洋楽の棚⑦

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【第61回】When a Man Loves a Woman / Percy Sledge (1966)

今回も前回に引き続き、リリースから半世紀以上も経っているのにまったく古さを感じさせないという素敵な曲を紹介することにしましょう。米国南部アラバマ州出身の黒人歌手Percy SledgeがヒットさせたWhen a Man Loves a Womanという名曲です。この曲を聴いて「電子オルガンの響きと言い旋律と言い、なんかA Whiter Shade of Pale と似てるな」と感じた方はおられますか?正解です!この2曲のメロディーラインには「カノン」というクラッシックの旋律がベースになっているという共通点があるので、似たように聞こえて当然なのです。カノンというのは、ひとつの旋律を複数のパートで追う演奏形式のことで、その誕生の経緯は良く分かっていないのですが、現在では3つのパートに分かれたバイオリン奏者が二小節ずつ遅れて同じ旋律を演奏し、その背後で通奏低音がひとつの進行を繰り返すという17世紀のドイツの作曲家ヨハン・パッフェルベルが作ったカノンがその代名詞となっています(C-G-Am-Em-F-C-F-G の和音を繰り返す所謂カノン進行です)。

バッハの「管弦楽組曲第三番第二楽章」もカノンがベースになっていて、この曲を同じくドイツ人のアウグ スト・ウィルヘルミというバイオリン奏者がピアノ伴奏付きのバイオリン独奏曲に編曲したものが「G線上 のアリア」と呼ばれている曲であり、A Whiter Shade of Pale は「G線上のアリア」、When a Man Loves a Woman は「パッフェルベルのカノン」が下敷きになっていることに疑問の余地はありません。さらに言う ならば、A Whiter Shade of Pale は、前年に英国シングルチャートで4位にまで上昇したWhen a Man Loves a Woman を聴いてカノンの旋律が現代音楽にも適応することに気付いたGary Brooker がそのことにインスパイアーされて生まれた曲である可能性が高いです(←あくまでも個人の勝手な見解です・汗)。その後、ビートルズのHello, GoodbyeやLet It Be、ジャクソン・ファイブのI’ll Be There、カーペンターズのYesterday Once More、ブームタウン・ラッツのI Don’t Like Mondays、ビリー・ジョエルのPianoman、ホール&オーツのRich Girl などカノン進行を取り入れたヒット曲が続々と登場しましたが(日本でもBORO の「大阪で生まれた女」や荒井由実の「ひこうき雲」なんかもそうですね)、これらの曲に関して互いにパクリ論争が出て来ないのは「あんた、○○の曲をパクくっただろ?」と問われたところで「いいえ、僕の曲はカノンの旋律にインスパイアーされたものです」と答えればそれですべて片付いてしまうからではないかと思います。

因みにウィルヘルミが編曲した管弦楽組曲第三番第二楽章がなぜ「G線上のアリア」という名で呼ばれているのかというと、バイオリンは4弦の楽器で高い音の弦から順番にE、A、D、Gとそれぞれの弦にアルファベットで名前が付けられていて(ギターでは弦を細い方から順番に1弦、2弦というふうに弦で呼びますがバイオリンではE線、A線と線の名で呼ぶそうです)ウィルヘルミの編曲はバイオリンのG線のみを使って演奏ができるようになっていたことから「G線上のアリア」と名付けられました。ウィルヘルミが最初からそうしたかったのか、結果としてそうなったのかは分からないですが、G線上のアリアはその名のとおり、バイオリンのパートをG線だけで演奏します。このようにメロディーラインにおいては類似点のあるWhen a Man Loves a Woman とA Whiter Shade of Pale。ですが、この2曲には決定的な違いがあります。さて、なんでしょう?その答えは下記の歌詞をご覧いただけば一目瞭然です!

When a man loves a woman
Can’t keep his mind on nothin’ else
He’d change the world for the good thing he’s found
If she is bad, he can’t see it
She can do no wrong
Turn his back on his best friend if he put her down

男が女を愛する時
男は彼女以外のことなんて何も考えられない
男は人生を変えちゃうんだ。見つけた喜びの為に
相手が悪い女であったとしても、男はそれに気付けない
彼女は完璧なんだってね
だから彼女が悪く言われれば、友人にだって背を向けちまう

When a man loves a woman
He’ll spend his very last dime
Tryin’ to hold on to what he needs
He’d give up all his comforts
And sleep out in the rain
If she said that’s the way
It ought to be

男が女を愛する時
男は最後の10セントまで使っちゃうだよな
彼女との愛を手離すまいとしてね
男は快適な生活だって捨て去るだろうし
雨降る外で眠ることさえするだろうよ
彼女がそうしろと言ったらね
だって、そうあるべきはずだもの

Well, this man loves you, woman
I gave you everything I had
Tryin’ to hold on to your heartless love
Baby, please don’t treat me bad

そんな男が君という女を愛し
持つものすべてを差し出した
君の無慈悲な愛を手離すまいとしてね
だから、どうか冷たくあしらわないでくれ

When a man loves a woman
Down deep in his soul
She can bring him such misery
If she is playin’ him for a fool
He’s the last one to know
Lovin’ eyes can never see

男が女を愛する時
魂の奥深くまで
女は男を惨めにできる
女が男をからかっているとしても
男は気付きそうにもない
愛に駆られた男は盲目なんだ

When a man loves a woman
He can do her no wrong
He can never want
Some other girl

男が女を愛する時
男は女に間違ったことなんてしない
彼が求めるはずなんてないんだ
他の女なんて

Yes when a man loves a woman
I know exactly how he feels
Cause baby, baby, you’re my world
When a man loves a woman…

そう、男が女を愛する時
僕にはその気持ちが良く分かるんだ
だってさ、君は僕の人生そのものなんだから
男が女を愛する時…

When a Man Loves a Woman Lyrics as written by Andrew James Wright, Calvin Houston Lewis
Lyrics © Sony/ATV Music Publishing LLC, Warner Chappell Music Inc, Word Collections

【解説】
このコーナーをずっと愛読してくださっている方ならもうお分かりですね!そうなんです、訳の分からぬ意味不明な言葉が連なっているA Whiter Shade of Pale とは違い、こちらのWhen a Man Loves a Womanの歌詞はシンプル&ストレートでとても分かり易いのです!なので、歌詞はほとんど解説不要ですが、少しだけ簡単に捕捉しておきましょう。第1節5行目のShe can do no wrong は、この歌詞の主人公である男の目には「彼女が間違いなんて犯すはずがない」つまり「彼女はパーフェクトである」と映っているということですね。次の節の2行目のdimeは10セント硬貨のことで、very last という言葉が入っているので最後の1枚まで使ってしまうという雰囲気が漂っています。3行目のwhat he needs は勿論、彼が必要としているのは彼女との愛。4行目のcomfortsはcomforts of living と考えれば分かり易いです。最後のthat’s the way it ought to be はthat’s the way love isということでしょう。愛の為ならそれくらいのことはできるでしょうよといった感じで、恋人にぞっこんなあまり、言いなりになってしまっている男の姿が目に浮かびます(男性に限った話ではなく、男女の恋愛では良くあるパターンですね・汗)。因みにthat’s the way だけで使うと「いいぞ」とか「その調子だ」ってな感じの意味になりますので機会があれば使ってみてください。

第3節目はちょっと面白いです。「おやっ?」と思った方はもう英語歌詞和訳の上級者。Well, this man loves you, woman. I gave you everything I had とa Man のことをthis man と呼んだあと、主語がI に変わりましたね!つまり、第1節と2節で歌っていたa Man は自分のことだったという訳なんです(笑)。4節目に難解な部分は無く、和訳のとおり。the last one to は可能性として事実に対する強い否定が存在する場合によく使われる言い回しです。5節目は主語がHe に戻っていますが、ここの部分も「男とはそういうものだ」と男性全般に言及しているのではなく、歌詞の主人公が自分のことを言っていると考えてよいでしょう。最後の節の歌詞を読めばそのことは明白ですね。最後の節のYes when a man loves a woman. I know exactly how he feels cause baby, baby, you’re my world の部分を聴いて、主人公は恋の終りを潜在的に予感していて「こんな一途な僕を捨てないでくれDon’t do me wrong」と叫んでいるように聞こえたという人は芸術を理解できるセンスありです。なぜなら、この曲が最初に出来た際のタイトルは「When a man loves a woman」ではなく「Why Did You Leave Me Baby」であり、歌手デビュー前の1965年に働いていた建設会社をPercy Sledge が解雇された際、彼の当時の恋人Lizz King がロサンゼルスでモデルの仕事をする為に彼のもとを去って行ったことで傷心のあまり何も手がつかなくなったという経験がベースになっているとPercy が自ら語っているからで、この曲の歌詞がラブソングではなく失恋ソングとして書かれたものであることに疑いの余地はありません。そして、曲は最後にWhen a man loves a woman…と歌ってフェードアウトしますが、そのあと、何か言葉が続いているのが聞こえませんか?ここの最後の歌詞が「woman…」となっているのはそれが故であると思うのですけど、ただ、何度聴いても何を言っているのか僕には聞き取れませんでした(汗)。

【第62回】Smooth Operator / Sade (1984)

前回はとても分かり易い歌詞の曲でしたので、今回は再び難解な曲に挑戦してみましょう(←おっ、酷暑のせいで気でも狂ったか)。今日ご紹介するのはSade(セイドではなくシャーデイと読みます)のSmooth Operator というシブい名曲です。1982年にロンドンでボーカルのSade Adu ことHelen Folasade Aduが中心となって結成した4人組のバンドで、Sade は個人の歌手名ではなくあくまでもバンド名。メンバーは入れ替わってはいますが、解散することなく現在も活躍中なので息の長いバンドですね。Sade Adu のエキゾティックな顔立ちを見ても分かるとおり、彼女の父親はナイジェリア人で母親が英国人。Sade Adu 自身はナイジェリア生まれ(当時のナイジェリアは独立前だったのでイギリス領ナイジェリア)ですが、母親が離婚して彼女が4歳の時に英国へ連れ帰りました。このSmooth Operator という曲の歌詞は単語の羅列で、決して上手いものだとは思えない詩なのですけども、ギターではなく「サックスを使ったボサノバ」という感のあるメロディーラインとどこか物事を一歩離れた場所から見つめているようなSade Adu のクールな歌声にぴったりはまっているから不思議なもの。描写不足でその分、聴く者が想像力で補う必要がある単語の羅列のようなこの曲の歌詞は、ハードボイルド小説が簡潔な文章で書かれているからと言って決して分かり易いものではないのと同様に、とても分かりにくいものとなっていて、まさしくSmooth Operator は「洋楽のハードボイルドだどぉ~!」なのです(←若い方は内藤陳さんとかご存知ないでしょうね・笑)。

Diamond life lover boy
He moves in space with minimum waste and maximum joy
City lights and business nights
When you require streetcar desire for higher heights

煌びやかに生きる伊達男
彼は手間暇かけずご機嫌に移ろうの
街灯りに彩られた夜の社交場で
高みを目指す為の欲望という名の電車を女が欲しがる時にね

No place for beginners or sensitive hearts
The sentiment is left to chance
No place to be ending but somewhere to start

初心な者や傷つきやすい者の居場所なんてないの
感情は成り行きに任せられ
終りがないまま、どこかで始まってる

No need to ask, he’s a smooth operator
Smooth operator
Smooth operator
Smooth operator

訊かなくったって分かるでしょ、彼はやり手なの
そう、やり手なのよ
ほんと、やり手なの
やり手なのよ

Coast-to-coast, L.A. to Chicago, western male
Across the North and South, to Key Largo, love for sale

海岸から海岸へ、ロサンゼルスからシカゴへ、西部の男は
北から南へと縦断し、キー・ラーゴまで、恋を売り回るの

Face-to-face, each classic case
We shadowbox and double-cross
Yet need the chase

会いたい、そんな常套手段であってもね
女たちは伊達男の影と向き合って翻弄されてしまう
だけど、それでも追いかけてしまうのよね

A license to love, insurance to hold
Melts all your memories and change into gold
His eyes are like angels, his heart is cold

愛する為の許可証はベッドで抱かれる保険になるの
女の思いは何もかも溶かされ、黄金へと変わるの
だけど、伊達男の眼差しは天使みたいではあっても心は冷めてるの

No need to ask, he’s a smooth operator
Smooth operator
Smooth operator
Smooth operator

訊かなくったって分かるでしょ、彼はやり手なの
そう、やり手なのよ
ほんと、やり手なの
やり手なのよ

Coast-to-coast, L.A. to Chicago, western male
Across the North and South, to Key Largo, love for sale

海岸から海岸へ、ロサンゼルスからシカゴへ、西部の男は
北から南へと縦断し、キー・ラーゴまで、恋を売り回るの

*最後はアウトロでSmooth operator を連呼し、曲は終わります。

Smooth operator Lyrics as written by Helen Folasade Adu, Ray St. John
Lyrics © Peermusic Publishing, Sony/ATV Music Publishing LLC, TuneCore Inc.

【解説】
テナーサックスの柔らかい音色が響く印象的なイントロに続いてDiamond life と歌うSade Adu の歌声。いいですねぇー。素晴らしいです。実はこのイントロの前に、彼女のコンサートなどでは詩の朗読が入るので、その詩を先に紹介しておきましょう。

He’s laughing with another girl
And playing with another heart
Placing high stakes, making hearts ache
He’s loved in seven languages
Diamond nights and ruby lights
High in the sky
Heaven help him when he falls

別の娘と談笑してる彼
またひとつ別の心をもてあそんでる
伸るか反るかに賭け、女たちの心をときめかせながら
彼って世界中で女たちを愛してきたの
ダイヤのように輝く夜にルビー色の灯り
はるか空の上にいる彼だけど
落ちる時には大変な目に遭うわ

3行目のplace high stakes は一か八かに賭けるという意味で、making hearts ache はmaking her hearts ache と考えれば分かり易いです。つまり、彼女の胸をキュンキュンさせるという意味ですね。4行目のseven languages は世界の7大陸の言い換えと理解しました(南極大陸に人は住んでませんが・汗)。5行目のDiamond nights and ruby lights は、ダイアモンドもルビーも高価な宝石ですから、僕が連想したのは、夜な夜な行われる金持ちたちのパーティーのようなものです。そんな世界(High in the sky)にいる彼ですが、そのあとHeaven help him when he falls と、いつかは罰が下るであろうことが仄めかされています(Heaven help の構文は「天が助ける」ではなく「酷い目に遭う、大変な目に遭う」という意味で使われます)。どうやらこのHe は悪い奴のようですよ。

では、本文の解説に入りましょう。第1節の1行目、Diamond life はダイアモンドのように輝く人生ということだと思います(因みにこのSmooth operator という曲は、Diamond life というタイトルのアルバムに収録されています)。lover boy は色男や伊達男という意味ですね。このlover boy はイントロ前の朗読で出てくるHe のことで、このあとに続くHeも勿論、同じ男のことを指しています。2行目のHe moves in space with minimum waste and maximum joy は、その男がいつもご機嫌にうまく立ちまわっているという意味だと僕は理解しました。どこでうまく立ちまわっているのかというのがCity lights and business nights(街灯りと夜の仕事場)つまり、華やかな都会の夜の社交場ということでしょう。そしてその社交場には、テネシー・ウイリアムズの戯曲「欲望という名の電車」に出てくるブランチのような放蕩な女性が高見を目指して集ってくるようです。2節目のNo place for beginners or sensitive hearts が、そんな夜の社交場に初心な者や傷つきやすい者の居場所はないという意味だと考えれば話の辻褄も合います。2節目のThe sentiment is left to chance とNo place to be ending but somewhere to start は何を言いたいのかいまいち良く分かりませんが、ここのフレーズを聴いて僕の頭に浮かんだのは、夜の社交場では男と女の様々な駆け引きが行われ、ひとつの駆け引きが終わらぬままにまたどこかで別の駆け引きが始まっているというような情景でした。そして、そんな駆け引きに加わっている女の一人は囁きます。No need to ask, he’s a smooth operator と。それが第3節ですね。さて、曲のタイトルともなっているこのsmooth operator、皆さんはどんな人物を想像されましたか?直訳すればスムーズに運営をする人、つまり、うまく立ちまわる人、要領のいい人ということです。ここの部分のSade Adu の歌い方を聴いていると、カーリー・サイモンのYou’re So Vain のように男に対する恨みつらみを言ってるのではなく、逆になんだか男の技量を褒めているようにも聞こえますね(←そんな風に聞こえているのは僕だけでしょうか・汗)。

次の第4節から窺えるのは、色男が全米をまたにかけて活動していることで、何の活動をしているのかというとlove for sale です(love for sale と韻を踏む為に1行目の最後にwestern male という言葉を入れたのでしょうけど、ちょっと無理矢理感がありますね)。ですが、このlove for sale は第1回のCall Me で紹介した自らの身体を売って対価を得るジゴロのような仕事ではなく、恋愛感情をちらつかせて女性から金品を騙し取る、つまり恋愛詐欺のような行為だと思われます。2行目に出てくるKey Largo はフロリダ州の南端にある島の名前で、マクスウェル・アンダーソンの同名の戯曲の中では、悪人たちが集うホテルのある島として描かれていますしね(笑)。英国のバンドがわざわざ舞台をアメリカにしたのは、アメリカのマーケットでのレコードの売れ行きを考えての事だったのかも知れませんが(←あくまでも個人の憶測です)この曲はアメリカでは大ヒットとまではいかず、1985年のビルボード社の年間チャートでは62位止まりでした。5節目もなかなか意味不明なフレーズが並んでいます。Face-to-face, each classic case. We shadowbox and double-cross ですが、Face-to-face は「顔と顔を突き合わせる」ですから男女の逢引、each classic caseはいつものやり口、double-cross は裏切りと理解。shadowbox というのは、ボクサーが目の前に対戦相手がいることを想像して、相手の動きを考えながら攻撃、防御の練習をする行為なので、ここのフレーズを聴いて僕の頭に浮かんだのは、本当の顔が見えない(本性を現さない)男に翻弄されつつも男(の影)を追い続けるという女性の姿でした。

第6節も何が言いたいのか良く分かりません。A license to love, insurance to hold は、ひとたび男のОKを取りつければ、それはベッドの上で抱かれることが保証されたも同然というような意味だと理解しました。結局、女性側の目的は色男に抱かれるということでしょうか。Melts all your memories and change into gold は、そうなった時、女性は何もかも忘れてエクスタシーに達するみたいな性的な暗喩ではないかと推測します。His eyes are like angels, his heart is cold は文字どおりで、女性の側はそうなっても、色男の側は詐欺のステップとして寝ているだけだから心はこもっていないということでしょう。第7節、8節は第3節、4節の繰り返しで、アウトロでSmooth operator を連呼して曲は終了します。この最後のSmooth operator を連呼するSade Adu の歌声もこれまたいいです。シビれますね。

冒頭でも話しましたとおり、この曲はハードボイルド・ソングであり、しかもSade Adu はマスコミのインタビューに応じることが少なく歌詞について語ることもない為、歌詞の本意を知る手掛かりが皆無状態でした。なので、歌詞の理解はすべて想像力で補うしかなく、上記の和訳は僕がこの曲を聴いて感じたままに日本語に置き換えただけのものですので悪しからず(汗)。

【第63回】Let’s Hear It for the Boy / Deniece Williams (1984)

しばらくシブい曲が続きましたのでここらで1曲、気分転換に「頭の中お花畑&底抜け明るい」系の曲をお届けしましょう。第58回で紹介した映画「Footloose」で挿入歌として使われ、ビルボード社の1984年の年間ヒットチャートで13位(週間チャートでは一時的に1位)に食い込んだDeniece Williams のLet’s Hear It for the Boy です。Deniece Williams の名を知る日本人はあまり多くはないと思いますが、彼女はグラミー賞のゴスペル部門で4回も受賞経験がある実力派歌手。この曲を聴いただけでは分かりにくいかもですが、4オクターブの声域とその高音域での澄み切った声を存分に生かした歌唱力はWhitney HoustonやMariah Carey に負けず劣らずのものなんです。Deniece がゴスペルを得意にしているのは、生まれ故郷であるインディアナ州のGary(ゲリィー)にある教会の聖歌隊Gospel Choir に所属していた経験の賜物。実はWhitney Houston も聖歌隊出身で、黒人が集う教会の聖歌隊というのはゴスペルのエリート部隊みたいなもんですから、Deniece もWhitney もそこで歌唱力を鍛えられたのかも知れませんね。因みにゲリィーはイリノイ州のシカゴとは約50キロしか離れていない製鉄の街だそうで、「あれっ?その地名ってどこかで聞いたことがあるような…」と思って調べてみたら、マイケル・ジャクソンやジャネット・ジャクソンなどジャクソン・ファイブの全員がこの町の生まれでした。ゲリィーは昔から黒人居住者の割合が高い町として知られていて(1972年にアメリカで初の黒人市長が生まれたのもこの町)、低所得者が多く犯罪が多発していたことから、かつては「アメリカで一番危険な町」と呼ばれていた時代もあったようです。Let’s Hear It for the Boy と元気いっぱいに歌っているDeniece Williams の姿を見る限り、彼女がそんな街で生まれ育ったとはちょっと想像がつきませんが…(汗)。

My baby, he don’t talk sweet
He ain’t got much to say
But he loves me, loves me, loves me
I know that he loves me anyway
And maybe he don’t dress fine
But I don’t really mind

あたしの彼って、甘い言葉なんて囁かないし
口数も少ないんだけど
あたしのこと、愛してくれてるの、そう、あたしよ、あたしをね
とにかく分かるの、あたしのことを愛してくれてるってね
多分、彼ってめかし込むことなんてしないんだけど
あたしは気にしないわ

‘Cause every time he pulls me near
I just wanna cheer

だって、彼の傍に引き寄せられるといつも
元気付けたくなっちゃうんだもの

Let’s hear it for the boy
Let’s give the boy a hand
Let’s hear it for my baby
You know you gotta understand
Maybe he’s no Romeo
But he’s my loving one-man show
Wooah, wooah, wooah-oh
Let’s hear it for the boy

好きな人に声援を送ろうよ
好きな人の為に一肌脱ごうよ
あたしの彼に声援を送ろうよ
分かってるよね
彼って情熱的な人なんかじゃないかもって
でも、あたしを愛してくれてる人なの
さあ、さあ、さあ
好きな人に声援を送ろうよ

My baby may not be rich
He’s watching every dime
But he loves me, loves me, loves me
We always have a real good time
And maybe he sings off-key
But that’s all right by me, yeah
‘Cause what he does, he does so well
Makes me wanna yell

あたしの彼ってお金持ちじゃないし
ケチケチしてるんだけど
あたしのこと、愛してくれてるの、そう、あたしよ、あたしをね
だって、あたしたちっていつもイイ感じだもの
彼って頓珍漢な人かも知れないけど
あたしは構わないわ、ええ構わない
だって、彼ってなんでもうまくやっちゃうから
エールを送りたくなっちゃうんだもの

*このあと第1節から3節までのフレーズを再度繰り返し、最後にアウトロでLet’s hear it for the boy, Let’s hear it for my man, Let’s hear it for my baby を狂ったように連呼して曲は終了します。

Let’s Hear It for the Boy Lyrics as written by Dean Pitchford, Tom Snow
Lyrics © Sony/ATV Melody

【解説】
シンセ・ポップと呼ばれるシンセサイザーが作り出す軽快なメロディーラインに乗って歌われるこの曲の歌詞、「なんだかクドい歌詞だなぁー」と思って作詞者のクレジットを見てみたらDean Pitchford, Tom Snowとあったのでなるほどと納得しました。だってこの二人、第33回でクドい歌詞の曲として紹介したYou Should Hear How She Talks About You の作詞者なんですから(笑)。では早速、そのクドい歌詞を今回も見ていくことにしましょう。

1節目は中学校で習うレベルの単語ばかりなので解説不要。強いて言うならば、2行目のHe ain’t got much to say の聞き取りが難しいということでしょうか。ain’t got が「宴会」にしか聞こえないんですよ(笑)。歌詞の中でHe don’t とかHe ain’t を多用しているところから想像すると、主人公の女性はちょっと気の強い(不良っぽい)ティーンエイジャー女性という設定なのでしょう(←僕の勝手な想像です・汗)。3、4行目にBut he loves me, loves me, loves me. I know that he loves me anyway とあるとおり、その彼女、よほどの自信家のようですね(でなきゃ、極度の妄想狂・笑)。2節目のpull me near は、人を近くに引き寄せるイメージ。pull me close(closer)と言っても同じです。第3節1行目のLet’s hear it for は、パーティーや表彰式などで良く耳にするフレーズで、for のあとに続く人に対して「拍手を送りましょう、拍手をお願いします」という意味で使われる慣用句。パーティーや表彰式といった場以外の日常会話の中でこの表現が出てきた場合は、大抵「応援する」とか「元気ずける」の意味で使われています。なので、この歌詞の中のLet’s hear it for も第1節に出てくるcheer や最後の節に出てくるyell と同じ意味で使われていると考えるのが自然。第3節で良く分からないのは、1行目と2行目の元気ずける相手がthe boy(好きな相手という意味での総称でしょう)となっているのに3行目ではmy babyとその相手を自分の彼氏にしている点で(your baby なら分かるのですが)、仮にthe boy を彼氏のことだとしても、他人に自分の彼氏を元気ずけろとか助けろとか要求してるみたいでなんかヘンな感じです。そんなことを唐突に言われたら、普通は「For what?」と訊き返しますよね。なので、僕には3行目がなぜmy babyになっているのか未だに分からないです(汗)。5行目のRomeo はシェークスピアの戯曲「Romeo and Juliet」のRomeo のことで、劇中のRomeo の姿から転じて「恋する男性」や「情熱的な男性」という意味で使われるようになったようです。6行目のhe’s my loving one-man show はちょっと難解。one-man showは一人で演じる舞台のことですから、5行目のRomeo にひっかけているのでしょう(Romeo and Julietは舞台劇です)。彼氏はRomeo じゃないけど舞台でひとりRomeo を演じてくれているのであり、自分はJuliet なのだと言ってるように僕には聞こえました。第4節2行目のwatch every dime は「10セント硬貨を毎度見つめる→ほんの僅かな金に注意を払う」から転じて「けちけちする」という意味で使われるようになったフレーズです。6行目のsing off-key は「音程を外して歌う、音痴である」という意味ですが、ここでは「ちぐはぐ」や「間のぬけた」という彼氏の性格の暗喩であると僕は理解しました。

以上のように、この曲の歌詞の内容は、主人公の女性が、ルックスや態度はあまりイケてないけど自分のことを愛してくれている彼氏のことを自慢している、と言うか、のろけているものであるということは誰にでも分かりますが、細かな部分を見て行くと、首を傾げざるを得ない部分も幾つかあります。この曲を作詞したDean Pitchford は名門イェール大学で文学を専攻していたはずなので、もう少し気の利いた歌詞を書けなかったのかと思ってしまいます。曲のタイトルも「Let’s Hear It for the Boy」だなんて、長過ぎるし安直なんですよね(←また上から目線かよ・汗)。

【第64回】Private Eyes / Daryl Hall & John Oates (1981)

1970年代中旬から80年代中旬にかけて全米週間ヒットチャートのトップ10に16曲を送り込み、アメリカの音楽業界におけるヒットメーカーとなった二人組のミュージシャン、その名はDaryl Hall & John Oates。今回ご紹介するのは、そんな彼らが1981年にリリースし、11月に週間ヒットチャートで2週連続1位となった他、翌年の年間ヒットチャートでも44位に食い込んだPrivate Eyes という曲です。Daryl Hall & John Oates は(Hall & Oates と短縮形で呼ばれることが多いです)その名のとおり、大学の先輩後輩の関係であったDaryl Hall とJohn Oates が1970年にペンシルベニア州のフィラデルフィアで結成したデュオ(当時の持ち歌の多くはホワイト・ソウル)で、二人とも本名をそのまま芸名として使っていますが、Daryl のファミリーネームの本当の綴りはHohl です。20世紀最後のヒットメーカーとして君臨したHall & Oates。全世界で売れたレコードは4千万枚とも言われていますが、デビューから順調に売れていた訳ではなく、Sara Smile という曲で初ヒットを出すまでに5年の歳月がかかりました。そのSara Smile が収録されたアルバムのジャケットが世間に衝撃的を与えたのは、二人が化粧をした顔の写真が表紙に使われていたからで、その後、ゲイ疑惑がずっと二人につきまとうことになります(John Oates はどうもゲイっぽいですが、本人がそのことについて語ったことはありません)。Private Eyes がヒットした当時、金髪碧眼でハンサムなDaryl Hall に比べると、John Oates は口髭以外の印象が薄く、洋楽ファンの間では名前ではなく「ヒゲの方」と呼ばれていた記憶があるんですけども、任天堂からマリオブラザースがもう3年早く発売されていれば、印象も随分変わっていたでしょうね(笑)。

Private Eyes というこの曲のタイトル、曲を作詞したメンバーの一人であるWarren Pash は(この曲の作詞者としてクレジットには4人の名前が連記されています)、彼が車を運転中、たまたま見かけた映画の看板を見てインスパイアーされたものだと証言していて、その映画というのが、1980年に公開された「The Private Eyes」というコメディー仕立てのミステリー映画だったそうです(因みに、Pash は自分がPrivate Eyes の歌詞を書いたという感じで話をしているのですけど、Daryl Hall はこの曲の歌詞はほとんどJanna Allen(長年Daryl の恋人であったSara Allen の妹)が書いたものだと雑誌のインタビューに対して答えています)。アメリカでPrivate Eye と言えば、普通は「私立探偵」のことを意味しますが、これはミステリー作家のダシール・ハメットも勤務していたピンカートン探偵社(かつてアメリカでは大手の探偵社でした)で使われていたロゴマークが大きな目をデザインしたもので、そのマークの意味が「誰もピンカートンの目からは逃れられない」ということであった為、そこから転じて私立探偵を意味するようになりました。さてさて、この曲はそんな私立探偵のことを歌ったものなのでしょうか?先ずは歌詞をご覧ください。

I see you and you see me
Watch you blowing the lines when you’re making a scene
Oh, girl, you’ve got to know
What my head overlooks the senses will show to my heart
When it’s watching for lies, you can’t escape my

僕は君を見てて、君は僕を見てる
感情的になって言葉を失ってる君を見てるんだ
あー、君は分からなくちゃいけないよ
僕の頭が気付かないことでも、心が気付くってことを
心が嘘を警戒してる時はね、だから君は逃れられないさ、僕の

Private eyes
They’re watching you
They see your every move
Private eyes
They’re watching you
Private eyes
They’re watching you, watchin’ you, watchin’ you, watching you

真実を見抜く目から
その目は君を見てる
君の動きを逐一ね
真実を見抜く目は
君を見てる
真実を見抜く目は
君を見てるんだ、君を見てる、見てる、君を見てるのさ

You play with words, you play with love
You can twist it around, baby, that ain’t enough
‘Cause, girl, I’m gonna know
If you’re letting me in or letting me go, don’t lie
When you’re hurting inside ‘cause you can’t escape my

君は言葉でじゃらし、愛を弄んでる
君は詭弁を弄することができるけど、それじゃあダメなんだ
だってさ、僕は分かるんだもの
君が僕を受け容れようが受け容れまいが、嘘はダメさ
心を傷つけるような時はね、だって、君は逃れられないんだから、僕の

Private eyes
They’re watching you
They see your every move, baby
Private eyes
They’re watching you
Private eyes
They’re watching you, watching you, watching you, watching you

真実を見抜く目から
その目は君を見てる
君の動きを逐一ね
真実を見抜く目は
君を見てる
真実を見抜く目は
君を見てるんだ、君を見てる、見てる、君を見てるのさ

Ooh, why you try to put up a front for me?
I’m a spy but on your side, you see?
Slip on into any disguise
I’ll still know you, look into my

あー、どうして君は僕に言い繕おうとするんだい?
僕は君のことをこっそり探ってはいても、君の味方なんだ、分かるよね?
さっと変装なんかしたって
僕には君だって分かるさ、だって覗き込むから、僕の

Private eyes
They’re watching you
And they see your every move (Oh, babe)
Private eyes (Yeah)
They’re watching you
Private eyes
They’re watching you
Private eyes
They’re watching you (Yeah)
They see your every move (They see it)
Private eyes (Oh)
They’re watching you
Private eyes
They’re watching you

真実を見抜く目で
その目は君を見てる
君の動きを逐一ね(あー、君をね)
真実を見抜く目は(そうさ)
君を見てる
真実を見抜く目は
君を見てる
真実を見抜く目は
君を見てる(そうさ)
君の動きを逐一ね(見てるのさ)
真実を見抜く目は(あー)
君を見てる
真実を見抜く目は
君を見てるんだ

*このあとのコーラスとアウトロは同じフレーズの繰り返しなので省略します。

Private Eyes Lyrics as written by Janna Allen, Sara Allen, Daryl Hall, Warren Pash
Lyrics © Hot Cha Music Co, Almo Music Corp, BMG Gold Songs

【解説】
あれあれぇー、私立探偵の歌ではなかったですね(笑)。この曲を最初から最後まで聴いて僕の頭に浮かんだのは、浮気をして言い訳ばかりする恋人を戒めている男の姿。恐らく、男は恋人の浮気を疑って、彼女がほんとに浮気をしているかどうかこっそり調べようとしているのでしょう。つまり、この曲は世間によくある男女の綾を歌ったものなんです。そして、このこっそり真実を突き止めようとする様をPrivate Eyesという言葉を使って暗喩しているところがこの曲の歌詞のミソ。僕がPrivate Eyes という言葉を「真実を見抜く目」という日本語に置き換えたのは、まさしくそれが理由です。因みにPrivate Eyes のプロモーション・ビデオは、ハードボイルド小説に出てくるようなトレンチコートとソフト帽に身を包んだ私立探偵風のDaryl とJohn がカメラに向かって指差しポーズをし、探偵の目は見ているぞみたいな仕上がりになってますが、あれはこの曲の歌詞の真意からずれてますね(←ほんとかよ・汗)。Daryl はPrivate Eyes の歌詞について雑誌記者に尋ねられた際「If you want to understand what we’re talking about, read between the lines」と答えていて「じゃあ、あんたはちゃんと行間を読んであのプロモーション・ビデオを撮影したんだろうな?」と言いたいところですけど、今回は彼のありきたりなアドバイスに従い、行間を読みながら歌詞を紐解いていくことにしましょう(←まだ言うか・笑)。

第1節2行目のblow the lines は言葉が吹き飛ぶというイメージ。つまり「台詞を忘れる、言おうとしていたことを忘れる」ということですね。make a scene は「声を上げて騒ぐ、悪態をつく、感情的になって見苦しいところを見せる」といったイメージです。3行目ではgirl と呼びかけているので、歌詞の主人公が男性であることが分かります。3行目から5行目のYou’ve got to know what my head overlooks the senses will show to my heart when it’s watching for lies は難しいと言うより、長過ぎてややこしいと言った方がいいでしょうか。4行目は直訳すれば「頭が見逃してしまう感覚が心に示す」であり、要は「頭で分からなくとも心では分かる」ということだと理解しました。頭と心、両者を司るのは脳の働きであり、結局は同じものなのですが、東洋風に分けて考えているところが面白いです。そして、それがどういう時にそうなるのかについて言及しているのが5行目のWhen it’s watching for lies の部分。see はただ単に視界が捉えたものを見ている状態ですが、watch は何らかの意図、目的を持って見ている状態ですね。日本語ではその区別がないので、この歌詞の和訳ではsee に「見る」の字を当てはめ、watch には「観る」の字を使いました。但し、この5行目のwatch は「観る」というより「注意深く見守る、監視する」という意味で使われています。2節目、Private eyes を「真実を見抜く目」という言葉に置き換えた理由は前述のとおり。それにしても、you can’t escape とかwatching you なんてことをこれだけ繰り返し言われると、ちょっとコワいですよね(汗)。今の時代、こんなことを恋人に対して直接口にすればストーカー認定間違いなし。下手すりゃあ、接近禁止命令さえ受けかねません(笑)。第3節2行目のtwist around は「言葉を捻じ曲げる」とか「曲解する」の意味。ain’t enough は「充分じゃない」と言うよりも「それじゃあダメだ」という感じですね。4節目は2節目の繰り返しなので解説不要。第4節の1行目、put up a front は「体裁を繕う、平静を装う」といった意味の慣用句。2行目のspy はその言葉どおりスパイのこと。スパイの仕事はずばり、密かに敵情を偵察することですから、このように訳しました。3行目のslip on は何かの動作を素早く行うイメージ。disguise は変装のことですが、ここでは実際の変装について語っているのではなく、1行目のput up a front と同じ意味で使っていると理解しました。つまり、Slip on into any disguise. I’ll still know you は「言い繕ったところで、僕にはすぐ分かる」ということですね。第5節では、再び狂ったかのようにPrivate eyes. They’re watching you のフレーズの繰り返し。ほんと、コワいです(笑)。

しばらくと言うか、長らくの間、Daryl Hall & John Oates の名を耳にすることはありませんでしたが、2023年11月、二人が持つ楽曲の著作権を第三者に勝手に売り渡そうとしているとかなんとかでDaryl Hall がJohn Oates を訴え(裁判所はJohn に対してDaryl に近づかないよう接近禁止命令まで出しました)、John はJohn でDaryl の訴えは「扇動的、突飛、不正確」と裁判所に反論し、二人が喧嘩別れのような状態になっているというニュースが突然、日本にも舞い込んできました。二人の間で何があったかは知りませんが、二人のどちらかが嘘をついているのだとすれば、彼らは今こそこの曲を聞き直し、嘘をついても真実の目からは逃れられないことを知るべきですね(←その後、Daryl Hall & John Oates は事実上、解散ということになったみたいです・汗)。

【第65回】Jesus He Knows Me / Genesis (1991)

前回に紹介したDaryl Hall & John Oates が80年代のアメリカのヒットメーカーだとすれば、イギリスにも同じ時期、出す曲、出す曲を国内のヒットチャートに送り込んでいたジェネシスGenesis というロックバンドがいたのをご存知でしょうか?ジェネシス自体は1967年にPeter Gabriel(ボーカル担当)が中心となって結成した歴史あるバンドで、1975年にGabriel がグループから脱退してPhil Collins がボーカル担当に変わると、バンドの音楽性もそれまでのプログレ系からよりポップなものへと変わっていき、80年代に多数のヒット曲を生み出す原動力となったのがPhil でした(ジェネシスの音楽をポップ化させた張本人だとして、彼が一部のアホな音楽批評家やマスゴミによって悪者扱いにされていたのは意味不明としか言いようがありません)。このようにボーカル役としての印象が強いPhil Collins なのですが、実は彼、元々は1970年にドラマーとしてジェネシスに加入した人で、当然のことながらドラムを叩くのがメチャクチャ上手いんです。ドラム以外にも、この人が出ているミュージック・ビデオなんかを見ると、小芝居もなかなか上手いと感じさせますが、それもそのはず、彼は子供の頃から子役として舞台や映画で演技を修練しており、ミュージシャンになる前は俳優を目指していたのだそう。ただのハゲ茶瓶ではなかったみたいですね(笑)。まあ、そんなことはさておき、今回はジェネシスの絶頂期の最後を飾ったアルバムWe Can’t Dance に収録されていたJesus He Knows Me という曲を紹介しましょう。そのタイトルからしても、Phil Collins が歌った数多くの曲の中では、かなり毛色の変わった内容の歌詞になっていまして、この曲がリリースされた当時、テレビ伝道師(英語ではtelevangelist と言います)の拝金主義やセックス・スキャンダル、脱税、金銭の横領といった犯罪行為が社会問題化していた状況があったことを頭に入れた上で、以下の歌詞をご覧ください。補足しておくと、テレビ伝道師というのは、主としてアメリカに多くいるテレビでキリスト教系新興宗教の教えを説くペテン師たちのことで、日曜日の午前にテレビをつけると、こういった連中の顔がテレビの画面に大映しになっている番組がよく放映されていました。

D’you see the face on the TV screen
Coming at you every Sunday?
See the face on the billboard?
Well, that man is me
On the cover of a magazine
There’s no question why I’m smiling
You buy a piece of paradise, you buy a piece of me

テレビ画面に映るあの顔が見えるかい?
毎週日曜日に出てくるさ
外の看板のあの顔が見えるかい?
あれってさ、僕なんだよね
雑誌の表紙でさ
僕が微笑んでることに理由なんてないよ
だって、君が買ってるのは天国の欠片、僕の一部だからさ

I’ll get you everything you wanted
I’ll get you everything you need
You don’t need to believe in hereafter
Just believe in me

僕は君の望むすべてのものをあげる
君が必要なすべてのものをあげるよ
未来のことなんて信じなくていい
僕を信じるだけでいいのさ

‘Cause Jesus, he knows me and he knows I’m right
I’ve been talking to Jesus all my life
Oh yes, he knows me and he knows I’m right
Well, he’s been telling me everything is alright

だってさ、イエス様は僕のことも僕が正しいことも分かってるし
僕は人生でずっとイエス様と話をしてきたからね
そうさ、イエス様は僕のことも僕が正しいことも分かってる
イエス様はずっと僕に言ってきたもの、何もかもうまくいくってね

I believe in the family
With my ever-loving wife beside me
But she don’t know about my girlfriend
Or the man I met last night
Do you believe in God?
‘Cause that is what I’m selling
And if you wanna get to heaven
Well, I’ll see you right

僕は家族のことを信じてる
僕と共にある永遠に愛しい妻のいるね
でもさ、彼女、僕の愛人のことは知らないんだよな
昨夜に会った男のこととかもね
君は神を信じるかい?
それって僕の売り物なんだけどさ
君が天国へ行きたいってのなら
今すぐ会おうよ

You won’t even have to leave your house
Or get out of your chair
You don’t even have to touch that dial
‘Cause I’m everywhere

君は家から出なくていいし
椅子から立ち上がらなくてもいい
テレビのチャンネルを変える必要さえもない
だってさ、僕はいつも君の傍にいるんだから

Jesus, he knows me and he knows I’m right
I’ve been talking to Jesus all my life
Oh yes, he knows me and he knows I’m right
Well, he’s been telling me everything’s gonna be alright

イエス様は僕のことも僕が正しいことも分かってる
僕は人生でずっとイエス様と話をしてきたからね
そうさ、イエス様は僕のことも僕が正しいことも分かってる
イエス様はずっと僕に言ってきたもの、何もかもうまくいくだろうってね

Won’t find me practicing what I’m preaching
Won’t find me making no sacrifice
But I can get you a pocketful of miracles
If you promise to be good, try to be nice
God will take good care of you
Well, just do as I say, don’t do as I do

僕が説教の練習をしてることも
何の犠牲を払わないことも君が知ることはないけど
ポケット一杯の奇蹟を君にあげるよ
善良でいい人でいることを君が約束するなら
神は君のことを大切にしてくれる
僕のすることを真似るのではなく、僕の言葉どおりにやるんだよ

Well, I’m counting my blessings
As I’ve found true happiness
‘Cause I’m a-getting richer day by day
You can find me in the phone book
Just call my toll-free number
You can do it anyway you want
Just do it right away

僕は如何に自分が恵まれているかが分かってる
ほんとの幸せを見つけたからね
だってさ、日に日に金持ちになっていくんだもの
電話帳で僕の電話番号を見つけられるから
フリーダイアルの番号に電話してよ
君は好きにやっていいんだ
今すぐやればいいのさ

And there’ll be no doubt in your mind
You’ll believe everything I’m saying
If you wanna get closer to Him
Get on your knees and start paying

君は何の疑問も持たず
僕の言うことをすべて信じるだろうね
だからさ、君、神に近づきたいのなら
跪いてお金を払いなさい

‘Cause Jesus, he knows me and he knows I’m right
I’ve been talking to Jesus all my life
Oh yes, he knows me and he knows I’m right
Well, he’s been telling me everything’s gonna be alright
‘Cause Jesus, he knows me and he knows I’m right
(Jesus, he knows, he knows)
Ooh, yes, he knows me and he knows I’m right
(Jesus, he knows, he knows)
I’ve been talking to Jesus all my life
Well, he’s been telling me everything’s gonna be alright

だってさ、イエス様は僕のことも僕が正しいことも分かってるし
僕は人生でずっとイエス様と話をしてきたからね
そうさ、イエス様は僕のことも僕が正しいことも分かってる
イエス様はずっと僕に言ってきたもの、何もかもうなくいくだろうってね
だってさ、イエス様は僕のことも僕が正しいことも分かってる
(イエス様は分かってる、分かってるんだ)
そうさ、イエス様は僕のことも僕が正しいことも分かってる
(イエス様は分かってる、分かってるんだ)
僕は人生でずっとイエス様と話をしてきたし
イエス様はずっと僕に言ってきたもの、何もかもうまくいくだろうってね

Jesus He Knows Me Lyrics as written by Phil Collins, Michael Rutherford, Anthony Banks
Lyrics © Concord Music Group Inc

【解説】
Jesus He Knows Me の歌詞、如何でしたか?ちょっと長過ぎって感じですが、明らかにテレビ伝道師をこけにしているというか、こき下ろしていて面白いと僕は思いますね。独自性がありますし、鋭いです。Phil Collins は、前回に紹介した歌詞の主人公のように真実を見抜く目private eyes を持つ人なのでしょう。そんなこの曲の歌詞、英語としては特に難しい部分はなくユーモアのセンスも随所に見受けられるので、今回は楽しみながら歌詞を見ていくことにしましょう。

先ずは第1節目、最初の2行は冒頭で述べたとおり、テレビ伝道師のことであり、4行目でthat man is me と言ってますから、この歌詞の主人公はテレビ伝道師だということです。そして、3行目から6行目を聴いて分かるように、テレビ伝道師はそのウザい笑顔をテレビだけではなく、そこら中でふりまいているようですよ(笑)。最後のYou buy a piece of paradise, you buy a piece of me は、テレビ伝道師の番組を見て彼に金を注ぎ込んでいるような愚かな連中に対する皮肉であり、テレビ伝道師の笑顔は、そういった連中から金を巻き上げる為の道具だということでしょう。第2節は和訳のとおり。特に解説が必要な部分はありません。テレビ伝道師はキリストの教えを説いているように見せかけているだけで、テレビの画面の中から言っていることは第2節の歌詞のような利己的な内容でしかないということですね。第3節も同じく解説の必要なし。神と話せるとか、神の代理であるとか、神の生まれ変わりであるとか、その種の戯言は古今東西、ペテン師の常套句です。4節目はユーモア炸裂。1節目から4節目はテレビ伝道師の節操のなさを皮肉っていて、3行目は売春婦を愛人にしていたテレビ伝道師Jimmy Swaggert、4行目は自身がゲイで彼氏漁りに明け暮れていた同じくテレビ伝道師のJim Bakker のことを指しているというのが定説。後半のDo you believe in God?やDo you wanna get to heaven?もまたペテン師の常套句で、これらの言葉を餌にテレビ伝道師は愛人を囲っていくって訳ですね。生臭坊主ならぬ生臭伝道師です(笑)。

第5節3行目のtouch that dial は「Don’t touch that dial!」といって、昔テレビ番組で良く使われていたフレーズ。「テレビのチャンネルに触らないで」即ち「チャンネルは変えないで、チャンネルはそのまま」という意味です。5節目が描写しているのは、テレビの前でテレビ伝道師の言葉に耳を傾けているような連中の姿でしょう。第6節は第3節の繰り返し。但し、第3節ではeverything is alright と断定調であったものがeverything’s gonna be alright とやや心が揺らいでいます。第7節の最初の2行は、テレビ伝道師の偽善者たる姿の描写。3行目以降は偽善者の戯言。最後のjust do as I say, don’t do as I do は「Do as I say, not as I do」という英語の諺の言い換え。そもそも人間は自分が言ったとおりの行動をそのとおりにできる訳でもないから、私のするとおりにするのではなく、私の言うとおりりにしなさいという意味で、自分で実行していないことでも、人にはそうしろと言いたい場合に使われます(日本人の感覚では、ちょっと首を傾げたくなる表現ですが)。第8節と9節も皮肉が効いてます。8節目は君も僕のところに電話してきてくれたら、またまたカモが増えて、ますます儲かると言ってるも同然です。9節目の最後の行は「Get on your knees and start praying 跪いて祈りなさい」と言うべきところを、pray にpay をひっかけて「Get on your knees and start paying 跪いて金を払いなさい」としているところがとても面白いです。まさしく、テレビ伝道師の拝金主義に対する批判ですね。

さて、Phil Collins が風刺したテレビ伝道師という存在、その後どうなったのでしょうか?残念ながら、21世紀になった今でも消滅していないばかりか、キリスト教系新興宗教に留まらずイスラム教のテレビ伝道師まで出てきている始末です。但し、テレビなんてつまらないものは老人以外もう誰も見ない時代になってきていますから、活動の場はテレビからネットの世界に移りつつあり、特定の伝道師がいる訳ではないものの、ネットで若者を盛んに勧誘している「イスラム国」などはその最たるものと言えます。日本でも宗教団体の悪行が後を絶ちませんが、宗教を利用して権力や利益を得ようとする人間と宗教にすがる人間(と言うか、自分で考えることをせずに他人にすがる人)がいなくならない限り、この種の問題は今後も世界中で続いていくことでしょうね。恐ろしい話です。

【第66回】Crazy Little Thing Called Love / Queen (1979)

これまでイギリスの曲もかなり紹介してきたつもりでしたが、まだまだ紹介できていない英国出身のミュージシャンが数多くいることに気付いたので(←今更かよ・汗)、急遽「UK特集」を組むことにしました!ということで、暫くはイギリスの名曲を連続で紹介していきたいと思います。黒人音楽のリズム&ブルースをロックンロールに昇華させたのはアメリカの白人ですが、実のところ、そのロックンロールをさらにロック(特にハードロック)へと昇華させた功績の半分はイギリス人にあると言っても過言ではないくらい、英国には有能なミュージシャンが数多くいるんですよね。今回紹介するミュージシャンは、全世界で3億枚のレコードが売れたとされ、2024年にその楽曲の権利がエンターテイメント系企業に約2千億円で買い取られた「クイーンQueen」です。そのバンド名からしても、なんだかイギリスの女王陛下(今はチャールズ国王に変わってますけども)をイメージさせて「ザ・英国」といった感のあるQueen ですが、ボーカル担当でバンドの顔であったFreddie Mercury(フレディー・マーキュリー)は、アフリカ東部のタンザニア沖に浮かぶザンジバルという島で生まれたインド人でした(当時のザンジバルはイギリスの植民地であったので英国領)。彼は17歳の時に両親と共に英国へ移住し(移住の目的はザンジバルで起こった政変から逃れる為)、Queen のメンバーに加わったのは24歳の時(と言っても、当時のバンド名は「Smile」というダサいもので、フレディーの提案で「Queen」に変えたそうです。また、その際に彼は本名のFarrokh Bulsara(ファルーク・バルサラ)から英国風のFreddie Mercury に改名しています)。Queen のフロントマンがインド人であったというのは意外ですが、フレディーもそのことにはあまり触れられたくなかったみたいで、彼が自ら出自を語ることはありませんでした。若かりし頃、僕がQueen の曲を聴くことはほとんどなかったんですけど、唯一例外であったのが今日お届けするCrazy Little Thing Called Love という曲。と言うのも、中学生の時、僕はラジオから流れてきたオールディー風のこの曲のメロディーラインを聴いてとても気に入ったんですが、Queen の曲だとは知らなかったと言うか、あまりにも作風が違っていて分からなかったからなんですよね。この曲がQueen のものだと知ったのはずっと後になってからのことです(勿論、歌詞の意味もですが・汗)。

This thing called love
I just can’t handle it
This thing called love
I must get ‘round to it, I ain’t ready
Crazy little thing called love

こういった恋ってものはさ
僕にはうまくやれないんだよね
こういった恋ってものはさ
やってみなきゃいけないんだけど、僕には準備ができてないんだ
恋っていうイカれたちっぽけなものに対してね

A-this thing (This thing)
Called love (Called love)
It cries (Like a baby)
In a cradle all night
It swings
It jives
It shakes all over like a jellyfish
I kinda like it
Crazy little thing called love

こういった(こういった)
恋ってものは(恋ってものは)
泣くことなんだ(赤子みたいに)
揺り籠の中で一晩中ね
揺れて
揺られて
あちこちで揺れてるんだ、クラゲみたいに
でも僕さ、なんか好きかもね
恋っていうイカれたちっぽけなものが

There goes my baby
She knows how to rock ‘n’ roll
She drives me crazy
She gives me hot and cold fever
Then she leaves me in a cool, cool sweat

彼女、行っちゃったよ
ロックンロールのやり方が分かってた彼女
僕を虜にした彼女
僕の熱を上げたり下げたりした彼女
そんな彼女が冷たく僕を振るなんて、冷や汗ものさ

I gotta be cool, relax, get hip
And get on my tracks
Take a back seat, hitch-hike
And take a long ride
On my motorbike until I’m ready
Crazy little thing called love

僕は冷静になって、心を落ち着けて、状況を理解して
前に進まなきゃね
車の後ろに乗って、ヒッチハイクして
長距離をドライブするんだ
バイクに乗って、準備ができるまでね
恋っていうイカれたちっぽけなものの準備がさ

Yeah
I gotta be cool, relax, get hip
And get on my tracks
Take a back seat
Hitch-hike
And take a long ride on my motorbike
Until I’m ready
Crazy little thing called love

そうさ
僕は冷静になって、心を落ち着けて、状況を理解して
前に進まなきゃね
車の後ろに乗って
ヒッチハイクして
長距離をドライブするんだ、バイクに乗って
準備ができるまで
恋っていうイカれたちっぽけなものの準備がさ

This thing called love
I just can’t handle it
This thing called love
I must get ‘round to it
I ain’t ready

こういった恋ってものはさ
僕にはうまくやれないんだよね
こういった恋ってものはさ
やってみなきゃいけないんだけど
僕には準備ができてないんだ

*このあと、アウトロでCrazy little thing called love, yeah, yeah を連呼して曲は終了します。

Crazy Little Thing Called Love Lyrics as written by Freddie Mercury
Lyrics © EMI Beechwood Music

【解説】
フレディー・マーキュリーはエイズに罹患し、1991年に45歳で早逝していますが、生前、この曲についてエルビス・プレスリーに捧げる為に作ったものだと語っていたそうです。その言葉どおり、コントラバスが似合いそうなこの曲のメロディーラインは確かにロカビリー風ですね(歌い方もなんかプレスリーを真似てっぽいです)。フレディーは「’Crazy Little Thing Called Love’ took me five or ten minutes」とも語っていて(誇張のような気がしないでもないですけども)、そんな短時間で作ったせいなのか、その歌詞は練り上げたというよりも、頭に浮かんだ短い言葉を次々になぐり書きしたような感が無きにしもあらずで、歌詞に使われているのは簡単な単語ばかり。ですが、注意深く聴いてみるとなかなか奥の深い構成になっています。英語のlove は日本語に置き換える際、「愛」なのか「恋」なのかを区別することが重要であると以前にお話ししたことがあると思いますが、この曲に出てくるlove は日本語で言うところの「恋」の方です。

第1節4行目のget around to~は、ずっと時間がなかったけどようやく取りかかれる、手がまわるといったイメージ。この第1節だけ聴くと、歌詞の主人公は恋愛に初心な人物で、初めての恋愛にまだ踏み出せていないって印象を受けますが、果たしてそうなんでしょうか?そのヒントが出てくるのが次の節です。第2節の初っ端にA-this thing という文が出てきます。普通は軽く聞き流してしまうと思いますが、わざわざA-this という言葉を使っているからには何か意味があるはずです。文法上、a とthis が結びつくことはありませんから、この部分はa thing と言おうとした主人公が、思い直してthis thing にしたという心の動きだと僕は理解しました。それがどういうことかと言うと、例えば、ネイティブ話者が「Is this a thing?」と尋ねてきた場合、それは「それって普通のこと?」と訊いているのであり、a thing には「普通の」というイメージが重なります。つまり、主人公は「普通の恋」と言おうとしたんですが「いやいや、やっぱり普通ではないな」と思いthis thing に言い換えたのです。それ故に、主人公は最後の行でCrazy little thing とさらに言い換えているのではないでしょうか(←僕の考え過ぎかもですので悪しからず・汗)。第2節に出てくるswing、jive、shake の3つの動詞に共通するイメージは「揺れる」という動きであり、7行目にlike a jellyfishという言葉を使っているのも唐突ではなく、ネイティブ話者がfeel like jelly とかturn to jelly と言った場合、それは足や膝がゼリーみたいにふにゃふにゃになっているという感覚を表していて、怖れや不安で震え始めているような状態を意味するからです。jelly にjellyfish をひっかけているという訳ですね。つまり、3行目から7行目までの文が暗喩しているのは主人公の揺れ動く心であるというのが僕の結論です。

その揺れ動く心がの正体が何であるのかが明らかになるのが第3節。この節を聴いてもらえば分かるとおり、主人公の心が揺れていた原因が失恋であることは明白。この歌詞の主人公は自らの破れた恋をCrazy little thing called love と呼んでいますが、第2節の落ち込みぶりから見ると、little thing ではなかったようですね。だからこそ、crazy という言葉を自虐的に冠しているのだと思います(笑)。第3節1行目のThere goes~は、goes のあとに物が来れば、その物がどこか違う場所へ行ってしまうというイメージ、人が来るならば、去って行ってしまうというイメージです。5行目のin a cool はin a cool way と言葉を補って訳しました。この節に出てくる主人公を振る人物がshe なので、この歌詞の主人公が男性であることがここではっきりしますが、この歌を熱唱しているフレディー自身はゲイであったというのが定説ですから、彼はHeと歌いたかったのだろうかと考えるとちょっと面白いです。4節目で語られているのは失恋後の主人公の心情。日本でも傷心して一人旅に出たりする人がいますが、そんな感じですかね。この節で注目していただきたいのは4行目からのtake a long ride on my motorbike until I’m ready というフレーズ。ここで主人公が言っているuntil I’m ready は、失恋の傷心を癒して次の恋の準備ができるまでということであり、つまり、第1節に出てきたI ain’t ready は、初心な男がまだ恋愛の準備ができていないということではなく、女性に振られた男がまだ次の恋への準備ができていないということだったのです(汗)。1行目のget hip はこれだけだと「流行りに乗る」という意味ですが、ここはget hip to the situation として、2行目のtracks は未来に続く道、進むべき道として理解しました。

と、このように、僕にはCrazy Little Thing Called Love は「失恋はしたけど、まあ、次の恋にまたチャレ ンジしてみるか。まだその気にはなれないけど、恋っていいもんだしな」という風にしか聞こえませんでし たが、日本では「愛という名の欲望」なんていう意味不明な邦題が付けられてるせいなのか、違った解釈を している方々も多いようです(汗)。

【第67回】Highway Star / Deep Purple (1972)

ハードロックの先駆者は誰かと問われれば、レッド・ツェぺリンやディープ・パープルといったイギリス勢の名前を真っ先に挙げる人は多いことでしょう。なにせ、70年代初頭のアメリカでハードロックらしきものをやっているのはAlice Cooper くらいしかいてませんでしたからね。今日ご紹介する曲は、そのディープ・パープルが半世紀以上も前にヒットさせたHighway Star。21世紀になった今聴いてもまったく古さを感じさせない名曲中の名曲です。ディープ・パープルは1968年、天才ギターリストの一人であるRitchie Blackmore を中心にロンドンで結成されたロックバンド(バンド名はRitchie の祖母のお気に入りがNino Tempo & April Stevens のDeep Purple だったことに由来するそう)。このバンドもまた、メンバーを入れ替えながら現在も存続しているのですが(80に近い爺さんの集団とか、ちょっと見るに耐えないんですけども・汗)、Highway Star のヒット時のメンバーは、フロントマンでボーカル担当のIan Gillan、前述のRitchie Blackmore、ハモンド・オルガンで華麗な演奏を披露したJon Lord、ソフト帽を被って飄々とベースを演奏する姿がいい味を出していたベース担当のRoger Glover、そしてドラム担当のIan Paice という以上の5人でした。この時のメンバーが揃っていないと、僕の中ではディープ・パープルという気がしないですね。Highway Star という曲は、曲中のギター演奏部分にドイツの作曲家バッハの「トッカータとフーガ・ニ短調」からインスパイアーされた「バッハ進行」と呼ばれる進行コードが用いられていることでも有名で(と言っても、A Whiter Shade of Pale は「G線上のアリア」、When a Man Loves a Woman は「パッフェルベルのカノン」がそれぞれの曲のメロディーラインの下敷きになっていることは素人が聴いても分かりますが、この曲のバッハ進行を聞き取るのは素人には難しいです。当然、僕もどこがそうなのか良く分かりません・汗)、僕はこのバッハ進行を取り入れたのはキーボード担当のJon Lord だとずっと思っていたんですけど(バッハの「未完成のフーガ」を下敷きにした曲が収録されたWindows というアルバムを彼が個人的にリリースしていたからです)、今回、この解説の為にいろいろ下調べをした際にRitchie Blackmore が昔、雑誌のインタビューに答えている記事を見つけ、いつものように僕の勘違いであったことに気付きました(汗)。その記事によると、Ritchie Blackmore はこう発言しています。

「I wanted a very definite Bach sound which is why I wrote it out, and why I played those very rigid arpeggios across that very familiar Bach progression—Dm, Gm, Cmaj, Amaj. I believe that I was the first person to do that so obviously on the guitar」

なので、この発言に嘘がないとすれば、バッハ進行を取り入れたのはRitchie Blackmore だったということですね。バッハ進行が取り入れられていることから、この曲や同じくディープ・パープルのBurn という曲は「ロックとクラッシックの融合」と表現されることが多いようです。でも、ロックとクラッシックの融合というよりも「ロックとジャズの即興演奏の融合」といった感じがしないでもないんですよね。Ritchieはこの曲の歌詞について「I wanted it to sound like someone driving in a fast car, for it to be one of those songs you would listen to while speeding」とも語っていて、スピードが出る車でスピードを出して運転している最中の人に聴かせることを彼がイメージしながらこの曲を作ったことが分かっています(歌詞はRitchie からその趣旨を聞かされたIan Gillan が即興で書いたそう)。では、そんなHighway Star がどんな曲でどんな歌詞なのか?難しい英語は使われてませんし、Ian Gillanの発音は聞き取り易いので、先ずは歌詞を見ないでこの曲をがんばって聴いてみてください。

Nobody gonna take my car
I’m gonna race it to the ground
Nobody gonna beat my car
It’s gonna break the speed of sound
Ooh, it’s a killing machine
It’s got everything
Like a driving power
Big fat tires and everything

誰も俺の車に追いつけはしねえさ
エンジンがぶっ壊れるくらい走らせてやるんだ
誰も俺の車を打ち負かしたりはできねえさ
俺の車は音速だって打ち破るんだ
へへっ、俺の車はぶっ飛んでんだぜ
必要なものはすべて揃ってる
エンジンのパワーとか
ぶっといタイヤだとか、すべてが揃ってる

I love it
And I need it
I bleed it

俺は車が好きなのさ
なくっちゃならねえのさ
だから血眼で走らせるのさ

Yeah, it’s a wild hurricane
Alright, hold tight
I’m a highway star

そうなんだ、俺の車は荒れ狂うハリケーンみたいなもの
さあ、しっかりとつかまりな
俺はハイウェイの帝王なんだぜ

Nobody gonna take my girl
I’m gonna keep her to the end
Nobody gonna have my girl
She stays close on every bend
Ooh, she’s a killing machine
She’s got everything
Like a moving mouth
Body control and everything

誰も俺の女に手出しはできねえ
彼女は最後まで俺の女さ
誰も俺の女と寝たりはできねえ
彼女はいつも俺の傍にいるからさ
へへっ、彼女はぶっ飛んでんだぜ
彼女には必要なものがすべて揃ってる
唇の動きとか
身のこなしだとか、すべてが揃ってる

I love her
I need her
I see her

俺は彼女が好きなのさ
いてくれなくっちゃならねえのさ
だから彼女と付き合うのさ

Yeah, she turns me on
Alright, hold tight
I’m a highway star

そうなんだ、彼女は俺をその気にさせるんだ
さあ、しっかりとつかまりな
俺はハイウェイの帝王なんだぜ

Nobody gonna take my head
I got speed inside my brain
Nobody gonna steal my head
Now that I’m on the road again
Ooh, I’m in heaven again
I’ve got everything
Like a moving ground
An open road and everything

誰も俺の考えには追いつけねえさ
俺は頭の中でも速えんだ
誰も俺の信念を奪うことなんてできねえさ
俺は今、路上に戻ってきたんだ
ああ、そうさ俺は再び天国にいるんだ
俺には必要なものがすべて揃ってる
躍動する大地とか
自由に走れる道だとか、すべてが揃ってる

I love it
And I need it
I seed it

俺は俺自身の生き方が好きなのさ
なくっちゃならねえのさ
だから信念を育むのさ

Eight cylinders, all mine
Alright, hold tight
I’m a highway star

8つのシリンダーは俺のもの
さあ、しっかりとつかまりな
俺はハイウェイの帝王なんだぜ

Nobody gonna take my car
I’m gonna race it to the ground
Nobody gonna beat my car
It’s gonna break the speed of sound
Ooh, it’s a killing machine
It’s got everything
Like a driving power
Big fat tires and everything

誰も俺の車に追いつけはしねえさ
エンジンがぶっ壊れるくらい走らせてやるんだ
誰も俺の車を打ち負かしたりはできねえさ
俺の車は音速だって打ち破るんだ
へへっ、俺の車はぶっ飛んでんだぜ
必要なものはすべて揃ってる
エンジンのパワーとか
ぶっといタイヤだとか、すべてが揃ってる

I love it
And I need it
I bleed it

俺は車が好きなのさ
なくっちゃならねえのさ
だから血眼で走らせるのさ

Yeah, it’s a mad hurricane
Alright, hold tight
I’m a highway star
I’m a highway star
I’m a highway star

そうなんだ、俺の車は荒れ狂うハリケーンみたいなもの
さあ、しっかりとつかまりな
俺はハイウェイの帝王
俺はハイウェイの帝王なんだ
そう、俺はハイウェイの帝王なのさ

Highway Star Lyrics as written by Richard Blackmore, Ian Gillan, Roger Glover, Jon Lord, Ian Paice
Lyrics © EMI Blackwood Music Inc.

【解説】
いいですねー、シビれますねぇー(歌詞はクサいですが・笑)。歌詞を見ずにがんばって聴いてみてみた皆さん、この曲のテーマがロックンロールの王道である「車」と「女」であることが聞き取れましたか?「何を言ってるのかさっぱり聞き取れませんでした!」という英語初心者の方々「大丈夫ですよ!履いてますから!」じゃなくて「大丈夫ですよ、最初はみんなそう!」ですからね。今後もめげることなく何百、何千回と聴き続けてください。そのうち聞き取れるようになってきます。そして「なんとなく言ってることは分かった」という英語中級者の方々、今後はできるだけ歌詞を見ないようにして、聞き取りの訓練を積んでください(←エラそうなことを言ってスミマセン・汗)。では、解説に進みましょう。

第1節2行目のI’m gonna race it to the ground のit が指しているのはmy car。raze something to the ground やrun something into the ground といった同じようなフレーズの響きから、僕の中では車が壊れるまでレースをさせる(走らせる)というイメージが湧いたので(勿論、このレースはレース場でするレースではなく、公道でやる違法なレースだと思われます)このように訳しました。4行目のthe speed of soundは音速のこと、つまりマッハですね。「俺の車はメチャクチャ速いんだぜ」と言いたいのでしょうが、ジェット戦闘機でもあるまいし、はったりをかますにも程があります(笑)。5行目のkilling machine も直訳すれば殺人マシーンですが、第4節のことを考えるとそのままではどうもしっくりこないので、このように言葉を置き換えました。要するに第1節は愛車自慢であり、それほど速い車に乗っているからには、歌詞の主人公は公道レースのチャンプかそれに準ずるような人物なのでしょう。では、この人物はどんな車に乗っているのでしょうか?それは後ほど。

第2節はレコードを聴けば分かりますが(今の時代、レコードなんて聴きませんか・汗)歌ってるというよりもシャウトですね。3行目のI bleed it のit もmy car のことを指していますが、直訳だと「私の車に血を流させる」で、日本語としてはヘン。I bleed it を聴いて僕の頭に浮かんだのは「血を流すほどに(必死に)走らせる」というイメージであったので、このように訳しています。第3節も特に解説は必要ないですね。highway star は直訳すれば「ハイウェイの星」ですが、歌詞の主人公は公道レースの頂点に立っているチャンプであるというイメージを強調すべく「帝王」にしました。第4節では、車自慢から一転して彼女自慢に変わります。4行目のShe stays close on every bend はちょっと分かり辛いですが、bend をcorner に置き換えれば直ぐに理解できます。わざわざbend なんて言葉を使っているのは勿論、2行目のend と韻を踏む為ですね。4行目で主人公が言わんとしているのは「彼女は俺にゾッコンだ」ということの暗喩であると理解しました(この主人公が得意のはったりである可能性ありですが・笑)。5行目をこのように訳した理由は前述のとおり。彼女が殺人マシーンだなんていう和訳だと、殺人鬼みたいでコワいですよね(笑)。7行目と8行目は僕の単なるエロ妄想ではなく、性的な意味合いを含んでいるのは間違いないと思います(第6節でshe turns me on と出てきますので)。まあ、要するに主人公の彼女は世間で言うところの「イイ女」なのだということでしょう(笑)。第5節の3行目は「彼女を見つめる」でもいいかなとも思いましたが、see は現在進行形で使われる場合、付き合うという意味にもなったりしますので、このように訳しました。6節目のturn someone on は前後の文脈によって様々な意味に変わりますが、ここでは前述のとおり「性的に興奮させる、その気にさせる」の意味で使われているとしか思えません。

6節目のあとに入るのは、オルガンソロと呼ばれるハモンド・オルガンを使ったJon Lord の演奏で、歌はしばらく休憩。今や伝説の域に入ったこの有名なオルガンソロはHighway Star という曲を特徴づけるもののひとつとなっていますが、この曲を解説する為の資料を探していた際、このオルガンソロをなんとギターでコピーして演奏している方の映像を偶々インターネットで見つけました。Mayto さんという日本のお嬢さんが演奏している映像だったんですが、このお嬢さん、7弦ギターを手に笑顔を振りまきながらいとも簡単に早弾きをこなしているんですよね。オルガンソロの部分は、Ritchie Blackmore が16和音が入っていてこの曲のギターソロよりも演奏が難しいと語っているのですけど、そんな超絶難しいパートをギターで早弾きしてしまうなんて、もう驚きとか感動を通り越して笑ってしまいました(失礼な表現でスミマセン・汗)。その卓越した演奏技術からしてMayto さんはプロのギター弾きなのでしょうが、日本でもこのようなお嬢さんが出てくる時代になったのかと思うと感無量です。

さて、オルガンソロを聴き終えると、次は7節目。第1節では自慢の車、第4節では自慢の彼女のことが語られていましたが、第7節で語られているのは歌詞の主人公自身についてです。流れからして当然「自分自慢」であると考えるのが自然でしょう(笑)。1行目から3行目は、何が言いたいのか良く分かりませんが(汗)、head やbrain はheart と同義語であり「heart=この主人公の思い=信念=主人公が自ら信じている生き様、生き方」と僕は理解しました。ネイティブ話者の中には、例によってここの節をドラッグと結びつけて考えようとする人が多いみたいなんですけど(恐らくI got speed inside my brain やI’m in heaven again というフレーズから短絡的にそう考えるのでしょう)、僕には歌詞の主人公が自分が公道レースに命を懸けて生きていることの(彼にとっては天国で暮らしているも同然の)喜びを爆発させているようにしか思えないです。第8節のI seed it も意味不明な表現ですが、ここのit はmy head を指しており、seed は種を蒔いて育てるというイメージからdevelopment という言葉が僕の頭に浮かびましたのでこのように訳しました。そして第9節。大変お待たせしました!ようやくここで主人公の車が判明です。Eight cylinders は、1970年前後に次々と登場した高出力、大排気量のV型8気筒エンジンを積んだ後輪駆動(FR)のアメリカ製クーペの言い換えでしょう。ガソリン垂れ流しみたいな所謂muscle car のこと。車種で言えばプリマス・ロードランナーとかダッジ・チャージャー、ポンティアックGTOあたりですかね。そんな車でハイウェイをぶっ飛ばしている主人公の姿が目に浮かびます。因みに8気筒を英語で言うとeight-cylinder。わざわざハイフンが入れられているのは、この言葉のうしろに通常はengine が来て形容詞のようにして使われることから形容詞であることを明確にする為で、単体だと名詞ではありますが形容詞扱い。なのでcylinder は単数形となります(I have a ten-year-old son とか言うのと同じ理論)。

さてさて、ハードロックの基本がすべて備わっているかのようなHighway Star、如何でしたか?車の運転中にこの曲を聴くと、確かにアクセルを踏み込んでしまうかもですが、くれぐれも安全運転でお願いしますね(←スピード違反は犯罪です・汗)。それと、Ritchie Blackmore のようにギターの演奏中にギターを破壊するような真似もしてはなりません(普通はいませんよね、そんな阿呆は)。道具を大切にしない奴は屑です(怒)。その道具を作った人たちに対するrespect がありませんから。と、ヘンなまとめ方で本日はお終い!(笑)

【第68回】Da Ya Think I’m Sexy? / Rod Stewart (1978)

その昔、染めた髪ではない本物の金髪とアイドルのような甘いマスク、そして、一度聞けば誰もの耳に残るハスキーボイスで多くの女性を魅了したRod Stewart。税金の高い祖国から逃れるようとアメリカへ移住し、ハリウッドの豪邸で長らく暮らしていたこの人もイギリス人なんですが、今日はそんな彼が1979年にヒットさせてビルボード社年間ヒットチャートで4位に輝いたDa Ya Think I’m Sexy?という曲を紹介しましょう。別にRod Stewart に興味はないですし、彼の曲が好きな訳ではないですけども、この曲には有名なおもしろエピソードがあるので取り上げることにしました。どんなエピソードなのかと言いますと、ズバリ、盗作事件です!所謂パクリというやつですね(←どこがおもしろエピソードなんだ・汗)。ブラジルのJorge Ben Jor という歌手が、Da Ya Think I’m Sexy?は自分が1972年に発表したTaj Mahal という曲の盗作だと裁判所に訴え、裁判所が著作権侵害に当たるとして彼の主張を認めたのです。Taj Mahal はそのタイトルどおり、インドのタージ・マハルを建造した皇帝ジャハーンとその妃マハルが育んだ愛についてポルトガル語で歌ったもので、歌詞はDa Ya Think I’m Sexy?と似ても似つかないものですが、この2曲を聴き比べればメロディーラインが完全にパクリであることは誰の耳にでも分かりますから、当然の結果だったと言えるでしょう(笑)。後になってRod Stewart は自身でも盗用を認めましたが、無意識のうちに真似ただけだし、曲のメロディーラインの核となる部分を真似ていなければ、盗用には当らないみたいなことを言ってたようです。「無意識って、いやいや、Da Ya Think I’m Sexy?のメロディーラインの基本線はTaj Mahal そのものですよ。あんた、最初から計画的にパクったでしょ」って感じなんですがね(笑)。結局、Rod はJorge に金を握らせたのか、Jorge は訴えを取り下げ、以降のこの曲の印税収入をすべて国際連合児童基金(UNICEF)に寄付するというなんだか訳の分からない和解でもって事件は解決しています。

She sits alone waitin’ for suggestions
He’s so nervous, avoidin’ all the questions
His lips are dry, her heart is gently poundin’
Don’t you just know exactly what they’re thinkin’?

女が一人腰掛け誘われるのを待ってる
なのに男は固くなって話しかけるのを避けてる
彼の唇は乾き、彼女の胸は高鳴ってる、静かにね
二人が何を考えてるかなんてこと、分かるよね?

If you want my body and you think I’m sexy
Come on, sugar, let me know
If you really need me, just reach out and touch me
Come on, honey, tell me so (Tell me so, baby)

君が僕の体を求めるなら、僕のことをセクシーだって思うなら
いいんだよ、そう言ってくれてさ
君がほんとに僕を必要としてるなら、手を差し伸べて僕に触れてくれ
さあ、彼女、そうするって言ってくれ

He’s actin’ shy, lookin’ for an answer
Come on, honey, let’s spend the night together
Now, hold on a minute before we go much further
Give me a dime so I can phone my mother
They catch a cab to his high-rise apartment
At last, he can tell exactly what his heart meant

男はシャイを演じ、返事の言葉を探してる
さあ、彼女、今夜は一緒に過ごそうよ
でも、ちょっと待って、僕たちが先に進む前にね
10セントもらえないかな、母さんに電話できるようにね
そして二人はタクシーで男のタワーマンションへ向かったのさ
彼には分かってるんだ、何をしたいのかってことがさ

If you want my body and you think I’m sexy
Come on, honey, tell me so
If you really need me, just reach out and touch me
Come on, sugar, let me know, ow

君が僕の体を求めるなら、僕のことをセクシーだって思うなら
いいんだよ、そう言ってくれてさ
君がほんとに僕を必要としてるなら、手を差し伸べて僕に触れてくれ
さあ、彼女、そうするって言ってくれ

His heart’s beating like a drum
‘Cause, at last, he’s got this girl home
Relax, baby, now, we are all alone, ow

男の胸はドラムを叩くかのように高鳴ってる
だってさ、終に彼女を部屋へ連れ帰ったんだもの
さあ、彼女、リラックスしてよ、僕たち二人っきりなんだから

They wake at dawn ‘cause all the birds are singing
Two total strangers but that ain’t what they’re thinking
Outside, it’s cold, misty and it’s raining
They got each other, neither one’s complaining
He says, "I’m sorry but I’m out of milk and coffee
Never mind, sugar, we can watch the early movie"

小鳥のさえずりで目覚めた二人
全く見知らぬ同士の二人だけど、そうは考えてない二人
外は寒くて霧がかってて、雨も降ってる
二人は不満もなく、互いに分かり合ってる
そして男はこう言うのさ「ごめん、ミルクとコーヒーを切らしてんだけどさ
気にしないでよね、朝から映画を観るのも悪くない」ってね

If you want my body and you think I’m sexy
Come on, sugar, let me know
If you really need me, just reach out and touch me
Come on, honey, tell me so

君が僕の体を求めるなら、僕のことをセクシーだって思うなら
いいんだよ、そう言ってくれてさ
君がほんとに僕を必要としてるなら、手を差し伸べて僕に触れてくれ
さあ、彼女、そうするって言ってくれ

If you really need me, just reach out and touch me
Come on, sugar, let me know
If you really, really, really, really need me
Just let me know
Just reach out and touch me
If you really want me
Just reach out and touch me
Come on, sugar, let me know
If you really need me, just reach out and touch me
Come on, sugar, let me know
If you, if you, if you really need me
Just come on and tell me so

君がほんとに僕を必要としてるなら、手を差し伸べて僕に触れてくれ
さあ、彼女、そう言ってくれ
君がほんとに、ほんとに、ほんとに、ほんとに僕を必要としてるなら
そう言ってくれ
手を差し伸べて僕に触れてくれ
君がほんとに僕を必要としてるなら
手を差し伸べて僕に触れてくれ
さあ、彼女、そうするって言ってくれ
君がほんとに僕を必要としてるなら、手を差し伸べて僕に触れてくれ
さあ、彼女、そう言ってくれ
もしも、もしも、君がほんとに僕を必要としてるなら
こっちへ来てそう言ってくれればいいのさ

Da Ya Think I’m Sexy? Lyrics as written by Rod Stewart, Carmine Appice, Duane Hitchings
Lyrics © EMI April Music Inc, Full Keel Music, WB Music Corp.

【解説】
曲のアレンジといい、歌詞の内容といい、70年代アメリカのディスコブームに乗っかろうとしたことが見え見えの曲ですね(笑)。Rod Stewart という人は商魂たくましいというか、音楽ではなく商売の才能がある人のようです(そのおかげなのか、彼の個人資産は約300億円だそう・汗)。この曲のタイトルのDa Ya はDo You のことでして、Da Ya なんて文字を当てている時点でもうクサいです(笑)。ではでは、そのクサい歌詞を見ていくとしますか(←なんで嫌々?←興味のない曲だからです←じゃあ、紹介するなよ←UK特集なので、まあいいかと思いまして・汗)。

先ずイントロにsugar, sugar と連呼するRod の声が入っているのに気付かれましたか?これは「砂糖をくれ、砂糖をくれ」と言っているのではないですね(笑)。sugar はhoney やsweetheart 等と同様の女性に対する呼びかけの言葉です。第1節は簡単な英語しか使われていませんが、少し頭を働かせないとうまく理解できません。1行目のsuggestions は直訳すれば「提案」ですが、ここでの意味は男からの提案、つまり、男からの誘いの言葉。2行目のquestionsも直訳すれば「質問」ですが、ここでの意味は女への質問なので、女に対する誘いの言葉であると僕は理解しました。4行目のDon’t you just know exactly what they’re thinkin’? の答えは勿論sex 以外に他はないでしょう(笑)。第1節を聴いて僕の目に浮かんだのは、ディスコの店内でソファーに腰掛け男の誘いを待っている女とその女を見つめる男。そんな男女の姿でした。第1節に登場した男は、緊張してなかなか女に声をかけられないでいるような男といった感じでしたが、第2節を聴くと、心の中では全く違ったことを考えている男であることが分かってきます(笑)。第2節で男が主張しているのは「俺はイイ男なんだから、女の方から声をかけてこい」というとんでもないことなんですよね。なんとも上から目線な嫌味野郎じゃないですか(笑)。因みに、この曲の歌詞に関してRod は、自分のことを歌っているものではないと明言しています。

第3節は、3行目まではまあいいとして、4行目があまりにも唐突かつ意味不明です。例によってこの時代は携帯電話なんてない時代ですから、公衆電話で電話をする為に10セントをくれと男は言っているのですが、自称イイ男がこんなセコいことを言うなんて…。しかも、母親に電話したいだなんて意味不明です。ひょっとして、男は母親と同居かなんかをしていて(母親の面倒をみていて)「今から女を連れて帰るから、部屋を開けてくれ」とでも言うつもりなんでしょうかね。良く分かりません(汗)。6行目のtell は「語る」ではなく「分かる、想像をつける」の意味で使われているtell です。he can tell exactly what his heart meantってまた同じことを言ってますね。何をtell できるのかと言うと、勿論sex 以外に他はないでしょう(笑)。第4節は2節目と同じフレーズの繰り返し。5節目は訳語のとおり。6節目は事を終えた二人が迎えた朝の描写なのでしょうが、ここも唐突感が拭えませんし5行目以降はワケワカメです。ミルクとコーヒーを切らしてるから映画を見に行くって、いったいどういう発想なんでしょうか。この男が知っている映画館の売店のコーヒーが美味いのか、そんな風にしか僕には考えられませんでした。7節目は再び同じフレーズの繰り返しが入り、8節目も同じようなフレーズの連呼。ただ、最後がJust come on and tell me so で終わっていて、これを聴いた瞬間、僕の口から「おいおい、待ってくれよぉー」という言葉が漏れました。この言葉によってシーンが第1節に戻ったとすれば、2節目から7節目までに語られていたことは、まだ実行に移されていない男の頭の中での妄想であったということになるのではないかと思ったんですよね。第3節に出てきたhigh-rise apartment も貧乏暮らしな男の単なる願望だったのかも知れません。そうだとすれば、10セントを恵んでくれというセコさも辻褄が合います(←あくまでも個人の見解・汗)。

おっと、歌詞がクサいせいなのか中身のない歌詞だからなのか、意外に早く解説が終わってしまいました。そんなDa Ya Think I’m Sexy?というこの曲、Rod Stewart の目論見どおり全米で大ヒットすることになったものの、かつてはThe Jeff Beck Group にも属していたことのある彼が金のなる木に群がるかのように変節したことは、同業のミュージシャンたちから大いに馬鹿にされたようです(笑)。

【第69回】Anarchy In The UK / Sex Pistols (1977)

1970年代中旬、闇夜に突然鳴り響く雷鳴のごとくロンドンに出現したパンク・ムーブメント(以降、パンクと記します)。英国に強く残る階級社会や経済的な停滞の続く希望なき社会への反発から生まれたように思われることの多いこのパンクですが、実は歴史や伝統、階級社会とは無縁の米国のニューヨークで生まれたもの。元はと言えば、既存の社会や政治に対する反抗から生まれたヒッピー・ムーブメントの軸足をファッションや音楽といった芸術の世界に移し変えたような活動でした。その新たなムーブメントをニューヨーク滞在中に経験し、ロンドンに持ち帰ったのが英国人のデザイナーMalcolm McLaren という人物で、その彼こそがSex Pistols の生みの親であり、ロンドンでパンクを広めた張本人であることはあまり知られていません。裕福な家庭で育ち実業家でもあったMcLaren はロンドンで衣料品販売の「SEX」という店を経営していて(←すごい店名ですが・笑)、そこに出入りしていた音楽好きの不良少年、Steve Jones とPaul Cookに声をかけ、ボーカル担当としてJohnny Rotten、そして、当時SEX の店員であったGlen Matlock をベース担当に加えて1975年にバンドを結成させました。そして、その翌年にAnarchy In The UK でレコードデビューさせたそのバンドこそが、後にロンドンのパンクシーンを引っ張っていくことになるSex Pistolsだったのです。しかも面白いことに、デビュー直後、英国の民放局の娯楽番組「Today」に出演したSex Pistolsは、生放送でfuck, shit, cunt といった放送禁止用語をバンバン使って局に出入り禁止になっただけでなく、レコード会社からも即座に契約を打ち切られました(当時の映像がネット上にあったので見てみましたが、確かにそれらの言葉を使ってはいるものの、生意気盛りで礼儀を知らない若造が粋がって話しているという感じがするくらいで、現在の若者感覚からすれば、それほど汚い言葉遣いでもないんじゃないかと僕は思いました。そもそも司会者が先にSex Pistols のメンバーを挑発していますし、それよりも彼らと同席していた女性ダンサーの一人がナチの鉤十字の腕章を巻いていることの方が気になりましたね)。ですが、その一方ではバンドの知名度が急激に高まり、一方的に契約を破棄したレコード会社からは違約金として大金をせしめることができています(←なんか確信犯ぽいですけど・笑)。そんな彼らのデビュー曲の歌詞がこれです!

I am an Antichrist
I am an anarchist
Don’t know what I want, but I know how to get it
I wanna destroy passersby

俺はキリストに背く輩さ
そう、俺はアナーキストなのさ
何を望んでるのかは分からねえけど、どうやるのかは分かってる
俺は通りすがりの連中をぶちのめしたいんだよ

‘Cause I wanna be anarchy
No dog’s body

だってな、俺は無秩序でいてえのさ
こき使われる下っ端なんてごめんなのさ

Anarchy for the U.K., it’s coming sometime and maybe
I give a wrong time, stop a traffic line
Your future dream is a shopping scheme

英国の為になる無秩序な世界、それはいつかやって来るし、多分
俺は間が悪い時に、車の行き来くらいは止めてるかもだ
おまえらの夢ってウインドウ・ショッピングくらいだもん

‘Cause I, I wanna be anarchy
In the city
だってな、俺は無秩序でいてえのさ
この街でさ

How many ways to get what you want
I use the best, I use the rest
I use the enemy
I use anarchy

望みのものを手に入れる方法って幾つあるんだ
俺は最善の策を取って、残りの策も利用して
敵も利用して
無秩序も利用する

‘Cause I wanna be anarchy
It’s the only way to be
だってさ、俺は無秩序でいてえんだよ
それが唯一の方法なんだよ

Is this the M.P.L.A.?
Or is this the U.D.A.?
Or is this the I.R.A.?
I thought it was the U.K.
Or just another country
Another council tenancy

それって、アンゴラ人民解放運動のことかい?
それとも、アルスター防衛同盟のことかい?
それとも、アイルランド共和国軍のことかい?
俺は英国のことだって思ってたね
それとも、他の国か
どこかの公営住宅のことかもな

I wanna be anarchy
And I wanna be anarchy
Know what I mean?
And I wanna be anarchist
I get pissed, destroy

俺は無秩序でいてえんだ
そう、無秩序でいてえんだ
俺が何のことを言ってるか分かるかい?
アナーキストになりてえってことさ
頭にくるから、ぶちのめしてやるのさ

Anarchy In The UK Lyrics as written by John Lydon, Steve Jones, Glen Matlock, Paul Cook
Lyrics © WB Music Corp, Warner/Chappell Music Ltd, BMG Ruby Songs, Universal Music Careers

【解説】
デーモン閣下のような不気味な笑い声と、単調なギターのコードだけで構成されているのになかなかイケてる印象的なイントロで始まるAnarchy In The UK。まあ、こんな歌詞の曲を歌うバンドをよくもテレビの生放送に出演させたものだと思いますね(笑)。それでは早速、いつものように歌詞を見ていきましょう、と言いたいところですが、Anarchy In The UK が世に出た1970年代前半のイギリスがどのような状況にあったのかを知っておいてもらうことがこの曲の歌詞の理解には欠かせませんので、少しだけつまらない話にお付き合いください。

当時のイギリスは、長らく政権を担っていた労働党の政策によって基幹産業の国営化が進められた結果、それらの産業の競争力が著しく低下していました。企業が国営になると、労働者は倒産の心配が無くなるだけでなく、利益が出ずに赤字の垂れ流しであろうが自らの給料は保証されるので、徐々に真面目に働かなくなって生産性が落ち、競争力も失われていくのが世の常なのです。かつての共産主義国の企業がそうであったのと同じですね。それだけでなく、イギリス政府は労働者に対する手厚い社会保証政策も推し進めていた為、経済の状態は右肩下がりなのに社会保障にかかる費用は鰻上り。国家の財政は破綻寸前でした。そこに中東戦争の余波による急激な石油価格の上昇(オイルショック)が加わったことで、企業の倒産が増加。街には失業者(特に若者層)が溢れ、政治に対する不信感と無気力がイギリス全土を覆っていたのです。そんな最中に生まれた曲がこのAnarchy In The UK でした。この曲を書いたJohnny Rotten(本名John Lydon)は歌詞についてこう語っています。「I hit on the right note and tone of a country on that was on the verge of political collapse. 俺は政治的崩壊の縁にあった国の状況を的確に捉えたんだ」と。余談ですが、1979年にマーガレット・サッチャーが英国の首相となり、80年代に入るとイギリス経済は徐々に回復していきますが、それはサッチャーの政策が功を奏したのではなく、イギリスが北海で開発を続けていた油田の石油を80年代に入ってようやく輸出できるようになったからでした(オイルマネーで潤い始めた訳です)。

これで、皆さんには当時のイギリスの状況を頭に叩き込んでいただけたと思いますので、歌詞の解説に入るとしましょう。先ずは第1節、聞き慣れぬ言葉がいきなり出てきます。1行目のAntichrist は反キリストと辞書には記されてありますけども、元々はキリスト教の終末論において、イエス・キリストに反対して自らを救世主と名乗る者(偽救世主)のことを指していました。そこから転じて「人を惑わす者」という意味でも使われます。2行目のanarchist は、anarchism 無政府主義(国家や宗教など権威、権力を一切否定し、権力者や法の支配を受けない個人を主体とする一種の共同体社会を築こうとする思想)を信奉する者のことですが、この歌詞の主人公がその思想を理解した上でI am an Antichrist と言っているとは思えませんね(笑)。4行目のI wanna destroy passersby にはテロ攻撃を示唆しているような不穏さがあり、実際、この曲の歌詞を知ったイギリスの情報機関MI5 はSex Pistols を監視対象にしていた時期があったようです(←真偽は不明)。2節目のdog’s body はdogsbody とも綴られ「こき使われる人、下っ端」の意味で主としてイギリス使われる単語。元々は人がやりたがらない重労働に就かざるを得ない人々のことを指していました。次の第3節はちょっと難解というか意味不明。1行目のmaybe をボーカルのJohnny Rotten がマイビと発音しているのは、この歌詞の主人公が労働者階級であることを強調する為かも知れませんし、Johnny Rotten がロンドンの下町育ちなので普段からそう発音しているのかも知れませんが、どちらなのかは分かりません(因みに、彼の両親はロンドンの下町生まれではなくアイルランド人です)。ワケワカメなのがI give a wrong time, stop a traffic line で、普通はI give a wrong time なんて表現はしませんから何を言いたいのか良く分かりませんが、感覚的には悪いタイミングで何かのアクションを起こすようなイメージで、何をしようとしているのかと言えばstop a traffic line です。こちらも奇妙な表現でして、道路を走っている車列を止めるといった風にしか理解できません(stop at traffic line ではないかという説もありますが、at であったとしても意味が良く分かりません・汗)。恐らく、なぜそんなことをするのかの理由が3行目のYour future dream is a shopping scheme で、僕はa shopping scheme をウインドウ・ショッピングの言い換えであると理解しました。当時のイギリスの多くの若者は失業中につき金が無かったので、街の商店やショッピングモールでshow-window の中の商品を眺めるくらいしかできなかったからです。そう考えると、2行目のstop a traffic line は公共の交通手段(金が無いので無賃乗車の可能性もあり)で街の商店やショッピングモールへ暇つぶしに向かう若者たちへの妨害行為とも思えてくるのですが、若者たちのささやかな楽しみをなぜそんな風に邪魔するのか意味不明です。ひょっとすると、そんなつまらないことをしている前に、国家、政府に立ち向かえというメッセージなのかもですが(←いつものように考え過ぎ?)こんな下手くそな比喩では誰も理解できません。なので、第3節がいったい何を言おうとしているのかは理解不能というのが正直なところです(汗)。第4節から第6節までは特に解説が必要な個所はないですね。第7節はAbbreviation のオン・パレードですので、先にそれらの略語を整理しておきます。

MPLA:Movimento Popular de Libertação de Angola
アフリカ南部にあるアンゴラは当時、ポルトガルの植民地で、ポルトガルからの独立を目指して武力闘争を行っていた組織。MPLA はポルトガル語のAbbreviation です。Johnny Rotten がなぜにここでMPLA を引き合いに出しているのかは良く分かりませんが、彼の中ではIRA やUDA と同列の組織だったのでしょう。
IRA:Irish Republican Army
北アイルランドの地を英国から取り戻し、アイルランドとの統合を目指した武装組織。数多くの爆弾テロ、要人暗殺などを繰り広げたことで名を馳せました。
UDA:Ulster Defence Association
IRA に対抗する為に組織された北アイルランド在住英国人の武装集団。

第7節でポイントとなるのは、Is thisのthisがいったい何を指しているのかで、4行目で主人公がI thought it was the U.K.と言っているように、このthis は人々を苦しめる権威、権力という糞みたいな存在のことであると僕は理解しました(IRA やUDA も理想の為に戦っているように見えて、その実は権威を笠に着て恐喝まがいの行為で一般市民から活動資金を巻き上げる)。6行目のcouncil tenancy は普通「公営住宅」を意味する言葉で、そんな公営住宅のような狭い世界にさえも、権威、権力を振りかざす者がいると言っているのではないでしょうか。そして、いよいよ最後の第7節。第1節でI am an anarchist と言っていたのに、ここではなぜかI wanna be anarchist と矛盾したことを言っています。理由はよく分かりませんが、いずれにせよ、前述のとおり、歌詞の主人公はanarchism が何であるのかを理解しておらず「糞みたいな国家、政府は、あるより無い方がまし。その為にもすべてを無秩序にぶち壊してやる。それがアナーキストだ」的な幼稚な発想しか持っていないような気がします。だからこそ最後にI get pissed, destroy と言っているのではないでしょうか(get pissed は小便をひっかけられるという意味から転じて「頭にくる、腹が立つ」という意味を表すようになったスラングです)。

さて、70年代後半に一世風靡したイギリスのパンク・ムーブメント、その後どうなったのでしょう?実のところ、音楽シーンではあっという間に飽きられてしまいました。だって、素人でも直ぐに演奏ができるような単調なコードの組み合わせの曲ばかりですから、やはり、聴いてても退屈してくるんですよね。そして、音楽シーンからパンクが消えて行くと、それに合わせてパンク・ファッションも下火に。僕は1985年から86年にかけて暫くロンドンに滞在していたことがあるのですけど、その頃には街中でpunks を見かけることはもうほとんど無かったです。世の流行なんてものはすべてがそうだと思いますが、パンクもまた、所詮は「銭ゲバ・ムーブメント」だったということでしょう(笑)。

【第70回】Video Killed the Radio Star / The Buggles (1979)

1970年代も末に近づいてくると、イギリスの音楽業界にはパンクブームに端を発した単調な楽曲が溢れ、停滞したままの英国社会に漂うのと同じような閉塞感が音楽の世界をも飲み込み始めていたのですが、その息苦しさを打ち破ろうとするかのように、シンセサイザーの音色を駆使した新種のサウンドが出現しました(その頃に名機Prophet-5 が登場したように、シンセサイザーの性能が著しく進歩したことも要因)。その音楽性の斬新さからnew wave と呼ばれるようになったジャンルで先陣を切った曲のひとつが、本日紹介するThe BugglesのVideo Killed the Radio Starです。The BugglesはTrevor Horn、Geoff Downes、Bruce Woolley の三人が1977年にロンドンで結成したロック・バンド。程なくしてWoolley が脱退し、デュオになった残りの二人は、1979年にこの曲でデビューしていきなり全英週間チャートの1位に輝いた後、バンドの解散を経て、さらなる活動の場を求めアメリカへ。Geoff Downes はAsia を結成してHeat of the Moment(本コーナーの第13回で紹介)を、Trevor Horn はYes の再結成に加わってOwner Of A Lonely Heart を、それぞれアメリカで大ヒットさせました。Video Killed the Radio Star というこの曲(例によって「ラジオ・スターの悲劇」なんてヘンテコな邦題が付けられていますが・汗)、タイトルからして奇抜というかセンセーショナルですよね。でも、意表をつかれるのはタイトルだけでなく、メロディーラインも歌詞も非常に独創的。Video Killed the Radio Star の歌詞は久し振りに手強い相手ですので、心して取り掛かるとしましょう。先ずは日本語訳を見ないようにして英語の歌詞に耳を澄ましてみてください。

I heard you on the wireless back in ’52
Lying awake, intently tuning in on you
If I was young, it didn’t stop you coming through
Oh-a oh-a
They took the credit for your second symphony
Rewritten by machine on new technology
And now I understand the problems you could see

遡ればあんたの声をラジオの放送で聞いたのは1952年だったな
ベッドで横になって眠らないまま、夢中でラジオのダイヤルを合わせてた
俺があんたと張り合う歳になってたとしても、あんたの活躍には敵わなかったろうね
うわぁーうわぁー
ところが奴らはあんたの次の出番を横取りしやがったんだ
新たな技術を使った機械によって出番が消されちまったんだ
俺も今となっちゃあ、あんたがどんな目に遭ったのかが分かるね

Oh-a oh-a
I met your children
Oh-a oh-a
What did you tell them?

うわぁーうわぁー
あんたの子供たちに会ったよ
うわぁーうわぁー
あんた、子供たちに何を話したんだい?

Video killed the radio star
Video killed the radio star
Pictures came and broke your heart
Oh-a-a-a-oh

テレビがラジオの人気者を殺しちまったのさ
テレビがラジオの人気者を殺しちまったのさ
テレビの映像が目に飛び込んで来て意気消沈だ
うわわわわぁー

And now we meet in an abandoned studio
We hear the playback and it seems so long ago
And you remember the jingles used to go

そして今、俺たちは打ち捨てられたスタジオに集い
あの頃の録音を聞いてる、随分と昔のような感じがするよね
あんたは思い出すよ、CMで流れてた歌なんかをね

Oh-a oh-a
You were the first one
Oh-a oh-a
You were the last one

うわぁーうわぁー
ここに最初にいたのはあんただ
うわぁーうわぁー
ここに最後にいたのもあんただ

Video killed the radio star
Video killed the radio star
In my mind and in my car
We can’t rewind, we’ve gone too far
Oh-a-a-a-oh
Oh-a-a-a-oh

テレビがラジオの人気者を殺しちまったのさ
テレビがラジオの人気者を殺しちまったのさ
俺の心の中でも、車の中でもさ
もう昔には戻れないんだ、遠くに来過ぎちまったからさ
うわわわわぁー
うわわわわぁー

Video killed the radio star
Video killed the radio star
In my mind and in my car
We can’t rewind, we’ve gone too far
Pictures came and broke your heart
Put the blame on VCR

テレビがラジオの人気者を殺しちまったのさ
テレビがラジオの人気者を殺しちまったのさ
俺の心の中でも、車の中でもさ
もう昔には戻れないんだ、遠くに来過ぎちまったからさ
テレビの映像が目に飛び込んで来て意気消沈
今度はビデオ録画機のせいにしちまおう

*このあとはアウトロでYou are a radio star とVideo killed the radio star をくどいくらいに連呼して曲は終了します

Video Killed the Radio Star Lyrics as written by Trevor Horn, Geoff Downes, Bruce Woolley
Lyrics © Round Hill Compositions, Universal-Songs of Polygrm Island Music Ltd.

【解説】
Video Killed the Radio Star の歌詞、如何でしたか?軽く聞き流しているだけでは、何を言いたいのか、いまいち良くわかりませんね(汗)。パンク・バンドの演奏能力では絶対に為し得ない計算し尽された電子ピアノのイントロとその後に続くシンセサイザーでエフェクトされたロボット風のボーカルの声(ロボットではなくradio voice と呼ばれていますが)。「名イントロに名曲あり」のセオリーどおりのこの曲ですけども、歌詞に関してはセオリーどおりで書かれているとは言い難い迷曲なので、気合を入れて歌詞を紐解いていきたいと思います。

第1節の1行目。こちらは迷曲のセオリーどおり、最初からぶちかましてくれています(笑)。I heard you on the wireless は直訳すれば「無線であなたの声を聞いた」となり、何がなんやらさっぱりですが、タイトルにRadio Star という言葉が入っていることや、2行目にtune in on~(~にラジオの周波数を合わせる)という句動詞が使われていることから考えると、このthe wireless が「ラジオ放送」の言い換えであることに疑いの余地はありません。1、2行目を聴いて頭に浮かのは、この歌詞の主人公が深夜にベッドの上に横になってお気に入りのラジオ番組を夢中になって聴いている情景であり、実際、この歌詞を書いたTrevor Horn は「Aged three or four, I used to lie in bed listening to Radio Luxembourg」と語っています。3、4歳で既にラジオに耳を傾けていたというのはちょっと眉唾物ですけども(Trevorは1949年生まれなので、確かに52年だと彼は3歳だったんですが…)、彼が少年だった頃の想い出がこの部分の歌詞に反映されているのは間違いないでしょう。彼が聞いていたというRadio Luxembourgはヨーロッパ大陸側のルクセンブルグから英国に向けて強力な電波を使って商業放送を行っていた放送局で、当時のイギリス政府は国営のBBC以外のラジオ放送を国内で認めていなかった為にCMを流す放送自体がイギリスに存在せず、Radio Luxembourg はそこに目を付けていた訳です。

この放送局は電波の感度が上がる夜間にしか放送をしていなかったので、1行目にLying awake という文が入っているのはそれが故ですね。3行目のIf I was young, it didn’t stop you coming throughは相当に難解。come through は文脈によっていろいろな意味に変わりますが、ここでは、頭角を現す(即ち、活躍)とか何かを成し遂げるという意味で使われているとしか考えられません。では「If I was youngであったとしてもそのことがあなたの活躍を止められなかった」っていうのはいったいどういう意味なのでしょう?僕が重要な鍵と考えたのは前述したTrevor の「3、4歳の頃からラジオを聞いていた」という言葉で、そこから「52年の時点で幼児であった自分が、その時、たとえ青年になっていた歳であったとしても、(才能ある)あなたと張り合うことなんてできなかった」という意味なのであろうと推論しました。つまり、この歌詞に出てくるyou(Radio Star)は主人公が尊敬と憧れを抱く人物なのであり、主人公はその後、成人してyou と同業者になっているということです。じゃあ、このyou という人物と主人公はいったい何の仕事をしているのでしょう?この曲の歌詞を聴く限り、ラジオ放送局のDJが一番当てはまるように僕は思ったのですが、Trevor は「the inspiration for the song was a Ballard story called ‘Sound Sweep’ in which a boy goes around old buildings with a vacuum cleaner that sucks up sound. I had a feeling that we were reflecting an age in the same way that he was」とも語っていて、歌詞の主人公である一人称I に彼が自分を重ね合わせていることから考えてみても、you と主人公の職業は歌手であるという結論に達しました(特にyou は、ラジオ放送を活躍の場としていた歌手なのでしょう)。Sound Sweep(正確にはTheSound-Sweep)というのはイギリスの作家J.G.Ballard の短編小説の題名で「最新技術によるultrasonic music 超音波音楽というものの新たな出現により、これまでの音楽はすべて時代遅れとなった世界で、漂う音を掃除機で吸い取る聾唖の主人公の青年が、仕事を失って生活に困窮した末に廃墟となったレコーディング・スタジオで暮らすオペラ歌手と出会って友達になる」という内容の話です。「J.G.Ballard?誰なんだよそいつは?」と思った方は、スピルバーグが映画化したEmpire of the Sun(邦題「太陽の帝国」)の原作者がこの作家だと聞けば「へえー、そうだったんだ」と頷くかもですね。

ふぅー、第1節の解説、かなり長くなってきましたが、まだまだ続きますよぉー(汗)。4行目は、日本では「泡、泡」として有名になったDebi Doss とLinda Jardim によるコーラスの声です(日本人にはそうにしか聞こえませんね・笑)。こんな感嘆詞を口にしているネイティブ話者を見たことはないですけども、驚きとか失望を表している感じでしょうか。5行目と6行目もこれまた難解。They took the credit for your second symphony. Rewritten by machine on new technology は直訳すれば「彼らはあなたの第2交響曲を横取りした(自らの手柄にした)。あなたの第2交響曲は新しい技術を用いた機械によって書き直された」ですが、これだと何がなんだかワケワカメですよね。そもそも、They が誰なのかも分かりません。そこで、この2行を読み解く鍵となってくるのが、この曲のタイトルでもあり第3節に出てくるVideo Killed the Radio Star というフレーズです。こちらも直訳ならば「ビデオがラジオのスターを殺した」となりますが、そこにはいったいどういう意味が込められているのでしょう?手掛かりは、第1節の最初の3行で語られているラジオ放送で活躍していたスター(人気歌手)の存在と、前述したThe Sound-Sweep の「新しい技術の出現によって仕事を奪われる歌手」というストーリー。ここで言うvideo とはテレビの映像のことを指していて(テレビ放送に限らず、テレビゲームや録画機による再生など、テレビを通じて流れてくる映像も含むでしょう)、Video Killed the Radio Star は「ラジオに代わって娯楽の代表格となったテレビが、ラジオの世界で活躍していた人気者の仕事を奪った」ということの比喩なのです。つまり、5行目のthey はテレビで活躍を始めた新参者たちのことであり、second symphony は、テレビが登場してこなければ失うことのなかったRadio Star の活躍の機会の暗喩だと理解しました。なので、They took the credit for your second symphony. Rewritten by machine on new technologyはVideo Killed the Radio Starと同じ意味であるというのが僕の結論です。7行目のI understand the problems you could see も脈絡がなく唐突感が否めませんが、The Buggles は結成後、しばらくはラジオ放送用のjingle を作る仕事で食いつないでいたそうなので(jingleというのはCMソングのことです。関西圏で例を挙げるとすればキダタローさんの名曲「♪とーれとーれぴーちぴーちかにりょおーりぃー♪」みたいなやつですね・笑)、彼らもまた、そんな仕事をしながらラジオがオワコンであることを実感していたのでしょう。その気持ちを表しているのがこの7行目ではないかと思います。これにてやっと第1節の解説が終了(汗)。

第2節もいきなり子供が出てきてなんか唐突過ぎますが、この曲の歌詞の解釈を試みてきた先人たちの間では「The lyrics express disappointment that children of the current generation would not appreciate the past」という解釈が定説になっています。まあ、若者たちが過去を顧みないというのは古今東西同じで、ラジオが一時代を築いていたことに彼らが何の興味も持たないことに失望しているということでしょうね。第3節は特に解説の必要なし。第4節1行目のwe meet in an abandoned studio は、The Sound-Sweep に出てくるワンシーンそのもの。abandoned studio という言葉から目に浮かぶのは、ラジオ人気の凋落によって誰も使わなくなったスタジオの姿です。3行目のjingles は前述のとおり。you remember になってますが、本当はI remember という気持ちもあったのではないでしょうか。第5節も和訳のとおり。you は最初から最後までラジオの時代と共にあった人だということですね。次に第6節3行目、ここのIn my mind は分かるとしても、in my car って何なんだ?なんでここでcar が出てくるんだと思いませんか?その答えとなるのは、この時代になるとカーステレオの普及が進み、人々は車内でカーラジオよりもカセットテープを聴くことの方が多くなっていたという事実でしょう。そのことから、もはや車の中でさえラジオは聴かないという意味でin my car になっていると僕は理解しました(今の若い人の中には、カセットテープが何であるのかも分からない人がいるかもですが・汗)。4行目のWe can’t rewind, we’ve gone too far は「技術の進歩と共に時代はどんどん進んでいる、もう後には戻れない(ラジオの時代に戻ることはない)」という気持ちを表しているんでしょうね。そして、最後の7節目のVCR。VCRはカセット式ビデオ録画機video cassette recorder のことで、1980年頃なら、家庭用でも1台30万円くらいはしていたと記憶していますが、Put the blame on VCR は、テレビがラジオの座を奪ったように、今後はビデオ録画機(自分の好きな時に好きな映像を記録し、好きな時に好きな録画を見ることができるし、見せることもできる)も価格が下がって普及が進み、やがてテレビの座(放送の一方的な押し付けしかしない)を奪う時代が来るであろうことを預言しているように僕には思えましたし、実際にもそういう時代が来ました。この曲を作詞したTrevor Horn という人は、なかなか時代の先を見通す力があったようです。

と、第1節の解説に時間がかかったので、どうなることやらと思いましたけど、それ以降の節はあっという間に終わってしまいましたね!テレビの登場によってラジオの時代が終わったと嘆くVideo Killed the Radio Star というこの曲、実は1981年にアメリカのニューヨークのケーブルテレビ局でMTVの放送が開始された際、一番最初にテレビの画面から流れたのがこの曲のミュージック・ビデオで、その後もMTVで頻繁に流されました。その結果、米国ビルボード社の週間チャートでも40位が最高位、年間チャートでは100位圏外であったこの曲が(イギリス本国では大ヒットしましたが)アメリカでも広く知られることになったのですが、それがテレビのおかげであったというのはなんとも皮肉な話じゃあーりませんか(笑)。

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