【第81回】Who Can It Be Now? / Men at Work (1981)
前回はカリブ海に浮かぶジャマイカ出身のミュージシャンを取り上げましたので、今回は久し振りに南半球のオーストラリアへ飛んでみましょう(←何の脈絡もありませんが・笑)。今日お届けするのは、1983年にアルバム「Business as Usual」とシングル「Down Under」が米国ビルボード社の週間ヒットチャートでアルバムとシングル部門で同時に1位となり(オーストラリアのミュージシャンでは初の快挙)、アメリカだけでなく世界中で一世を風靡することになったロックバンドMen at Work がその前年、アメリカ進出後に初めてヒットさせたWho Can It Be Now?という曲です(1982年のビルボード社年間チャートで30位)。思い返せば、Down Under という単語が特にオーストラリアを指す言葉としてアメリカでも使われるようになったのはその頃からでしょうかね。Down Under は、オーストラリアやニュージーランドがイギリスから見て地球の裏側にある地The Land Down Under であることからこの地域の総称として大英帝国時代に英国人がそう名付けたらしく、Men at Work がDown Under をヒットさせて以来、オーストラリア人は自国を指す意味でDown Under という言葉を逆に誇りを持って使っているようですが、大都市で暮らすアメリカ人なんかがオーストラリアをこの言葉で呼ぶ時は「地球の果ての田舎者の暮らす地だ」みたいな感じのちょっと小馬鹿にしているニュアンスが含まれているような気がしないでもありません(←個人の意見です・汗)。Men at Work はそのDown Under の第2の都市メルボルンで父親が営む楽器店の息子であったColin James Hay が中心となって1978年に結成したバンドで『MEN AT WORK ・工事中(Men working at workの略)』を意味する印象的なバンド名は、出演が決まった演奏会でバンド名を決めなければならなくなった際、公演会場となったホテルの傍の駐車場の工事現場に掲げられていた看板を見て、バンド名をMen at Work にしようと提案したところ、メンバーに受け容れられてそうなったとColin 本人が語っています。さてさて、そんな安直なバンド名を持つMen at Work のWho Can It Be Now?という曲、いったいどんな歌なのか、先ずは歌詞をどうぞ!Who can it be knocking at my door?
Go away, don’t come ‘round here no more
Can’t you see that it’s late at night?
I’m very tired and I’m not feeling right
All I wish is to be alone
Stay away, don’t you invade my home
Best off if you hang outside
Don’t come in, I’ll only run and hide
僕の部屋のドアをノックするなんて誰なんだ?
失せやがれってんだ、二度とこの辺りには来ないでくれ
あんたさ、夜も遅い時間だって分からねえのかよ?
僕は疲れてるし、調子も良くないんだ
僕は一人でいたいだけなんだから
近付かないでくれ、僕の家に侵入しないでくれ
あんたは外でぶらぶらしてるのが一番いいんじゃないかな
中に入って来たって駄目さ、僕は逃げて隠れるだけだからな
Who can it be now?
Who can it be now?
Who can it be now?
Who can it be now?
今頃、誰なんだ?
今頃、誰なんだ?
今頃、誰なんだ?
今頃、誰だってんだ?
Who can it be knockin’ at my door?
Make no sound, tip-toe across the floor
If he hears, he’ll knock all day
I’ll be trapped, and here I’ll have to stay
I’ve done no harm, I keep to myself
There’s nothin’ wrong with my state of mental health
I like it here with my childhood friend
Here they come, those feelings again
僕の部屋のドアをノックするなんて誰なんだ?
僕は音も立てず、床の上をつま先立ちで歩く
だって、もし奴が物音を聞けば、一日中ドアをノックしやがるし
僕は閉じ込められ、ここにずっといなくちゃいけなくなっちまう
僕は何も悪いことなんてしてないよ、人付き合いが無いんだから
僕の精神状態に問題なんて何も無いさ
僕は幼馴染みたちといられるここが気に入ってるんだ
ほら来た、あの感じがまた
Who can it be now?
Who can it be now?
Who can it be now?
Who can it be now?
今頃、誰なんだ?
今頃、誰なんだ?
今頃、誰なんだ?
今頃、誰だってんだ?
Is it the man come to take me away?
Why do they follow me?
It’s not the future that I can see
It’s just my fantasy
Yeah
その男って、僕を連れ出しに来たのかな?
どうして連中は僕の後をつけるんだ?
僕に見えるのは未来じゃない
単なる空想の世界なんだよ
そうなのさ
*このあとリズミカルなサックスのソロが入り、アウトロでWho can it be now?を連呼して曲は終了します。
Who Can It Be Now? Lyrics as written by Colin James Hay
Lyrics © EMI Blackwood Music Inc., EMI Songs Australia
【解説】
イントロで流れるサックスのリフ、コードが単調ではありますが、パンチが効いていて一度耳にすれば二度と忘れることのない響きですね。イントロと後半のソロの部分に入るこのサックスの音色がWho Can It Be Now?を名曲にしたと言っても過言ではないでしょう。サックスを演奏しているのはバンド結成初期からのメンバーであるGreg Ham。冒頭で紹介したDown Under の曲中でフルート演奏を披露しているのもGreg ですが、そのメロディーラインが盗用であると後に訴えられ、原告の訴えを裁判所が認めたことから精神状態が不安定となった彼はヘロインに手を出して麻薬中毒となり、2012年、失意のうちに亡くなりっています(直接の死因は心臓発作でしたが、ヘロインを過剰に摂取する生活がその死の遠因であったことは想像に難くありません)。まあ、そんなことはさておき、この曲の歌詞、聴いてみて如何でしたか?特に難しい英語は使われていませんし、日本語に訳すのが難しいという訳でもないのですが、その割にはなんだか良く分からない内容です(笑)。なので、今回も気合を入れて取り組むとしましょう。
第1節は和訳のとおり。補足するならば、1行目の文はcan が入っているので推量ですね。4行目のnot feel right は「なんかしっくりこない、なんか変な感じがする」という意味で使われることが多いですが、ここでは単に体調や気分を現しています。6行目のdon’t you invade の部分はdon’t invade と言うのと同じですが、you が入ればより口語的。7行目は文頭にIt would be を補足すれば分かり易いでしょう。第1節の歌詞から推測できるのは、この歌詞の主人公が暮らす部屋には(歌詞からだけでは主人公が男性か女性かが分かりませんが、男性が歌っているので男性ということにして主語を「僕」にしました)歓迎せざる人々がよくやって来る(ドアをノックする)のであろうということで、この日はたまたま夜中だったようです。それが故なのか、この曲のレコードが日本で発売された際に「ノックは夜中に」なんていうとんでもない邦題が付けられていましたからびっくりですね(汗)。幸運にも、この第1節の歌詞がどういう経緯から生まれたのかを知る手掛かりをこの曲を作詞したColin Hay が雑誌のインタビューを受けた際にずばり語っていますので先に紹介しておきます。
① I was living in a place called St. Kilda, which is a great part of Melbourne. It’s as close to a red-light district as you could get in Melbourne at that time. There was a great rock’n’roll community, and the nightlife was quite alive. There was a big Jewish population as well. I was in an apartment, and there were lot of police sirens and drug dealers. It was a fantastic place to live.
② There were some people living next door who were moving a bit of product. Mistakes were made, and people would knock on our door looking for some kind of stimulant, and we didn’t have it. You were always hearing people banging on other people’s doors. We had one of those little spy holes, and I was always creeping toward the door when someone was knocking, to see who it was. I was never sure I wanted to open the door.
長ったらしいので簡単にまとめますと、嘗てColin が暮らしていたのは麻薬の売人が集い、警察沙汰の絶えなかったメルボルン郊外の売春街セント・キルダで(それが故に芸術家肌の人々には居心地が良い場所でもあった)、麻薬を求めてやって来た輩が、売人の家と間違えて彼の家のドアを叩くことも多々あったとのこと。彼はその都度、ドアにこっそり近付いて覗き穴から誰がドアをノックしているのか確かめたけども、ドアを開けようと思ったことは一度も無かったそうです(恐らく、その理由は危なそうな奴らばかりだったので・笑)。ということで、そんな経験がそのままWho Can It Be Now?の歌詞の第1節になっていることに疑いの余地はありません。なので、そのことを頭に入れて以降の節を見ていきましょう。
第2節はWho can it be now?のコーラスを繰り返して終了。第1節の1行目から考えて、knocking at my door が省略されていると考えて良いですね。第3節も和訳のとおりで、3行目までは第1節と同様、Colinが過去に経験したのであろうことが羅列されていますが、4行目から突然、どこか人間の内面に踏み込むような内容にトーンが変わります。僕にはこの4行目以降の歌詞がいったい何を言わんとしているのか未だに理解できませんが、敢えてその答えを探してみるならば、この曲の歌詞が書かれた頃(1981年にこの曲がリリースされる直前の頃)のColin が置かれていた状況が参考になるのではないかと思います。なぜなら、その頃の自らの状況を彼は次のように語っているからです。
「I was trying to get out of the situation I was in, which is that I didn’t really have any money. It seemed at that particular time everyone who knocked on my door wanted something from me that I either didn’t have or didn’t want to give them. That could be money, or it could simply be time that I didn’t want to give them」
この発言から僕が得た結論は、Colinn はメジャーなレコード会社から声をかけられ「これで金の無い貧乏生活から抜け出せる」という思いと同時に「果たして自分は彼らの期待に応えられるのだろうか?」という不安と恐怖にも襲われていたのではないかということであり、この歌詞に出てくるmy door というのはColin の心のドアではなかったのかという気が僕にはしました。Colin の才能に気付き始めた色々な人が色々なことを言ってくる中で、彼は「うまく行くかどうかなんて先のことは分かる訳ないじゃないか。あー、今度は誰が何を言いに来たんだ?頼むから今は僕のことをそってしておいてくれよ」という気分だったのかも知れませんね。そのことが第5節のIt’s not the future that I can see. It’s just my fantasy につながっているのだと考えれば納得もできます。なので、7行目からのI like it here with my childhood friend. Here they come, those feelings again は、成功という名のプレッシャーの前で彼が必要としていたのは気心の知れた仲間たちと一緒にいることでありthose feelings は、そのような仲間たちから無条件に感じることのできる安心感であると僕は理解しました。余談ですがI like it here(私はここが気に入っています)はとても英語らしい表現。I like here と言ってもネイティブ話者は勿論理解してくれますが、I like here が間違った表現であってそこにit が必要な理由はいたってシンプル。here は副詞なので何か目的語を入れないといけないからで、特に意味は無いけどもit の助けを借りているという訳ですね。
それでは最後にもうひとつ余談と言うか、オーストラリア出身であると世間一般で認知されていても、実のところオーストラリア生まれではないというミュージシャンは意外に多いというトリビアを紹介してこの回を終えることにしましょう。実例で言えば、今回紹介したMen at Work のColin James Hay もスコットランドのAyrshire 出身でしたし、AC/DC を結成したYoung 兄弟も同じくスコットランドのGlasgow 出身。1980年に急死したAC/DC の元ボーカルBon Scott もスコットランドのForfar 生まれでした。Air Supply のGraham Russell も出身はイングランドのNottingham ですし、オーストラリアでデビューしたBee Gees も英国のマン島出身であることは以前にも紹介したとおり。Olivia Newton-John もイングランドのCambridge 出身ですね(僕は長らくのあいだ、彼女がオーストラリア生まれだと信じて疑っていなかったですけども・汗)。世界進出を果たしたオーストラリアのミュージシャンに英国生まれが多かったという事実は果たして偶然だったのでしょうか?僕には必然だったように思えるのですけども…。
【第82回】Highway to Hell / AC/DC (1979)
今日も前回に引き続きオーストラリアのミュージシャンの曲を紹介しましょう。南半球のロックの実力を世界に知らしめたAC/DC が1979年にリリースしたHighway to Hell という名曲です。1976年、アメリカの大手レコード会社Atlantic と契約し、オーストラリアを離れて世界に打って出た彼らは3年後、この曲を含む同名のアルバムでブレイクを果たし、シングルカットはビルボード週間チャートで最高47位止まりだったものの、アルバムの完成度の高さから全米で一気にその名を高めました。その後もBack In BlackやFor Those About To Rock といった曲を次々とヒットさせ、ダウンアンダーの重鎮となったAC/DC。ですが、オーストラリアのシドニーで結成されたバンドとは言え、結成当時のメンバー5人のうちオーストラリア出身なのはドラム担当のColin Burgess だけだったというのは興味深いところですね(他の4人はイギリス生まれと米国生まれ)。因みにAC/DC(交流/直流)という風変わりなバンド名は、バンド結成の中心となったYoung 兄弟の談によると、彼らの姉妹が使っていた電動ミシンの電源アダプターに「AC/DC」という表示があったことにヒントを得たんだそうで、Men at Work と同様、実に安直な名前の付け方であるのが笑えます。オージー(オーストラリア人)はこのバンドのことを、エーシーディーシーではなく親しみを込めてAcca Dacca (アーカァダッカ)と呼ぶことが多々ありますけども、それはオーストラリア人がハンバーガーショップのマクドナルドをMaccas と呼ぶのと同じようなオーストラリア独自の名前の愛称化によるもののようです。このHighway to Hell という曲を独特の歌声で歌っているのは、この曲の作詞も担当したAC/DC の伝説のボーカルBon Scott。Bon は1946年にイギリスのスコットランドで生まれ、6歳の時にパン屋を営んでいた両親と共にオーストラリアへ移住。子供の頃より悪童として名を馳せ、15歳で学校を中退、以降は職を転々とし、ガソリン窃盗などの罪で少年院に入っていた経験もあります。そんなすさんだ生活の中で唯一の彼の楽しみであったのは音楽で、1964年に自らバンドを結成して歌い始め、2年後に結成したThe Valentines というバンドでリリースしたJuliette は、オーストラリア国内の週間ヒットチャートで28位を獲得しました。ところが、音楽シーンで着実に成功の階段を上っていくその一方、私生活においてのBonは「いつ見かけても酔ってる」と言われるほどに酒浸りで、AC/DC に加入する直前の1974年にはバイクで飲酒運転をして大事故を起こし、生死の間をさ迷いました(病院で3日間昏睡状態)。AC/DC がAtlanticと契約した際には、囚人のような入れ墨を腕に入れたアルコール中毒のBon を問題視したAtlantic が彼をクビにしようとしたというエピソードも有名です。そんなハチャメチャな人生を送っていたBon Scott。やはりと言うのか、なるべくしてそうなったと言うべきなのか、この曲をヒットさせた翌年の1980年、滞在先のイギリスのロンドンで、路上駐車されていた車の中で死体となって発見されました。享年33歳。警察の検視結果による死因は、急性アルコール中毒だったそうです。その死因を麻薬の過剰摂取とする説などもあり、未だに彼の死の真相についての論議が続いていますが、もう随分と昔に亡くなった方なのだからそっとしておいてあげればいいのではと思うのは僕だけでしょうか?(涙)。
歌詞の解説に入る前になぜBon の人生を少し詳しく紹介したのかと言いますと、Highway to Hel という曲の歌詞はBon の魂の叫びそのものであり、彼は自らの運命を既に予感していたのではないかと感じさせるからで「今という瞬間瞬間が楽しければそれでいい」的なBon Scott の生き様を念頭に置いて、先ずは曲を聴いてみてください。
Livin’ easy, lovin’ free
Season ticket on a one-way ride
Askin’ nothin’, leave me be
Takin’ everything in my stride
Don’t need reason, don’t need rhyme
Ain’t nothin’ I’d rather do
Goin’ down, party time
My friends are gonna be there too, yeah
気楽に生きて、自由を愛する
片道だけの定期券さ
俺には何も求めず、俺のことはほっておいてくれ
俺はどんな困難だって乗り越えるさ
理由も脚韻もいらねえんだ
やりたいことはむしろねえ
あそこへ行ってパーティーを楽しむだけだ
俺のダチどもも来てるだろうしな、ああそうさ
I’m on the highway to Hell
On the highway to Hell
Highway to Hell
I’m on the highway to Hell
俺がいるのは地獄へのハイウェイだ
地獄へのハイウェイにいるんだ
地獄へのハイウェイだ
俺がいるのは地獄へのハイウェイなんだ
No stop signs, speed limit
Nobody’s gonna slow me down
Like a wheel, gonna spin it
Nobody’s gonna mess me around
Hey, Satan, payin’ my dues
Playin’ in a rockin’ band
Hey, mama, look at me
I’m on the way to the promised land, wow
停止標識も無けりゃ、速度制限も無いぜ
誰も俺を減速なんてさせられねえ
車輪みたいにブンブンと回してやるぜ
誰にも邪魔させやしねえさ
なあ、サタン、俺は報いを受けてるよ
ロックバンドで演奏しながらさ
なあ、ママ、俺を見てくれ
俺は約束の地へ向かう途中なのさ、すげえだろ
I’m on the highway to Hell
Highway to Hell
I’m on the highway to Hell
Highway to Hell
俺がいるのは地獄へのハイウェイだ
地獄へのハイウェイにいるんだ
地獄へのハイウェイだ
俺がいるのは地獄へのハイウェイなんだ
Mmm
Don’t stop me
Hey, hey, ooh
うーん
俺を止めるんじゃねえ
なあ、なあ、おぉー
I’m on the highway to Hell
On the highway to Hell
I’m on the highway to Hell
On the highway to Hell
(Highway to Hell) I’m on the highway to Hell
(Highway to Hell) Highway to Hell
(Highway to Hell) I’m on the highway to Hell
(Highway to Hell)
俺がいるのは地獄へのハイウェイだ
地獄へのハイウェイにいるんだ
地獄へのハイウェイだ
俺がいるのは地獄へのハイウェイなんだ
(地獄へのハイウェイだ)俺がいるのは地獄へのハイウェイだ
(地獄へのハイウェイだ)地獄へのハイウェイだ
(地獄へのハイウェイだ)俺がいるのは地獄へのハイウェイだ
(地獄へのハイウェイ)
And I’m goin’ down
All the way, woah!
I’m on the highway to Hell
俺は堕ちて行くんだ
最後までな、すげえだろ!
俺がいるのは地獄へのハイウェイなのさ
Highway to Hell Lyrics as written by Ronald Scott, Angus Young, Malcolm Young
Lyrics © Sony/ATV Tunes LLC, Australian Music Corporation Pty Ltd
【解説】
Highway to Hell(地獄へのハイウェイ)という曲のタイトルからして、かなりのインパクトがありますよねー(笑)。Hell にはthe が付かないという理由が僕には未だに良く分かりませんが(汗)、普通、Heaven、God、Devil やSpring などの季節の名、January などの月の名、Monday などの曜日名といった固有名詞化している単語には定冠詞が付きません(以前に紹介したツェッぺリンのStairway to Heaven もそうでしたね)。「いや、ちょって待って!ネイティブ話者は『What the hell~』とか良く言いますよね?」と仰る方もおられるかもですが、その場合のthe hell は~以降の内容を単に強調する為の用法ですので、What the hell ~の構文のthe hell に意味はないと覚えておいてください。
それでは、歌詞の解説です。どこかしらローリングストーンズの曲を彷彿とさせるイントロに続く第1節、主語がやたらと省略されていて少し分かり辛いかもしれませんが、英語として難解な部分は特に見当たりませんね。2行目のSeason ticket は定期券の意味で、定期券というのは期間内なら何度でも繰り返し使えるものなのに、それを敢えてon a one-way ride、つまりは片道1回分しか使わないと言ってるところが面白いです。「俺の人生にやり直しなんてものは無い」みたいなこの歌詞の主人公の覚悟のようなものを僕は感じました。3行目のleave me be は、leave me alone の言い換え。4行目のTake something in one’s strideは、元々は乗馬の際に「歩幅を崩さずに馬を走らせる」という意味で使われていたフレーズで、直訳すれば「自分の歩幅の中に~を取り入れる」ですが、そこから転じて「~に動じない、~を受け流す、~を難なく切り抜ける」といった意味が生まれました。5行目のDon’t need reason, don’t need rhyme のrhyme はこの曲の歌詞の中で一番難解な部分。日常会話では先ず耳にすることはないrhyme という単語、これはこのコラムでもしばしば言及している「韻を踏む」という行為を指しているのですが(詩や歌詞において、同じ音や韻を踏むこと)、Bon は「詩を作るのに韻を踏む必要なんか無い、自由にやればいいんだ」と言わんばかりに、不必要な型にはまった規則、堅苦しい規則といった意味としてdon’t need rhyme という言葉をつむいだのであろうと僕は理解しました。Livin’ easy, lovin’ free をする為にreason やrhyme は要らないという訳です(その割にこの曲の歌詞は、まあまあ韻を踏んでいるので矛盾してはいるんですけども・汗)。6行目は文頭にThere を補えば分かり易いと思います。7行目のGoin’ down, party time もI’m going down there to enjoy party time と考えれば良いでしょう。ここのgo down は道を下って目的地へ向かっているというイメージ。なぜそこへ向かうのかと言うと、8行目にあるとおり、仲間たちに会えるからです。この主人公は気の置けない仲間たちとパーティーを開いては皆で盛り上がることが生きがいのようですよ。今で言うところの「パリピ」ってやつですね(笑)。
コーラスが続く第2節はHighway to Hell の連呼。この曲の歌詞に出てくるthe highway にはモデルがあって(定冠詞が付いているのでBon 本人の頭の中には特定のhighway が浮かんでいたということです)、オーストラリア西部のパース郊外からBon が少年期を過ごした港町のフリーマントルを結ぶ全長約16キロのCanning Highway がそれだとされています。フリーマントルからCanning Highway を走って行くと、途中、カニング川に架かる橋の袂に1896年創業のRaffles Hotel(創業時の名はCanning Bridge Hotel)という名のホテルがあり、そこの中にあるパブはBon が足繁く通うお気に入りの飲み屋であったそうで、第1節のGoin’ down, party time の歌詞部分はこのパブへと向かう様子を連想させます。加えて、当時のCanning Highway は死亡事故の多い危険な道路としても知られていて、地元住民からこの曲のタイトルと同じ「Highway to Hell」の名で呼ばれていたことからも、この曲に出てくるthe highway to Hell がCanning Highway にインスパイアーされていることに疑念の余地はありません。とは言え、Bon がこの曲の名をHighway to Hell にした最大の理由はその事実によってではなく、第1節で歌っているような自由気ままに生き、勝手し放題をするような人生の最後に待ち受けているのは破滅しかないであろうことを彼自身が認識していたからだと僕は考えます。自らのハチャメチャな生き方の行く末に明るい未来があると彼が自らポジティブに考えていたならば、きっと曲のタイトルをHighway to Heaven にしていた筈だと思いますし、そのことは3節目を見れば明らかですね。
第3節の1行目から4行目は、ハイウェイ上での様子の描写にしか聞こえてきませんが、実のところ、ここには別の意味が含まれていると考えて良いでしょう。言い換えるならば「俺は権威や権力といったものには従わねえ。誰も俺を支配することなんてできねえんだ。俺はそんな風に全力で生きていく。俺の生き方を誰にも邪魔はさせねえぜ」といったところでしょうか(←あくまでも個人の見解です・汗)。mess someone around は「ちょっかいを出す」といった意味で使われますので、Nobody’s gonna mess me around は直訳すれば「私にちょっかいを出す者は誰もいないであろう」ですが、ここでは「邪魔をしない」の方がしっくりきますのでそのように訳しました。5行目で呼びかけている相手が天国にいるAngel ではなく、地獄にいるSatan であるのは前述した理由のとおり。Pay one’s dues は、本来の意味は「会費などの料金を払う、義務を果たす」といったものですが、スラングでは「過ちの報いを受ける」といった意味でも使われます。つまり「好き勝手にやりたい放題で生きている報いとしてロックバンドで演奏してる」ということであり、Bon は自分自身でもそう思っていたのでしょうね。7行目で呼びかけている相手のmama は、大抵の場合、母親の意味で使われますが(と言うか、母親をmama と呼ぶネイティブ話者をあまり見たことはないですけども)、自らの妻や、バー、パブといった飲み屋の女主人に対する呼びかけとして使う人もいます。第1節の流れから考えれば、この歌詞のmama は飲み屋の女主人を指している可能性が高いと思います。8行目のI’m on the way to the promised land, wow もこれまた面白い部分。普通、the promised land(約束の地)と言う言葉が使われる時、それは旧約聖書にも記されてあるとおり天国Heaven のことなんですが、Bonの中でのthe promised land はHell なのであり、最後に付け加えられているwow を見ると、Bon はそのことをむしろ楽しんでいるようにも思えます。
4節目、5節目は特に解説の必要なし。5節目のあとにギターソロが入り(Angus Young のギター演奏、テクニックを駆使するというものではないですけど、とても上手いですし独特の味があります)、6節目は再びhighway to Hell を連呼するコーラス。そしてアウトロへ続きますが、アウトロの1行目のAnd I’m goin’ down は第1節に出てきたGoin’ down, party time のgoin’ down とは違い、ここではまさしく「堕ちる」の意味で使われていると僕は理解しました。だからこそ、この歌詞の主人公は自分の置かれた状態がI’m on the highway to Hell であり、All the way と地獄へ行く覚悟も既に十分できていると言っているのです。実際、Bon はそうなってしまいましたが、この曲の歌詞からも分かるとおり、彼に後悔はなかったと僕は思っています。好き放題をやるだけやって最後にあのような形で人生を終えたことをBon は地獄で逆に誇っているかも知れませんね(←個人の勝手な推測です・汗)。
Bon の死後、AC/DC に請われて加入し、ボーカルのいなくなったAC/DC を見事に復活させたBrian Johnson は、この曲の歌詞について雑誌のインタビューで「It was written about being on the bus on the road where it takes forever to get from Melbourne or Sydney to Perth across the Nullarbor Plain. When the Sun’s setting in the west and you’re driving across it, it is like a fire ball. There is nothing to do, except have a quick one off the wrist or a game of cards, so that’s where Bon came up with the lyrics」と語っていますし(Brian がBon とツアーでオーストラリア国内を回ったという事実は存在しませんが、Brian はAC/DC のメンバーとなる以前よりBon と顔見知りだったようですのでBon からそういった類の話を聞かされたことがあったのかも知れません)、Angus Young も「Our life on the road as a “highway to hell” due to the constant travel, lack of breaks, and the overall taxing nature of our lifestyle」と同じようなことを述べていることから、一般的にこの曲はオーストラリアのような広大な国土を持つ国の人気ロックバンドがツアーの際にしなければならない過酷な移動をhighway to hell に見立てて歌ったロードソングであると理解されることが多いですけども、僕にはやはり「今という瞬間瞬間が楽しければそれでいい。俺は自由に好き勝手にやりたいように生きる。その報いに死んで地獄に堕ちても本望だ」というBon Scott の魂の叫びにしか聞こえません。さてさて、この曲を聴かれた皆さんの耳には果たしてどう聞こえたでしょうか?
【第83回】Shining Star / The Manhattans (1980)
オーストラリア勢の曲の解説が意外にも長くなってしまいましたので(汗)、今回は解説に労を要さず、尚且つご機嫌な一曲をご紹介(決して手抜きではありません・笑)。The Manhattans が1980年にリリースしたバラードの名曲Shining Star です(同年の米国ビルボード社年間チャート22位、翌年にはグラミー賞を受賞)。Shining Star というタイトルが付けられている曲は他にも多く存在しますが(1975年にEarth, Wind & Fire がリリースした同名の曲なんかもそうですね)、それぞれの曲は歌詞も曲調も異なるまったく別個のものです。但し、1999年にMaurício Manieri というブラジル人歌手がブラジルとポルトガルでヒットさせたPensando em Você(あなたを想ってる)はThe Manhattans のこの曲のカバー。Manieri の手によるこのポルトガル語バージョン(歌詞はオリジナル)、英語とは異なる言語でのカバーとしては、珍しく違和感のない良い仕上がりになっているので、興味のある方は一度聴いてみてください。Honey, you are my shining star
Don’t you go away, oh, baby
Wanna be right here where you are
Until my dying day, yeah, baby
愛しの君は輝く星さ
僕のもとから去らないでおくれよ、ベイビー
僕はずっと君の傍にいたいのさ
人生最後の日までね、そうさ、ベイビー
So many have tried
Tried to find a love like yours and mine, mmm, hmm-mmm
Girl, don’t you realize how you hypnotize
Make me love you more each time, yeah, baby
多くの人が挑んできたんだよ
僕と君との愛みたいなものを探そうと挑んできたんだ、あー、そうさ
君はさ、僕を虜にしてることに気付いてないよね
会うたびに僕はもっと君のことが好きになるんだよ、そうさ、ベイビー
Honey, I’ll never leave you lonely
Give my love to you only
To you only, to you only
愛しの君、僕は君をひとりぼっちになんてしないさ
僕の愛は君だけに注がれるのさ
君だけに、君だけにさ
Honey, you are my shining star
Don’t you go away, no, baby
Wanna be right here where you are
Until my dying day, yeah, baby
愛しの君は輝く星さ
僕のもとから去らないでおくれよ、ベイビー
僕はずっと君の傍にいたいのさ
人生最後の日までね、そうさ、ベイビー
Feels so good when we’re lying here
Next to each other lost in love, yeah, baby
Baby, when we touch, love you so much
You’re all I’ve ever dreamed of, yeah, baby
ここで二人寝転がってると最高だよね
二人で添い寝してると恋に夢中になっちまうんだ、そうさ、ベイビー
互いの体が触れ合うだけで、僕は君の虜なんだ
君は僕が恋焦がれてきた人なのさ、そうなんだよ、ベイビー
Honey, I’ll never leave you lonely
Give my love to you only
To you only, to you only
愛しの君、僕は君をひとりぼっちになんてしないさ
僕の愛は君だけに注がれるのさ
君だけに、君だけにさ
*このあとコーラスとアウトロでHoney, you are my shining star やDon’t you go away, girl, no, baby を連呼して曲は終了。
Shining Star Lyrics as written by Leo Graham, Paul Richmond
Lyrics © Songs of Universal, Inc
【解説】
初夏の星空の下、どこかのビーチに聞こえてきそうなメランコリックなイントロの響きとそれに続く一糸乱れぬグループ・コーラス、そしてGerald Alston の澄み切った歌声。素晴らしいとしか言いようがありません。和訳をご覧のとおり、歌詞自体は純粋なラブソングで、種も仕掛けもありませんね(笑)。この曲の歌詞に使われている英語のほとんどは日本の中学校で習うレベルの初歩的なものなんですが、主語の省略が多く若干分かりにくい部分がありますので、ざっと簡単に見て行きましょう。
第1節の1行目はHoney you で区切って、そのあとare my shining star と続けて歌うところがとてもユニーク。2行目のDon’t you go away は、Don’t go away と言うよりもより口語的ですね。3行目の主語はIであり、直訳すれば「私はあなたがまさしくいるこの場所にいたい」ですが、要は「ずっとあなたの傍にいたい」ということ。4行目のmy dying day は、文字どおり「私の死ぬ日」ですが、その表現だとちょっと直接的過ぎるので「人生最後の日」という言葉に置き換えました。第2節の1行目は、So many people のpeople が省略されていると考えればすぐに理解できます。多くの人々が僕と君との間にあるような愛を探し求めてきたと言っているのですが、その言葉の裏に「その中の大部分の人々は結局、探し求めていた愛を見つけられないでいるが、僕たち二人は違う」という気持ちが込められているように僕は感じました。3行目のhypnotize は、この曲の歌詞の中で唯一の難しい単語ですね。hypnotize は「催眠術をかける」という動詞で、そこから「催眠術をかけたように動けなくする」という意味が派生し、転じて「うっとりさせる」という意味でも使われるようになりました。3行目はDon’t you realize how you hypnotize, do you?と文末に補足を入れれば分かり易いでしょう。4行目も主語のYou とeach time I see you のI see you が省略されていると考えればすぐに理解できます。3節目は特に解説が必要な部分なし。強いて言えば2行目のGive my love to you only は、主語のI が省略されていて、要は「君だけを愛します」ということなんですが、それだとto you only のto が生きてこないので「僕の愛は君だけに注がれる」と訳しました。4節目も1節目と同じ歌詞の繰り返しなので解説不要。次に第5節1行目。ここも主語のIt が省略されています。Lying here からだけでは断定できませんが、まあ、普通に考えればベッドの上ですね(←普通かよ?笑)。なので、2行目もWhen we sleep next to each other, I’m lost in love with you のことであると僕は理解しました。4行目のI’ve ever dreamed of は「夢見ていた」ですが、主人公の彼女に対する熱い思いを考慮して「恋焦がれてきた」と敢えて訳しています。と、瞬く間に解説終了!やはり、分かり易い歌詞の曲ってのはいいですね!(笑)
余りにもあっけなく終わってしまいましたので、最後にThe Manhattans のトリビアをひとつご紹介。The Manhattans は1962年に5人の黒人メンバーで結成された合唱グループで、マンハッタンの名を冠しているからにはメンバーがニューヨーカーだったのかと思いきや、全員が対岸のニュージャージー州のジャージーシティー出身、グループが結成されたのもニューヨークシティーではなくジャージーシティーだったそうです(笑)。因みに、結成時のオリジナル・メンバーは既に全員が鬼籍に入られているもののThe Manhattans 自体は解散しておらず、結成より60年以上を経た現在も尚、1970年にグループに加わったGerald Alston が「The Manhattans featuring Gerald Alston」として仲間たちを率いて活動を続けています。
【第84回】All Night Long(All Night) / Lionel Richie (1983)
僕は黒人ミュージシャンの音楽をあまり聴くことがないと当コーナーで以前書いたと思いますが、それは黒人の音楽だから聴かないというのではなく、単に僕の好みの音楽であるロックという分野に黒人のロックバンドが皆無であるから自ずとそうなるというのがその理由です(Bad Brains やLiving Color といった例外が存在してはいますが極少数ですし、Prince やJimi Hendrix は黒人であってもそのバンドメンバーはほとんどが白人)。なぜそんな状況になっているのかと言うと、R&B やロックンロールといった黒人音楽に憧れ続けた白人がそれらをロックに昇華させていく過程でロックが白人に独占されてしまった為で、それはロックを商業主義と結びつけて一儲けをたくらんだ当時の資本家たち(音楽業界の支配層)の大部分が白人であったということが大いに関係していた筈だと僕は考えています。資本家たちはロックを白人にやらせて白人層(当時はまだ米国の人口の主流派で中間所得層の中心)の中に新マーケットを確立したかったのです。そのような状況下では、黒人側にもロックは白人がやる音楽であるという認識が広がり、黒人で敢えてロックをやる者はいなくなりました。黒人社会の中でそんなことをしようものなら「おまえ、なんで白人みたいなことやってんだ?ブラザーならR&B だろ!」みたいな感じで周囲の黒人から軽蔑されるのが落ちだったんですね。とは言え、前回に紹介したThe Manhattans のShining Star 同様、ロックでなくともヒットチャートを賑した黒人アーティストの曲は数知れずで、今日ご紹介する曲もそんな名曲のひとつ、1984年のビルボード社年間チャートで堂々12位にランクインしたLionel Richie のAll Night Long です。Lionel の作詞作曲の才能は彼が黒人合唱グループのCommodores に在籍していた時代(Lionel は当初、サックス奏者として加入)から誰もが認めるものでしたが(音楽の才能だけでなく、そもそもからして育ちも良いし、頭のいい人ですね)グループを離れてソロに転向後もEndless Love(ダイアナ・ロスとデュエットした映画の主題歌)やYou Are、My Love、Truly、All Night Long、Hello、Say You, Say Me と誰もが口ずさむことのできるヒット曲を次々と世に送りだし、その名声を不動のものにしました。ビルボード社の週間ヒットチャートで8曲以上の曲を1位に送り込んだ作詞作曲家は現在までに二人しかいませんが、その一人がこのLionel Richieなのです(因みにもう一人はDiane Warren ですが、彼女は自らは歌いません)。
Well, my friends, the time has come
To raise the roof and have some fun
Throw away the work to be done
Let the music play on
Everybody sing, everybody dance
Lose yourself in wild romance
さあ、友たちよ、今がその時さ
大騒ぎして楽しもうよ
やらなきゃならない仕事なんか放りだして
音楽をかけるのさ
みんなで歌って、みんなで踊る
やばいくらいのロマンスに我を忘れてね
We’re going to party, Karamu, fiesta, forever
Come on and sing along
We’re going to party, Karamu, fiesta, forever
Come on and sing along
僕たち、パーティーに出掛けるところなんだ、カラムさ、フィエスタだよ、永遠のね
さあ、みんなで一緒に歌おうよ
僕たち、パーティーに出掛けるところなんだ、カラムさ、フィエスタだよ、永遠のね
さあ、みんなで一緒に歌おうよ
All night long (All night, all night, all night)
All night long (All night, all night, all night)
All night long (All night, all night, all night)
All night long (All night)
Oh, yeah (All night)
夜通しずっとね(一晩中、一晩中、一晩中)
夜通しずっとね(一晩中、一晩中、一晩中)
夜通しずっとね(一晩中、一晩中、一晩中)
夜通しずっとね(一晩中)
ああ、そうさ(一晩中さ)
People dancing all in the street
See the rhythm all in their feet
Life is good, wild and sweet
Let the music play on
Feel it in your heart and feel it in your soul
Let the music take control
We’re going to party, liming, fiesta, forever
Come on and sing my song
通りでみんな一緒になって踊ってる人々のさ
足元を見てよ、みんなの刻んでるリズムをさ
人生は良きもの、素晴らしくて楽しいものなのさ
音楽をかけるんだ
心で感じ、魂で感じようよ
音楽に身を任せようよ
僕たち、パーティーに出掛けるところなんだ、ライミングさ、フィエスタだよ、永遠のね
さあ、みんなで僕の歌を歌おう
All night long, oh (All night, all night)
All night long, yeah (All night, all night)
All night long, yeah (All night, all night)
All night long, ah (All night, all night)
夜通しずっとね(一晩中、一晩中)
夜通しずっと、そうさ(一晩中、一晩中)
夜通しずっと、そうさ(一晩中、一晩中)
夜通しずっとだよ(一晩中、一晩中)
Yeah, once you get started, you can’t sit down
Come join the fun, it’s a merry-go-round
Everyone’s dancing their troubles away
Come join our party, see how we play
そうさ、一度始めたら、もう座ってはいられない
一緒に楽しもう、メリーゴーランドに乗るみたいにさ
みんなで踊って悩みなんか吹き飛ばすんだよ
僕たちのパーティーに来て、僕たちがどう踊るのか見てみてよ
Tam bo li de say de moi ya
Yeah, Jambo, Jambo
Way to parti, o we goin’
Oh, jambali
Tam bo li de say de moi ya
Yeah, Jambo, Jambo
Oh, yes
We’re gonna have a party, yeah, uh
タンボリデセイデモイヤ
イエー、ジャンボ、ジャンボ
パーティーへ行くところさ
オー、ジャンバリ
タンボリデセイデモイヤ
イエー、ジャンボ、ジャンボ
ああ、そうさ
僕たちはパーティーを開くんだ、そうなのさ
All night long (All night, all night, all night)
All night long, yeah (All night, all night)
All night long (All night, all night, all night)
All night long, oh (All night, all night)
夜通しずっとね(一晩中、一晩中、一晩中)
夜通しずっと、そうさ(一晩中、一晩中)
夜通しずっとね(一晩中、一晩中、一晩中)
夜通しずっとだよ(一晩中、一晩中)
Everyone you meet (All night)
They’re jamming in the street (All night)
All night long (All night)
Yeah, I said (All night)
Everyone you meet (All night)
They’re jamming in the street (All night)
All night long (All night, all night)
Feel good, feel good
会う人みんなが(一晩中)
通りで楽しく踊ってる(一晩中)
夜通しずっとね(一晩中)
そうさ、言ったよね(一晩中)
会う人みんなが(一晩中)
通りで楽しく踊ってるって(一晩中)
夜通しずっとね(一晩中、一晩中)
君も楽しんで、楽しんでよね
*このあとAll night という言葉を狂ったように連呼し続けて曲はフェードアウト。
All Night Long(All Night) Lyrics as written by Lionel Richie
Lyrics © Brenda Richie Publishing and Brockman Music
【解説】
どこか熱帯の国のジャングルに流れてきそうなリズムにDa, da, Woah, oh というLionel Richie ののんびりとした声がクロスオーバーするイントロ、聴いているだけで「これから何か楽しいことが起こりそうだ」となんだかワクワクしてきます(←しないですか?笑)。今「どこか熱帯の国」と書きましたが、Lionel 自身がこの曲の成り立ちに関して「I had a eureka moment when dining with my friend Lloyd Greig, a Jamaican born physician(僕の友人でジャマイカ生まれの医師と食事をしてた時、ビビっときたんだ」と語っていますし、明らかにジャマイカ訛り風の英語を敢えて使ってこの曲を歌っていますから(他の曲でのLionel はこんな発音で歌いません)All Night Longの舞台がカリブ海地域であることに間違いはないですね。
それでは早速、歌詞の解説に進みましょう(この曲の歌詞には短いバージョンや長いバージョンなどいくつかありますが、ここでは4分台版の歌詞を取り上げます)。前回に紹介したShining Star と同様、このAll Night Long という曲の歌詞もシンプルな構文、かつ簡単な英単語しか使われていないのでとても分かり易いもの。ですが、部分的に意味不明な単語が出てくるので、簡単に解説しておきます。第1節、特に難しい表現はありませんが2行目のraise the roof は要注意。直訳すれば「屋根を持ち上げる」ですが、元々は「屋根を持ち上げるくらいに怒る」という意味で使われていた語句で、現在では「喜び(場合によっては怒り)で大騒ぎする」という意味で使用されます。例えばLet’s raise the roof!と言えば「屋根を持ち上げよう!」ではなく「盛り上がろうぜ!」なんですね(笑)。とこんな解説を偉そうに書いていながら、僕の耳には長らくのあいだここのフレーズがLazy women have some foolと聞こえていたのだからお恥ずかしい限り(汗)。第2節、ここでは最初の変な単語が出てきますね。Karamu とfiesta です。この節ではWe’re going to と歌い、そこで一端切ってからparty, Karamu, fiesta と続けて歌うことや、スペイン語を勉強したことがある人ならfiesta がパーティーや祭りを意味することは直ぐに分かりますので、party, Karamu, fiesta は同じ意味の単語なのであろうと想像がつきます。そこでKaramu について調べてみたところ、やはり、スワヒリ語で祭りや宴を意味する単語でした。つまり、party, Karamu, fiestaは、partyを連呼してるだけなんです(笑)。
3節目のコーラスは解説不要。第4節も同じく特に難しい部分はありませんが、7行目に再びliming という聞き慣れない単語が出てきます。これも、第2節と同じ理論で調べてみましたら、トリニダード・ドバコなどのカリブ海地域で「友人と外をぶらついて楽しむ」という意味でした。つまり、楽しく時を過ごすという意味ではparty と同意です。5節目もこれまた解説不要。6節目最後のsee how we play はsee how we dance の方が分かり易いですが、前のtroubles away と韻を踏む為にplay にしてますね。次の第7節はこの曲の歌詞で一番難解、と言うか、明らかに英語ではないです(笑)。この部分の歌詞を聴いてみると、その響きはアフリカの言語風ですし、Jambo がスワヒリ語で「こんにちは」を意味することを知っていれば(実際にはこの一語だけでは挨拶の言葉にならないそうですけども)当然、Tam bo li de say de moi ya もスワヒリ語なのだろうと思う訳ですが、ここの歌詞に関してLionel はこう語っています。
「I had called a friend at the United Nations to get some African phrases. The guy said ”Lionel, there’s 101 African dialects” When I asked for just a few words, he was told it would take a few weeks, but I needed them immediately, so I churned out my own dialect」
つまり、ここの部分にアフリカの言語の響きを使いたかったLionel は(カリブ海地域で暮らす住民の多くは、アフリカから奴隷として連れてこられた人々の子孫)、国連で働く友人に助言を求めたものの「アフリカには101の言語があるんだぞ」とあしらわれ、仕事の締め切りの関係で時間が押していたので自分でそれ風の響きを作ったということなんです。なので、Tam bo li de say de moi ya は彼による造語であり意味は無いというのが真相ということ。Lionel、恐るべしですね(汗&笑)。そして、第8節は再びコーラスに入って同じフレーズ。第9節も特に難しい個所はないですが、2行目に出てくるjam という動詞は「詰まる、ひっかっかる」の意味で使われているのではなく、ここではスラングとしての「音楽を演奏したり、音楽に合わせて踊ったりする」という意味です。
と、解説は以上で終了!最後に何かLionel Richieに関するエピソードを紹介して終わろうと思ったのですが、離婚を2回経験していることやスポーツのテニスが上手いといったこと以外、特にネタは見当たりませんでした。浮いた話や酒、麻薬などの問題行動、金銭関係の汚い話(黒人側からは、金を儲ける為に白人に魂を売ったと非難されることもありますが)などとも無縁な彼は、あの顔に似合わず相当いい人のようですよ(笑)。
【第85回】What’s Going On / Marvin Gaye (1971)
今回も引き続き黒人ミュージシャンで行きましょう。黒人は男と女の恋だの愛だのや、踊れる陽気な曲をを歌っていればそれでいいという雰囲気が支配的であった時代に、社会にはびこる種々の問題に目を向け、それらについての自らの思いを実際歌詞に起こして歌い始めたこの人を紹介しておかない訳にはいけません。その人の名はMarvin Gaye。そして、本日紹介するのは、彼が1971年にリリースしたWhat’s Going On という名曲です。黒人が歌ったプロテスト・ソングとして、古くはビリー・ホリデイのStrange Fruit(作詞したのは彼女ではない)、Marvin と同じ世代でもニーナ・シモンのMississippi Goddam やサム・クックのA Change Is Gonna Come など先に世に出た有名な曲がいくつかあり、Marvin がその分野の先駆者という訳ではないのですが、彼が偉大であるとされているのは、警察の横暴やベトナム戦争への反対、麻薬問題、貧困やそれに伴う子供の養育放棄など、アメリカ社会が抱える問題を歌った様々な曲を「What’s Going On」という同名のタイトルのアルバムに収録し、コンセプト・アルバムとして発売したからです。Marvin が当時所属していたレコード会社「モータウン」の名物社長(元ボクサーで気性が荒い)Berry Gordy は、前述したような「黒人は踊れる陽気な曲を歌っていればいい」という考えを地で行く人でしたから(その方が儲かるので)、今までとは全く異なる路線のそのようなアルバムをMarvin から出したいと言われた際には「気でも狂ったのか?」と激怒し、発売には大反対だったそうです。それでもMarvin は「これを発売できなければモータウンでは二度と歌わない」と社長に強く反発し、モータウンの幹部社員Barney Ales を説得して発売を強行、その初回プレスの販売が好調だったことで最終的には社長が折れました。Hey, hey-hey
Hey, what’s happenin’?
Hey, brother, what’s happenin’?
Boy, this is a groovy party (Hey, how you doin’?)
Man, I can dig it
Yeah, brother, solid, right on
What’s happenin’?
Hey, man, what’s happening?
Woo
Everything is everything
We’re gonna do a get down today, boy, I’ll tell ya
おい、おいおい
おい、何が起こってんだ?
なあ、兄弟、何が起こってんだよ?
イカしたパーティーさ(なあ、あんたの調子は?)
マジ、イカしてんな
ああ、兄弟、最高さ、いいじゃんか
何が起こってんだ?
なあ、何が起こってんだよ?
そうさな
万事良しってとこさ
俺たち、今日は楽しむんだ、教えてやるよ
Mother, mother
There’s too many of you crying
Brother, brother, brother
There’s far too many of you dying
You know we’ve got to find a way
To bring some loving here today, yeah
ねえ、母さんさ
泣いてることが多すぎるよね
ねえ、ねえ、兄弟さ
死にいくことがすごく多すぎるよね
だから僕たち、見つけなくっちゃならないのさ
今日ここへ愛をもたらす方法をさ、そうなのさ
Father, father
We don’t need to escalate
You see, war is not the answer
For only love can conquer hate
You know we’ve got to find a way
To bring some loving here today, oh (Oh)
ねえ、父さんさ
僕たち、事を荒立てる必要なんてないよね
分かってるもの、争いは答えじゃないし
愛だけが憎しみに打ち勝つってことを
だから僕たち、見つけなくっちゃならないのさ
今日ここへ愛をもたらす方法をさ、そうさ(そうさ)
Picket lines and picket signs (Sister)
Don’t punish me with brutality (Sister)
Talk to me, so you can see (Sister)
Oh, what’s going on (What’s going on)
What’s going on (What’s going on)
Yeah, what’s going on (What’s going on)
Oh, what’s going on
抗議の列と抗議のプラカード(シスター)
僕を残忍に罰するのはやめて欲しいんだ(シスター)
僕と話そうよ、そしたら分かってもらえるから(シスター)
そう、何が起こってるのかをね(何が起こってるのかを)
何が起こってるのかをね(何が起こってるのかを)
そうさ、何が起こってるのかをね(何が起こってるのかを)
そう、何が起こってるのかをね
Ah-ah-ah-ah (In the meantime, right on, baby)
Woo (Right on, baby), woo
Ah-ya-ya-ya-ya-ya-ya-ya-ya-ya-ya-ya
Woo (Right on, baby, right on), woo
Ah-ya-ya-ya-ya-ya-ya-ya-ya-ya-ya-ya
Ba-da-bee-doo, bee-bee-bee-doo, bee-bee-bee
Ba-da-bee-bee-bee-doo, bee-bee-bee-ba-ba-do
アァ、アアアァ
ウー(いいじゃんか、ベイビー)、ウー
ア、ヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤ
ウゥー(いいじゃん、ベイビー、いいじゃん)、ウー
ア、ヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤ
バダビッドュ、ビッビビドュ、ビッビビ
バダビッビビドュ、ビッビビッババドュ
Mother, mother
Everybody thinks we’re wrong
Oh, but who are they to judge us
Simply ‘cause our hair is long?
Oh, you know we’ve got to find a way
To bring some understanding here today, oh-oh
ねえ、母さん
皆が僕たちのことを間違ってるって考えてるよね
でも、僕らをそう決めつけてる連中って誰?
単に髪を伸ばしてるってだけの理由でね
だから僕たち、見つけなくっちゃならないのさ
今日ここへ愛をもたらす方法をさ、ああ、そうなのさ
Picket lines and picket signs (Brother)
Don’t punish me with brutality (Brother)
Come on, talk to me, so you can see (Brother)
Oh, what’s going on (What’s going on)
Yeah, what’s going on (What’s going on)
Tell me what’s going on (What’s going on)
I’ll tell you what’s going on (What’s going on)
抗議の列と抗議のプラカード(ブラザー)
僕を残忍に罰するのはやめて欲しいんだ(ブラザー)
さあ、僕と話そうよ、そしたら分かってもらえるから(ブラザー)
そう、何が起こってるのかをね(何が起こってるのかを)
何が起こってるのかをね(何が起こってるのかを)
何が起こってるのかを教えてよ(何が起こってるのかを)
ああ、何が起こってるのかを教えてあげるよ(何が起こってるのかを)
*このあと、ポスト・コーラスとアウトロで第4節と同じようなコーラスが続いて曲はフェードアウト。
What’s Going On Lyrics as written by Al Cleveland, Renaldo Benson, Marvin Gaye
Lyrics © Mgiii Music, Nmg Music, Fcg Music, Stone Agate Music Corp, Jobete Music Co Inc.
【解説】
この名曲「What’s Going On」に関しては、作詞作曲に関わった関係者たちの証言によって、どのような経緯で曲が生まれたのかがはっきりしており、彼らが語ったそれらの事実はこの曲の歌詞を理解する上でとても重要なので先に記しておきたいと思います。実はこの曲の歌詞、最初のオリジナルを書いた人物はMarvin Gaye ではなく、1960年代にヒット曲を多く出した黒人歌唱グループ「Four Tops」の一員だったRenaldo Benson でして、Renaldo は1969年5月、ツアーでカリフォルニア州のバークレーに滞在中にベトナム戦争反対を叫ぶ若者たちのデモ拠点を警察が襲撃する現場(後にBloody Thursday と呼ばれるようになった事件)を目の当たりにし、そのことにインスパイアーされて歌詞を書いたと語っています。その後、西海岸での滞在を終えてデトロイトに戻ったRenaldo は早速歌詞を起こして自宅の2階に住んでいたAl Cleveland に作曲を依頼、完成した曲をFour Tops からリリースしようとしましたが、メンバーからプロテスト・ソングは歌わないと拒絶された為に実現できず、最終的にその役を引き受けることになったのがRenaldo の友人であったMarvin Gaye でした。Marvin は歌詞や曲調の一部に手を加えてさらに曲の完成度を高め、曲をリリースすべく録音も済ませましたが、その後に起こった彼とモータウンの社長との間の擦った揉んだは冒頭で述べたとおりです。
ではでは、それらのことを頭に入れて歌詞の意味を探っていきましょう。先ず曲のイントロですが、サックスのゆったりとしたテンポの音色が響き始める前に何か会話が聞こえてきますね。会話の声は明らかに黒人訛りの英語ですけども、これらの声はMarvin 本人の他、この曲の録音時に彼がスタジオに招いていたとされる当時プロ・フットボール選手(NFL)のMel Farr やLem Barney たちのものだとされています。さて、その会話、難解な単語は見当たらないものの、当時の黒人が好んで使ったスラングが多用されていて日本人にはかなり分かりにくいので、説明が必要な個所をピックアップして見ていきましょう。先ず4行目のgroovy、これは現在でも使われることが多い単語ですが「楽しい、素晴らしい、かっこいい」といった意味ですね。5行目のI can dig it は状況によって意味が変わるとても難しい表現。直訳だと「私はそれを掘ります」ですけど、それでは何のことだかまったく分かりましぇーん(笑)。基本的にdig はunderstand やagreeと同じ意味で使われることが多いですが、ここではそれらの意味とはまったく異なる「Wow, That’s awesome!」といった感じでしょうか。6行目のsolid、これもスラングでは「素晴らしい」という意味、right on も日本語なら「いいねー、いいじゃん」みたいな言い回しですね。7行目以降はサックスの音と重なっていて、何を言っているのかほぼ聞き取り不可能。僕も紙に印刷されたLyric を見て「なるほど、そんな風に言ってたのか」とようやく分かった次第です(汗)。10行目のEverything is everything はAll is well とかAll is going according to plan といった意味。最後のdo a get down もちょっと理解が難しいですね。普通、get down という言葉の響きにはネガティブな要素しかないですが、アメリカではスラングとして使う場合、to party, to dance, to have good time といった意味になるようです。日本語でも「すげえなー、ぶっ倒れちまいそう」みたいに言った時にはポジティブな感情を表現しているのと同じようなイメージでしょうか(余談ですが、最後の2行のほとんど聞こえないこの声の主はMarvinの友人のElgie Stover だとされています)。11行目のI’ll tell ya のya はyou のことで、ここでは省略されていますけども、このあとにwhat’s going onと続くと考えて間違いありません。この曲のタイトルを見て「どうしてクエスチョン・マークが文尾に付いていないのかな?」と思った方はおられませんか?(そう思った方はスルどいですよ!)その答えがこの最後のI’ll tell ya にあるのです。つまり、この曲は「What’s going on?何かあったの?」と尋ねているのではなく「I’ll tell you what’s going on 何が起こっているのか教えてあげる」が本筋だということなんですね。このイントロの会話部分、どういう意図で入れられたのかは分かりませんが、何かの事件現場に野次馬たちが集まってきて傍観してるような雰囲気が出ていて僕は好きです。
おっと、イントロの会話の解説が思いのほか長引いてしまいましたので、歌詞本文の解説は巻きでいきましょう(汗)。第1節は会話部分とは打って変わって分かり易い英語で、英語に関しての説明が必要な部分は無さそうですが、歌詞全体の意味に関しては少し解説しておかなければなりません。皆さんはこの第1節を聴いてどう受け止められましたか?先程に話したこの曲が出来た経緯を思い出した方ならピンときたのではないでしょうか?そうなんです、第1節はベトナムの戦場へ送られた若者たちが次々に戦死し、その度に母親たちが涙しているという当時のアメリカ社会の描写なんです。5行目のwe’ve got to find a way は「そんなことに何の意味があるんだ?早く終わらせないと」と言っているのと同じであり、反戦の意思を明確にしてますね(残念ながらこの曲がリリースされてから半世紀以上が経った今もパレスチナやミャンマー、ロシア、ウクライナなど世界各地で未だ同じことが繰り返されていますが…)。実際、この歌詞を書いたRenaldo Bensonは、バークレイでBloody Thursdayを目撃したあと「What is happening here? Why are they sending kids so far away from their families overseas? Why are they attacking their own children in the streets?」と自問したと語っていますし、Marvin 自身もベトナムで従軍して帰国した弟のFrankie Gaye から戦場の悲惨さを聞いて衝撃を受け、反戦意識に目覚めたと話しています。
2節目も英語として難しい部分はないですね。ここの歌詞に関しては、反戦デモをする市民側、それを力で抑えようとする権力者側の双方に自制を促しているように僕には聞こえました。第2節では呼びかける相手が母親から父親に変わっていますが、これはMarvin が、教会の牧師であるにも拘らず家庭内では暴力的であった父親に「これって間違ってないよね?」と問いかけたかったのではないかという気がします(3行目と5行目のYou は一見、総称人称のYou に思えますが、Marvin の中でのこのYou は自分の父親だったのではないでしょうか)。第3節も英語として難しい部分は無し。1行目のPicket は、労働組合がストライキをする際、スト破りが出ないように配置した見張り役のことを元々は意味していましたが、ここでは「デモ参加者」の意味で使われていて、2行目のbrutality は、反戦デモを暴力的に抑えるという権力者側のそのやり方を指しています。つまり、この節の歌詞は反戦デモの描写ですね。第4節のコーラス部分は「ア、ヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤ、バダビッドュ、ビッビビドュ、ビッビビ」とかが並んでいて、なんじゃこれ状態ですが、日本語表記にするとこういう風にしか書きようがないのでどうかお許しを(笑)。5節目も同じく反戦デモの描写で、Renaldo Benson がバークレイで見たまんまという感じです(西海岸での反戦デモの中心は長髪のヒッピーでしたので)。この節の主旨は、長髪は駄目だと決めつけている連中が、反戦デモも駄目だと同じように決めつけているが、間違っているのは、そんな風に決めつける連中の方ではないのかということですね。第6節は3節目の歌詞の繰り返しですが、最後の2行が違っています。イントロの会話の最後の部分はほぼ聞こえませんので、大抵の人はここの部分を聴いて、タイトルのWhat’s Going On のwhat が疑問詞ではなく接続詞としてのそれであることに気付くのではないでしょうか。このように、What’s Going On というこの曲は「今この国でどんな問題が起こっているのか(自分が目にしたことを)教えてあげるから、一緒に解決していこうよ」という歌詞であり、一般的には反戦ソングやプロテスト・ソングとして受け止められがちですが、僕には反戦やプロテストという何か怒りを帯びたものではなく、平和(愛)を真摯に求める静かな祈りのように聞こえました(←あくまでも個人の感性に基づいた感想です)。
さて、今回はいつものような笑えるエピソードではなく、この才能に溢れたアーティストMarvin Gayeを襲った悲劇を紹介して締め括りとしましょう。1984年4月1日、両親の家を訪れていたMarvin は、保険証書を紛失した母親をしつこく非難する父親と口論になり、長々と言い合いを続けた末にMarvin が父親を足で蹴ったことで、そのことに激昂した父親がスミス&ウエッソン社製の38口径回転式拳銃(一説によれば、その拳銃はMarvin が父親にプレゼントしたものらしいです)を持ち出しMarvin に発砲、Marvinは胸など数カ所を撃たれて帰らぬ人となりました(ほぼ即死状態)。この父親は前述のとおりキリスト教の牧師で、教徒に対する説教は抜群に上手かったものの家庭内では暴力的で、Marvin が幼少の頃から家の中でも拳銃をふりかざすようなこともしばしばだったようです(←真偽は不明)。そんな家庭環境の中、牧師としての父親は尊敬できるが、家庭での父に対しては嫌悪しか感じないし、何よりも自分は父から愛されていないという複雑な思いを抱えて育ったMarvin はいつしか自殺願望を持つに至り、20代の頃には拳銃で自殺を図ろうとしてその際にモータウンの社長Berry Gordyの父親にすんでのところで阻止されたということもあったそう。そんなこともあってか、この父親による息子の射殺事件も限りなく自殺に近かいものだったのではないかという説が存在し、僕も以下のような理由からその可能性は捨てきれないという気がしています(←あくまでも個人の推測)。
① 父親を怒らせたら、彼がどのような行動を取る可能性があるのかMarvin には経験値から分かっていたであろうし、その上で、父親が彼に銃口を向けた時、彼は父親が拳銃の引き金を引くようにわざと何か激しい言葉を吐いたのではないか。その理由は、父親を息子殺しを犯した「永遠の罪人」にしたかったから。
② 翌日の4月2日はMarvin の誕生日であり、死ぬことになった日がその前日であったことも父親への当て 付け、もしくは何らかのメッセージではなかったのか。
息子に向けて拳銃を発砲するような人間がそもそも牧師なんてよくできていたものだと思いますけども、そんなこの父親、事件後、1級殺人で逮捕されたものの最終的には判事が司法取引を認め、結局、執行猶予付きの判決になったおかげで刑務所暮らしをすることはなく、事件から14年後の1998年に他界しました。彼が死の間際まで自分が犯した永遠の罪に苛まれ続けていたのかどうかは神のみぞ知るです。
【第86回】What’s Love Got to Do with It / Tina Turner (1984)
3回連続でアメリカの黒人男性ミュージシャンの曲をお届けしましたが、もう1曲、今度は黒人女性歌手の大ヒット曲を紹介しておきましょう。1984年の米国ビルボード社年間チャートで堂々の第2位に輝いたTina Turner のWhat’s Love Got to Do with It です(因みに1984年は、年間チャートのトップ10のうち半数が黒人ミュージシャンという黒人勢大活躍の年でした)。1956年にデビューし、女性ロックンローラーとして活躍した彼女、1970年代半ば以降はヒット曲に恵まれず、What’s Love Got to Do with Itをリリースした時は44歳というおばちゃんになっていたものの、この曲が大ヒットしたことで翌年にはグラミー賞も受賞し、見事なカムバックを果たしました(但し、ロックンローラーではなく、それまでとは打って変わったポップス歌手としてでしたけども・汗)。米国テネシー州のど田舎Brownsville で生まれたTina の本名はAnna Mae Bullock。Tina Turner という名は、彼女の元夫であるIke Turner が彼女に付けたステージネームです。ロックンロールの先駆者でもあったIke はTina が音楽の世界に飛び込む切っ掛けを作った人物でもあり、後にTina と結婚して1960年に夫婦デュオの「Ike & Tina Turner」を結成、数多くのヒット曲を世に送り出しました。しかし、重度のコカイン中毒だった彼はTinaに対して家庭内暴力を繰り返し、その生活に耐えきれなくなったTinaは1978年、彼から逃げるように裁判所に離婚を申請しています。そんな経緯があるからか、Tina とIke の二人の関係とこの曲を結びつけて考えるネイティブ話者も少なからずいるのですが、果たして真実は如何に?ということで、先ずは歌詞をどうぞ。You must understand, oh, the touch of your hand
Makes my pulse react
That it’s only the thrill of boy meetin’ girl
Opposites attract
分かってくれなくちゃね、あー、あんたの手の感触がね
あたしの鼓動を脈を波打たせるのよ
男女が出会う時のどきどき感だけがそうさせるね
男と女って惹き合うものなのよ
It’s physical
Only logical
You must try to ignore that it means more than that
Oh
肉体的に
だけど感情抜きに
そのことにそれ以上の意味があるだなんて考えたら駄目よ
あー
What’s love got to do, got to do with it?
What’s love but a second-hand emotion?
What’s love got to do, got to do with it?
Who needs a heart when a heart can be broken?
男と女の関係に愛なんて関係あるの?
愛って何なの、受け売りの感情?
男と女の関係に愛なんて関係あるの?
心ってのは傷付くことがあるんだから心なんて誰が必要?
It may seem to you that I’m acting confused
When you’re close to me
If I tend to look dazed, I’ve read it someplace
I’ve got cause to be
あんたにはあたしに迷いがあるように思えるかもね
あんたがあたしの傍にいる時
あたしに迷いがあるように見えがちなら、どこかで読んだことがあるわ
そうなる理由があたしにあるって
There’s a name for it
There’s a phrase that fits
But whatever the reason, you do it for me
Oh
それには名前があるの
ぴったりの言葉があるの
理由なんてなんであれ、あんたはあたしの為にそれをしてくれる
あー
What’s love got to do, got to do with it?
What’s love but a second-hand emotion?
What’s love got to do, got to do with it?
Who needs a heart when a heart can be broken?
Ooh
男と女の関係に愛なんて関係あるの?
愛って何なの、受け売りの感情?
男と女の関係に愛なんて関係あるの?
心ってのは傷付くことがあるんだから心なんて誰が必要?
あぁー
I’ve been takin’ on a new direction
But I have to say
I’ve been thinking about my own protection
It scares me to feel this way
Oh
あたしは新たな世界へと足を踏み出してきた
でも言っとかなくっちゃ
それは自分自身を守ることでもあったとね
だってこんな風に感じるのが怖いんだもの
あー
What’s love got to do, got to do with it?
What’s love but a second-hand emotion?
What’s love got to do, got to do with it?
Who needs a heart when a heart can be broken?
(What’s love?) Got to do, got to do with it
What’s love but a sweet old-fashioned notion?
What’s love got to do, got to do with it?
Who needs a heart when a heart can be broken?
男と女の関係に愛なんて関係あるの?
愛って何なの、受け売りの感情?
男と女の関係に愛なんて関係あるの?
心ってのは傷付くことがあるんだから心なんて誰が必要?
(愛って何?)男と女の関係にに愛なんて関係あるの?
愛って何なの、昔ながらの甘美な感情?
男と女の関係に愛なんて関係あるの?
心は傷付くことがあるんだから心なんて誰が必要?
*このあとアウトロで第3節と同じコーラスを繰り返し、最後はWhat’s love? But a second-hand emotion のフレーズでフェードアウトします。
What’s Love Got to Do with It Lyrics as written by Terry Britten, Graham Lyle
Lyrics © WB Music Corp. and Kobalt Music Pub America Inc. Goodsingle Limited
【解説】
うーん、聞き流すのではなく、あらためて歌詞に真剣に耳を傾けてみましたが、それほど難しい英単語は使用されていないものの、この曲、歌詞の意味を理解して和訳するのはそう簡単な仕事ではなさそうです(汗)。なので、今回は気合を入れてこの歌詞に向き合うとしましょう。先ず、冒頭で触れたTina とIkeの二人の関係がこの曲の下地になっているのかという問いの答えですが、答えはNO!確かにこの曲の歌詞は二人の関係を暗示しているように聞こえなくもないですが、What’s Love Got to Do with It?の歌詞はTinaが作詞したのではなく、曲がヒットする10年前の1974年にイギリス人ミュージシャンのTerry BrittenとGraham Lyle によって書かれたもので、その頃のTerry とGraham はTina とIke との交流も皆無でしたから、この曲の歌詞とTina とIke の二人はまったく関係ないと断言できます。それに加え、歌詞を書いたTerry は、自分の妻に「I love you」と言った時、その妻が「What’s love got to do with it?」と訊き返してきたことにインスパイアーされてこの歌詞を書いたと自身で語っていますしね。では、その歌詞を見ていきましょう。
先ず第1節、ここには難解な部分は見当たりません。3行目ですが、前述のとおりこの歌詞を書いたのは男性であり男性の目線から描かれたものなので、女性であるTina がthe thrill of boy meetin’ girl と歌うと若干の違和感を感じます。4行目のOpposites attract は「反対同士は惹かれる」つまり「好みや考え方がまったく正反対であったりする人同士は惹かれあう」という意味の諺で、この歌詞でのOpposites は文脈からして男女を指しているのは明らかです。つまり、第1節で描写されているのは、互いに惹かれ合っている男女二人ですね。二人は恋人同士であるということですね。次に2節目ですが、ここで歌詞がいきなり難解となります。なぜなら、この節に出てくるit が何を指しているのかが漠然としていて、それを特定しないと意味がまったく分からないからです。先ずIt’s physical, Only logical のIt ですが、このフレーズの前にOpposites attract という文がありますから、僕は「男女が惹き合うこと」と考えます。要するに、男女が惹き合うという行為は、肉体的なものであっても、感情は必要ない(ここでのlogical は「合理的」つまり、It のことを合理的に考える、いちいち感情など差し挟まない、という意味で使われているのでしょう)ということです。となると、もうこのIt が何を指しているのか皆さん、お分かりですね!そうなんです、sex しかないんです(前にも書きましたが、イギリス人って歌詞にsex をからめるのが好きなんですよ・笑)。そう考えると、3行目のYou must try to ignore that it means more than that も何を言わんとしてるのかすぐ理解できますね。男女がsex をする時、そこに愛があるだのなんだのと考えてはいけない(そんなことは無視しないといけない)という訳です。
第3節も同じようにWhat’s love got to do, got to do with it?のit が何を指しているのかを考えれば、理解が進みますね。What have (A) got to do with (B)?の構文は「A とB に何の関係があるのか?」という意味で、ここで使われているit もsex です!が、それでは露骨ですし「それ」という言葉を記すだけでは意味不明な文章にしかならないので、和訳では「男と女の関係」という言葉に置き換えました(汗)。2行目のa second-hand emotion という表現も難解ですが、僕は「sex=love といったような根拠のない感情、思い込み」であると理解しました。4行目のWho needs a heart when a heart can be broken?も興味深いです。この節のフレーズがすべて疑問形であることや、この4行目の意味から考えると、この歌詞の主人公は自分が傷付きたくないが故に恋人(もしくは同じような存在)と愛を介在させないsex を実践してはいるものの、ほんとにそれでいいのかと自問しているようにも思えます。4節目はさらに訳ワカメですね(←久し振りに「死語」登場・笑)。この節でひとつだけ確かなことは、confused やdazed といった言葉が使われていることから、歌詞の主人公は何かに対して何らかの衝撃や驚き、恐怖を持っているということで、それが何なのかと考えてみた場合、前の節と同じく、男女の関係において愛を介在させないsex をするということに対する迷いのようなものではないかと僕は理解しました。その流れで、第5節1行目のThere’s a name for it のit と3行目のyou do it for me のit を「愛を介在させないsex」に置き換えると、But whatever the reason, you do it for me は、主人公が迷いを持ってようが持っていまいが、主人公のパートナーは主人公とsex をする(パートナーはそう考えていなくとも、結果的に愛を介在させないsex に付き合っていることになる)となり、話の筋が通るような気がするのです。
第6節は3節目のコーラスと同じフレーズの繰り返し。で、第7節ですが、ここも相当に難解ですね。1行目のI’ve been takin’ on a new direction のa new direction は、愛のある恋愛をしてそれが嘗て破局した際に辛い思いをした主人公が、今後はsex しても愛は介在させないと誓ったのだと僕は理解しました。だから、3行目でI’ve been thinking about my own protection と言っているのです。そして4行目のIt scares me to feel this way。これは「そんな風にしてきたけども、今また再び、パートナーを心でも愛してしまうかもという自分が出てきた。そのことが怖い。なぜなら、また破局して辛い思いをするかも知れないから」ということではないかというのが僕の結論です(←あくまでも僕個人の感性による結論)。このあと、再び第3節のコーラスに戻って自問を繰り返し、アウトロに入ってフェードアウト。最後のフレーズがWhat’s love? But a second-hand emotion であるのが、なんか意味ありげです。と、以上、What’s love got to do, got to do with it?の解説でした!歌詞は難解でしたが、歌詞自体は短いので、解説がそれほど長くならなかったので良かったです(笑)。
歌詞はともあれ、シンセサウンドをバックにTina の力強い声が響き渡るこの曲、まさしく「これぞポップ」という感じで悪くないですし、大ヒットしたのも納得ですが、Tina 自身はこの曲を歌わないかというオファーを受けた際、ロックンローラーとしてのプライドからか「こんなポップな曲は歌いたくない」と当初は拒絶していたそう。でも、結局は歌うことにしたので大正解でしたね。そんな波乱万丈の人生を送ったTina姉さん、2023年に移住先のスイスで永眠されました(享年83歳)。
【第87回】The One I Love / R.E.M (1987)
暫く黒人ミュージシャンの曲が続いたので、そろそろ白人ロックへ戻るとしましょう。今日紹介するのは、当時、オルターナティブ・ロックとして一世風靡したR.E.M のThe One I Love という曲です。と、書いておきながら、僕自身、本コーナーを書き始める前は「alternative rock?何ですかそれ?」状態で、そんな用語を聞いたこともなかったし興味もなかったんですが、今回、調べてみましたところ、オルターナティブ・ロックという分野の定義は「大手レコード会社に支配された商業主義的ロックに迎合しない反骨の精神を持つ自主製作的なロック」ということらしいです。その割にはこのR.E.M というバンド、人気が上昇すると共に、結局最後は大手レコード会社から曲をリリースしてますから「なんだかなぁー」って感じですけどね(鼻で笑)。では、なぜそんなクサいバンドの曲を紹介しておきたく思ったのかと言うと、このThe One I Love という曲にはひとつだけ尊敬すべきすごい点があるから。その歌詞がこれです!This one goes out to the one I love
This one goes out to the one I’ve left behind
A simple prop to occupy my time
This one goes out to the one I love
この炎は消えるものなんだ、恋人であってもね
この炎が消えてあの娘を見捨てたのと同じさ
時間潰しの単なるお相手ってやつかな
この炎は消えるものなんだ、恋人であってもね
Fire
Fire
そう、炎さ
炎なのさ
This one goes out to the one I love
This one goes out to the one I’ve left behind
A simple prop to occupy my time
This one goes out to the one I love
この炎は消えるものなんだ、恋人であってもね
この炎が消えてあの娘を見捨てたのと同じさ
時間潰しの単なるお相手ってやつかな
この炎は消えるものなんだ、恋人であってもね
Fire (She’s comin’ down on her own, now)
Fire (She’s comin’ down on her own)
そう、炎さ(彼女は自責の念に駆られてるよ、今頃は)
炎なのさ(彼女は自責の念に駆られてるよ)
This one goes out to the one I love
This one goes out to the one I’ve left behind
Another prop has occupied my time
This one goes out to the one I love
この炎は消えるものなんだ、恋人であってもね
この炎が消えてあの娘を見捨てたのと同じさ
それに、新たなお相手のことでもう手が一杯
この炎は消えるものなんだよ、恋人であってもね
Fire (She’s comin’ down on her own, now)
Fire (She’s comin’ down on her own)
Fire (She’s comin’ down on her own, now)
Fire (She’s comin’ down on her own)
そう、炎さ(彼女は自責の念に駆られてるよ、今頃は)
炎なのさ(彼女は自責の念に駆られてるよ)
そう、炎さ(彼女は自責の念に駆られてるよ、今頃は)
炎なのさ(彼女は自責の念に駆られてるよ)
The One I Love Lyrics as written by Michael Stipe, Peter Buck, Mike Mills, William Berry
Lyrics © Warner-Tamerlane Pub Corp.
【解説】
The One I Love、如何でしたか?たったこれだけの歌詞で見事にロックしてますよね!実質、歌っているのは4行の歌詞とFire というコーラスの組み合わせのみ。それでいて、単調さをまったく感じさせないのだから尊敬に値すると言わざるを得ません。こんな短い歌詞なんだから解説なんて必要ないんじゃないかと思われる方もいらっしゃるかもですが、R.E.Mのボーカル担当でありこの曲の作詞を担当したMichael StipeはThe One I Love でメジャーになる前から「歌詞が意味不明、何を歌ってるのか良く分からない」という評判がつきまとっていた人なので、歌詞は短くとも、その内容を理解するとなると一筋縄ではいかなさそうですよ…(汗)。
では早速、その問題の歌詞の解説に入りましょう。ネイティブ話者がこのThe One I Love を聴くと、多くの人はラブソングだと受け止めるようなのですが、この曲の歌詞を書いたMichael Stipe は2016年にThe One I Love について雑誌のインタビューを受けた際、こう答えています。
「I didn’t like the song to begin with. I felt it was too brutal. I thought the sentiment was too difficult to put out into the world. But people misunderstood it, so it was fine. Now it’s a love song, so that’s fine ・僕は最初からこの曲が好きじゃなかったね。残酷過ぎるって感じてたんだ。こんな感情(歌詞)を世に出すってのは難し過ぎるってね。ところが(曲を聴いた)人々はそう受け止めなかったから良かったよ。だから、この曲は今はラブソングさ。それでいいんだ」
つまり、この曲の歌詞はラブソングではなく、その内容はMichael がこの曲を世に送り出すことを躊躇していたほどに残酷なものであるということなんです。なので、このことを頭に叩き込んで歌詞を見ていきましょう。先ず第1節の1行目。いきなりThis one goes out to the one I love という曖昧というか漠然とした表現で歌が始まりますが、This one のone は何かのモノか人を指しており(This one という表現をネイティブ話者が使う場合、通常は手元にあるモノ、またはすぐに指し示せるモノ)、the one のone は人を指していることは分かります。なので、恐らく多くの人はThis one をThis guy と考えてしまい、この1行目の意味を「この人は愛する人のもとへ出掛ける」と受け止めてラブソングと誤認してしまうのでしょう(曲のタイトルも「The One I Love ・愛する人」ですしね)。そこで、先程引用したMichael Stipe の証言を参考にこのThis one が何なのかと考えたてみたところ、go out という表現との関連性からしても、僕には2節目に出てくるFire 以外、頭に浮かんでくるものはありませんでした。英文法に詳しい方なら「This one という表現を使う場合、このone に当てはまる単語は可算名詞でなければならないのでは?」と指摘されるでしょうが、確かに「火、炎」といった意味でのFire は不可算名詞であり、このThis one のone に使うことはできないですけども「火災、火力、かがり火」といった意味で使う場合は可算名詞扱いになるから可能なのです(まあ、そうでなくとも、ミュージシャンは往々にして文法を無視しますが・笑)。この考えをベースに1行目のThis one goes out to the one I love を直訳すると「この火は愛する人に対しても消える」となりますが、ここのI love は「愛する」というよりは、男女が恋人同士になっているという単なる状態と理解して良さそうです。そして、ここから「この火がいったい何であるのか?」と考えた僕は、これが「人の心を弄ぶ(特に男女間の)火遊びの火」つまり「心を通わせない遊びの恋」という意味で使われているのではないかという結論に達しました。なので、1、2行目をこのように訳しています。これなら、3行目のA simple prop to occupy my time というフレーズとも整合性があると思いませんか?prop は映画や芝居で使う小道具の意味の他にも「人を支える存在、支えとなる人」といった意味もありますから、前述のとおり、炎が「心を通わせない遊びの恋」である以上、その相手は当然、単なる時間潰しの為のそれでしかないという訳です。
第2節のコーラスはFire という言葉を2回繰り返すだけ。やはりこの曲、恐るべしですね(笑)。この節で「ファイアァァー、ハァァハァーハァー」と歌うMichael Stipe の声は、どこか憂いを帯びていると言うか、諦めと言うか、迷いと言うか、僕には「それが僕の宿命なんだぁー」みたいに叫んでいるかのように聞こえます。恐らく、この歌手の主人公は、自分が人の心を弄ぶ最低の人間だと分かっていつつも、自分の思いのままに相手を動かすという快感が忘れられずにそこから抜け出すことができないのでしょうね。典型的なナルシストです(←あくまでも個人の勝手な推測)。3節目は第1節とまったく同じ歌詞。そのあと、4節目では再びFire のコーラスが入りますが、ここでは、Fire のあとに別人のぼそぼそとした声で何か長いフレーズが続いています。何を言っているのか良く聞き取れなかったので、何度か繰り返して聴いてみると、徐々にShe’s comin’ down on her own と言っていることが分かってきました。ここで使われているこのcome down は、上から下へ降りるといった意味ではなく、何か自分のことを自分自身で責め立てているといった状態のイメージ。なので、僕は「最低な男に弄ばれた彼女は今頃は後悔の念に苛まれてるだろう」といった感じに受け止めました。因みにShe’s comin’ down on her own とハモっている声の主はベース担当のMike Mills のようです。そして、第5節は再び第1節の歌詞を繰り返しますが、3行目だけAnother prop has occupied my time に変わっているのがミソ。歌詞の主人公は、付き合っていた恋人を捨てて次の彼女に手を出しているようです。やはりと言うか、この歌詞の主人公、相当ヤバイ奴ですね(笑)。ふーぅ、実質4行の歌詞だというのに、こんなに長くなってしまいましたが(汗)The One I Love の解説はこれにて終了!
では、今回もいつものようにトリビア(即ち、どうでもいい話)をひとつ紹介して締めにしましょう。この曲をリリースしたR.E.M は、1980年に米国のジョージア州アセンズで4人の大学生が結成したロックバンドで、バンドの名は「レム」ではなく「アール・イー・エム」と読みます。この風変わりなバンド名はMichael Stipe が辞書の中から無作為に選んだものだそうで、実際に辞書をペラペラとめくってみるとremark の略としてのREM やrare-earth metal(希土類金属)、roentgen equivalent man(放射線量の単位)、rapid eye movement(所謂REM 睡眠のレム)といった用語のアクロニムとしてのREM、人の名前としてのREM などが出てきますが、辞書の中のどの言葉が元になったのかは明らかにされていません。以上、まさにどうでもいい話でした!(笑)。
【第88回】Smells Like Teen Spirit / Nirvana (1991)
前の回でオルターナティブ・ロックなる分野の曲を紹介しましたが、そのムーブメントの初期、嵐の如く登場し、パンクとハードロックを融合させたような斬新な音造りを武器に成功の階段を瞬く間に駆け上がったものの、バンドの顔であるフロントマンの自殺という悲劇に見舞われて解散の道を選んだロックバンドがあります。そのバンドの名はNirvana。今日紹介するのは、そんな彼らが1991年にリリースし、その後のアメリカのロック界の音楽性(グランジと名付けられました)を形作った歴史的名曲と位置付けられているSmells Like Teen Spirit です。Nirvana は米国西海岸に面したワシントン州の田舎町アバディーン(シアトルから車で2時間ほどの場所)でボーカル兼ギター担当のKurt Cobain(世界中で1千万枚以上のシングル・レコード販売を記録したこの曲の歌詞を書いた人であり、後に自殺する当人です)とベース担当のKrist Novoselic が中心となって1987年に結成したロックバンド。結成当初からNirvana というバンド名だった訳ではなく、最初の1年ほどの間はSkid Row やPen Cap Chew、Bliss、Ted Ed Fred といった風にバンド名を次々と変えていたそうで、最終的にNirvana の名前に落ち着きました。その理由についてKurt Cobainは「I wanted a name that was kind of beautiful or nice and pretty instead of a mean, raunchy punk name like the Angry Samoans ・『アングリー・サモアンズ』みたいなパンク風の下品な名前じゃなくって、美しいっていうかちょっとイイ感じの名前に俺はしたかったんだ」と語っているのですけども、Nirvana は元々、仏教用語の「涅槃」を意味するサンスクリット語で、涅槃は「一切の悩みや束縛から脱した安楽の境地」のことですから、実のところKurt は「Nirvana」にそういった意味があることを知って選んだのかも知れませんね。斯くしてバンドはNirvana の名で精力的に活動を始めたのですが、彼らが無名な存在であった間は良かったものの、その名が世界中に知れ渡ると、1966年に同じ名前のバンドがイギリスで結成されていてレコードも発売されていたことが発覚。しかもそのバンドは1985年に再結成されていて、後にこの元祖Nirvana がKurt Cobain の新Nirvana を名前の利用差し止めを求めて訴訟を起こすという事態に発展しました(結局、両者は裁判で決着がつく前に和解。和解の条件や内容は公開されていないので詳細は不明なんですが、恐らく新Nirvana が元祖Nirvana にそれ相応の金銭を支払ったのであろうと推察されます)。おっと、いつものように話が横道に逸れてしまいましたので、本題の歌詞の話に戻りましょう。このSmells Like Teen Spirit という曲のタイトル、日本語に直訳すれば「10代の若者の熱情みたいな匂いがする」といった感じになり、なんだか意味深長に聞こえますが、実はこのタイトル、当時、パンクバンドBikini Kill でボーカルを担当していたKathleen Hanna が、Bikini Kill のメンバーの一人Tobi Vail がKurt と付き合っていることを冷やかして、Kurt が暮らすアパートの壁に落書きした「Kurt smells teen spirit」という文言がベースとなっていて、その落書きにあったteen spirit は米国のMennen という会社が当時発売していた香料入りの女性用制汗剤(商品名TEEN Spirit)のことで、落書きの文はその意味で使われていたのです(汗←TEEN Spirit を使え!)要するに「TEEN Spirit を使っているTobi と寝ているKurt からは同じTEEN Spiritの匂いがする」とからかっている訳ですね(笑)。ところが、そうとも知らないKurt はその落書きを見て「何か革命のスローガンのようなものだ」と勘違いしただけでなく、曲のタイトルに使ってしまいました。Kurt 本人は後に「teen spirit がデオドラントの商品名であることを知ったのは、曲のシングルレコードが世に出たあとのことだった」と語っています。当初、彼は曲名をAnthem にしたかったようですが、Bikini Killの持ち歌の中に同名の曲が既にあったので諦めたみたいです。確かにこの曲のMV を見ると「Anthem か、なるほどな」とは思いますが、Smells Like Teen Spirit の方が百倍のパンチ力がありますから、このタイトルにして正解だったというのは間違いないですね。
さてさて、曲のタイトルだけでもそんなバックグラウンドを持つこの曲、果たして歌詞の方はどんなものになってるんでしょうか?先ずは歌詞をどうぞ。
Load up on guns, bring your friends
It’s fun to lose and to pretend
She’s over-bored and self-assured
Oh no, I know a dirty word
銃に弾を込めて、ダチどもを連れてきなよ
夢中になるのは楽しいし、ごっこをするのも楽しいもんさ
彼女ってめちゃくちゃ退屈してて自信家だよね
あー、駄目だ、罵倒したくなっちまうよ
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello
やあ、やあ、やあ、やってくれるなあ
やあ、やあ、やあ、やってくれるなあ
やあ、やあ、やあ、やってくれるなあ
やあ、やあ、やあ
With the lights out, it’s less dangerous
Here we are now, entertain us
I feel stupid and contagious
Here we are now, entertain us
A mulatto, an albino
A mosquito, my libido, yeah
灯りを消せば、もっと安全さ
俺たちのお出ましなんだから、楽しませてくれよ
俺は自分が馬鹿みたいに思えてその馬鹿さを移しちまいそうさ
俺たちのお出ましなんだから、楽しませてくれよ
ムラート、アルビノ
モスキートに俺のリビドー、あーそうさ
I’m worse at what I do best
And for this gift, I feel blessed
Our little group has always been
And always will until the end
俺がずっと劣っているのは全力を尽くすってこと
この天に与えられた才能に祝福されてる気分さ
俺たちの小さなグループはいつも居たし
最後までずっとそうさ
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello
やあ、やあ、やあ、やってくれるなあ
やあ、やあ、やあ、やってくれるなあ
やあ、やあ、やあ、やってくれるなあ
やあ、やあ、やあ
With the lights out, it’s less dangerous
Here we are now, entertain us
I feel stupid and contagious
Here we are now, entertain us
A mulatto, an albino
A mosquito, my libido, yeah
灯りを消せば、もっと安全さ
俺たちのお出ましなんだから、楽しませてくれよ
俺は自分が馬鹿みたいに思えてその馬鹿さを移しちまいそうさ
俺たちのお出ましなんだから、楽しませてくれよ
ムラート、アルビノ
モスキートに俺のリビドー、あーそうさ
And I forget just why I taste
Oh yeah, I guess it makes me smile
I found it hard, it’s hard to find
Oh well, whatever, never mind
でさ、なんでこんなことすんのか俺は忘れかけてる
あー、そうだった、なんか楽しくさせてくれるからだ
難しいってのは分かったよ、道は険しいってさ
あー、でもさ、どうでもいいんだ、構いやしないさ
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello
やあ、やあ、やあ、やってくれるなあ
やあ、やあ、やあ、やってくれるなあ
やあ、やあ、やあ、やってくれるなあ
やあ、やあ、やあ
With the lights out, it’s less dangerous
Here we are now, entertain us
I feel stupid and contagious
Here we are now, entertain us
A mulatto, an albino
A mosquito, my libido
灯りを消せば、もっと安全さ
俺たちのお出ましなんだから、楽しませてくれよ
俺は自分が馬鹿みたいに思えてその馬鹿さを移しちまいそうさ
俺たちのお出ましなんだから、楽しませてくれよ
ムラート、アルビノ
モスキートに俺のリビドー、あーそうさ
A denial, a denial
A denial, a denial
A denial, a denial
A denial, a denial
A denial
拒絶さ、拒絶
拒絶さ、拒絶
拒絶さ、拒絶
拒絶さ、拒絶
拒絶なんだ
Smells Like Teen Spirit Lyrics as written by Kurt Cobain, David Grohl, Krist Novoselic
Lyrics © BMG Silver Songs, Murky Slough Music, Dave Grohl dba Mj Twelve Music
【解説】
4つのパワーコードで構成されたギターリフで始まるSmells Like Teen Spirit、イントロを聴いただけで既にもう名曲の予感が漂ってますね。この曲、イントロのコードがそのまま最後まで繰り返されるだけでなく、不気味さというかサイケデリック感の漂う静かな演奏とコーラスでの音の爆発も交互に繰り返されるという印象的な曲作りになっていて極めて斬新ですが、歌詞の方はと言うと、織田裕二さん風に叫ぶならば「キタァァァー!」です。この曲の歌詞はもう最強級の訳ワカメだとしか言いようがありません(汗&涙)。そこで、いつものように歌詞の理解の手助けになりそうな材料を探してみたところ、Kurt Cobain がこの曲に関するインタビューにしばしば応じていることが分かったのですが、この人もStairway to Heaven の歌詞を書いたRobert Plant 同様、毎回発言がころころ変わっているので、あまり参考にならなさそうなんです(涙)。そこで今回は、ネット検索で掘り出した大量の情報の中から絞り込んだ下記の3つの点を参考にして、そこから歌詞の意味を紐解いてみようと思います。
① Kurt Cobain は音楽で最も重要なものは音そのものであると考えるミュージシャンであり、歌詞なんてものはどうでもいいものだとまでは言わないものの、重視することはなかった。
② Kathleen Hanna がKurt が暮らすアパートの壁に「Kurt smells teen spirit」と落書きした頃、Hanna とKurt はしばしばアナーキズムや革命について論議していた。
③ Kurt は雑誌のインタビューでこの曲の歌詞について尋ねられた際「The entire song is made up of contradictory ideas ・曲全体が矛盾した考えで出来てるよね」とか「It’s just making fun of the thought of having a revolution. But it’s a nice thought ・革命をするなんて考えをからかってるんだけど、いい思い付きだったね」と答えていたことがある。
それでは、問題の歌詞を見ていきましょう(汗←TEEN Spirit を使え!←まだ言うか!)。先ず1節目、難解な単語は見当たりませんが、歌詞の内容は訳ワカメです(笑)。2行目のlose はoneself in を補って考えました。子供は「It’s fun to pretend」とよく言ったりしますが、その時のpretend は、お医者さんごっことか何かになったつもりで遊ぶことを意味する「ごっこ」の意味になります。3行目は唐突にShe が出てきて?マークが頭の中で旋回。このShe はKurt の恋人で、彼がこの歌詞を書いた時には破局して別れていたTobi Vail のことだと考える人が多いようなのですが、僕は前述の②の理由からKathleen Hanna のことをイメージしていたのではないかと推測します。そう考えれば、4行目とも整合性が出てきませんか?4行目は直訳すれば「汚い言葉を知っている」ですが(a dirty word というのは、fuck などの所謂four- letter wordと同じ意味です)、僕には「そんな言葉を使うくらいに罵ってやるぞ」と言ってるように聞こえました。すると、同じく前述の③のKurt の発言も納得できます。「革命(世の中を変える)なんてことができると考えてるおまえたちはバカだ」という訳です。恐らく、Kathleen Hanna はKurt の前でアナーキズムや革命について熱く語っていたのではないでしょうか。つまり、1、2行目はHanna の目線からの歌詞、3、4行目はそれに対するKurt の反応と僕は理解しました。なので、第1節は基本的にKurt がIt’s just making fun of the thought of having a revolution と語っていた線に沿った内容であると思います。
と、ここまではいいのですが、次の第2節のプリ・コーラスがなぜにHello の連呼なのかが良く分かりません。文尾をhow low にしているのはhello の音の響きに合わせた言葉遊びで、how low 自体に特に意味はないと考えて良いのではないかと思います。因みに、自分に対して何か不公平な扱いを受けたり不公平なことが起こったりした時によく口にする言葉が「How low!」。そのあとの3節目はもう完全にお手上げですね。1行目は、要するに「灯りを消した真っ暗な状態であれば危険も減る」という意味になりますが、真っ暗になれば前後左右、足元も見えないし普通は危険が増しますよね。このあたりがKurt が③で言っていたところのThe entire song is made up of contradictory ideas なのでしょう。暗闇から「頭を暗闇にする」を連想して「何も考えないでいるほうが安全だ」と言いたいのかなとも考えましたが、たとえその理解が正しかったとしても2行目の歌詞にまったくつながりません。2行目のHere we are now, entertain us は、Kurtがパーティーに現れた際に良く口にしていた台詞らしいです。3行目のcontagious は「病気が伝染する」という意味で主に使われる形容詞ですが、人の感情や態度にも使えますので、ここではstupidが前にあるのでmy stupidity is contagious ということですね。5行目以降の聞き慣れない単語の羅列は、これで何を表現しようとしているのかまったくもって理解不能。mulatto は中南米がスペインの植民地であった時代、スペイン人が造語した人種(血統)を現す言葉からの借用語で、現代のアメリカではnigger などと同じく差別用語です(スペイン人は白人と黒人との間に生まれた子供ならmulato(a)、白人とインディオとの間に生まれた子供ならmestizo(a)、黒人とインディオとの間に生まれた子供ならsambo という風に細かく分類していました)。albino も日本語で言うところの所謂「白子(皮膚などの色素が著しく欠けた人)」のことで、最近の日本では「白子」ではなくそのまま「アルビノ」と呼ぶことが多いですけども、アメリカでは「アルバイノゥ」と発音します。libido は精神科医のフロイトが使い始めた精神医学用語で、彼は主に「性衝動」という意味で使用していましたが、現在では「人間の行動のベースとなる根源的な欲望や欲求」という意味で理解されるようになってきています。とは言え、アメリカ人の一般的な教養レベルでは、これらの言葉が何を意味しているのかを理解できる人は先ずいないですから(恐らく、分かるのはmosquito だけでしょう・笑)ネイティブ話者にとってもちんぷんかんぷんであることは間違いありませんが、ネイティブ話者ではない僕がこの最後の2行の不思議な名詞の羅列を聴いて脳裏に浮かんだのは、mulatto→社会の中で差別されている存在、albino→社会の中での異質な存在、mosquito→伝染病を媒介する害虫ですから、社会に害を与えると見做されている存在(もしくは、蚊のようにすぐに叩き潰されるちっぽけな存在)、my libido→自分の行動のベースとなる根源的な欲望や欲求という連想で、mulatto, albino, mosquito に不定冠詞がついていることやlibido の所有格がmy であることから、僕はI am が省略されているのではないかと考えました。つまり、ここで並べ立てられている言葉はすべて自分という存在の比喩であり「俺自身も俺の生き方(my libido)も社会の中では糞扱いだ(疎外されている)」という主張だというのが僕の結論(←あくまでも個人の意見・汗)。ですが、この節全体で何を言いたいのかはまったく理解不能というのが正直なところです。
第4節も英語として難しい部分はありませんが、歌詞の解釈となると難解。1行目のI’m worse at what I do best からして意味不明ですが、これもcontradictory ideas の影響でしょうか。2行目は、1行目で述べられている自らの能力を誇りに思っているということ。3行目は個人からOur little group と集団に変わっていますが、このgroup というのはそういった能力を持つ人々たちのことを指していると僕は理解しました。4行目はwill のあとにbe かexsist を補えば分かり易いです。つまり、この第4節は「世の中には才能に溢れていても、その見た目や思想、生き方などによって社会から疎外されている者たちがいるが、そんな状況はこれからもずっと続いていく」ということなのではないかと僕は感じました。第5節と6節は2、3節目と同じフレーズの繰り返し。そのあとギターソロが入って、それに続く7節目、ここも英語の難易度という観点だけで見れば、中学生で習う英語のレベルで和訳できると思いますが、簡単に補足しておきます。1行目のI taste はI try かI do に入れ替えれば分かり易いでしょう。4行目のwhateverは使う場面によって意味が変わってきますが、ここでは「どうでもいいさ」の意味。「はい、この会話はもう終了」って感じの時によく耳にする言葉です。never mind も「気にしないで」の意味として使われることが多いですが「もういいよ、どうでもいいよ」の意味で使われることもありますね。余談ですが、このSmells Like Teen Spirit を収録しているアルバムのタイトルが「Nevermind」でした。第7節の歌詞も、ここまでの歌詞の内容との関連性が稀有で何を伝えたいのか良く分かりませんが(汗)「自分たちのような人間が存在していることを知らしめるべく社会や体制に反抗してみてはいるが、道は険しい」と冷静に自己分析した上で「whatever, never mind もうどうでもよくなってきた」とちょっと投げやりというか諦めの境地のような感情を吐露しているように思います。第8節と9節は再び2、3節目と同じフレーズの繰り返し。そして最後にアウトロでA denial を連呼して曲は終了するのですけども、このdenial は「自分のような種類の人間は社会に否定されている、これからも否定され続ける」とも受け取れますし、その反対に「もう聞く耳は持たず、自分が逆にこの社会を否定してやる」とも受け止めることができますね。いずれにせよ、ここのdenial の響きにはある種の重さが感じられます。
「うーん、なんだかなー」ってな感じの解説しかできませんでしたが、以前に紹介したツェッぺリンのStairway to Heaven 同様、このSmells Like Teen Spirit の歌詞には取り立てて深い意味などないというのが僕の結論。Robert Plant がStairway to Heaven の歌詞について何種類もの解釈を語っていたのと同じで(元々大した意味がないから説明が一定しない)この曲の歌詞に関するKurt Cobain のコメントがころころ変わるのもそれ故ではないかと僕は思っています。ただ、Smells Like Teen Spirit がStairway to Heaven とひとつ決定的に違う点は、この曲をブレイクさせた真の立役者が音と歌詞ではなく映像(MV ミュージック・ビデオ)であったということで、この曲はまさにMTV の開局から始まった音楽シーンにおける映像時代の落とし子だったと言えるでしょう。そのMV、超有名作品なので見たことがある人も多いと思いますが「そんなの見たことない」とおっしゃる方の為に少し簡単に紹介しておきます。舞台はどこかのアメリカの高校のpep rally の会場、pep rally というのは、スポーツの対外試合などがある際、試合前に校内の生徒を講堂などに集めて試合に出る選手を激励するイベントのことで、日本人には馴染みがないですけども、アメリカやカナダでは頻繁に行われている行事です。この曲のMV では、講堂に集った生徒たちの前でチアリーダーに囲まれたNirvana が演奏を始め、曲の盛り上がりと共に最初はおとなしく曲に耳を傾けていた生徒たちが徐々に踊り狂い始め、最後は大混乱に陥るというストーリーが描かれていて、このMV を見た多くのアメリカの若者が「すっげえー!こいつら、学校をメチャクチャにしてるじゃねえか!なんてクールなんだ!」と共感してNirvana のファンとなっていったことが、この曲の大ブレイクにつながりました。因みにこのMV で生徒役になっているエキストラは、Nirvana のコンサート会場で募集をかけて集めた若者で、チアリーダーたちは街のストリップ嬢を呼んで演じてもらったと伝えられています。
さて、最後になりましたが、冒頭に書いたとおり、Kurt Cobain は1994年4月(あれからもう30年以上もの月日が流れたんですよね…。信じられません)27歳の若さで猟銃で自ら頭を撃ち抜き亡くなりました。重度のヘロイン中毒であった上に(自殺時は収容されていた薬物中毒のリハビリセンターから逃走中でした)、もともと躁鬱の気質だったようで、自殺に至る1ケ月ほど前から何度も自殺未遂を繰り返していたことが後になって判明しています。現場には遺書も残されており、そこには「It’s better to burn out than to fade away ・消え去るよりも燃え尽きる方がずっといい」と書かれていたそうです(このフレーズは、ニール・ヤングの曲の歌詞の一部です)。なんだか切ない話ですね(涙)。
【第89回】Guns N’ Roses / Sweet Child O’ Mine (1988)
前回、Nirvana がMV 時代の寵児であったと述べましたが、その時期、同じようにMTV が頻繁に放映したMV で大ブレークして世界に羽ばたいたロックバンドがあります。その名はGuns N’ Roses。今日は彼らが1988年にデビューアルバムAppetite for Destruction からシングルカットしてヒットさせ、同年のビルボード社年間チャートで堂々の5位に輝いたSweet Child O’ Mine を紹介しましょう。Guns N’ Roses は1985年カリフォルニア州ロサンゼルスでTracii Guns 率いるL.A. Guns とAxl Rose(アクセル)率いるHollywood Rose が合併したロックバンドで(但し、Tracii Guns らL.A. Guns のメンバーは価値観の不相違で直ぐに脱退しています)、デビューアルバムのジャケットの表紙に、機械のロボットが女性を強姦している挿絵(日本では「レイプ・ジャケット」と呼ばれてるやつです)を使って世間を騒がせました。これ以外にもアクセルは、このアルバムに収録したRocket Queen という曲に自らと恋人との性行為の最中の喘ぎ声を挿入したり、その後も様々な場所で暴言や暴力沙汰を繰り返すといった自己中心的なお騒がせ者であった為、彼のことを嫌っていた者も多く、Nirvana のKurt Cobain なんかもアクセルのことを常にこき下ろしていました。例えば「There’s always going to be an Axl Rose in the music world. There’s always going to be people like him. He represents a certain kind of rock star, and it’s going to be around forever, but I don’t want to be that ・音楽の世界にはいつもアクセル・ローズみたいなのが出てくるし、あいつみたいな連中はいつも出てくる。あいつはロックスターの代表格みたいなもんで、ずっとそうであるんだろうが、俺はあんなのにはなりたくないね」といった発言をKurt はしています。因みにアクセルは西海岸で生まれ育ったのではなく、22歳の時に故郷のインディアナ州の田舎町からヒッチハイクでカリフォルニア州に移住し、Guns N’ Roses で成功するまではホームレス同然の極貧生活を続けていました。カリフォルニアへ移住した理由は、地元で警察の世話にばかりなっていた粗暴な彼が、これ以上問題ばかり起こすようならブタ箱に長期でぶちこむと警察から脅されたからだとされていて、そのこと自体の真偽は不明ですが、デビュー前から既にアクセルが問題の多い人物であったことだけは間違いなさそうです。移住と言うよりはむしろ逃亡ですね(笑)。She’s got a smile that it seems to me
Reminds me of childhood memories
Where everything was as fresh as the bright blue sky (Sky)
Now and then when I see her face
She takes me away to that special place
And if I stared too long, I’d probably break down and cry
彼女の笑顔なんだけどさ、俺は思うんだよ
自分の子供時代のことを思い出させるって
すべてが真っ蒼な空みたいにウブだったね(空みたいに)
たまに彼女の顔を見たらさ
彼女は俺を特別な気持ちにしてくれるんだ
あんまり長く見つめてると、多分、泣き崩れちまうだろうな
Woah, oh, oh
Sweet child o’ mine
Woah, oh, oh, oh
Sweet love of mine
あぁぁー
俺の愛しい人
あぁぁぁー
俺の愛しい人よ
She’s got eyes of the bluest skies
As if they thought of rain
I’d hate to look into those eyes and see an ounce of pain
Her hair reminds me of a warm, safe place
Where, as a child, I’d hide
And pray for the thunder and the rain to quietly pass me by
彼女の目って一番蒼い空みたいなんだよな
雨のことで頭がいっぱいになってるみたいなね
俺はそんな彼女の目に、僅かな傷心さえ浮かんでるのを見るのは嫌だね
だって、彼女の髪は、温かくて誰からも守ってくれる場所を思い出させるから
子供の頃、俺が逃げ込んでた場所さ
雷と雨が静かに通り過ぎるのを祈ってたね
Woah, oh, oh
Sweet child o’ mine
Woah woah, oh, oh, oh
Sweet love of mine
あぁぁー
俺の愛しい人
あぁぁぁー
俺の愛しい人よ
Oh, oh-oh-yeah
Woah, yeah
Woah, oh, h-o
Sweet child of mine
Woah-oh, woah-oh
Sweet love of mine
Woah, oh-oh-oh
Sweet child of mine, ooh, yeah
Ooh-ooh-ooh-ooh
Sweet love of mine
あぁぁー、そうさ
あー、そうなんだ
うぉー
俺の愛しい人
うぉー、うぉー
俺の愛しい人よ
うぉぉぉぉー
俺の愛しい人、あぁ、そうさ
あぁぁぁぁー
君は俺の愛しい人なんだ
Where do we go?
Where do we go now?
Where do we go?
Mm-mm, oh, where do we go?
Where do we go now?
Oh, where do we go now? (Where do we go?)
Where do we go? (Sweet child of mine)
俺たちってどうなっていくんだろう?
俺たちって今、どうしようとしてるんだ?
俺たちってどうなっていくんだろう?
うーん、俺たちってどうなっていくんだろう?
俺たちって今、どうしようとしてるんだ?(俺たちってどうなっていくんだろう?)
俺たちってどうなっていくんだろう?(俺の愛しい人)
*このあと、ギターが鳴き始めるのと共に間投詞とWhere do we go now?のフレーズがひたすらだらだらと続くだけなので割愛します。
Sweet Child O’ Mine Lyrics as written by Steven Adler, Saul Hudson, Duff Rose McKagan, W. Axl Rose, Izzy Stradlin
Lyrics © Black Frog Music, Universal-Polygram International Pub Inc., Guns N Roses Music
【解説】
あまりにも有名になった弦飛びピッキング(オルタネイトピッキング)で演奏されるギターリフのイントロので始まるSweet Child O’ Mine。この印象的なイントロのギターの響きといい、そのあとに続くアクセルの独特な高い声といい、なんだか爽やかな感じがしますね。もし、アクセルの悪行を知らずにこの曲を聴いて和訳をしていれば、主語は絶対「僕」にしていたところですが、今回は敢えて「俺」にしました(笑)。この曲の歌詞は凡庸な英語で書かれており、歌詞に登場するShe がアクセルの当時の恋人Erin Everly(二人は後に結婚しますが、僅か9ケ月で離婚)であることも本人が認めている為、歌詞の理解は比較的容易ですけども、部分的に分かりにくい個所がありますので、ざっと全体を見ていきましょう。
先ずタイトルのSweet Child O’ Mine ですが、ここのChild を「子供」と考えてしまうと、訳が分からなくなってしまいます。この曲が自らの恋人について歌っているものであることから考えれば、Sweet Childがその恋人を指していることに疑問の余地はありませんね。日本語でも、昔は可愛らしい女性に対して「かわい子ちゃん」なんて言葉を使っていましたから(←オヤジ世代だけが知る死語ですが・汗)それと同じ感じでしょうか。Child の後のO’ はof の省略形です。では、第1節の解説に入りましょう。ここの1行目から3行目は、ちょっと長ったらしいですけどもひとつの文になっています。通常it seems to me という構文は、そのあとにthat が入って「that 以下のように思える」という意味で使われます。3行目のwhere は関係副詞でwhere 以下はchildhood memories がどのようなものであったのかの説明ですね。4行目のShe takes me away to that special place は直訳すれば「彼女は私を特別な場所へ連れ去る」ですけど、ここでは実際にどこか特定の場所へ連れて行ってくという行動を意味しているのではなく心の動きの比喩なので、このように和訳しました。つまり、この第1節の意味は「純真な彼女を見ていると(blue sky は汚れのない純粋さの比喩)昔の自分を思い出し、今の自分の姿(自分も彼女のようだったが今は違う)が悲しく思えて泣きたくなりそうだ」というのが僕の理解です。
第2節のコーラス部分の歌詞はタイトルの解説で述べたとおり。4行目のSweet love も、恋人のことをsweetheart とか言うのと同じパターンですね。第3節は正直なところ、ちょっと難解になります。1行目のsky がskies と複数形になっていることに注目し、そこから感じる空の広がりというイメージを念頭にShe’s got eyes of the bluest skies as if they thought of rain の部分を聴いてみると、僕の脳裏に浮かんだのは「純真な広い心を持つが故にいつもいろいろなことで気を揉んでいる一人の女性の姿」というものでした。3行目で歌詞の主人公が口にしているのは「そんな彼女がそれらの心配事で傷付くような姿は見たくない」ということで、その理由が4行目以降で明かされています。4、5行目のwarm, safe place where, as a child, I’d hide と聴いて僕の頭に浮かんだのはただひとつ。それは「母親の懐」で、その考えを僕の中で補強したのが6行目の歌詞です。アクセルの両親は彼が幼い頃に離婚していて、母親に引き取られた彼は母親が再婚した継父から頻繁に暴力を振るわれ、虐待を受けていたそうで、アクセルと母親の関係が良好なものであったのかどうかは調べてみても分かりませんでしたが、the thunder and the rain to quietly pass me by は「継父に暴力を振るわれる度に、この歌詞の主人公はそれが早く終わるように母親の懐で祈っていた」と理解するのが自然ではないかと思います。つまり、この歌詞の主人公は恋人である彼女の辛そうな姿を見ると、そこに自分の母親の姿が重なり、同時に継父の暴力、虐待が記憶の中に甦ってくる。だから彼女の傷付く姿なんて見たくない、ということではないでしょうか(←個人の見解ですので悪しからず)。
4節目と5節目のコーラスは解説不要。その次にギターソロが入った後の最後の第6節、ここのWhere do we go?は直訳すれば「私たちはどこへ行くのか?」ですが、ここでの意味は主人公と恋人の彼女の二人がどこへ向かおうとしているのか?つまり、二人の関係は今後どうなっていくんだろう?という主人公が持つ不安だと僕は理解しました。この節から推測できるのは、恐らく二人の間には何らかの問題(例えば、彼女のことを愛してはいるが、純真な彼女とそうでない自分とがこれからもうまくやっていけるのだろうかという精神的葛藤)が横たわっているのであろうということです。だからこそ、この歌詞の主人公は二人の関係の将来を不安に思っているような気が僕にはしました。以上でSweet Child O’ Mine の解説は終了!単なるクサいラブソングかと思いきや、意外に奥の深いセンチメンタルな歌詞でしたね(笑)。
【第90回】Dude (Looks Like a Lady) / Aerosmith (1987)
怒涛のアメリカン・ハードロック祭り(←またまた勝手に祭り開催・汗)。今回はアメリカのロック界における大御所中の大御所Aerosmith を紹介したいと思います。21世紀になった今でも尚、大御所として健在のAerosmith ですが、この曲がヒットした僅か数年後の当時、人気という点では彼らのコンサートの前座を務めていたGuns N’ Roses にあっという間に抜かれてその地位が逆転してしまっていたことを懐かしく思い出しました(笑)。Aerosmith はご存知Steven Tyler(若い頃はミック・ジャガーに寄せ過ぎ、歳を取ってからはジャック・スパロー船長に寄せ過ぎの人です・笑)とJoe Perry が中心となって1970年にアメリカ東部のボストンで結成したロックバンドで(Tyler 自身はニューヨーク市のマンハッタン生まれ)、その頃、イギリスで勃興していたハードロックとアメリカの黒人音楽であるブルースを融合させた音作りでアメリカにおけるハードロックの黎明期の中心人物として活躍を開始。メンバーたちの強度の麻薬依存問題やよくある内輪揉めで何度も空中分解しそうになったものの、結成から50年以上が経った現在もほぼ結成時と同じメンバーで活動しているという稀有なバンドでもあります。そんなAerosmith の数多いヒット曲の中から本日紹介するのは、1987年にリリースされたDude(Looks Like a Lady)という曲。Dude というのは日本語に置き換えれば「奴、あいつ」に相当し、親しい間柄の者の間で呼びかけとして使えば「おまえ、あんた」になるといった感じでしょうか(感嘆詞として使う場合はまた別の意味になりますが、話が長くなるのでここでは割愛。まあ、Dude は最近ではちょっと古臭い感じの言葉になっていて、Bro の方がよく使われているような気がしないでもないですが)。( )書きでLooks Like a Lady と付け加えられているのがこのタイトルのミソで、通しで日本語に直訳すると「女みたいに見えるあいつ」となり、そのタイトルどおり、Steven Tyler はブロンドの長髪であったMötley Crüeのボーカル担当Vince Neil を見た時に女性と見間違ってしまった経験とニューヨークでのとある経験にインスパイアーされてこの曲を作ったと語っています。そのニューヨークでの経験というのがこれ。
「We were hailing a taxi in New York one night and these fucks, Mötley Crüe, pulled up in a limo. They called us in and every other word out of their mouths was ‘dude’. You know, ‘Yo dude! Your dude is really dude, dude.’ I hadn’t heard this crazy ‘dude’ shit before ・ある夜、ニューヨークで俺たちがタクシーを拾おうとしてたらさ、モトリークルーの糞どもがリムジンに乗り込んでて、俺たちに乗れって言ったんだよな。その時、奴らが皆、口にしてたのが『デュ―ド』って言葉。『おい、あんた!あんたたちってマジ最高だな、あんただよ』だってよ。『デュ―ド』ってアホみたいな糞言葉をあんなに聞いたことはかつてなかったね」
つまり、この曲はMötley Crüe を馬鹿にしている曲ですね(←いいえ、違います!笑)。
That, that dude looks like a lady
That, that dude looks like a lady
That, that dude looks like a lady
That, that dude looks like a lady
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
Cruise into a bar on the shore
Her picture graced the grime on the door
She’s a long lost love at first bite
Baby, maybe you’re wrong, but you know it’s all right
That’s right
海岸にあるバーに車で乗り付けたら
彼女の写真が埃塗れのドアに花を添えてた
彼女は長いこと忘れてた一目ぼれの恋のお相手さ
ベイビー、間違ってるかも知れないけど、構いやしないさ
それでいいのさ
Backstage, we’re having the time
Of our lives until somebody said
"Forgive me if I seem out of line"
And she whipped out a gun and tried to blow me away
楽屋で、俺たち時を過ごしたんだ
人生の時を、誰かがこう言うまではね
「こんなこと言うのも悪いんだけど」
でさ、彼女、急に銃筒を取り出して俺をぶっ飛ばそうとしたんだ
That, that dude looks like a lady
That, that dude looks like a lady
That, that dude looks like a lady
That, that dude looks like a lady
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
Never judge a book by its cover
Or who you gonna love by your lover
Sayin’ love put me wise to her love in disguise
She had the body of a Venus, Lord, imagine my surprise
人を見かけで判断しちゃいけねえんだ
恋の相手の姿を見て好きになるなんてことは駄目なんだ
愛してるって言葉を言って俺は彼女の本当の姿に気付いたね
彼女、すげえいい体をしてたもの、マジ驚いちまったね
That, that dude looks like a lady
That, that dude looks like a lady
That, that dude looks like a lady
That, that dude looks like a lady
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
あの、あの、女みたいに見えるあいつ
So baby, let me follow you down (Let me take a peek, dear)
Baby, let me follow you down (Do me, do me, do me all night)
Baby, let me follow you down (Turn the other cheek, dear)
Baby, let me follow you down (Do me, do me, do me, do me)
だからさ、ベイビー、俺を君の傍にいさせてよ(天に昇らせてくれ、愛しの人)
ベイビー、俺を君の傍にいさせてよ(俺にして、して、して、一晩中)
ベイビー、俺を君の傍にいさせてよ(そっちの頬を向けてさ、愛しの人)
ベイビー、俺を君の傍にいさせてよ(俺にして、して、して、して)
Ooh, what a funky lady
Ooh, she like it, like it, like it, like that
Ooh, he was a lady, yeah
あー、イカした女性さ
あー、彼女は気に入ってるのさ、あの姿でいることを
あー、彼は女性だったんだ、そうなのさ
*このあと、コーラスでThat, that dude looks like a lady が連呼され、アウトロでも同じようなフレーズが長々と続くので割愛します。
Dude (Looks Like a Lady) Lyrics as written by Steven Tyler, Joe Perry, Desmond Child
Lyrics © BMG Gold Songs, Universal-Polygram International Pub Inc, EMI April Music Inc
【解説】
Aerosmith の曲はイントロが長過ぎでダレるものが多いですが、この曲のイントロは直ぐにパンチのあるコーラスが入るので珍しくさくっとしていますね(因みに歌詞にあるThat の部分は単なる叫び声のようにしか聞こえませんので悪しからず)。この第1節のコーラスの歌詞の意味は冒頭で述べたとおりですが、さてさてこの曲、Mötley Crüe のVince Neil をおちょくっている歌詞になっているのでしょうか?それを突き止める為にも、歌詞をじっくりと念入りに見ていきましょう。コーラスのあとの第2節の1行目は主語が省略されていて、ここの主語はI と考えるのが自然。Cruise into~は「車で~へ乗り付ける」といったイメージで、そのあとのa bar は、まだこの時点では普通の飲み屋のbar くらいにしか思えませんが、曲を最後まで聴けば、このbar が普通のbar ではなく、strip bar、所謂strip club であろうことが分かります。strip clubは日本では馴染みのない営業形態ですので、どんな店なのかの想像がつかない方の為に一言説明を付け加えておきますと、バーやクラブのような内装の店内で(店によっては小さなステージも設えられている)ショーツ1枚身に着けただけのほぼ全裸という女性たちがそこら中で踊っているというのがその正体で(笑)、客はそれらの女性を酒を飲みながら眺めたり、自分の目の前で踊らせたりすることができます(勿論、チップを渡さなくてはなりませんが)。なので、Her picture graced the grime on the door から頭に浮かぶのは、店の使い古されたドアにベタベタと貼られた踊り子たちの宣伝写真ですかね。3行目のlove at first bite は、1979年公開のアメリカのコメディー映画「Love at First Bite(邦題はいつもの如く『ドラキュラ都へ行く』というセンスの欠片もないものでした)」の引用ではないかと思われます。この映画のストーリーはドラキュラが最初に血を吸った女性に恋をしてしまうという仕立てでしたので、ここでのlove at first bite は「一目ぼれlove at first sight」の意味で使われていることは間違いないでしょう。つまり、この節の描写は「歌詞の主人公がストリップクラブを訪れた際に入口のドアに貼られていた踊り子の写真を見た瞬間に恋してしまい、そんな水商売の女性に一目ぼれするなんていけないことだとは思うけど、仕方ないよねと自問している」であると僕は理解しました。どうやらこの曲、誕生のきっかけは女性みたいに見えたVince Neilの姿にインスパイアーされたことであっても、歌詞の内容はVince Neil をいじっているものではないみたいですよ(笑)。
第3節目は、そんな二人の交際が深まっている様子が窺えます。1行目のBackstage は日本で言うところの楽屋ですね。普通、一般の客がBackstage に立ち入ることはできませんから、二人の間柄はそこで会えるほどのものであるということでしょう。ところが、そんな歌詞の主人公にForgive me if I seem out of line と耳打ちする者が現れます。直訳すれば「私が線を越えてるようなら許してください」つまり「言い過ぎならごめんなさいね」ということなんですが、なぜそんなことを言われたのかを主人公が理解するのが4行目。ここでのa gun を拳銃などの銃器と考えたらこの歌詞の意味がまったく分からなくなりますよ!ここでのa gun は間違いなく男性のイチモツの比喩なんです。つまり、主人公の恋の相手が彼に男性器を見せつけて驚かせようとしたってこと(笑)。一目ぼれして付き合ってる相手が実は男性であった(僕らオヤジ世代で言うところのオカマですね。今の時代はニューハーフとか言うみたいですが)と主人公はようやく気付いたという訳です(←そんなことってありますかね?・笑)。次の4節目のコーラスで再びThat, that dude looks like a lady のフレーズが連呼されることからも、そのことは明らかでしょう。第5節は、難解な英単語は出てきませんが歌詞の意味はちょっと難しいかもしれません。1行目は直訳すれば「本を表紙で選んではいけない」ですが、これは日本で言うところの「人を見かけで判断してはいけない」という有名な諺。2行目はyour lover をyour lover’s appearance(looks)と考えれば良いかと思います。3行目のput someone wise to~は「誰々に~を知らせる」という意味で、何を知らせたのかというとher love in disguise です。her love in disguise は直訳すれば「彼女の偽りの愛」ですが、disguise には変装の意味もありますので、そこにひっかけているのでしょう。つまり、ここのher love in disguise は彼女が女装して性別を偽っていた事実を指していると僕は理解したので、このような和訳になっています。4行目は、西欧ではミロのヴィーナス像が女性の身体の理想とされていることからも分かるとおり、彼女は世の男性なら誰でも涎を垂らすような素晴らしいボディーをしていたということの比喩。
6節目は再びThat, that dude looks like a lady のコーラスで、7節目に入ると、二人の関係を熟考した歌詞の主人公の意外な心情がここで吐露されます。この節で連呼されているfollow you down という言葉を聞いて頭に浮かぶのは「あなたにどこまでもずっとついて行く」というイメージ。ですから、要はずっとあなたの傍にいたいということですね。つまり、この歌詞の主人公は、彼女が男であることを知ってしまったけれども、それでも尚、彼女を愛し続ける決意をしたということなんです。但し、Steven Tyler が歌う( )内のフレーズ部分はどう聴いても僕には性的な意味合いのものにしか聞こえませんでしたので、主人公が心から彼女に惚れたのか、彼女の体に惚れたのかは良く分かりませんけども(笑)この後に入るギターソロに続く8節目のブリッジ部分のフレーズを聞くと、主人公が恋人の女性としての人格を認めていることだけは確かなようです。
以上、Dude (Looks Like a Lady)の歌詞をざっと解説してみましたが、如何でしたか?この曲の歌詞自体は決して素晴らしい出来というレベルのものではありませんが、全体的にちょっとコミカルな感があって(かと言って、オカマをおちょくっている訳でもなく)僕はなかなか面白い作品だと思っています(←いつものように上から目線で論評・汗)。面白いと言えば、ひとつ紹介しておきたいのがAerosmith の「たい焼き事件」。来日経験が多いAerosmith のメンバーの日本でのお気に入りのアイテムのひとつにお菓子のたい焼きがあるそうで、かつてSteven Tyler がお土産用にたい焼きを大量購入して帰国便に乗り込んだ際、メンバーが機内でそのたい焼きをこっそり全部食べてしまい、そのことを知ったSteven Tyler が激怒してバンドが解散寸前になったという伝説がそう呼ばれているのですが、Steven Tyler がそれくらいのことで激怒するようなキンタマの小さい男とも思えませんので、この思わず笑ってしまう事件は所謂「ネタ」というやつでしょうね(笑)。
続きは『洋楽の棚⑩』でお楽しみください!