’m coming now, I’m coming to reward themは、刑務所にぶち込まれてるのに、ぶち込んだ相手をreward するというのは矛盾しているようにも思えますが、reward には犯人を捕らえた人への褒賞金という意味もありますので、男が自らの体で権力者に報奨金を払っている(自由を奪われるという代償を払っている)と考えれば納得できます。男が刑を言い渡した権力者に仕返しに向かっていると取れなくもないですが、収監中の男にはそのようなことはできないので話の整合性が取れません。4行目のFirst we take Manhattan, then we take Berlin はこの曲の歌詞の最大の難関です。この難関を突破するには、この歌詞が書かれた1986年に目を向けなければならないでしょう。その当時はまだソ連邦が崩壊しておらず、ベルリンの壁も取り払われていない東西冷戦の時代でした。そんな時代背景を頭に入れた上で、資本主義経済の中心地であるニューヨークのマンハッタンを資本主義のシンボル、壁で東西を強制的に分断した共産主義のシンボルをベルリンと考えれば、このフレーズが当時の世界を支配していた二大勢力(権力)である資本主義と共産主義への敵意と理解できます。ここの主語がwe になっているのは、前述のとおり男は収監されていてもはや何もできないが、志を共にする同志たちがそれをやるだろうということではないでしょうか。この後、僕は最後まで一気に歌詞を聴いてみましたが、僕の達した結論は、第2節以降は男が自らの行動によって20年の刑を受けるに至るまでの回想であるということでしたので、その結論を前提に話を進めます。

第2節は和訳のとおりで、男を行動へと向かわせた要因の比喩であるとしか考えられません。I’m guided by this birthmark on my skin のbirthmark はその綴りのとおり、生まれた時からある印であり、同時に生まれる前から自らの体に与えられた印であって、何者も変えることができないものです。そこから考えると、この単語が「運命」といったものの代替語として使われているのではないかと推測できます。I’m guided by the beauty of our weapons のweapons も、Armed with logic(理論武装)ってな言葉もあるように、銃器といった実際の武器だけでなく思想なども含めた包括的な武器を意味しているのではないでしょうか。第3節では、I’d really like to live beside you, baby, I love your body and your spirit and your clothes という言葉が唐突に出てきますが、これはテロリスト(ここで言うテロリストは、自らの信念に従って行動を起こす人という意味でです)になってしまった男が、ほんとは元の暮らしに戻りたいということを言っているのではないかと思いました。また、この曲の歌詞に出てくるyouは二人称としてのyouではなく、対象を限定しない一般人称としてのyou でしょう。そう考えれば、後に続いているBut you see that line there moving through the station? I told you, I told you, told you, I was one of those もしっくりときます。テロリストになる前は、男も通勤で駅へと向かうようなごく普通の人間の一人であったということです。4節目もかなり難解ですが、you loved me as a loser, but now you’re worried that I just might win から僕の目に浮かんだのは、自らの信念に従って行動を起こそうとしている男を、そんなことできる訳ないだろうと高を括っていた周囲の人間たちの姿で、You know the way to stop me, but you don’t have the discipline は、直訳すれば「君は僕を止めるやり方が分かってるけど、僕を律する気はない」ですが、男をみくびっていたせいで止めることができないということを対義語的に言っているのではないかと思いましたので、このような訳にしました。How many nights I prayed for this, to let my work begin も同じく反義で、本当は止めて欲しかったという男の心情を表しているのではないでしょうか。

第5節の1行目から3行目のフレーズも、なぜこのような言葉がここで出てくるのかという唐突感が否めませんが、資本主義の恥部のひとつである行き過ぎた商業主義を批判しているということ以外の答えが僕には思い付きませんでした。男は行き過ぎた商業主義のひとつの例としてファッション・ビジネスを引き合いに出しているのであり、そのビジネスの広告塔であるモデル女性たちが、自らの価値(痩せた身体)を維持する為にドラッグに走っているなんて言語道断だということではないかと思います。I don’t like what happened to my sister は、そんなことが身近なところでたくさん起こっているということの比喩でしょう。第6節でも意味不明なフレーズが続きます。1行目はまあ良しとして、2行目のThe monkey and the plywood violin っていったい何のことなんでしょう?僕には皆目見当もつかず、いろいろと調べてみた結果、どうも東欧のジプシーのことを言っているのではないかということが分かりました。中世の東欧では、猿や熊を安物のバイオリンの音色に合わせて踊らせることで見世物にして生活の糧を得ていたジプシーが存在していたようで、ここのThe monkey and the plywood violin は「商売の道具」という言葉に入れ替えることができるのではないかというのが僕の結論です。つまり、友が送ってきたitemsというのは、テロで使う道具であったのでしょう。それがライフルや拳銃などの銃器だったのか爆弾の材料だったのか何だったのかは分かりませんが、男はその扱い方の訓練を繰り返し準備完了となった。そう考えれば、ここの節はすべてクリアーになりませんか?そして、最後の節で男はRemember me, I used to live for music, Remember me, I brought your groceries inと、自分が普通の人間の一人であったことを覚えておいてくれと言い残し、ついに行動に移ります。男が選んだのは父の日(家長優位的な社会への挑戦であったのかもしれません)、銃を乱射したのか爆弾を爆発させたのかは分かりませんが、多くの人が怪我をすることeverybody’s wounded となりました。そして、男は逮捕され裁判で判決を受けることになります。それが第1節の最初に述べられていることではないかというのが僕の考えです。以上、何だかミステリー小説の謎解きみたいになってしまいましたが、皆さん、楽しんでいただけましたか?(汗)。

このFirst We Take Manhattan という曲は、Jennifer Warnes のFamous Blue Raincoat というアルバムに収録されています(曲はすべてLeonard Cohen が作詞)。このアルバムの完成度は非常に高く、他にも素晴らしい曲がこれでもかというほどに詰め込まれてますので、聴いたことがないという方はこれを機に是非とも彼女の美しい歌声を聴いてみてください。聴いて絶対に損はないです。僕がこれだけ言うんですから(←しつこいぞ・笑)。

【第29回】Luka / Suzanne Vega (1987)

しばらくアメリカから離れていましたので、ここらでロック・ミュージック発祥の地アメリカへと戻りましょう。今日、紹介するのは名門コロンビア大学を卒業した才女、Suzanne Vega(スザンヌ・ヴェガ)が1987年にリリースしたLuka という曲(ロックとはちょっと違う曲でありますが・笑)。Luka というのは人の名前で、日本人の耳には女性の名前のように響きますが、実は男性の名。ルカのカの部分にka の綴りを用いるのは大抵の場合、旧ユーゴスラビア圏の出身者とその子弟のようです。実はこの曲、児童虐待というそれまでには取り上げられることの無かったような社会問題を歌っていて、それ故にアメリカの音楽史に名を刻むことになりました。歌詞の内容はシビアなものでしたが、その重さを吹き飛ばすかのような爽やかささえ感じさせるメロディーラインのおかげか、87年度のビルボード社年間チャートで52位に食い込んでもいます。リリース直後のインタビューでLuka に関して質問を受けたSuzanne は、Luka は近所でよく見かけた同じ名の少し変わった子供をモデルにして作った曲ではあるけども、その子が虐待に遭っていたという訳ではないと答えていたんですが、近年になって、Luka は自分自身のことであり、自らの体験に基づいた作品であることを告白しています。Luka というまったく別人の名にしたのは、歌詞の内容が自分のことであることを知られたくなかったからだそうです。なんだか切ない話ですね…。

My name is Luka
I live on the second floor
I live upstairs from you
Yes, I think you’ve seen me before

ぼくの名はルカ
二階に住んでるね
きみのおうちの一階上だよ
ぼくのこと、見かけたことあるんじゃないかな

If you hear something late at night
Some kind of trouble, some kind of fight
Just don’t ask me what it was
Just don’t ask me what it was
Just don’t ask me what it was

夜遅くに何か聞こえてきても
いざこざみたいな音とか喧嘩みたいな声がしてもね
あれって何だったのとかぼくに訊かないで
あれって何だったのとかぼくに訊かないで
あれって何だったのとかぼくに訊かないで
I think it’s ‘cause I’m clumsy
I try not to talk too loud
Maybe it’s because I’m crazy
I try not to act too proud

ぼくって気のきかない子なんだと思う
だから、大きな声で話さないようにしてるよ
たぶん、ぼくっておかしな子だから
目立たないようにしてる

They only hit until you cry
After that, you don’t ask why
You just don’t argue anymore
You just don’t argue anymore
You just don’t argue anymore

あの人たちって泣くまでぶつのに
その訳を訊いたりはしないんだなんて
もう逆らったりはしない気なんだね
もう逆らったりはしない気なんだね
もう逆らったりはしない気なんだね

Yes, I think I’m okay
I walked into the door again
If you ask that’s what I’ll say
And it’s not your business anyway

そうだけど、ぼくは大丈夫かな
お部屋に戻ったからね
きみに訊かれたらそう言うさ
きみには関係のないことだしさ

I guess I’d like to be alone
With nothing broken, nothing thrown
Just don’t ask me how I am
Just don’t ask me how I am
Just don’t ask me how I am

ぼくはひとりでいるのが好きなんだろうな
何も壊れないし、何かを投げつけられたりもしないもの
大丈夫なのかなんてぼくに訊かないでよね
大丈夫なのかなんてぼくに訊かないでよね
大丈夫なのかなんてぼくに訊かないでよね

My name is Luka
I live on the second floor
I live upstairs from you
Yes, I think you’ve seen me before

ぼくの名はルカ
二階に住んでるね
きみのおうちの一階上だよ
ぼくのこと、見かけたことあるんじゃないかな

If you hear something late at night
Some kind of trouble, some kind of fight
Just don’t ask me what it was
Just don’t ask me what it was
Just don’t ask me what it was
And they only hit until you cry
And after that you don’t ask why
You just don’t argue anymore
You just don’t argue anymore
You just don’t argue anymore

夜遅くに何か聞こえてきても
いざこざみたいな音とか喧嘩みたいな声がしてもね
あれって何だったのとかぼくに訊かないで
あれって何だったのとかぼくに訊かないで
あれって何だったのとかぼくに訊かないで
あの人たちって泣くまでぶつのに
その訳を訊いたりはしないんだなんて
もう逆らったりはしない気なんだね
もう逆らったりはしない気なんだね
もう逆らったりはしない気なんだね

Luka Lyrics as written by Suzanne Vega
Lyrics © BMG Rights Management, Sony/ATV Music Publishing LLC, Warner Chappell Music, Inc.

【解説】
どこか春の到来を告げるような感じのアコースティックギターの音色で始まる清涼感のあるイントロ、そして、そのあとに続くSuzanne Vega の優しく柔らかな声の響き。それらのどこからも悲壮感を感じることは微塵もありませんが、そのメロディーラインとは裏腹に歌詞の内容は前述したとおり非常にシリアスです。ですが、歌詞に使われている英単語は中学校で学習するレベルのもので文法的に難しい部分も皆無ですので、今回も英語の歌詞の裏に潜む意味を中心に見ていくことにしましょう。

第1節は非常にシンプルで解説の必要はないですね。この節を聴いた誰しもの目に浮かぶのは、主人公のルカが集合住宅の階下に住む同じ年ごろであろう男の子か女の子に話しかけている光景でしょう。ですが、第2節に入ると、ルカは友達を作ろうとして階下の子に話しかけているのではなく、どうやら彼が深刻な問題を抱えていることが分かってきます。late at night にsome kind of trouble やsome kind of fight を耳にしてもそれが何であったのか訊かないで欲しいだなんて、ただごとではなさそうですよ。3節目では、真夜中に騒ぎが起こる原因をルカが語っています。どうも彼はその原因の責任が自分にあると思っているようですね。ルカは自分がclumsy(不器用、ぎこちない、気がきかない)でcrazy だと語っていますが、恐らく彼は利発で聡明な子なのでしょう。I try not to act too proud からは、ルカが両親の機嫌を損なわないよう自我を自らで抑えつけている様子が窺えます。第4節では、語り手がルカから階下の子に変わります。ルカはJust don’t ask me what it was と頼んでいましたが、階下の子はThey only hit until you cry と、何が起こっているのか薄々は気付いているようで、なぜそんなことをするのかを尋ねないのかyou don’t ask why、なぜ言い返さないのかYou just don’t argueanymore と疑問を抱いているようです。つまり、そこから読み取れるのは、ルカが家族から何らかの暴力を受けているのではないかという事実であり、ここに来て初めて、彼が虐待を受けているのではないかという疑惑をこの曲を聴いている者の中に生じさせます。

第5節は、再び語り手がルカに戻り、You just don’t argue anymore と疑問をぶつけてくる階下の子に対して、don’t ask me what it was と言ってるのに、それでも訊いてくるのならI think I’m okay, I walked into the door again と答えると言っていて、さらにit’s not your business anyway と諦めにも似た心情も吐露しています。なぜ、そう答えるとルカが言っているのかの理由は6節目のI guess I’d like to be alone with nothing broken, nothing thrown の言葉どおりです。ルカにとっては、一人になれる自分の部屋だけが平和な世界なのでしょう。そして、そんな自分に対してdon’t ask me how I am と階下の子に心配されることを拒絶しています。他者が介入し始めることで両親が機嫌を損ね、暴力がエスカレートすることをルカは怖れているのかもしれません。スザンヌ・ヴェガはいつもこの曲をさらりと歌っていますが、ルカが自分の分身であったという彼女の言葉が事実であれば、恐らく最初の頃は顔や声には出ていなくとも、内心ではもがき苦しんでいたのではないかと思いますね(涙)。

この曲はMe llamo Luka というタイトルでスペイン語バージョンもリリースされていて、Suzanne Vega自身がスペイン語で歌っています。スペイン語バージョンを聴いてみたところ、ブロンディのCall Me のスペイン語版よりは遥かにましではありましたが、スペイン語のイントネーションがやはりちょいとヘンで、いい線を行ってはいるものの「おっ、スペイン語版もイケてる!」と思わせるものではありませんでした。スペイン人がスペイン語で歌えばもっとイイ感じの曲になるはずだと感じたので、スペインで誰かこの曲をカバーしている歌手はいないものかとyoutube で探してみたところ、意外な人が歌っているのを発見しました!そこに映っていたのは、スペインのガリシア州出身のLuís Tosar という現地では多才なことで知られる有名俳優で、俳優になる前から「The Ellas(現在はガリシア語のDi Elas に改名)」というバンドを率いて音楽活動もしている人です。そんな彼が2007年頃にLuka をスペイン語で歌っているMTV 風の映像があったんです(恐らく、オフィシャルなカバーではないと思われますが)。スザンヌの歌うスペイン語の歌詞に違和感があったのか、歌詞が若干変えられてますし、曲のアレンジもロック風に変えられてますし、男性ボーカルなのでスザンヌの歌声のような優しい響きも消えてしまってはいますが(スペイン女性の多くはダミ声なので、女性ボーカルでも変わらない気はしますけども・笑)、メロディーラインにスペイン語がばっちりはまっていて、これなら合格と思いました!(←なんで上から目線?汗)。

【第30回】Jungleland / Bruce Springsteen (1975)

早いものでこのコーナーも30回目に突入。今回は第30回記念として、僕のお気に入りのアーティストの一人であるBruce Springsteen(ブルース・スプリングスティーン)の曲を紹介することにしました。彼の数ある曲の中から僕が選んだのは、1975年にリリースされた彼の3枚目のアルバムBorn to Run に収録されているJungleland という曲です。この曲はアルバムのリリース後、音楽業界で高く評価されることになった曲なのですが、シングルカットされることはありませんでした。なぜなら、演奏時間が9分半というとても長い曲だからなのです。当時、シングル曲を販売する為に使われていたドーナッツ盤に音質を落とさず収録できるのは45回転で6分程度が限度とされていましたから、シングルカットされていないと言うよりも、シングルカットできなかったんですね(笑)。余談ですが、どうしてドーナッツ盤みたいな利用範囲の狭いレコードが生まれたのかと言うと、ジュークボックス(若い方はご存知ないかもですが、ジュークボックスは有料でレコードの音楽を聴くことができるアナログな機械で、小銭を投入して曲の選択ボタンを押したらその曲を収録したレコードが自動的にかかるようになっていました)で再生する為だけに設計製造されたからだそうです。ドーナッツ盤の中央の穴が大きいのは、機械のアームがレコードをつかみ易くする為だったんですね。そう言えば、昔はドーナッツ盤を聴く際、穴が大きいのでレコード・プレーヤーにプラスチックのアダプターみたいなのをセットして再生していたことを思い出します。「あぁー、そうだった、そうだった。懐かしーい」なんて思うのは年配の人間だけですが(笑)。このJungleland という曲、長いだけでなく、その歌詞が難解であることでも名を馳せていまして、今回の解説は、記念回に相応しい大作となりそうな気配です…(汗)。

The Rangers had a homecoming
In Harlem late last night
And the Magic Rat drove his sleek machine
Over the Jersey state line
Barefoot girl sitting on the hood of a Dodge
Drinking warm beer in the soft summer rain
The Rat pulls into town, rolls up his pants
Together they take a stab at romance
And disappear down Flamingo Lane

レンジャースが顔を出したんだぜ
昨日の夜遅く、ハーレムであった会合にね
マジック・ラットが奴の愛車を飛ばしたのは翌朝のことさ
州境を超えてニュージャージーへ向かったんだ
裸足の彼女はダッジのボンネットの上に腰掛けてたよ
そぼ降る夏の雨の中、生温かいビールを飲みながらね
川向こうの街に入ったラットは、ズボンの裾をまくり上げ
女とのロマンスにしけこんだね
そして、フラミンゴ通りの彼方に消えようとしたのさ

Well, the maximum lawman run down Flamingo
Chasing the Rat and the barefoot girl
And the kids ‘round here look just like shadows
Always quiet, holding hands
From the churches to the jails
Tonight all is silence in the world
As we take our stand
Down in Jungleland

ところがその時、ポリ公の車がフラミンゴ通りを駆け始めたんだよな
ラットと裸足のガールフレンドが乗った車を追いかけてね
なのに、この辺りのガキどもはみんな影みたいで
いつも静かに手を取り合ってる
教会からムショに至るまで
今夜、この世界のすべてが静寂に包まれるよ
俺たちが事を構えるからにはね

このジャングルランドで
Well, the midnight gangs assembled
And picked a rendezvous for the night
They’ll meet ‘neath that giant Exxon sign
That brings this fair city light
Man, there’s an opera out on the turnpike
There’s a ballet being fought out in the alley
Until the local cops’ cherry top
Rips this holy night

真夜中のギャング仲間たちが集まり
今夜の待ち合わせ場所を決めたんだってよ
連中、あのでかいエクソンの看板の下に集合するってさ
この巨大な街を照らす看板のね
ハイウェイの出口ではオペラが催され
裏通りでは力任せのバレエの公演さ
地元のポリ公のパトカーの赤色灯が
聖なる夜を切り裂くまではね

The street’s alive as secret debts are paid
Contact’s made, they vanished unseen
Kids flash guitars just like switch-blades
Hustling for the record machine
The hungry and the hunted
Explode into rock’n’roll bands
That faced off against each other out in the street
Down in Jungleland

こっそりと金をやり取りすることで通りは活気づき
顔を突き合わせては、皆その姿を消していくけど
飛び出しナイフみたいに通りに出てギターを鳴らすガキどもだっているんだ
夢を追ってがむしゃらにね
飢えた者たちと追われる者たちが
ロックンロールのバンドに大変身するのさ
互いがいがみ合うこの街の通りでだよ
このジャングルランドの

In the parking lot the visionaries dress in the latest rage
Inside the backstreet girls are dancing to the records that the DJ plays
Lonely-hearted lovers struggle in dark corners
Desperate as the night moves on
Just one look and a whisper, and they’re gone

駐車場では目敏い連中が流行りの服に身を包み
裏通りでは女どもがDJのかけるレコードの音に合わせて踊り
孤独な恋人たちは暗闇の中の片隅でもがいてる
夜が更けるごとに絶望し
一目見て囁き、そして消えて行く

Beneath the city, two hearts beat
Soul engines running through a night so tender
In a bedroom locked in whispers
Of soft refusal and then surrender
In the tunnels uptown, the Rat’s own dream guns him down
As shots echo down them hallways in the night
No one watches when the ambulance pulls away
Or as the girl shuts out the bedroom light

そんな街で二人の鼓動は高鳴り
魂の鼓動も優しく夜を駆け抜ける
ベッドルームで女は囁き
じらしはしたけど、無駄な抵抗だった
アップタウンの地下道でラットの夢が撃ち砕かれたのはそのあとのこと
真夜中の通路に銃声がこだましたんだ
奴が救急車で運ばれて行く姿も
女がベッドルームの灯りを消すのも見た者はいないけどさ

Outside the street’s on fire in a real death waltz
Between what’s flesh and what’s fantasy
And the poets down here don’t write nothing at all
They just stand back and let it all be
And in the quick of the night
They reach for their moment and try to make an honest stand
But they wind up wounded, not even dead
Tonight in Jungleland

外では街の通りが燃え上がってる、死のワルツという炎でね
何が現実で何が幻想かってことの間で揺れ動いてる炎さ
でも、ここの詩人たちはまったく何も書こうとはしない
ただ後ずさりして、成り行きに身を任せるだけなんだ
やがて、夜の痛みの中で各々が
目の前の現実に手を伸ばし、何かをしなきゃって口にはするんだけど
それだけじゃあ、傷つきはしても、死にやしない
それが今宵のジャングルランドなのさ

Jungleland Lyrics as written by Bruce Springsteen
Lyrics © Sony/ATV Music Publishing LLC

【解説】
Jungleland の歌詞、如何でしたか?長いですよね、長過ぎです(汗)。でもこの曲、最初から最後まで聴く者を飽きさせることなく聴かせ続けるというとんでもないことをやってのける名曲なんですよ。「嘘だぁー、10分も続く曲なんて、ダレるだけでしょ」なんて風に思う方は、騙されたと思って是非とも一度聴いてみてくださいね。この曲の歌詞の英語、複雑な構文や難しい単語はほとんど使われてはいませんが、冒頭でも触れたとおり、歌詞の内容を理解しようとすると非常にやっかいな相手となります。暗喩が多く、ネイティブ話者であっても滅茶苦茶な解釈をしてる人が数多くいるくらいに難解ですので、そんなおかしな解釈にならぬよう、気合を入れて歌詞を見ていくことにしましょう。

先ず1節目ですが、のっけからぶちかましてきます。「はぁ?The Rangers!?」それっていったい何のことなんでしょう。ネイティブ話者もそれが何なのかと悩むようで、ベトナムの戦場から戻った帰還兵だとか、ホッケーチームの名前だとか、法執行機関の比喩だとか様々な意見が飛び交っていますが、僕の中ではThe Rangers はギャングのグループ名であるという結論以外ありませんでした。なぜその結論に至ったのかを分かっていただく為には、当時のニューヨークのギャング事情を知っておいてもらう必要があります。1970年代のニューヨークというのは、小規模な不良集団が割拠するストリート・ギャングの全盛期とも呼べる時代で、マンハッタンだけでも300に近いグループが活動し、縄張り争いを繰り広げていたと言われています。縄張り争いと言っても、マフィアや日本の暴力団のように自らの金銭的利益を得る為の領域争いではなく、自らが支配する領域ではよそ者に勝手なことはさせないというプライドのようなものから出てくる縄張り争いであって、彼らにとって最も価値を持つのは富ではなく、自らの縄張りを守り、そして同時に、縄張りを広げることで自らの力を誇示するということだったのです。実際、ギャングたちが金銭を重視していなかったのは事実で、麻薬の取引で手っ取り早く稼ぐといった者もほとんどいないばかりか、逆にギャングたちにとって麻薬は嫌悪の対象ですらありました。しかし、その半面、力による縄張り争いは熾烈を極めるもので、ギャングが多く暮らすハーレムやブロンクスでは抗争による殺人事件は日常茶飯事(年間1000件のペースで殺人事件が発生していたようで、超危険地帯であったハーレムやブロンクスに住人以外の者が近づくことはありませんでした)であった為、無用な殺し合いを防ぐ為の平和協定を結ぶべくギャングたちの代表がしばしば集って会合を開いていたくらいでした。僕の中でピンときたはこの会合でして、The Rangers had a homecoming のhomecoming は、そういった会合のことではないのかと思ったのです(アメリカ英語では、年に一度の同窓会や学園祭といった人が集まる意味で使われることがあります)。このフレーズの響きからは、どうしてもThe Rangers が街へ戻ってきたというイメージを抱いてしまいがちですが、The Rangers のリーダーがハーレムで夜遅く行われた平和協定を結ぶ為の会合に顔を出したと受け止めれば、この後に出てくるthe Magic Rat こそがThe Rangers のリーダーということになり、話の辻褄がすべて合います。以上のようなことを総合してみた結果、The Rangers がギャングのグループ名であるという結論に至りました。

3行目のsleek machine という言葉から目に浮かぶのは、ギャングが好みそうな車、ピカピカのアルミホイールを装着したマスタングみたいな中古のマッスルカーで、恐らくMagic Rat(以下、ラットと記します)は、当時のマンハッタンではまだ多数派であったプエルトリコ系のギャングでしょう。そんな車に乗ったラットはハドソン川の向こう側のニュージャージーへと向かって走っている訳ですが、その理由が語られているのが、5行目以降の歌詞です。ラットの目的地はハドソン川を超えた対岸のニュージャージー州のどこかにある美しいビーチ、そこでデートの待ち合わせをしていると思われます。車のボンネットに腰掛けてビールを飲みながらビーチで待っているのはラットの彼女Barefoot girl(ビーチでは普通、裸足になりますね・笑)。車はDodge としか書かれていませんので車種は分かりませんが、ギャングのリーダーの彼女となるような女性ですから、ラットと同じようにDodge のチャージャーみたいなマッスルカーに乗っているのかもしれません。The Rat pulls into town, rolls up his pantsからは、ビーチに着いたラットが車を止めた後、ズボンの裾を捲り上げ、彼女のところまでビーチの砂の上を裸足で駆けて行く光景が目に浮かびます。9行目のFlamingo Laneは架空の通りの名前で、ニュージャージー州アズベリーパーク(ブルース・スプリングスティーンがデビュー前、音楽活動をしていた街です)にかつて存在したFlamingo Motelという宿泊施設が通りのモデルではないかとも言われています。ニュージャージー州にFlamingo Laneという名の通りが存在するのか調べてみましたが、どこにも見当たりませんでしたので、架空の通りであることは間違いなさそうです(ニューヨーク州には同名の通りがありましたが、とても短い通りで、ビーチの傍にある訳でもないので該当しませんね)。

第2節1行目のlawman とは、法執行者のこと、つまりは警察の人間です。わざわざmaximum を付けているのは、lawman を単なる法執行者としてではなく、権力の象徴として強調しているのかもしれません。3行目のAnd the kids ‘round here look just like shadows, Always quiet, holding hands は、なぜにここでkidsが唐突に出てくるのか良く分かりませんが、パトカーに追われるラットを目にしてもおとなしくしているだけ(権威、権力に無抵抗な)の若者たちの無気力を嘆いていると僕は理解しました。そのことが5行目以降の歌詞につながっていて、最後の4行を聴くと、俺たちはそうじゃないと言っているようにも思えます。なぜなら、その夜、彼らはJungleland でwe take our stand する気だからです。take one’s stand は持ち場につくといった意味で用いられますが、僕は敵対するギャングたちに対する宣戦布告であると考えました。恐らく、前夜の平和協定の会合の場で話し合いが決裂したのでしょう。From the churches to the jails, Tonight all is silence in the world と言っているように、おまえたちがそういう態度を取るのなら、力で黙らせてやるという訳です。

さて、ここでようやくJungleland という言葉が出てきました。いったい、このJungleland ってのは何のことなのでしょう?ここまでの歌詞を聴いただけでは、Jungleland が何なのかはまだ漠然としたイメージしか湧いてきませんが、曲を最後まで聴いて至った結論は、社会の底辺で生きる者たちの多くが、特に若者たちが、その底辺から抜け出せないでいる大都市(歌詞にニューヨークの名は出てきませんが、この曲の舞台がニューヨーク市であることは明白です)の現実を、右も左も分からぬままに出口を探してさ迷い歩くものの、決して出口にはたどりつけないという深い密林に覆われたジャングルに重ね合わせているのだろうということでした。この曲の中でのJungleland は、そういった現実が放置されたままでいる世界(社会)を表す代替語と考えて良いのではないかと思います。因みにブルース・スプリングスティーン本人は、アズベリーパークにあった「Palace」という遊園地(貧しい人々が束の間の息抜きをできる場所だったようです)がいつの間にか、ティーンエイジャーが喧嘩をしたり暴力を振るう場所に変わってしまっている姿を目にしたことにインスパイアーされてJungleland の歌詞を書いたと雑誌のインタビューに対して語っています。そのことから考えると、Jungleland の歌詞の原点は、かつての楽園が今や荒野という状況に陥っていたPalace にアメリカン・ドリームの崩壊を重ね合わせたことにあるとも言えそうです。

第3節で描写されているのは、宣戦布告したラットたちが敵対するギャングのもとへと向かう様子でしょう。3行目のthat giant Exxon sign は、これもまたアズベリーパークに関係していて、当時のアズベリーパークの街には住民の誰もが知る巨大な「Exxon(ガソリンスタンドの大手です)」の看板があったそうで、一言告げるだけで誰にでも分かる場所は集合場所としては最適ですよね。4行目のfair city はfair sized cityのことであり、3行目のgiant と対になっていると理解しましたが、もちろんここのfair は反語であって、街に対する皮肉が込められているのだと思います(不公平unfair な街ということです)。5行目のMan, there’s an opera out on the turnpike とそれに続くThere’s a ballet being fought out in the alley は、詩的な表現で超難解。turnpike は高速道路の料金所のことですが、ニュージャージにはNew Jersey Turnpike という名称の有料道路がありますので、ここのturnpike はその道路を指しているのだと思います。there’s an opera out on the turnpike を聴いて僕の目に浮かんだのは、派手な車に乗って高速道路から続々と下りてきて終結するギャングたちの様子(それをオペラと比喩しているのでしょう)、a ballet being fought out in the alleyは、裏通りで繰り広げられる血の応酬(それをバレエと比喩)でした。7行目のcherry top は日本でも今は見かけませんが、昔のパトカーのルーフに取り付けられていた単灯式の赤色灯のことで(アメリカのパトカーもかつてはそうでした)、その夜、警察が介入、もしくは追ってくるまでは、血で血を洗う暴力が続くの
だということです。

続く4節目も相当に難解ですが、ここで描かれているのは抗争が開始される前の街の様子だと推測しました。The street’s alive as secret debts are paid とContact’s made, they vanished unseenは、通りで公然と行われている麻薬の売買をギャングたちが苦々しく思っている様子なのでしょう。前述したように、この当時のギャングたちにとって麻薬は嫌悪の対象でしたが、この頃より麻薬の売買で手っ取り早く金を得ようとする若者たちが急増するようになっていました。ですが、その一方ではKids flash guitars just like switch-blades, Hustling for the record machine のように、音楽の世界(音楽だけとは限りませんが)で成功することで社会の底辺から脱出しようとする若者たちもいるということが示されています。言い換えれば、それくらいしか抜け出す手段がなかったのでしょう。the record machine は、レコードプレーヤーといった機械類のことではなく、機械のようになってしまった音楽業界(金儲けの為だけに大量生産を繰り返している)のことを指しているものと理解しました。Explode into rock’n’roll bands that faced off against each other out in the street は「互いが殺し合うこんな糞みたいな街であっても、音楽で身を立てようとするような若者はいるんだぜ」ってな感じでしょうか。

第5節から僕が受けたインプレッションは、戦いが始まる前の束の間の静けさです。1行目から3行目で語られているのはごく普通の若者たちの姿であり、この節の趣旨は、ギャングたちもかつては普通の若者だったが、時が流れるごとに絶望だけが残り(なぜなら、社会の底辺から抜けだせないから)今はこうなって(ギャングになって)しまったということではないかと考えました。そして、この後、その夜の静けさの中で、今や伝説となったClarence Clemons のテナー・サックスの哀愁を帯びた音色が2分以上に渡って鳴り響きます。何千回聴いても、今聴いても尚、体が震えてくる魂の叫びです。6節目は、街で彼女(例のBarefoot girl なのか、別の愛人なのかは分かりませんが)と落ち合ったラットが、二人で彼女の部屋かホテルの部屋にしけこんでいる様子であろうと推察しました。ラットは既に、女と愛し合うのもこれが最後になるかもしれないという運命を覚悟していたのかもしれません。Whispers of soft refusal「だめぇ、だめぇ、今夜はそんな気になれないの」の類でしょう。ですが女は結局、surrenderします。そして、女とことを終えたラットは戦いの舞台へと向かいますが、彼を待ち受けていたのは地下道に響く銃声でした。the tunnels uptown は、最初はニューヨークとニュージャージーを結ぶLincoln Tunnelのことだと考えましたが、Lincoln Tunnel があるのはMid Town ですし、tunnels と複数形になっていることから、ここに記されているthe tunnels はsubway(pedestrian tunnel とも呼ばれます)の類であろうというのが僕の結論です。そう考えると、敵対ギャングに追われて地下道に逃げ込んだラットが、背後から銃撃を受けているような光景が目に浮かんできますね。No one watches when the ambulance pulls away, Or as the girl shuts out the bedroom light は、ラットが誰に気付かれることもなく(彼女さえ)ひっそりと(憐れに)死んでいった、つまり、一人のギャングの死など誰も気にとめもしないということの比喩なのでしょう。

最後の節でも尚、難解な歌詞が続きます。Outside the street’s on fire in a real death waltz between what’s flesh and what’s fantasy という詩的なフレーズからは、ラットたちが仕掛けた抗争で街が大混乱に陥っている様子が窺えます。そこらじゅうの通りに死体が転がっていて「これって現実?映画の世界じゃないの?」っていう感じでしょうか。And the poets down here don’t write nothing at all, They just stand back and let it all be は、そんな状況にも拘らず、街の人々(特に若者たち)は何の行動も起こそうとしないし、現実に目を背けるだけだということなのだと思います。And in the quick of the night, They reach for their moment and try to make an honest stand, But they wind up wounded, not even deaは、この曲を聴くものに突き付けられる最後の難問で、やがて事の重大さに気付き始めた若者たちが、何かを変える必要があるんじゃないかと自問をするものの、結局はうわべだけで終わる(not even dead何かを変えようとする為の死ぬ気の覚悟がない)ということではないかと僕は考えました。それがJungleland の現実なのです。

ふぅー、やはり予想どおりの長い解説になってしまいましたね(汗)。最後までお付き合い頂きまして誠にありがとうございました。このJungleland という曲が、社会の底辺に生まれ、暮らし、そして、そこから抜け出せないでいる行き場のない若者たちを主人公にした一種の叙事詩であることを分かってもらえたとしたら、解説を書いた甲斐もあったというものです。この曲がリリースされたのは1975年、良く考えれば、それから50年近くもの年月が過ぎ去っています。一般市民が近づくことなどあり得なかったハーレムでさえ、今や再開発が進んで富裕層が暮らすようになっているように、時代はすっかり変わってしまいました。ですが、アメリカ人の若者も含め、今の若い人たちがこの曲を聴いても、随分と昔に僕らの世代がこの曲を初めて聴いた時と同じ気持ちで受け止めることができるのではないかと僕は思っています。なぜなら、中高生といった若い人たちの自殺という悲しいニュースを聞かない年は無いという事実が存在するように、行き場を失い絶望する若者たちの姿は、残念ながら今も尚この世から消えてはいないからです。

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