皆さんからリクエストをいただいた曲を紹介するコーナーを『洋楽の棚』に新たに設けました!今後、リクエストを頂いた曲で対応可能な曲は、このリクエスト・コーナーにてUP致します。尚、リクエストに関しましては、誠に勝手ながら条件を設けておりますので、リクエストの希望曲がある方は下記ページにてご確認ください。
リクエスト・コーナーはこちら→ https://leon-no-hondana.com/?page_id=2576
【リクエスト回】White Room / Cream (1968)
北海道にお住まいのクロスロードさんより、クリームの「ホワイト・ルーム」の歌詞を解説して欲しいとのリクエストがあり、カンパまで頂戴しました。この曲は僕が今でも良く聴く曲でもあり、お気に入りの1曲でもありますので、今回はリクエストにお応えして、歌詞の和訳と解説をお届けさせていただくことにしました。ですが、ホワイト・ルームの歌詞、詩人でもあったピート・ブラウン(Pete Brown)によって書かれたもので、その解釈は非常に難解というのが定説。期待に沿えるような日本語に果たして訳せるでしょうか…。
In a white room, with black curtains
Near the station
Black roof country, no gold pavements
Tired starlings
Silver horses, ran down moonbeams
In your dark eyes
Dawn light smiles, on you leaving
My contentment
黒いカーテンのかかった白い部屋
駅の傍のね
黒い屋根の国に、黄金の舗装はないよ
疲れたムクドリがいるだけさ
銀色の馬が月明りを駆け抜けたんだ
君の暗い瞳の中でさ
君が去る時、夜明けの光が輝く
僕は満足だね
I’ll wait in this place
Where the sun never shines
Wait in this place
Where the shadows run from themselves
僕はここで待つよ
太陽が決して輝かないここで
僕はここで待つよ
影が自らから逃げるここで
You said no strings could secure you
At the station
Platform ticket, restless diesels
Goodbye window
I walked into such a sad time
At the station
As I walked out, felt my own need
Just beginning
安心をもたらすものはないって君は言ったよね
駅でさ
駅の入場券、忙しないディーゼル機関車
別れを告げる列車の窓
僕はそんな悲しい時の流れに足を踏み入れたんだ
駅でさ
僕は駅を出る時、自分自身の必要性を感じたよ
これから先のね
I’ll wait in the queue
When the trains come back
Lie with you
Where the shadows run from themselves
僕は列に並んで待つよ
列車が戻ってくる時をね
君と一緒にいたいんだ
影が自らから逃げる場所で
At the party, she was kindness
In the hard crowd
Consolation, for the old wound
Now forgotten
Yellow tigers, crouched in jungles
In her dark eyes
She’s just dressing, goodbye windows
Tired starlings
パーティーで、あいつは優しかった
厳しい人生の中でのね
古傷への慰めだったんだ
今は忘れちまったね
ジャングルに潜む黄色い虎
あいつの暗い瞳の中のさ
あいつは古傷の手当をしてたのさ、窓も
疲れたムクドリもさよならだ
I’ll sleep in this place
With the lonely crowd
Lie in the dark
Where the shadows run from themselves
僕はここで眠るよ
孤独な群衆と
暗闇に横たわるよ
影が自らから逃げるこの場所で
White Room Lyrics as written by Jack Bruce, Pete Brown
Lyrics © WB Music Corp., Dratleaf Music Ltd., Special Rider Music
【解説】
曲の解説に入る前に、まずは「ホワイト・ルーム」をリリースしたアーティスト「クリーム」について少し触れておきましょう。クリームは1966年、既に音楽界で名声を得ていたエリック・クラプトン(ギター)、ジャック・ブルース(ベース)、ジンジャー・ベイカー(ドラム)の三人が英国のロンドンで結成したロックバンド。この曲を作曲したのはジャック・ブルースで、なんだか西部劇のガンマンが決闘に向かうような4分の5拍子という特殊なイントロのあとに続く歌声も彼の声です。作詞はジャックの友人であったピート・ブラウンが担当しました。本人の談によれば、最初は「Cinderella’s Last Midnight」という題でヒッピー娘について書こうとしたがうまく書けず「White Room」に題を変えたらすらすらと書けて8ページもの長いものになってしまい、それを1ページにまとめたのだそう。ピート・ブラウンは14歳で詩人としてデビューを果たした作家で(母国のイギリスでは無視され、その才能を見出したのはアメリカの出版会社)、1965年にはThe First Real Poetry Bandを結成して音楽活動にも参入しました。ピートもこの時代の多くのアーティストと同様、一時期、薬物依存に陥っており、その頃のことを彼はこう語っています。
「I had some very bad experiences with drugs and alcohol. I had just done too much of everything and I became paralyzed for a couple of hours. I thought I was dying. I had visions of my brain coming out of my ears and nose like mince meat and things and that. I realized that my body was trying to tell me something and more or less got straight overnight. But, after that, I had a lot of shakes, panic attacks and claustrophobia. I couldn’t go on the tube for years・僕はドラッグとアルコールですごく酷い経験をしたことがあるんだ。とにかく全てをやり過ぎて身体が数時間も麻痺してしまってさ、死ぬんじゃないかと思った。脳がミンチ肉みたいになって耳や鼻から飛び出してくるような幻覚を見たんだ。自分の身体が僕に何かを伝えようとしているんだって気づいて一晩でほぼ正気に戻ったけど、その後は何度も震えが来たし、パニック発作になったり閉所恐怖症になったりもした。何年も地下鉄に乗れなかったよ」
ピート・ブラウンという人は世間から注目を浴びることが好きだったのか、人のいい人だったのか、カスゴミのインタビューにも幾度となく応じていて「ホワイト・ルーム」という曲のことを尋ねられた際、こんなふうにも答えています。
「It was when I was kind of going through a woodshed period in re-evaluating what I was doing and who I was and everything. There was an actual white room. There was this kind of transitional period where I lived in this actual white room and was trying to come to terms with various things that were going on. I had the actual freak-out in the actual white room. It’s a place where I stopped, I gave up all drugs and alcohol at that time in 1967 as a result of being in the white room・「ホワイト・ルーム」は自分が何をしているのか、自分が何者なのかとかのあらゆることを再評価する、いわば自己啓発の時期を過ごしていた頃のものでね、そこにあったのが実在の白い部屋さ。そのホワイト・ルームに暮らして様々な事と折り合いをつけようとする、ある種の過渡期があったってこと。精神状態がおかしくなっちまってたのもホワイト・ルームにいた時なんだけど、その部屋は僕が人生で立ち止まった場所であり、ホワイト・ルームに居続けたおかげで1967年のあの時、僕はドラッグとアルコールをすべて断ち切れたのさ」
これらの本人の証言から、この曲の要である「ホワイト・ルーム」が、ピート・ブラウンがアルコールとドラッグへの依存から抜け出そうと、ロンドン市内で借りてこもっていたアパートの一室(イギリスではフラットと呼びますね)のことであることが今でははっきりしていますので、そのことを念頭に置いて歌詞を見ていくことにしましょう。先ずは第1節目、最初の2行を聴いて僕の脳裏に浮かんだのは、引越し直後のような家具も運び入れられていない白い壁に囲まれた殺風景な部屋。with black curtainsは、実際に黒いカーテンが部屋の窓にかかっていたのではなく、外界との断絶の比喩ではないかと思います。2行目のNear the stationはそのまんまで、ピートが借りたフラットは駅の近くにあったのでしょう。この最初の2行から、ホワイト・ルームは医療施設の中の一室ではないかと考える人も当初はいたようですが、前述のとおり、そこが借りていたフラットであったことを本人が認めています。3、4行目のBlack roof country, no gold pavements, tired starlingsは、何のことやらさっぱりですが、ここの部分もピート本人が、借りていたフラット周辺の情景の描写であると述べていて、Black roof countryは機関車が吐き出す煤で汚れた屋根、tired starlingsという表現は、窓の外に見えたムクドリが大気汚染で疲れているように見えたことから思いついたんだそう。no gold pavementsについては言及していないようですが、3、4行目は複合名詞を羅列することによって夢や希望のない薄汚く覇気のない大都会を暗喩していると考えて良さそうです。5行目のSilver horses以降のフレーズは、そんな都会の中でドラッグやアルコールをやっていた時だけが、唯一、生きているという満足感を得ることができていたという彼の過去の経験を吐露しているというのが僕の理解。Silver horsesはドラッグの使用によって見えた幻影(希望を表す)であり、7行目のon you leavingのyouは人ではなくドラッグやアルコールのことだと考えれば後に続いている歌詞との整合性が出てきます。余談ですが、starlingは正確にはホシムクドリのこと。日本のムクドリ(大きな群れを作って糞害を発生させる鳥ですね)と違ってホシ(星)という名が冠されているとおり、夜空で輝く無数の星のような斑点が頭から脛にかけてあります。昔はロンドンのそこら中で群れを成していたそうなんですが、1985年頃に僕が暫くロンドンに滞在していた時、ムクドリの大群ってのを見かけたことは無かったですね。
2節目のコーラス部分は、ドラッグやアルコールと隔離された本人にとっては絶望しかない(the sun never shines)ホワイト・ルームで、それらを断ち切るまで自分自身と闘う(Wait in this place where the shadows run from themselves)決意であろうと僕は理解しました。Where the shadows run from themselvesは、究極の恐ろしい場所といったイメージですかね。ドラッグやアルコールと決別する為の部屋なんですから、本人にとってはまさしくそのような場所なのでしょう。第3節は唐突に場面が駅に変わりますが(このように場面がぱっと変わるのは、ピート・ブラウンが大の映画好きだったことが影響しているようです)、出だしにIn a white room, with black curtains, near the stationとあるので、第3節をホワイト・ルームの近くにあったのであろう実際の駅での情景と考える人が多いようですが、僕はこの節もドラッグやアルコールとの決別を歌っているのだろうと思います。なぜなら、ここでのyouも人ではなくドラッグやアルコールを指していると考えれば、うまく説明がつくからです。1行目のYou said no strings could secure youは、歌の主人公とドラッグ、アルコールとの絆の崩壊が感じられますし、3行目のPlatform ticketからは、遠ざかって行くドラッグ、アルコールに自分はついては行かないという決意を感じました。だからこそ主人公は、列車に共に乗れる乗車券ではなく駅に入るだけで列車には乗れない入場券を買ったのでしょう(←あくまでも個人の意見です)。Goodbye windowはピート・ブラウンが「Just people waving goodbye from train windows」のことだと述べていて、この表現もドラッグ、アルコールとの決別の比喩だと僕は考えます。restless dieselsは何のことだか良く分かりませんが、恐らくは、ディーゼル・エンジンの大きな音や振動にドラッグ、アルコールと決別しようともがいている自分自身とを重ね合わせているような気がしました。そう考えれば、5行目以降からは、駅(心の中の葛藤の場)でドラッグ、アルコールに別れを告げたことで、なんだか未来に希望が見えてきたというイメージが伝わってきませんか?
4節目は再びコーラスに入りますが、ここの部分は主人公の心の反動のように僕には聞こえました。ドラッグ、アルコールに別れを告げたものの「やっぱり、やりてえなー(Lie with you)」ってな感じでしょうか。続く第5節は、ドラッグ、アルコールに対する郷愁であると理解しました。1行目のshe was kindnessは、she was all kindnessやshe was kindness itselfであれば、文法的に正しくなりますが、このままではおかしいですね。なぜなら、kindnessは抽象名詞であるからsheは人ではなくモノということになってしまうからです。しかし、逆にsheは人ではないと考えれば、このsheはドラッグ、アルコールであることが想像でき、冒頭から述べているように、この歌詞に出てくるyouやsheは人ではなくドラッグ、アルコールを指しているという考え方の補強となります。なので、1行目のAt the partyも、ドラッグ・パーティーと考えるのが自然。5行目のYellow tigers, crouched in junglesはこれまた訳ワカメですが(笑)、1節目のSilver horsesを希望の暗喩だと考える場合、Yellow tigers, crouched in junglesは「ドラッグでもアルコールでも、好きなものは何でもやっちまえばいい」という悪魔の囁きのようなもの、心の隙をまさしく虎視眈々と狙っている悪魔のような存在なのであろうという気が僕にはしました。7行目のdressingは3行目の the old woundにかかっていると考えて、こう訳しています。最後のgoodbye windows, tired starlingsは、自らの過去(windows)と薬物、酒の乱用で弱っていた自分(汚染物資で疲れたムクドリのようになっていた自分)との決別を意味しているのでしょう。ドラッグ、アルコールに未練はあるものの、主人公の決意は固いようですよ(笑)。それは最後の第6節を聴いても明らか。主人公は辛く孤独な闘いを「ホワイト・ルーム」で続けることを決意したのであり、この曲の歌詞は、彼の自分自身に対する癒しでもあるのです。そしてこのあと、曲はクラプトンのワウ・ペダル(Vox V846)を駆使したギターが鳴きまくる伝説のソロに入って終了。その余韻がいつまでも鼓膜に響き続けます。
では、最後にクリームのエピソードをひとつ紹介して、リクエスト回を終わることにしましょう。クリームは当時の英国の3人のスターミュージシャンが集まって結成した夢のようなバンドで、Cream of the crop(最も優秀な者たち、精鋭たち)という英語の慣用句がその存在に重ねられるほどでしたが、ジャック・ブルースとベジンジャー・ベイカーは「グレアム・ボンド・オーガニゼーション」というバンドに所属していた時代から犬猿の仲で(舞台の上での殴り合いもしょっちゅうで、最後は刃物沙汰も)、結局、クリームは二人の間で繰り返される同じゴタゴタが原因で2年で解散することになりました。この二人の衝突で常に心労が絶えなかったのがエリック・クラプトン。彼にはこのホワイト・ルームを演奏できるのはブルースとベイカーが和解した時だけだという思いでもあったのか、1985年までクラプトンがホワイト・ルームを演奏することはありませんでした。が、そもそもからして、ブルースとベイカーがクリームの結成になぜ同意したのかが僕には不思議でしょうがありませんけどね(笑)。
以上、リクエスト回でした!