先日、小説「風と娼婦」に登場するタイの懐かしのポップスをブログで紹介しましたが、その延長版として今週の『洋楽の棚』傑作選では、第7回で取り上げたデビー・ギブソンの名曲を紹介させていただくことにしました。
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【第7回】Foolish Beat / Debbie Gibson (1987)
このDebbie Gibson の曲は僕のお気に入りの曲と言うよりも、一生忘れることはない思い出の曲です。その出来事があって以来、この曲を耳にすると胸が締めつけられ、苦しくって長らくのあいだ聞くことができなかったんですが、あれから30年以上の月日が流れ、最近ようやく、何か懐かしさを感じながら聴けるようになりました。それがなぜなのかに興味を持たれた方は、このサイト内の『小説の棚』にアップしてある『風と娼婦』という僕の作品を読んでみてください。特に、携帯電話が一台あれば世界の果てとも簡単につながることのできる今の時代しか知らない若い人たちに読んでもらえたら嬉しいです。
There was a time when
Broken hearts and broken dreams
Were over
There was a place where
All you could do was
Wish on a four leaf clover
傷ついたり夢破れたり
した時があったわ
昔のことだけどね
あたしができることと言ったら
四つ葉のクローバーに
祈ることぐらいだった
But now is a new time
There is a new place
Where dreams just can’t come true
It started the day when I left you
でも今、時は新たになったの
新たな人生の一歩を踏み出すわ
夢が叶うって訳じゃないけどね
すべてはあなたと別れた時から始まったのよ
I could never love again the way that I loved you
I could never cry again like I did when I left you
And when we said goodbye
Oh the look in your eyes
Just left me beside myself without your heart
(Without your heart)
I could never love again now that we’re apart
あなたを愛したようにもう人を愛せないでしょうね
あなたと別れた時みたいに泣くこともないと思うわ
だって、あたしたちに別れが訪れた時
あなたの目に浮かんだものが
あたしの心をかき乱したんだもの。あなたの気持ちを考えもしなかった
離れ離れになった今、またあなたを愛したいだなんて無理もいいところよね
When I was sorry
It was too late to turn around
And tell you so
There was no reason
There was no reason
Just a foolish beat of my heart
後悔した時はもう
振り返るには手遅れだった
だから、あなたにはこう伝えたいわ
理由なんて何もなかった
理由なんて何もなかったってね
単にあたしが浅はかだったのよ
I could never love again the way that I loved you
I could never cry again like I did when I left you
And when we said goodbye
Oh the look in your eyes
Just left me beside myself without your heart
(Without your heart)
I could never love again now that we’re apart
あなたを愛したようにもう人を愛せないでしょうね
あなたと別れた時みたいに泣くこともないと思うわ
だって、あたしたちに別れが訪れた時
あなたの目に浮かんだものが
あたしの心をかき乱したんだもの。あなたの気持ちを考えもしなかった
離れ離れになった今、またあなたを愛したいだなんて無理もいいところよね
Oh, can’t you see I’m not fooling nobody
Don’t you see the tears are falling down my face?
Since you went away
Break my heart, you slipped away
Didn’t know I was wrong
Never meant to hurt you now you’re gone
あたしが誰も欺いていなんかないって分かってもらえないわよね
あたしの頬を伝ってる涙だって見える訳ないわよね
もう離れ離れになっちゃったんだもの
ああ、あたしの心はもうずたずた。だって、あなたはそっと身を引いたんだもの
悪いのはあたしだって知らないままにね
あなたを傷つける気なんてなかったのよ。今となっては遅いけど
I could never love again now that we’re apart
(Now that we’re apart)
I could never love again now that we’re apart
離れ離れになった今、あなたをもう一度愛するなんてできないわよね
あなたをもう一度愛するなんてできる訳ないわ。もう離れ離れなんだもの
Foolish Beat Lyrics as written by Debbie Gibson
Lyrics © MUSIC SALES CORPORATION
【解説】
この曲が大ヒットして全米週間チャートで1位を獲得した1987年、Debbie Gibson はまだ高校生でした。17歳という最年少で栄冠を得た彼女の前人未到の記録は今も破られていません(16歳でリリースしたアルバムOut of the Blue(本曲を含む)から5曲ものシングルカットが全米トップ10入りしたという凄まじい記録も彼女は持っています)。驚くのは、この曲の歌詞を実体験からではなく想像で創作したと彼女が語っていることで、感性のある人は違うものだなとつくづく思います。この曲の歌詞は一見シンプルに見えますが、タイトルの「Foolish Beat」からして、置き換える日本語を探すのが難しいように、日本語に訳すにはなかなか手強い相手です。
第1節は和訳のとおり。この節を聞くと、子供の頃、いつも公園で四つ葉のクローバー探しに熱中していたことを思い出します。その理由は四つ葉のクローバーを見つけたら願い事が叶うと教えられていたからで、日本におけるその俗信は、四つ葉のクローバーは珍しいものだから、見つけた時には幸運が訪れるという意味で広まったと考えられています(海外でも、同じように考えている人は多いですが)。本来の四つ葉のクローバーの意味は、それぞれの葉をhope,faith,love,luck(希望、信仰、愛、幸運)と見做し、それらを大事にしましょうというアイルランドの伝承で語られているとおりで、アメリカでは花言葉としてBe mine(私を想ってください)の意味もあると聞きました。第2節も難しい部分は無く、元カレのことは忘れて新たな道を進もうという決意が語られています。この節で一番見落としてはならないのがI left you という部分で、この言葉が意味しているのは、主人公である女性の側から男性を振ったという事実であり(逆ならHe left me と歌うはずです)別れの主導権が女性にあったことが分かります。この曲の歌詞の和訳で出鱈目なものが多いのは、この点をまったく理解していないからではないでしょうか。この後に続く歌詞を聞いても分かるように、この歌は彼氏に振られた女性の失恋の悲しみや辛さを歌っているのではなく、自らの身勝手から彼氏を振ってしまった自分の後悔を歌っているものなのです。
第3節は少し難解。ここではcould が多用されていますが、ネイティブがこのcould を聞いて感じるのは、話者の気持ちの実現の可能性でしょう。即ち、この節から伝わってくるのは、完全にそうだとは言い切れない彼女の中の未練という女心であり、この節の文を断定口調で訳すと歌詞の意味が台無しになってしまいます。4行目と5行目のThe look in your eyes just left me beside myself without your heart は構文としては相当に難解で、このままでは何を言おうとしているのか分かり辛いですが、Just left me、beside myself、without your heart の3つに分け、Oh the look in your eyes がbeside myself という状態に私をしたleft me と考えれば理解できます。without your heart の部分は、without thinking your heart であると考えこう訳しました。the look in your eyes からは、彼女が別れを告げた時、彼氏が反論することもなくどこか冷静に淡々と話を聞いているような光景が僕の目には浮かびます。第4節にも難しい部分はなく、彼女がなぜ後悔しているのかとその驚くべき理由が語られています。なんと理由はThere was no reason.Just a foolish beat of my heart だったのです。つまり、別れを告げた理由にこれといったものはなくfoolish beat(うまく日本語に置き換えられませんが、心の中に愚かにも浮かんでしまった何か衝動のようなものとでも言うべきでしょうか)が彼女にそうさせたと言っている訳です。5節目は3節目の繰り返し。6節目も和訳のとおりです。Break my heart, you slipped away, Didn’t know I was wrong はやや難解ですが、前述のような身勝手な理由で彼女が彼氏に別れを告げた時、その理由も分からないままあたかも自分が悪かったかのように自らそっと身を引いていった彼氏の姿を僕は想像しました。恐らくは、世で言うところの「いい人」と呼ばれる部類の人だったのでしょう。7節目も訳のとおりで、別れを告げた相手に対する彼女の未練が最後まで感じられますね。
シンセサイザーとサックスが奏でる悲し気な音の響きが見事にマッチしたメランコリックなイントロに続き、Debbie が抜群の歌唱力で(そのデビュー時の年齢もあって、彼女はアイドル的な扱いを受けてしまいましたが、声もいいし歌も上手いです)恋人との切ない別れを歌いあげるこの曲、聴いたことがない方には是非とも聞いていただきたい一曲です。
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