洋楽の棚⑩

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【第91回】Alone / Heart (1987)

今日は前回紹介したアメリカのロック界の古顔Aerosmith よりもさらに古い歴史を持ち、尚且つ同じように解散することなく現在も存続しているロックバンドHeart を紹介たいと思います。このバンドの歴史が始まったのはなんと1965年。西海岸のシアトル郊外でRoger Fisher(1979年に脱退)とSteve Fossen(1982年に脱退)が中心になって結成したThe Army というバンドがその礎で、その後White Heart というバンド名を経て1973年にHeart に改名しました。現在のHeart を率いているAnn WilsonとNancy Wilson の姉妹が次々にメンバーとして加入したのも同じ頃のことです。皮肉にもバンドの創始者であるFisher とFossen がグループを去った後の1985年、やり手プロデューサーのRon Nevison を迎えて製作したアルバム「Heart」でバンドは大ブレーク。その勢いが続いていた最中の1987年にリリースし、同年のビルボード社の年間チャートで2位にランクインという快挙を為し遂げて彼らの最大のヒット作となったのが本日お届けするAlone という曲です(因みに、同じ年度のリリースで前回紹介のDude (Looks Like a Lady)は年間チャートで100位圏外でしたから、ヒットチャートというのは曲の良し悪しの指標ではなく、商業的に成功したかどうかの指標なので覚えておいてください)。

この曲を素晴らしいものにしている要素のひとつとして挙げられるのが、歌詞を力強く歌い上げるAnn Wilson の渋い歌声でして、その声を聴いていると歌詞の内容が彼女の過去の経験から書かれたものなのだろう等とついつい勘ぐってしまうのですけども、実はこの歌詞を書いたのはBilly Steinberg とTom Kelly という名の男性ミュージシャンの有名コンビ(マドンナのLike a Virgin やシンディー・ローパーのTrue Colorsなど、数多くの名曲をプロデュースした人たちです)。Heart がヒットさせる以前の1983年に、自らが属していたi-Ten というグループから同じタイトルのレコードも出していて、要するにHeart のAlone はi-Ten 版のカバーであり、歌詞の内容とAnn Wilson とは何の関係もないということですね(汗)。因みにi-Ten 版とHeart 版を聴き比べてみると、曲調も歌詞もほぼ同じなものの、誰の耳にも断然Heart 版の方が出来が良いように聞こえますが、i-Ten 版の手直しをしてHeart 版を手掛けたのもBilly Steinberg たちなので、Heart 版はカバーと言うよりはバージョン・アップという言葉が適切なのかも知れません。で、その歌詞の方はと言うと、非常にシンプルな英語で書かれていて、想像力を働かせなくとも文字のとおりに理解できうるものとなっていますから、今回の解説は久し振りに楽なものになりそうですよ(嬉)。

I hear the ticking of the clock
I’m lying here, the room’s pitch dark
I wonder where you are tonight
No answer on the telephone
And the night goes by so very slow
Oh, I hope that it won’t end though
Alone

チクタクって時計が時を刻む音が聞こえる
真っ暗な部屋の中、あたしは寝そべってる
今夜、あなたはどこにいるんだろうって思いながら
電話しても居ないし
ただ夜がゆっくりと更けていく
あぁー、このままで終わって欲しくはない
一人ぼっちになりたくないもの

‘Til now, I always got by on my own
I never really cared until I met you
And now it chills me to the bone
How do I get you alone?
How do I get you alone?

今この時まで、あたしはいつも一人で生きてた
そんなこと気にしたこともなかった、あなたに出会うまでは
でも今は骨身に染みるの
どうすればあなたを独り占めできるの?
どうすればあなたを独り占めできるの?

You don’t know how long I have wanted
To touch your lips and hold you tight, oh
You don’t know how long I have waited
And I was gonna tell you tonight
But the secret is still my own
And my love for you is still unknown
Alone

どれほど望んできたかあなたには分からないわ
あなたの唇に触れ、強く抱きしめることを、あぁー
どれほど待ち焦がれてきたかあなたには分からないわ
今晩、言おうって思ってたけど
あたしの中にまだ留めておくわね
あなたのことを愛してるのかまだ分からないしね
一人ぼっちになりたくはないけど

‘Til now, I always got by on my own
I never really cared until I met you
And now it chills me to the bone
How do I get you alone?
How do I get you alone?

今この時まで、あたしはいつも一人で生きてた
そんなこと気にしたこともなかった、あなたに出会うまでは
でも今は骨身に染みるの
どうすればあなたを独り占めできるの?
どうすればあなたを独り占めできるの?

How do I get you alone?
How do I get you alone?
Alone, alone

どうすればあなたを独り占めできるの?
どうすればあなたを独り占めできるの?
一人ぼっちになりたくないもの

Alone Lyrics as written by Billy Steinberg, Tom Kelly
Lyrics © Sony/ATV Tunes LLC

【解説】
お聴きいただいたとおり、この曲はラブソングであり、パワー・バラードですね(そもそも「パワー・バラード?何ですか、それ?」って話なんですが、An emotional rock song, generally focused on love, delivered with powerful vocals というのがその定義らしいです)。イントロのピアノのメランコリックな響きと共にAnn Wilson がI hear the ticking of the clock と静かに歌い始め、2節目のコーラス’Til now で感情を爆発させるかのように一気にリズムがビートアップするという構成はお見事としか言いようがありません。歌詞の方は冒頭で述べたとおり、中学校の英語の授業で習う単語レベルで構成されていて、英語的に難しい部分もほぼ無いですから、英語初級者の方には是非とも自力で和訳にチャレンジして頂きたいと思います。

それでは、その際の参考にでもなるよう、少しだけ解説を記しておきましょう(歌詞を書いたのは男性ですが、女性が歌っている為、歌詞の主人公は女性とします)。第1節、最後のAlone の部分以外、特に難しい部分は見当たりません。2行目のI’m lying here は、ベッドかソファーの上で横になっているイメージ。pitch dark のpitch はコールタールのことで、コールタールが真っ黒であることからpitch dark が「真っ暗闇」の意味で使われるようになりました。4行目のtelephone は、この時代に携帯電話は普及していませんから、相手の家電に電話をしているということ。で、7行目、先程も述べたAlone ですが、ここはちょっと難解。alone は形容詞であれば「離れた、孤立した、単独の、唯一の」といった意味、副詞であれば「独りで、単独で」といった意味で使われますが、それではこの7行目のAlone が前の行の文とつながってこないので、僕はこのAlone の背後には何らかの感情があってalone 以外の言葉が省略されていると考えました。その結果、僕が達した結論は、ここの行(というか、この曲の歌詞の中のAlone で終わっている部分のすべて)はI don’t wanna be alone という気持ちが背後にあって、I don’t wanna be が省略されているということです。それは次の節の1行目で’Til now, I always got by on my own と言っていることからも確信できます。なぜなら、’Til now, I always got by on my own というフレーズは、裏を返せばI no longer wanna be alone という気持ちだからです(←あくまでも個人の見解)。

2節目3行目のit chills me to the bone は直訳すれば「それが骨まで冷たくする」つまり「骨身に染みる」ということで、it は彼と出会ったという事実ですね。今まで彼と出会ったことをあまり大切に思ってなかったけど、こうして一人でいると彼と出会ったことのありがたさが骨身に染みるという訳です。4行目のHow do I get you alone?のget someone alone は誰かを他から引き離すというイメージ。要するに「独り占めする、二人きりになる」という意味。家に電話しても捕まらないし、誰か他の女とでも会っているのだろうかと嫉妬しつつ、その一方で沸き上がってくる誰にも邪魔されずにあなたを独り占めしたいという思いをこのHow do I get you alone?という言葉で表していると僕は理解しました。第3説は和訳のとおり。特に解説が必要な部分は無いです。この節から窺えるのは、主人公は相手と出会って恋心が芽生えているし、その出会いがかけがいのないものだと分かっているけども、まだ告白はしていないという状況。なぜ告白をためらっているのかと言うと、告白してフラれてしまうことで一人になってしまうのが嫌だからではないでしょうか。そのあとの第4節目は第2節のコーラスの繰り返しで、次いで短いギターソロが入り、最後にアウトロでHow do I get you alone?と再び自問して曲は終わります。ということで、解説もあっという間に終了。万歳!この曲の歌詞は分かり易くて最高でした!短い解説で済みましたので!(←結局そこかよ・笑)

【第92回】Open Arms / Journey (1981)

前回に引き続き、本日もパワー・バラードの名曲を紹介しましょう。1981年にJourney がリリースし、翌年のビルボード社年間チャートで34位にチャートインしたOpen Arms という曲です。このJourneyというバンドもアメリカのロック界では古顔。1973年にサンフランシスコで結成され、創設時のメンバーはもう誰も残ってはいないものの、現在でも活動を継続中です(御多聞に漏れず、このバンドも内紛を繰り返してはいますが)。今回取り上げるOpen Arms という曲は、Steve Perry(1987年に脱退し1995年に出戻るも1998年に再び脱退)がボーカルを務めていた時代のJourney の人気絶頂期にリリースされたもので、アメリカの音楽史上で最高ランクに位置するラブソングのひとつであり、最も美しいバラードのひとつであるとも評価されてもいます。しかもこの曲、Steve Perry が素晴らしい美声で熱唱するその歌詞に使われているのは簡単な英単語ばかりで、スローなテンポで歌っていることもあって英語初級者にも比較的聞き取りやすい曲だと思いますので(一番肝心なWith open arms の部分は少々聞き取り辛いですが・汗)、先ずはじっくりと歌詞に耳を傾けてみてください。

Lying beside you
Here in the dark
Feeling your heartbeat with mine
Softly, you whisper
You’re so sincere
How could our love be so blind?

君の傍らに横たわってる
この暗闇の中でね
君と僕との心臓の鼓動を感じながら
君はそっと囁くんだ
あなたって誠実な人ねって
僕たちの愛って何も見えてなかったのかな?

We sailed on together
We drifted apart
And here you are
By my side

僕たちは共に人生を歩み
時には愛情が薄れたけど
今、君はここにいる
僕の傍にね

So now, I come to you
With open arms
Nothing to hide
Believe what I say
So here I am
With open arms
Hoping you’ll see
What your love means to me
Open arms

だから、僕は君を迎えるんだ
心から喜んで
隠すことなんて何もないし
僕の言葉を信じて欲しい
だから僕はここにいるんだもの
心から喜んで
君に分かって欲しいんだ
君の愛が僕にとって大切なことをね
無私無欲の心でさ

Living without you
Living alone
This empty house seems so cold
Wanting to hold you
Wanting you near
How much I wanted you home

君のいない暮らし
一人ぼっちでの暮らし
そんな空っぽの家って寒々しいんだ
君を抱きしめたい
君に傍にいて欲しいんだ
どれだけ君に家へ戻ってきて欲しかったことか

But now that you’ve come back
Turned night into day
I need you to stay

そして今、君は帰ってきてくれた
夜が明けて光が差したんだ
だから君にはずっとここにいて欲しい

So now, I come to you
With open arms
Nothing to hide
Believe what I say
So here I am
With open arms
Hoping you’ll see
What your love means to me
Open arms

だから、僕は君を迎えるんだ
心から喜んで
隠すことなんて何もないし
僕の言葉を信じて欲しい
だから僕はここにいるんだ
心から喜んで
君に分かって欲しいんだ
君の愛が僕にとって大切なことをね
無私無欲の心でさ

Open Arms Lyrics as written by Steve Perry, Jonathan Cain
Lyrics © Lacey Boulevard Music and Hipgnosis Side B, Weed High Nightmare Music

【解説】
シンプルですが心の芯に響いてくるピアノの音色が美しいイントロ、そして、それに続くSteve Perry の澄んだ広がりのある歌声。日本人好みの曲調ですよね。歌詞の方も冒頭で記したように中学校で習うレベルの英単語で構成されていてとてもシンプルなものになっていますが、主語の省略が多くて英語初級者には少し分かりにくいかも知れません。そもそもタイトルのOpen Arms からして、何のことだか良く分からないのではないでしょうか?Open Arms を普通に「両手広げて」という意味で受け取ることもできますが、この歌詞の中ではもう少し奥の深い意味として使われているようですので、それがどういうことなのか歌詞を詳しく見ていきましょう。

先ず1節目、最初にLying とかdark とかの単語が出てきますけども、それってどこかで聞いたような…。そう!そうなんです。前回に紹介したAlone の歌詞にも使われてました!こういった種の言葉ってバラードの歌詞には必須のものなんでしょうかね?僕なんかは「ありきたりでちょっとクサいなぁー」なんて思ってしまうんですが(笑)。まあ、そんなことは置いといて本題に戻るとしましょう。1行目と3行目は文頭にI am を補えば簡単に理解できます。6行目は直訳すれば「私たちの愛が盲目であるなんてことがどうしたらあり得たのか?」ですが、要は「僕たちは愛し合ってたのに(肝心なことが)何も見えてなかった」ということ。この第1節から何かを推測できるとすれば、電気を消した部屋の恐らくベッドであろう上で並んで眠りについているこの男女(男同士って可能性もありますが・笑)は何か訳ありのカップルだということですね。第2節のプリコーラス部分の1行目のsail on は「船が航行する」、2行目のdrift apart は「小舟が離れ離れになる」という意味で、人の人生を船の航海に例える手法は洋楽の歌詞の定番です。ここまでの歌詞を聴いて頭に浮かんでくるのは、夫婦か恋人同士かは分かりませんが人生を共にしていた(sail on together)一組の男女が、なんらかの理由で(恐らくは不仲になって)離れることになり(drift apart)暫く距離を置いていたものの、今再びよりを戻そうとしているという情景。そして、よりを戻すにあたって歌詞の主人公が自らの心情を吐露しているのが第3節です。その1、2行目のI come to you with open arms ですが、1行目のI come to you は「あなたのところへ行く、向かう」というイメージで、2行目のwith open arms は、何かを歓迎すべく両手を広げているイメージ。with open arms にはそこから転じて「心から喜んで」というidiom としての意味もありますので、ここのI come to you with open arms はI welcome you with open arms(あなたを心から喜んで迎える)に置き換えても差支えないかと思いますし、その方がうまく和訳がはまります。そして、この節の最後に曲のタイトルと同じOpen arms という言葉が登場。ここではそれを耳にしても未だ「両手を広げて」というイメージしか湧いてきませんけど、残りの歌詞を聴くとこのOpen arms が何であるのかが見えてきます。第4節は英語的に難しい部分はなく和訳のとおり。それに続くプリコーラスの第5節も同じくイージーですね。このふたつの節から僕に伝わってきたのは、彼女と離れ離れでいた間、一人で暮らしていることの虚しさと彼女の大切さを思い知った主人公の、もう二度と同じことにはならないようにするという決意です。そして、主人公のその決意を支えているのが、過去、二人の間に何があったにせよ、そんなことを蒸し返すことは一切せず、戻ってきてくれた彼女をただ無私無欲の心で受け容れる気持ちなのだと僕は理解しました。なので、この曲においては「彼女に対するその無私無欲の心こそが、歌詞のタイトルにもなっているOpen arms の真の意味である」というのが僕の結論です。

今やパワー・バラードの名曲となったOpen arms、元々はキーボード担当のJonathan Cain がJourneyに加入する前に所属していたイギリスのロックバンドThe Babys にいた時代に作詞作曲したものなんですが、当時、The Babys のリーダー格であったJohn Waite に「クサい曲だ!」とこき下ろされ、ずっとお蔵入りになっていたというエピソードがあります。John Waite が1984年にリリースしたMissing You の方が「ずっとクサい曲じゃないか!」って僕なんかは思いますがね(笑)。

【第93回】Amanda / Boston (1986)

パワー・バラードの名曲を紹介する3回シリーズ(←いつの間にそんなシリーズが始まってたんだよ?)、最終回となる今回は、1986年にBoston がリリースし、同年のビルボード社年間チャートで50位に食い込んだAmanda という曲を紹介します。Boston はその名のとおりマサチューセッツ州のボストンで1975年にTom Scholz が中心となって結成したロックバンドで、細身ですが身長が2メートル近くもある彼は(米国のメジャーリーグで活躍中のあの日本人よりも長身)高校時代にバスケットボールの選手として腕を鳴らしただけでなく、学業も優秀であったことから高校卒業と同時に地元の名門マサチューセッツ工科大学に進学。そして、そこで機械工学の学士号と修士号を取得した後、当時、インスタントカメラの製造販売で興隆していたポラロイド社に入社し、暫くのあいだ技術者として働いていたという変わった経歴を持つ人です。確かにTom Scholz が醸し出している雰囲気はロック・ミュージシャンと言うよりも今で言うところのオタクですね(笑)。そんな彼が率いてきたBoston もAerosmith やHeart と同じく、結成時から現在まで存続している息の長いバンドのひとつですけども、2017年以降は主だった活動をしておらず事実上の休眠状態(Scholz もそろそろ80歳というご老体ですから)。このまま永眠の可能性もあるような気がするのは僕だけでしょうか?(←それを言っちゃあ、お終いだ・汗)。

Babe, tomorrow’s so far away
There’s something I just have to say
I don’t think I can hide what I’m feelin’ inside
Another day, knowin’ I love you
And I, I’m getting too close again
I don’t want to see it end
If I tell you tonight would you turn out the light
And walk away knowing I love you?

あのさ、もう用意はできてるんだ
話しておかなきゃいけないことがあるんだ
だって、自分の本心を隠しておけるなんて僕は思えないもの
あの日、君のことを愛してるってことが自分でも分かってさ
僕はまたどんどん君と親密になってきてる
けど、それが終わってしまうのは嫌なんだよ
今晩、僕が君に告白したら、君は灯りを消してくれるかい?
それとも立ち去ってしまうかい?君を愛する僕の気持ちを知ってさ

I’m going to take you by surprise and make you realize
Amanda
I’m going to tell you right away, I can’t wait another day
Amanda
I’m going to say it like a man and make you understand
Amanda
I love you

僕は君に不意打ちをかけて気付かせるつもりさ
アマンダ
僕は今すぐに告白するよ、先延ばしなんてできないもの
アマンダ
僕は男らしく告白して君に分かってもらえるようにするつもりだよ
アマンダ
僕は君を愛してるんだもの

And I feel like today’s the day
I’m lookin’ for the words to say
Do you wanna be free, are you ready for me
To feel this way
I don’t wanna lose you
So, it may be too soon, I know
The feeling takes so long to grow
If I tell you today will you turn me away
And let me go?
I don’t want to lose you

今日がその日だって感じが僕にはする
どう伝えようかって僕は言葉を探してる
このまま自由でいたいかいとか、僕の気持ちを受け止めてくれるかいとかね
感じて欲しいんだ
僕が君のことを失いたくないってことを
早すぎるかも知れないってことは分かってる
愛する気持ちを育むってのは時間がかかることだからね
今日、君に告白したら避けられちゃうかな
それとも受け容れてくれるんだろうか?
僕は君を失いたくないよ

I’m going to take you by surprise and make you realize
Amanda
I’m going to tell you right away, I can’t wait another day
Amanda
I’m going to say it like a man and make you understand
Amanda
Oh girl

僕は君に不意打ちをかけて気付かせるつもりさ
アマンダ
僕は今すぐに告白するよ、先延ばしなんてできないもの
アマンダ
僕は男らしく告白して君に分かってもらえるようにするつもりだよ
アマンダ
あぁー、愛しの君

You and I
I know that we can’t wait
And I swear, I swear it’s not a lie, girl
Tomorrow may be too late
You, you and I, girl
We can share a life together
It’s now or never
And tomorrow may be too late

君と僕
二人がこれ以上待てないってことは分かってる
誓うよ、嘘じゃないって
明日じゃ手遅れになるかも知れないんだ
愛しの君、君と僕
僕たちは共に人生を歩んで行ける
チャンスは今しかないんだ
明日じゃ手遅れになるかも知れないんだから

And, feeling the way I do
I don’t wanna wait my whole life through
To say I’m in love with you

これが僕のやり方なんだ
一生このまま待っていられないもの
君のことを愛してるって伝えることをね

Amanda Lyrics as written by Tom Scholz
Lyrics © Universal-Polygram Intl. Pub.

【解説】
Tom Scholz が奏でる12弦のアコースティックギターの柔らかな音色のイントロのあと、Brad Delp(この方も2007年に自殺で死去されています・涙)の伸びのある高音域の歌声が響き渡る美しい旋律のこの曲、YouTube などで検索してもMV がまったく見つかりませんが、それもそのはず。なぜならAmanda は、時世がMTV 時代に突入していたというのにMV を製作せずともヒットしたという珍しい曲だからなんです。職人気質であるTom Scholz の性格から考えれば、凝ったMV を製作していてもおかしくはなかったと思うのですが、彼の興味は音だけであって、映像なんてどうでも良かったんでしょうね。よくあるオタクのこだわりというやつでしょうか(笑)。さて、そんなAmanda の歌詞、内容はモテないオタクが書いたとは思えないラブソングで(←おいおい、Scholz はオタクじゃないぞ!)ここ数回、パワー・バラードと呼ばれている曲の歌詞を和訳してみて感じたのは、パワー・バラードというのは概してシンプルな英語で書かれたクサいラブソングであるということです。この曲もまさしくそのとおりで、使われている英単語はすべて中学校の英語の授業で習うレベルのもの。ですが、英語初級者がうまく和訳するには多少のコツが必要のように思えますので、参考になるであろうポイントを記しておきます。

まず第1節。1行目のtomorrow’s so far away は、直訳すれば「明日という日は遥か遠くにある」ですが、その真意は「そんな遠い明日を待っていられない」ということですからI am ready と言っているのと同じですね(何に対してI am ready なのかは第2節の解説で触れます)。4行目のAnother day は普通、現在以降の未来のある時期を表すことが多いですが、5行目の文が現在進行形になっているので、ここに出てくるAnother day は過去のある時期を表すthe other day と同じ意味で用いられると僕は判断しました。7行目のtell は、8行目の文の内容から考えて「恋愛で告白する(今の若者はコクるとか言うようですが・汗)」の意味で使われていることに疑いの余地はありません。今晩、告白して彼女がturn out the light をしてくれたら、告白は成功したという訳です。turn out the light した後に二人が何をするのかと言えばkiss かsex しかないですね(←そうとは限りません・笑)。じゃあ、告白失敗ならどうなるのかと言うと、8行目のwalk away です。「嫌よ、誰があんたみたいなダサい男と付き合うもんですか」と言い放って部屋から出て行くってな感じですかね(←想像が飛躍し過ぎ)。第2節のコーラスは、歌詞の主人公の「今晩、告白するぞ」という並々ならぬ決意で、第1節の1行目が「告白をする決意が僕はできてるんだ」という意味であったことがここではっきりしますね。要は「もうこれ以上、自分の気持ちを秘めておくことはできないから、突然だけど今晩コクって僕がどれだけ君のことが好きかを君に分かってもらうぞ」ってなことを熱く語っている訳です。まあ、ちょっとコワい人と言えばコワい人ですが(汗)。

ところが、そんなに熱くなっている割に第3節では「いや、ちょっと待てよ、告白するのはいいけど、果たして彼女は受け容れてくれるんだろうか?えーい、まあ、いいや、一か八かで告白だ」と少し弱気になっているようです。3行目のDo you wanna be free, are you ready for me は「僕なんかと付き合うよりも気楽な一人でいたいかい?それとも僕を受け容れる用意はできてるかい」ということ。5行目と10行目でI don’t wanna lose you を繰り返しているのはかなりウザいですね。そんなら告白するなって話です(笑)。このあと、ギターソロが入って、残りの4、5、6節でも最後まで同じようなことばかりを熱く語って曲は終了しますが、良く分からないのが、この主人公がなぜに「好きだ。僕の恋人になって欲しい」という告白をそんなに急いでしようとしているのかの理由です。3節目で主人公はSo, it may be too soon, I know. The feeling takes so long to grow と自分でも言ってる訳ですから、そんなに焦らなくてもと思うのですが…。僕の感覚では、この主人公はウブというか女性慣れしているようには思えませんので、恐らくこの告白は失敗に終わりますね(←えっ?そんな結末かよ←個人の勝手な想像です・笑)

【第94回】Jump / Van Halen (1984)

ここのところずっとアメリカの老舗ロックバンドの曲を紹介してきましたが、まだまだ紹介しきれていない大物ミュージシャンたちが幾人も残っています。そこで、誰か忘れてないかと考えていたところ「Van Halen が抜けてるぞ!」という声が聞こえてきたので(←幻聴かよ・汗)、今日は彼らが1984年にビルボード社年間チャートの第6位に送り込んだ名曲Jump をお届けすることにしましょう。Van Halen は1973年、カリフォルニア州のパサデナでその名のとおりVan Halen 兄弟(Eddie とAlex)が結成したロックバンドで、翌年にはこのJump の歌詞を書いたボーカル担当でフロントマンとなるDavid Lee Roth(この人も昔はちょっとミック・ジャガーに寄せ過ぎでしたね・笑)がメンバーとして加入しています。このVan Halen 兄弟、実はオランダのアムステルダム生まれで、両親はオランダ人。オランダはインドネシアを植民地化して過酷な搾取を行っていたという過去を持つ為、自主的にしろ強制的にしろオランダに移住したインドネシア人も少なからずいて、兄弟の母親はインドネシア系だとされています(二人の見た目は完全に白人ですけどね)。つまり、Van Halen 兄弟は(オランダ語でのカタカナ読みではファン・ハーレンだそう)アメリカ生まれのアメリカ育ちではなく、幼少期に両親と共にアメリカへ移住した新移民なんです。因みにVan Halen の才能を彼らのデビュー前から発掘し、プロになる道筋を作ったのはKISS のGene Simmonsだと言われていますが、彼もイスラエルのハイファで生まれてアメリカへ移住した新移民。両者には移住後、英語を必死で習得しなければならなかったという苦労があったこようなので、お互い気が合ったのかも知れませんね(←個人の勝手な推測です)。

I get up, and nothing gets me down
You got it tough, I’ve seen the toughest around
And I know, baby, just how you feel
You got to roll with the punches to get to what’s real

俺なら立ち上がるぜ、俺の気を滅入らせるものなんて何もねえもの
君は今苦難に直面してるよな、俺は修羅場をくぐり抜けてきたから
君がどんな気持ちなのかってのは分かるさ
けど、ここはうまく乗りきらなくっちゃ駄目だぜ、現実を知る為にさ

Oh, can’t you see me standing here?
I got my back against the record machine
I ain’t the worst that you’ve seen
Oh, can’t you see what I mean?

あー、あたしがここに立ってるのがあんたには見えないの?
あたし、窮地に立ってんの
あたしって最低ってな訳でもないのにね
あー、あたしの言ってること、あんたは分からないのね?

Ah, might as well jump (Jump!)
Might as well jump
Go ahead and jump (Jump!)
Go ahead and jump

ならさ、ジャンプしてみてもいいんじゃねえかな(ジャンプしなよ!)
ジャンプしてみてもいいんじゃねえかな
やりな、ジャンプするんだ(ジャンプしなよ!)
やりな、ジャンプするんだ

Hello! Hey, you! Who said that?
Baby, how you been?
You say you don’t know
You won’t know until you begin

よお、あんた!いいこと言うね
で、お嬢さんはどうしてたってんだよ?
どうしたらいいか分からないじゃなくて
やってみないと分からないじゃねえか
So can’t you see me standing here?
I’ve got my back against the record machine
I ain’t the worst that you’ve seen
Oh, can’t you see what I mean?

だからさ、あたしがここに立ってるのがあんたには見えないの?
あたし、窮地に立ってんの
あたしって最低ってな訳でもないのにね
あー、あたしの言ってること、あんたは分からないのね?

Ah, might as well jump (Jump!)
Go ahead and jump
Might as well jump (Jump!)
Go ahead and jump
Jump!

ならさ、ジャンプしてみてもいいんじゃねえかな(ジャンプしなよ!)
ジャンプしてみてもいいんじゃねえかな
やりな、ジャンプするんだ(ジャンプしなよ!)
やりな、ジャンプするんだ
ジャンプするのさ!

Might as well jump (Jump!)
Go ahead and jump
Get it and jump (Jump!)
Go ahead and jump

ジャンプしてみてもいいんじゃねえかな(ジャンプしなよ!)
ジャンプしてみてもいいんじゃねえかな
現実を受け容れてジャンプするんだ(ジャンプしなよ!)
やりな、ジャンプするんだ

Jump Lyrics as written by David Lee Roth, Alex Van Halen, Eddie Van Halen
Lyrics © WB Music Corp., Diamond Dave Music, Universal Music Publishing

【解説】
オーバーハイム・エレクトロニクス社製のシンセサイザーが生み出す金管楽器にも似た分厚いブラス音がファンファーレのように力強く鳴り響くイントロ。Europe のThe Final Countdown のそれと並ぶ最強のシンセ・イントロですね。そのイントロの途中、ボーカルのDavid Lee Roth がOwwwwww!と雄叫びを上げていて、これを日本語に置き換えるとすると「痛タタタァァー」という感じなんですが、この叫び声、Jumpの作詞をしたDavid Lee Roth が雑誌のインタビューでこの曲の歌詞の原点について語った証言を知ってしまうと、確かに「ちょっとイタい(人だ)わな」と思ってしまいます(汗)。

「I was watching television one night and it was the five o’clock news and there was a fellow standing on top of the Arco Towers in Los Angeles and he was about to check out early, he was going to do the 33 stories drop, and there was a whole crowd of people in the parking lot downstairs yelling "Don’t jump, don’t jump" and I thought to myself, "Jump"」

長いので簡単にまとめると「ある夜、David Lee Roth がテレビのニュースを見ていたら高層ビルの屋上から飛び降り自殺をしようとしている男(he なので)が映し出されていて(check out early は自殺のことを遠回しに言っています)、階下の駐車場で人々がDon’t jump, don’t jump と叫んでいたが、David は心の中でjump しろと思った」ということ。そして同時に彼はなぜだか「the song is about a stripper」と詳細は述べずに一言そう付け加えています。なので、ビルの屋上に立っていた自殺志願のこのイタい人と謎のストリッパー(stripperは通常strip club等で働くストリップ嬢のことですね。現在ではマッチョが売りの男のstripper も多いようですが)を念頭に置いて歌詞を見ていくことにしましょう。

この曲の歌詞もまた、使われている英単語は中学校の英語の教科書レベル。とは言え、この歌詞の和訳にトライしてみると分かるかと思いますが、中学生が英語として理解し和訳するのはちょいと難しそうですね。第1節1行目のget up からしてそうで、get up は大抵の場合「寝床から起き上がる」という意味で使用されるのですけども、ここでは「立ち上がる」として使われています。なぜそうなのかと言うと、1行目のI get up だけを聞いただけでは分かりませんが、2行目にYou got it tough(get it tough は「苦難に直面している」とか「苦しい立場に立っている」といった意味になります)とあるからです。つまり、苦難に対して立ち上がるということ。1行目はget up とget down を使って言葉遊びをしていますね。2行目のI’ve seen the toughest around は「厄介なことをそこら中で見てきた」ですから、このように和訳しました。3行目にはbaby という呼びかけが入っていて、前述した「この歌詞はストリップ嬢についてのものだ」と語ったDavid Lee Roth の言葉からしても、この歌詞の主人公が語りかけている相手は女性だと考えて良いかと思います(彼がニュースで見たというビルから飛び降りようとしていた人は男性でしたが)。4行目のroll with the punches は元々は「身体をロールさせてパンチをうまくかわす」という意味のボクシング用語。そこから転じて「困難を乗り切る、批判をかわす」といった意味のidiom になりました。そのあとに続いているto get to what’s real は、to know what the real world is と置き換えてみれば分かり易いでしょう。

ということで、第2節は1節目の歌詞の主人公の語りかけに対する相手の女性の返答であるという理解で解説を進めます。2行目のget my back against はagainst のあとに続くものに背中をつけてもたれかかっているというイメージ。ここではthe record machine になってますが、the wall だと「窮地に陥る、追い込まれる」という意味になり、第1節の歌詞の内容から考えてみると、2行目はthe wallとすべきところをthe record machine に変えて言葉遊びをしているのではないかと思います。3行目は、後悔したり自分を情けなく思った時に思わず口にする「あー、私って最低(最悪)」という言葉を英語で言う場合、I am the worst ですから、その逆ということ。順番が前後しますが、1行目のcan’t you see me standing here?は、David Lee Roth がインタビューで語った前述の内容からすれば、まさしくビルの屋上の縁にこのme が立っているという状況。ここまでの歌詞を聴いた限りでは、自殺志願の女がビルの屋上にいて、その傍で男が「気持ちは分かるが、考え直せ」と説得しているという情景が頭に浮かびます。ところが、このあとの第3節のコーラスで連呼されるのがjump という台詞なものですから、この曲の歌詞を自殺を促すものだと受け止めるネイティブ話者も多いようです(前述のDavid Lee Roth が語った証言も影響しているのでしょうけども)。ですが、果たしてそうなんでしょうか?David が唐突に語ったthe song is about a stripper という言葉がどうも引っかかって仕様がなかった僕の脳裏にふと浮かんだのは、まったく別の情景でした。場所は場末のストリップ・クラブ。女(ストリップ嬢)が立っているのはビルの屋上ではなく店内の小さなステージの上です。女の目下の悩みは「別に見た目が悪くなってきたとは思わないが、自分も年増になってきたので、若い踊り子には勝ち目がない」ということで、そのことを愚痴っている彼女を前に馴染み客の男が「まあ、気持ちは分かるけど、やけになっちゃいけないよ。俺なら弱音なんて吐かねえ」と慰めています。そして、男は女に向かって最後にこう言うのです。「もうここでの仕事は辞めて何か新しいことにチャレンジ(jump)してみたら?」と。

このように考えれば、David Lee Roth の「The song is about a stripper」という発言を矛盾なく説明できますし「There was a whole crowd of people in the parking lot downstairs yelling "Don’t jump, don’t jump" and I thought to myself, "Jump"」という言葉にも納得がいくのです。なぜなら僕は、彼のこの発言が「自殺志願者に皆が「やめろ、やめろ」と言っているのに「やれ」と心の中で叫ぶ自分がいた」ということを言いたかったのではなく「人が何か困難に直面してどうしようか迷っている時、誰かがその背中を押してやらないといけない」ということが真意ではなかったのかと思うからです。つまり、Jump という曲の歌詞は、ビルから飛び降りようとしていた男の姿にインスパイアーされて書き始めたとは言え、完成した歌詞にはその事実は反映されておらず、困難に直面して悩んでいる人に対して、その困難に立ち向かえと勇気づけるということがその本意であると考えて間違いないでしょう(←あくまでも個人の意見です・汗)。おっと、結論を先に述べてしまいましたが、残りの歌詞もざっと見ておきましょうね。第3節1行目のmight as well は、主語のyou が省略されています。You might as well~は「~した方が良いのではないかと思いますが」みたいなすごく控え目な提案の仕方なんですが、この話者は段々と熱くなってきたのか3行目以降は命令形になってしまってますね(笑)。ここのGo ahead は「やりなよ」ってな感じで、クリント・イーストウッドが映画「ダーティーハリー」で使った決め台詞「Go ahead, make my day」を思い出します。4節は、男とストリッパー嬢との掛け合いに、唐突に第3の人物が出てきたという印象を拭えませんが、言ってることは同じくストリッパー嬢への励ましです。1行目のWho said that?は文字どおり「誰がそんなことを言ったの?」ですけども、ここでは「そんなイカしたことを言ってるのは誰だ?」つまり「いいこと言ってくれるねー」という意味で使っているような気がします。なので、1行目は女を励ました男に対して、2行目以降は励まされた女に対する言葉であると僕は理解しました。5、6節目は2、3節目のフレーズの繰り返し。そのあと、ギターソロとキーボードのソロが入って、再びコーラス。最後にアウトロでJumpを連呼して曲は終了します。以上がJump という曲の歌詞に対する僕の解釈。先に結論でも述べたとおり、落ち込んだり、悩んだりしている人などに対して『がんばれよ、元気出せよ』と励まそうとする歌詞になっているということです。メロディーラインもそのようにアレンジされていると思いますし、実際、欧米では選手を鼓舞する為の曲としてスポーツの試合でよく使われていますね。

話は変わりますが、この名曲を世に送り出したVan Halen 兄弟の兄の方のEddie Van Halen、彼は「タッピング」と呼ばれる、通常はピッキングを行う右手の指でフレットボード上の弦を直接叩きつけて音を出す速弾き奏法を世に広めて多くの同業者に影響を与えただけでなく、尊敬され、愛された人物でしたが、長年に渡って舌癌と闘病したのち、2020年に咽頭癌で死去されています。享年65歳(涙)。因みにEddieは舌癌の原因をギターの演奏中、予備の金属製ピックを口の中に入れておくという習慣を長年続けていたせいであると主張していたそうですけど、医師の見解によると、Eddie はヘビースモーカーであった為、喫煙によって引き起こされた可能性の方が高いらしいです(喫煙者の咽頭癌の発生率は非喫煙者の5倍。口腔癌 (舌癌を含む)の発生率は非喫煙者の7倍だそう・汗)。

【第95回】Breakfast in America / Supertramp (1979)

あれれぇー?気付けばこのコーナーも、第100回を迎えるまであと僅かじゃないですか!という訳で、緊急企画を用意することにしました(←こじつけにも程があるぞ・笑)。その名は「何度か耳にしたことがあるけれども、誰の曲なのか名前が出てこない曲を3回連続でお届けするシリーズ」(←やめてくれ、長ったらしい・怒)。その第1回目として本日は、Supertramp が1979年にリリースしたBreakfast in Americaという曲を紹介します(同名のアルバムからシングルカットされたThe Logical Song の方がアメリカではヒットしましたね)。Supertramp は1970年にイギリスのロンドンでRoger Hodgson とRick Daviesが中心となって結成したロックバンドで、欧米では今でも非常に人気がありますけども、日本での知名度はいまいち。なので「ドナルド・トランプが遂にバンドまで結成したのか?そんなグループの名前初めて聞いたぞ」と仰る方もいらっしゃるかも知れません(←そんな奴いねーよ)。来日も1976年の一度きりで、Breakfast in America の日本発売時はバンドのメンバーではなく、黄色のウエイトレスの制服に身を包み、オレンジジュースの入ったグラスを自由の女神のように右手で頭上に掲げてレコードのジャケットにメインで写っていたプロレスラーみたいにごつくてデカいおばちゃん(失礼!Kate Murtagh という女優さんです)が来日して曲のプロモーション活動をしていたことを思い出します(笑)。

Take a look at my girlfriend
She’s the only one I got
Not much of a girlfriend
I never seem to get a lot
Take a jumbo across the water
Like to see America
See the girls in California
I’m hoping it’s going to come true
But there’s not a lot I can do

僕のガールフレンドを見てよ
初めてできた彼女なんだ
まあ、大したことない娘なんだけどさ
だって、僕がもてたことなんてないんだもの
ジャンボ・ジェット機で海を越えて
アメリカを見てみたいな
カリフォルニアの女の子たちを見てみたい
それが現実のものとなることを願ってる
けど、僕にできることって多くはないんだよな

Could we have kippers for breakfast
Mummy dear, Mummy dear?
They gotta have ‘em in Texas
‘Cause everyone’s a millionaire
I’m a winner, I’m a sinner
Do you want my autograph?
I’m a loser, what a joker
I’m playing my jokes upon you
While there’s nothing better to do, hey
Ba da da dum
Ba da da dum
Ba da da da dum

朝御飯にキッパーを食べられるのかな
ねえねえ、母さん?
テキサスにキッパーはきっとあるよね
だって、みんな大金持ちなんだからさ
僕は勝者で、罰当たり
僕のサインが欲しいかい?
僕は敗者で、なんて取るに足らない
僕は君をからかってるのさ
それが一番だからね
ジャーン
ジャーン
ジャジャジャ、ジャーン

Don’t you look at my girlfriend (Girlfriend)
She’s the only one I got
Not much of a girlfriend (Girlfriend)
I never seem to get a lot (What she’s got? Not a lot)
Take a jumbo across the water
Like to see America
See the girls in California
I’m hoping it’s going to come true
But there’s not a lot I can do, hey
Ba da da dum
Ba da da dum
Ba da da da dum

僕のガールフレンドを見ないでよ(ガールフレンド)
初めてできた彼女なんだ
まあ、大したことない娘なんだけどさ(ガールフレンド)
だって、僕がもてたことなんてないんだもの(彼女には何がある?多くはないよね)
ジャンボ・ジェット機で海を越えて
アメリカを見てみたいな
カリフォルニアの女の子たちを見てみたい
それが現実のものとなることを願ってる
けど、僕にできることって多くはないんだよな
ジャーン
ジャーン
ジャジャジャ、ジャーン

Breakfast In America Lyrics as written by Rick Davies, Roger Hodgson
Lyrics © Almo Music Corp.

【解説】
スタンウェイのグランドピアノから放たれるどこか哀愁漂う音色と共に始まるイントロが印象的なBreakfast In America。そのあと、ピアノ以外にもリード・オルガンや汽笛オルガン(カリオペ)、クラリネット、チューバ、トロンボーンといった様々な楽器の音色が登場するという洋楽では珍しい曲です。この曲の歌詞はRoger Hodgson がまだ無名のミュージシャンであった10代の頃に書いたもので(その当時はイギリス在住)、彼は雑誌のインタビューでBreakfast In America の歌詞について次のように語っています。

「The line ‘playing my jokes upon you,’ I think that kind of sums up the song. It was just mind chatter. Just writing down ideas as they came, fun thoughts all strung together. And I do remember the Beatles had just gone to America, and I was pretty impressed with that. That definitely stimulated my dream of wanting to go to America. And obviously seeing all those gorgeous California girls on the TV and thinking, Wow. That’s the place I want to go」

この人は話をうまくまとめる才能があるのか、Breakfast In America は上記の言葉がそのまま歌詞になったようなものなので、もはや僕の解説は不要ですね(笑)。という訳で「今日はこれにてお終い!」と言いたいところなんですが、それではこのコーナーの存在意義が無くなってしまいますので、いつものように歌詞を追っていきましょう。

第1節2行目のShe’s the only one I got は直訳すれば「彼女は私が手にしたたった一人の人」ですが、要は「彼にとって初めてできたガールフレンドがその女性である」ということです。3行目はShe is が省略されてますね。be not much of a~は「何かを完全に肯定はしないけども、否定するほどでもない」つまり「大した~ではない」という意味で使われます。5行目も主語のI が省略されており、jumbo というのはjumbo jet の略。the water はThe Atlantic Ocean の言い換えです。なのでTake a jumbo across the water は「ジャンボ・ジェット機に乗って大西洋を越える」ということなのですが、なぜそんなことをしたいのかの理由が6、7行目のI like to see America, I like to see the girls in California です。ここのAmerica は勿論、the United Statets of America ですね。前述のjumbo jet は平均座席数が約500席というボーイング社の超大型機747の愛称。この曲がリリースされた時代、欧州と北米を結ぶ航空路線にはこの機種が次々と導入されていて、その結果何が起こったかというと、需要よりも客席の供給数が大幅に上回って航空運賃が劇的に下がるということでした。なので、この節を深読みするならば「それほど裕福でない若者であってもアメリカへ簡単に渡るチャンスが今の時代には出てきた」という希望が示唆されているのかも知れません(←考え過ぎだろ・汗)。この節の歌詞だけ聴くと、僕の頭に浮かんできたのは「自分の彼女は冴えないなー、まあ、自分はもてないし、彼女がいるだけでも良しとしよう」と考えながら主人公がテレビを見ていると、カリフォルニア州のビーチで寝そべるビキニ姿の華やかなアメリカ娘たちが映し出され「あー、アメリカ娘は開放的でかわい子ちゃんだらけだ、行ってみたいなー、アメリカ」とテレビの画面を羨望の眼差しで見つめているというような情景でしたが、第2節を聴くと、主人公がアメリカへ行きたい理由はそれだけではないということが分かってきます。

第2節1行目のkippers。「なんじゃそれ?、ユダヤ人が被ってるヘンテコな帽子のことか?」って感じですけども、これはニシンの燻製のことです。日本で言うところの魚の干物みたいなもので、イギリスの朝食の定番とされていますが、朝からこんなものを食ってる人を僕はイギリスで見たことはないですね(笑)。1行目のbreakfast の後ろにはin America(in the U.S.A)があって、それが省略されていると考えてください。つまり、曲のタイトルとなっているのまさしくこの部分。3行目のThey gotta have ‘em in Texas のTheyはAmericans、’em(them)はkippers のことですね。この2節目の1行目から4行目は、歌詞の主人公がテキサスへ言ってもイギリスと同じようにkipper を食べられるだろうかと母親に尋ねているのではなく(ここでテキサスが引き合いに出されているのは、テキサスには石油で財を成した大富豪が多いというイメージがHodgson の中にあったのだと思われます)、金持ちになればどこにいようがkipper だって何だって手に入れられるのだという暗喩であり、それを補足するかのように5、6行目に主人公の成功欲が示されています。6行目のDo you want my autograph?は主人公が有名人になりたいという願望の現れであり、彼がアメリカへ渡りたいのは、カリフォルニアのアメリカ娘を見る為だけでなく、アメリカで成功したい(何だって手に入れられるような身分になりたい)からだと僕は理解しました。ですが、一方で彼は現在の自分の置かれたお寒い状況を冷静に見ていて、そのことが吐露されているのが7行目以降。「アメリカへ行って成功者になりたいなんて、冗談ですよ、冗談!」って感じですかね。9行目のthere’s nothing better は「より良いことは何も無い」ですから「それが一番である」と言い換えできます。最後のBa Da Dum は、コメディアンとかがコントの最後にオチを言ったあと使うオノマトペのようなもので、日本でもお笑いのオチを「チャンチャン」とかの効果音と共に終わらせるのと同種のものと言えるでしょう。

第3節は1節目と同じフレーズが連なっていますが、良く聴くと出だしだけ違っていてDon’t you look at my girlfriend になっています。最初は「見てくれ」と言っていたのになぜ今度は「見るなと」言い始めたのかがいまいち良く分からないのですが、夢を追うのも大事だが、今の自分の前から彼女までいなくなってしまえば本当に自分には何もなくなってしまうことに気付いた主人公が、冴えない彼女であっても彼女を誰かに取られるなんてことはあってはならないとばかりに「彼女を見るな、彼女に目を向けるな」と他の男たちに向かって言っているような気が僕にはしました。ということで、冒頭で紹介したRoger Hodgson の言葉どおり、この曲の歌詞がイギリス人少年(もしくは青年)のアメリカへの純粋な憧れを表現していることが分かりましたね。そんな歌詞を書いた当時のHodgson、恐らく自分がアメリカに渡り成功者となる日が来るなどとは思いもしていなかったし、友人を揶揄う為のまさしく冗談のひとつに過ぎないと考えていた可能性が大ですが、その後、Supertramp を結成した彼は1977年、27歳でアメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスに移住、Breakfast In America のアルバムの大成功によって億万長者となり、その夢を冗談のまま終わらせずに実現しました(ですが、1982年にSupertramp を脱退した後は、自宅の天井裏から落下して両手骨折をしたり、自らがプロデュースしたアルバムが大ゴケしたりとご難続きで、暫くは音楽業界から姿を消して忘れられた人になっていましたけども、1997年頃より再び業界に戻り、それ以降は細々と活動を続けられています)。

では、最後に久々のトリビアをひとつ。Supertramp という風変わりなバンド名はRick Davies が同姓であることから贔屓にしていたイギリスのウェールズ出身の詩人William Henry Davies が自ら体験を綴った書物のタイトル「The Autobiography of a Super-Tramp(並外れた放浪者の自伝)」から着想を得たそうで(Rick 自身はイングランド生まれですがDavies姓はウェールズに由来する苗字)、trampに放浪者の意味があるとおり、William Henry Daviesは人生の大半をアメリカとイギリスの各地を放浪して過ごしていた人で、tramp と言うよりも所謂「吟遊詩人bard」ですね。

【第96回】Have You Ever Seen the Rain? / Creedence Clearwater Revival(1970)

名前が出てこないシリーズ第2弾。今日紹介するのはHave You Ever Seen the Rain?という名曲です。この曲を聴いて「あっ、知ってるこの曲」と仰る方は多いはずだと思いますが、誰の曲なのかと問われれば「誰だったっけ?」となるのではないでしょうか。この曲を演奏しているミュージシャンの正体、その名はCreedence Clearwater Revival。「なんだよ、その長ったらしいヘンコな名前は!」と思わず叫びたくなるような名前のせいか(ヘンコは関西弁で偏屈(者)のことです)世間ではCCR か、単にCreedence と呼ぶ人が多いみたいですよ(笑)。CCR(←早速使わせてもらいましょう)は1959年にFogerty 兄弟(John とTom)らが中心となって西海岸のサンフランシスコ郊外で結成したBlue Velvets というロックバンドがその前身。その後Golliwogsという名を経て、1967年、Creedence Clearwater Revival に改名しています(CCR はアメリカ南部で隆盛したSouthern Rock の元祖の一人とされていますが、4人のメンバーは全員カリフォルニア州出身・笑)。で、そのヘンコな名前の由来はと言いますと、CreedenceはTom Fogertyの友人の一人であるCredence Newballという人物の名前から、ClearwaterはOlympiaというビール会社のCMで使われていた言葉から拝借したそう。そして、最後のRevivalには50年代のロックンロールへの回帰という意味が込められているらしいです。この名前の付け方からしても、やはりFogerty 兄弟はヘンコですね(笑)。

Someone told me long ago
There’s a calm before the storm
I know, it’s been comin’ for some time
When it’s over, so they say
It’ll rain a sunny day
I know, shinin’ down like water

昔、誰かが僕に言ったんだ
嵐の前には静けさがあるってさ
でも、暫く前から嵐は近付いてたのさ
嵐が過ぎれば、皆は言うよね
晴れた日に雨が降るんだってね
ああそうさ、土砂降りになるよ

I wanna know, have you ever seen the rain?
I wanna know, have you ever seen the rain?
Comin’ down on a sunny day

僕は知りたいんだ、君が雨を見たことはあるのかってね
僕は知りたいんだ、君が雨を見たことはあるのかってね
晴れた日に降る雨をね

Yesterday, and days before
Sun is cold and rain is hard
I know, been that way for all my time
‘Til forever, on it goes
Through the circle, fast and slow
I know, it can’t stop, I wonder

昨日とそれより前の何日か
空は曇っていて雨は激しかった
僕にとってはずっとそんな風だったのさ
これからも永遠に、それは続くんだ
時には速く時にはゆっくりと、円を描きながら
それを止めることはできないのさ、だから

I wanna know, have you ever seen the rain?
I wanna know, have you ever seen the rain?
Comin’ down on a sunny day
Yeah!

僕は知りたいんだ、君が雨を見たことはあるのかってね
僕は知りたいんだ、君が雨を見たことはあるのかってね
晴れた日に降る雨をね
雨をだよ!

I wanna know, have you ever seen the rain?
I wanna know, have you ever seen the rain?
Comin’ down on a sunny day

僕は知りたいんだ、君が雨を見たことはあるのかってね
僕は知りたいんだ、君が雨を見たことはあるのかってね
晴れた日に降る雨をね

Have You Ever Seen the Rain? Lyrics as written by John Fogerty
Lyrics © Concord Music Group Inc

【解説】
アコースティック・ギターのシンプルな音色のイントロとそれに続くJohn Fogerty の力強い歌声。なんかロックと言うよりもフォークソングみたいで、節回しと言うのか、John Fogerty の歌い方もちょっと変わってます(←やはりヘンコだからでしょうか?・笑)。この曲がアルバムからシングルカットされてヒットしたのはベトナム戦争真っ只中の1971年。フォーク調であったことも手伝ってか(当時、反戦フォークは世界的ムーブメントでした)、歌詞の中の「雨」という言葉を米軍がベトナムで使用していた残虐非道なナパーム弾(焼夷弾の一種)であると解釈する人もいて、誰が言い出したのかHave You Ever Seen the Rain?はベトナム戦争に対する反戦歌であるとする説が日本では広まっていったようなのですが、その説は根拠の無いまったくの出鱈目。作詞作曲を担当したJohn Fogerty が自ら歌詞について次のように語っていることからも、この曲が反戦歌でないことは明白なのです。

「That song is really about the impending breakup of Creedence. The imagery is, you can have a bright, beautiful, sunny day, and it can be raining at the same time. The band was breaking up. I was reacting, ‘Geez, this is all getting serious right at the time when we should be having a sunny day.’」

この発言の中のthe impending breakup of Creedence が何を指しているのかというと、バンドのメンバーである兄のTom FogertyがCCRからの脱退を表明したことでバンドが解散の危機に瀕しているという状況のことであり、Have You Ever Seen the Rain?はベトナム戦争に対する反戦歌ではなく「バンドは商業的に成功して絶頂期にあるのに(晴れている)なぜ解散みたいなこと(雨が降る)になってしまうのか?」というJohn Fogerty の嘆きなのです。このことを理解して曲を聴けば、歌詞は「ああ、なるほどな」という内容になっていますので、一緒に歌詞を見ていきましょう。この曲も歌詞に使われている英単語はほぼ中学校の英語の授業レベルのものですので、英語的な解説はそれほど必要なさそうです。

第1節、ここの3行目のfor some time は「暫くのあいだ、暫く前から」という意味。主語のit’s は勿論、the stormのこと。つまり、1行目から3行目の歌詞が暗喩しているのは「Tom Fogertyは突然にCCR からの脱退を言い出したのではなく、その芽はそれ以前からあった」ということです。ここでのthe stormは「バンドの内紛」の言い換えですね。4行目のso they say はThat’s what they sayと同義。5行目のIt’ll rain a sunny dayに込められた真意は、先程に述べたとおり。最後のshinin’ down like water は直訳すれば「水のように降り注ぐ」ですが、ここでは雨のことを話しているので「土砂降り」の詩的表現だと僕は理解しました。即ち、このshinin’ down like waterは「大変なことになる」の暗喩であり、冒頭で引用したJohn Fogerty の言葉の中にあった「this is all getting serious」の言い換えだと言えるでしょう。要するにJohn Fogerty は「Tomが脱退すれば大変なことになる(バンドが崩壊して解散につながる)」ということをI know(確信)しているのです。なので、第2節のhave you ever seen the rain?のyou が兄のTom を指していることに疑問の余地は無く、the rain が「バンドの解散」の言い換えと考えれば、John Fogerty がTom に対し「なあ兄貴、俺たちのバンドは今が一番輝いてる時なのに、兄貴が辞めたらバンドが解散することになっちまうって、兄貴は分かってんのかよ?」と嘆いているというか、非難していることが分かります(←そういう弟の態度というか姿勢(こういうことを歌詞にしてしまうデリカシーの無さ)が、常にTom の神経を逆撫でしていたのかも知れませんね←あくまでも個人の推測&見解です・汗)

次に第3節、4行目’Til forever はfrom now until forever のfrom now が省略されています。forever だけだと、永遠という未来へ向かう出発点がどこからなのかが分かりませんが、’Til forever にすると「今から今後は」という出発の地点が明確に強調されます。同じ行のon it goes は「それは続く、進行する」という意味で次の行のthroughと結びついています。つまり、この行で暗喩されているのは「バンド内のいざこざ(Sun is cold and rain is hard)は今日、昨日に始まったことではなく、自分にとってはずっとそうだった。それはこれからもずっと続くし(on it goes through the circle)、終わりもない(it can’t stop)」ということです(円からは、同じところをぐるぐると回るという「堂々巡り」のような状況がイメージできますね)。この節を聴いて僕は「成功の頂点にいる今の時期に解散に追い込まれることは賛成できないが、解散すること自体に反対している訳ではない(なぜなら、自分もTom を含めた他のバンドのメンバーにうんざりしているから)。けれども、内輪揉めを繰り返すくらいなら、このまま解散するのも悪くないな」という思いが実のところJohn Fogerty にはあったのではないかと感じました(←個人の意見です)。だからこそ、Tom が脱退した1971年の翌年、CCR は呆気なく解散したのではないかというような気が僕にはします。

さて、そのTom Fogerty、脱退後はソロで音楽活動を続け、CCR が再結成されることもない中で1990年に48歳の若さで病死しました。洋の東西を問わず、不仲な兄弟というのはどこにでもいて、心理学者は、幼少期に兄弟がライバル関係にあった場合、不仲になりやすいと分析していますが、Fogerty 兄弟が不仲だった原因は、二人ともヘンコだったからなのかも知れませんね(←結局そこに持っていくのかよ・笑)。

【第97回】We’re an American Band / Grand Funk Railroad (1973)

名前が出てこないシリーズ、最終回はWe’re an American Band という曲を紹介します。この曲も「ふーむ、どこかで聞いたことがあるぞ」ってやつですね。で、誰の曲かと言いますと、Grand Funk Railroadというまたまた長ったらしいヘンコな名前のロックバンドの曲です(またヘンコかよ・笑)。Grand Funk Railroad は1967年、既にプロのミュージシャンとして活動していたMark Farner、Don Brewer、Mel Schacher の3人によってミシガン州デトロイト郊外のFlint という町で結成されたバンドで、地元で有名だった鉄道会社「Grand Trunk Western Railroad(現在はカナダの鉄道会社CN の傘下)」にちなんで「Grand Trunk Railroad」の名でデビューを目指しましたが、すぐに鉄道会社からクレームが出た為、仕方なく「Grand Funk Railroad」に変更したのだそう。このバンドもまた、世間ではGFR とかGrand Funk と短縮形で呼ばれることが多いようですよ(笑)。

Out on the road for forty days
Last night in Little Rock put me in a haze
Sweet, sweet Connie and doing her act
She had the whole show and that’s a natural fact

40日間の巡業に出てたのさ
そのせいで昨晩はリトルロックでへとへとさ
愛しいコニーちゃんはせっせと励んでたけどね
彼女、場を仕切ってたよ、いつものようにね

Up all night with Freddy King
I got to tell you poker’s his thing
A-booze ‘n ladies keep me right
As long as we can make it to the show tonight

フレディー・キングと徹夜したんだ
奴、ポーカーが得意なんだ
でも、酒と女が俺を正気でいさせてくれるね
今晩、舞台に立つ限りはね

We’re an American band
We’re an American band
We’re coming to your town, we’ll help you party it down
We’re an American band

俺たちはアメリカのバンドなんだ
俺たちはアメリカのバンドなんだ
俺たちがあんたの街へ行って、とことん楽しませてやるさ
俺たちはアメリカのバンドなんだもの

Four young chiquitas in Omaha
Awaitin’ for the band to return from the show
I’m feelin’ good, feelin’ right, it’s Saturday night
The hotel detective, he was outta sight

4人の可愛いこちゃんがオマハにいてさ
バンドが公演から戻るのを待ってたよ
俺はご機嫌で、いい感じだったぜ、だって土曜の夜だぜ
それにホテルの警備係、彼もイカした奴だったぜ

Now, these fine ladies, they had a plan
They was out to meet the boys in the band
They said, "Come on, dudes, let’s get it on,"
And we proceeded to tear that hotel down

でさ、その可愛いこちゃんたちには計画があったんだよな
彼女たち、バンドの連中に会おうとしてて
こう言ったね「ねえ、あんたたち、しようょ」って
だから俺たちはホテルをぶっ壊し始めたのさ

We’re an American band
We’re an American band
We’re coming to your town, we’ll help you party it down
We’re an American band, hey!
We’re an American band
We’re an American band
We’re coming to your town, we’ll help you party it down
We’re an American band, ah, ah, ah down!

俺たちはアメリカのバンドなんだ
俺たちはアメリカのバンドなんだ
俺たちがあんたの街へ行って、とことん楽しませてやるさ
俺たちはアメリカのバンドなんだもの、そう!
俺たちはアメリカのバンドなんだ
俺たちはアメリカのバンドなんだ
俺たちがあんたの街へ行って、とことん楽しませてやるさ
俺たちはアメリカのバンドなんだもの、そう、そう、やってやるさ!

*このあと、ブリッジを挟んで同じコーラスのフレーズを繰り返し、曲は終了します。

We’re an American Band Lyrics as written by Don Brewer
Lyrics © Brew Music Co.

【解説】
イントロのドラムの響きが印象的なこの曲、歌詞にはとても簡単な英単語しか使われていませんので、英語としてはすっと耳に入ってきますが、何のことを歌っているのかとなると「?」マークが頭の中で旋回しますね。はっきり言ってWe’re an American band くらいしか理解できません(笑)。ですが、幸いにもこの歌詞を書いたDon Brewer はとてもお喋り好きな人のようで、この曲の歌詞についてたくさんの発言を残していますから、それらの彼の発言を手掛かりにして歌詞の意味を探っていきましょう。Don Brewer はこの曲が生まれた経緯に関してずばりこう語っています。

「We were touring, supporting The Phoenix Album, we were going from town to town, there were lawsuits flying all over the place, it was a very tumultuous time period. I remember lots of discussions in the back of cars going, ‘What are we going to do next?’ Our manager kept saying, ‘Why don’t you just write songs about what you do, you’re out here on the road, you’re going to this hotel, you go to different places, there’s people, you come into town. So the thought came into my mind, ‘We’re coming to your town, we’ll help you party it down.’ That’s really what we were doing, we were coming into town and we were the party. That’s where the line came from, and the next thought I had was, ‘We’re an American band.’ It wasn’t to wave the flag or anything, it was just simply what we were. It was a true description and it kind of rolled off my mind」

ほんと、良く喋る人ですよね、この人は(笑)。長いので簡単にまとめますと、Don Brewer がアルバムPhoenix(1972年リリース)のプロモーションでアメリカ各地を巡業中、仲間内で「次はどんな曲を出すべきか、失敗はできない」という話にしょっちゅうなり、その際、マネージャーが「君たちはツアーに出て、ホテルに行って、いろんな場所に行って、そこに人がいて、その街に行く。そういう君たちがやってることを曲にしてみたらどうだろう?」と言ったことにインスパイアーされ「そうだ、俺たちが街へ行って、パーティーを盛り上げてやる。それがアメリカのバンドがやることなんだ」と思って書いたのがこの曲だということです(←簡単にまとめられませんでした・汗)。

では第1節です。1行目は文頭のI was が省略されていると考えて良いでしょう。そのあとのthe roadは、前述のDon Brewer の発言に照らし合わして、バンドの巡業のことであると容易に理解できます。40日間の公演を終えて、昨夜はリトルロックでバタンキュー寸前だったという訳です(ひょっとしてバタンキューも死語ですかね?笑)。3行目のSweet Connie。Connie は女性の名前だと直ぐ分かりますが、それが誰なのかと言うと、当時、有名人とsex することを目的に追っかけをする女性として有名であったConnie Hamzy の愛称が「Sweet Sweet Connie」であったことや、彼女の故郷がアーカンソー州の州都リトルロックであったことからして、Connie Hamzy のことであると断言して間違いないですね(因みに1972年のツアーでGFR はアーカンソー州でコンサートを催していませんけども)。つまり3、4行目では、Connie Hamzy が自分(Don Brewer)にもアプローチしてきたと匂わせているのです(笑)。第2節も文頭のI was が省略されてます。そのあと、1節目と同じく人名が出てきますが、今度はFreddy King とフルネームですね。この名前を聞いて最初に思い出すのはブルース界の3大キングの一人のFreddy King(あと二人はB.B. King とAlbert King)。そして、この歌詞に出てくるFreddy King についてDon Brewerは次のように語っています。

「Freddie King was the opening act for us, the great Blues guitar player from Texas. It always struck me as funny that he would make his band play poker with him every night. We used to sit in on some of the poker games, and that’s where that line came from. His band, he’d pay them, and then he’d go win all the money back so they were broke and they’d have to keep playing for him, it was a great deal. A lot of people don’t understand the Freddie King part because they don’t know who Freddie King is. Anybody who knows about Freddie King immediately picks it up. People who don’t say, ‘What are you saying, that Focus can’t sing?’」

マジでこの人、良く喋ります(笑)。やはり、この歌詞に出てくるFreddy は3大キングの一人であるFreddy King でしたね。ただ、Don Brewer はA lot of people don’t understand the Freddie King part because they don’t know who Freddie King is と言っていますが、これはちょっと違いますよね。Freddie King が誰であるかを知っている人は多いはずで、人々が知らないのはFreddie King がポーカーの名手ということじゃないでしょうか。それにしても、自分のバンドのメンバーにギャラを払ってはポーカーで全額巻き上げ、また働かせては巻き上げるって、大阪の西成のヤクザのやり口じゃないですか(笑)。Freddie King、恐るべしです。3行目のbooze はスラングで酒のこと。4行目のmake it to~はシチュエーションによって意味が若干変わってきますが大抵は「~に間に合う、~に出席する、~に参加する、~へ到達する」といった感じで使われます。第3節のコーラス部分もDon Brewer が語っていたとおり。3行目はtown とdown で韻を踏んでいますね。Party down と聞くとなんか盛り下げるといった感じがしますが、実はまったくその逆で「とことん楽しむ」という意味になります。第4節、1行目のchiquita はスペイン語のchica(若い女性)の指小辞。つまり、スペイン語での感覚では小学生くらいの子供の女性ですが、アメリカ英語では「若い女友達、かわいらしい女性」の意味で使われているようです。Omaha はLittle Rock の北約800キロに位置するネブラスカ州にある大都市。なので、第4節では舞台がLittle RockからOmahaに変わっているということになります。では、なぜオマハなのか?その理由をDon Brewer は「It came from a situation where we checked into a hotel in Omaha, Nebraska. There were four groupies in the lobby waiting to see the band」と語っています。なので、この節のchiquitasというのはグルーピーのことで確定すね。今では考えられないことですが、有名ミュージシャンたちと彼らを追っかけるグルーピーが各地のホテルで乱痴気騒ぎ(セックスとドラッグ)を繰り返すという光景は70年代当時、あたりまえに見かけられたものでした。4行目のhotel detective は日本では恐らく存在しない職業で、ホテルの宿泊者のマナー違反や不法行為を監視する為に雇われた私服の警備員のこと。最後のbe out of sight は「素晴らしい、ずば抜けている、すごい」といった意味で使われるスラングで、ここではそのhotel detective が「その夜に起こることになる乱痴気騒ぎに目をつぶってくれるいい奴だった」という意味で使っているのではないかと思います。He was a nice guy で良いところを、前行のnight と韻を踏むためにわざわざhe was outta sight という表現にしたのでしょう(←すべて個人の意見です)。5節目は4節目の話の続きですね。3行目のlet’s get it on は「セックスしようよ」と言ってるとしか考えられません(←ほんとかよ?)。その結果、tear that hotel down することになったという訳です。tear downは「破壊する」という意味ですが、ここでは実際にホテルを破壊したのではなく、乱痴気騒ぎを始めたという暗喩でしょう(まあ、東京ヒルトンを破壊したツェッペリンのように、ホテルの部屋や設備を意味もなく壊す馬鹿もいてたことは確かですが)。ここでわざわざtear that hotel down という表現を使っているのは、コーラスのparty it down と韻を踏む為だと考えられます。

以上のように、Don Brewer の発言内容を知らなければいまいち良く分からない歌詞ですが、逆に知っていれば簡単に理解できる歌詞ですね(笑)。このDon Brewerはボーカル兼ドラム担当の人。つまり、ドラムを叩きながらこの曲We’re an American Bandを歌っている訳ですけども、イーグルスのDonHenley同様「ドラムを叩きながら歌うなんて、よくもそんな器用なことができるものだ」といつも感心してしまいます。

【第98回】Keep Your Hands To Yourself / Georgia Satellites (1986)

前々回にSouthern Rock なる音楽用語を紹介しましたが、今日は「これぞSouthern Rock!」という感じの曲を1曲どうぞ。1987年のビルボード社年間チャートで35位に食い込んだGeorgia Satellites のKeep Your Hands To Yourself です。ここでもう一度Southern Rock とは何なのかをおさらいしておきますと、Southern Rock はアメリカ南部でロックンロール、カントリー、R&B が融合しながら発展した音楽とされているロックの一分野。とは言え、特に厳密な定義がある訳でもなく、旧アメリカ南部連邦の州で結成されたバンド(もしくはその雰囲気を持つバンド)の曲であり、尚且つ、聴いた人が「これは南部風だなと(田舎臭いなと・笑)」感じるような曲にその名が冠されることが多いようです。要は、聴いた人がこれはSouthern Rock だと思えばそうであるということですね(←なんだよ、その説明・笑)。Georgia Satellitesはその名のとおり、1980年にジョージア州アトランタでプロのギタリストDan Baird が中心となって結成したロックバンドなんですが、実はこのDan Baird もカリフォルニア州のサンディエゴ生まれなんですよねぇー(笑)。両親の仕事の関係で5歳の頃にアトランタへ移住しているんですが、本人は生粋の南部人として生きることを誓っているようです。

I got a little change in my pocket going jing-a-ling-a-ling
Wanna call you on the telephone, baby, I give you a ring
But each time we talk, I get the same old thing
Always, "No huggee, no kissee until I get a wedding ring"

ポケットの中でジャラジャラいってる小銭があるんでさ
君に電話したいんだよね、そう、電話するのさ
でも、君と話す度に俺がもらう返事は同じ事ばかりさ
いつもそう「結婚指輪をもらうまでは、ハグもキスも無しよ」だなんてさ

My honey, my baby
Don’t put my love upon no shelf
She said
"Don’t hand me no lines and keep your hands to yourself"

あー、君、愛しの君
俺の気持ちを宙ぶらりんにしないでくれよ
そしたら彼女
「戯言は聞きたくないの、ちょっかい出さないで」だってよ

Ooh, baby, baby, baby
Why you gonna treat me this way?
You know I’m still your loverboy
I still feel the same way
That’s when she told me a story ‘bout free milk and a cow
And said
"No huggee, no kissee until I get a wedding vow"

あー、君、君、愛しの君よ
どうして君はそんな風に俺をあしらうんだよ?
俺が君の恋人だって分かってんだろうよ
俺の気持ちは変わらないよ
君がミルクと牛の教訓の話をしてもね
すると君はこう言ったんだ
「結婚の誓いをするまでは、ハグもキスも無しよ」ってね

My honey, my baby
Don’t put my love upon no shelf
She said
"Don’t hand me no lines and keep your hands to yourself"

あー、愛しの君
俺の気持ちを宙ぶらりんにしないでくれよ
そしたら彼女
「戯言は聞きたくないの、ちょっかい出さないで」だってよ

Over here
You see, I wanted her real bad and I was about to give in
That’s when she started talking about true love
Started talking about sin
I said
"Honey, I’ll live with you for the rest of my life"
She said
"No huggee, no kissee until you make me a wife"

こっちだよ
あのさ、彼女としたかったしその気持ちに負けそうだった
彼女が本当の愛について話し始めた時はね
で、罪について話し始めた時さ
俺は言ったんだ
「愛しの君、残りの人生、俺は君と共に歩むよ」ってさ
そしたら彼女
「あたしを妻にしてくれるまでは、ハグもキスも無しよ」だってさ

My honey, my baby
Don’t put my love upon no shelf
She said
"Don’t hand me no lines and keep your hands to yourself"

あー、君、愛しの君
俺の気持ちを宙ぶらりんにしないでくれよ
そしたら彼女
「戯言は聞きたくないの、ちょっかい出さないで」だってよ

Keep Your Hands To Yourself Lyrics as written by Daniel Baird
Lyrics © Warner-Tamerlane Pub Corp.

【解説】
シンプルなコードで構成されたご機嫌なギターの音色のイントロに続く特徴的なボーカルの声。歌っているのはKeep Your Hands To Yourself の歌詞を書いたDaniel Baird。この人、独特な歌い方をするので、何を言ってるのかさっぱり聞き取れません。特にNo huggee, no kissee の部分なんかはひどいですね(笑)。なので、印刷された歌詞で意味を再確認したところ、ちょっと笑ってしまいそうな、なかなかユニークな歌詞でしたよ。実際、Daniel Baird もこの曲を書いた理由について「‘Keep Your Hands’ was written to make our drummer, my good friend David Michaelson laugh. That’s all it was written for, and he did laugh ・Keep Your Hands は、俺たちのバンドのドラマーで良き友人でもあるDavid Michaelson を笑わせようと書かれたものなんだ。それが書いた理由のすべてさ。彼も笑ってくれたしね」と語っています。

それでは、そのユニークな歌詞を見ていきましょう。1行目のjing-a-ling-a-ling はjingling のことで、語源は中国語の「玎玲」だそう。2行目の文末のa ring と韻を踏む為にjing-a-ling-a-ling にしたと思われます。jingling は、金属やガラスなどが触れ合って鳴る音を表すオノマトペであり、鍵がジャラジャラと鳴る音、風鈴がリンリンと鳴る音、お金がポケットの中で鳴る音や、ベルが鳴る音などを表現する際に使用されます。2行目は主語のI が省略されていて、最後のI give you a ring は、ここでは電話の話になっているので、普通は「あなたに電話をする」という意味になりますが、4行目にNo huggee, no kissee until I get a wedding ring とあるので、文字通り「あなたにリングをあげる」の意味をひっかけているのでしょう。その4行目(3行目も含む)からも分かるとおり、歌詞の主人公が電話をしようとしている相手は、結婚するまでハグもキスも許さない(つまりはsex させない・汗)というポリシーの女性のようです。因みにhuggee とkisseeはhug とkiss のことだと直ぐに分かりはしますが、日常会話ではあまり聞かないというか、ほとんど聞いたことのない言葉ですね。厳密に言えばkissee はkiss ではなく「kiss される人」の意味なので、huggeeも同じように考えれば、No huggee, no kissee はhug される人もkiss される人もいないということになり、No huggee, no kissee until I get a wedding ring は「結婚するまであたしはあなたにハグもしないしキスもしない、あなたも同様」という意味で女性が言っている可能性も無きにしもあらずです。まあ、いずれにしても「sex させない」と言っているのと同じですが(笑)。

第2節のコーラスは、2行目と4行目になぜか2重否定が使われていてちょっと分かりにくいです。特に4行目のDon’t hand me no lines は、普通はこのような言い方はしませんね。恐らく、大多数の人はDon’t hand me any of your lines と言うのではないかと思います。hand someone a line には「口先でだます、言いくるめる」という意味があり、keep your hands to yourself は、喧嘩になった際なんかに「僕にちょっかいを出すな!」といった感じで子供が良く使うフレーズです。第3節は、英語的に難しい部分はありませんが、5行目は英語の諺を知っていないと、何のことだかチンプンカンプンでしょう。ここのa story about free milk and a cow は諺の「Why buy a cow when you can get milk for free?・ミルクがただで手に入るのに、なぜわざわざ牛を買う必要がある?」もしくは「Why buy a cow when milk is so cheap?・ミルクがこんなに安いのに、なぜわざわざ牛を買う必要がある?」のことで、結婚しなくてもセックスしたり家事(料理や掃除など)をしてもらえるなら、わざわざ結婚なんてする必要はないと考える男性の比喩として良く使われます。つまり、この歌詞に出てくる女性は主人公の男に対し「あんたはそういう男だ。だから、結婚の誓いをするまではやらせない」と言ってる訳です(笑)。第4節は2節目と同じフレーズの繰り返しで、そのあとギターソロが入り第5節へ。1行目のOver hereは、自分の居場所を知らせる時に使う言葉。つまり、ここでは彼女の注意を自分に向けさせているのでしょう。2行目のI wanted her real bad はI wanted her so badly ということであり、I was about to give in その気持ちに負ける寸前だったということでしょう。やはり、主人公の男は彼女とやりたくてしょうがなかったんですね(笑)。ですが、彼女が愛について語り始めた時、その真剣さを知った男は反省したのか一生涯かけて彼女を愛することを決意、そのことを彼女に伝えると、彼女からの返事はNo huggee, no kissee until you make me a wifeだったというオチです。この主人公の男、とことんやらせてもらえないようですね(←下品な表現でスミマセン・笑)。

さて、この曲を大ヒットさせたGeorgia Satellites、その後ヒット曲を出すこともなく結局は一発屋で終わってしまいましたけども、バンド自体は解散やメンバーの入替えと再結成を幾度も繰り返しながら現在も活動中。フロントマンであったDaniel Baird は1990年にバンドから脱退。以降はソロ活動を続けていましたが、発病した白血病と闘病生活を送る為、2017年に事実上、引退しています。

【第99回】We Got the Beat / Go-Go’s (1980)

先日、インターネットで海外のニュースを検索していた際、2021年にGo-Go’s がロックの殿堂入りをしたという記事をたまたま見つけたので(ロックの殿堂に入ることが別にすごいことだとも価値のあることだとも思いませんが)、「これは懐かしいな」と思い、彼女たちが1982年にヒットさせたWe Got the Beat を紹介することにしました(1982年のビルボード社年間チャートで堂々の25位)。今しがた「彼女たち」と書いたとおり、Go-Go’s は1978年にロサンゼルスで結成された女性5人組のガールズバンド。デビューした頃の彼女たちは5人ともパンク風のイモ姉ちゃんという感じでしたが、ロックの殿堂入りのセレモニー会場に現れた彼女たちは全員、見事な熟女になってました。そりゃそうですよね、5人とも還暦を過ぎてるんですから(笑)。

See the people walking down the street
Fall in line just watching all their feet
They don’t know where they wanna go
But they’re walking in time

通りを歩いてる人たちを見てよ
みんな足元を見て歩調を合わせてるよ
どこへ行きたいのかも分かんないってのに
みんなが調子を合わせて歩いてる

They got the beat
They got the beat
They got the beat, yeah
They got the beat

みんなノリが分かってんだよ
みんなノリが分かってんの
みんなノリが分かってんだよ、そう
みんなノリが分かってんの

All the kids just getting out of school
They can’t wait to hang out and be cool
Hang around ‘til quarter after twelve
That’s when they fall in line

下校時間になったらガキどもはみんなね
そのまま遊びに出掛けてかっこつけたいんだよね
12時15分までほっつき歩くの
みんなが歩調を合わせるのはその時だよ

They got the beat
They got the beat
Kids got the beat, yeah
Kids got the beat

みんなノリが分かってんだよ
みんなノリが分かってんの
ガキどもはノリが分かってんだよ、そう
ガキどもはノリが分かってんの

Go-go music really makes us dance
Do the pony puts us in a trance
Do the watusi just give us a chance
That’s when we fall in line

ゴーゴーの曲ってほんと踊れるよね
ポニーを踊ったらもう恍惚状態だよね
ワトゥーシを踊ったらチャンスだって到来よね
あたいらが歩調を合わせるのはその時だよ

‘Cause we got the beat
We got the beat
We got the beat, yeah
We got it

だってさ、あたいらはノリが分かってるんだもの
あたいらはノリが分かってんのよ
あたいらはノリが分かってんの、そう
あたいらは分かってんのよ

We got the beat
We got the beat
We got the beat
Everybody get on your feet (We got the beat)
We know you can dance to the beat (We got the beat)
Jumping, get down (We got the beat)
Round and round and round

あたいらはノリが分かってんの
あたいらはノリが分かってんの
あたいらはノリが分かってんのよ
みんな、立ち上がって(あたいらはノリが分かってんだから)
誰だってノリに合わせて踊れるよ(あたいらはノリが分かってんだから)
飛び跳ねて、屈んで(あたいらはノリが分かってんだから)
あちこち、そこら中でね

*このあとWe got the beat というフレーズを13回連呼して曲は終了します。

We Got the Beat Lyrics as written by Charlotte Caffey
Lyrics © Universal Music Mgb Songs

【解説】
ドラマーのGina Schock が叩く単調ですが力強いドラムの音色のイントロ、なかなかいいです。そのあとノリノリで歌い始めるのはBelinda Carlisle(ベリンダ・カーライル・後にGo-Go’s を脱退してソロとなりMad About You やHeaven Is a Place on Earth、I Get Weak といった曲を次々にヒットチャートの上位に送り込みました)。歌は上手いですが、この曲では何を言ってるのか良く分からない発音が不明瞭な部分が多いのが残念。別の言い方をするならば、歌詞は特に重要ではなく、ノリの曲だということでしょうか。因みに、We Got the Beatを作詞したギター担当のCharlotte Caffeyは、曲が出来た経緯についてこう語っています。

「It happened one night, I was in my apartment and the Twilight Zone marathon was on TV, I remember that. Very late at night, an idea came to me. Luckily, I scrambled and found my cassette player and put it on a cassette. And then the whole song kind of came out. It was just one of those moments, you don’t know really where it comes from. But it kind of comes in your head and Boom! It’s out. So that’s how that happened」

この発言を聞いても、何のことかさっぱりですよね。やはり、この曲の歌詞に深い意味はなさそうです(笑)。では、いつものようにその歌詞を見ていきましょう。

第1節目は、英語的にそれほど難しい部分は見当たりません。2行目のFall in line は線の上に人々が整列しているイメージ、そこから転じて「歩調を合わせる」という意味も持つようになりました。4行目のin time も、ここでは「時間内」ではなく「正しいテンポで、調子を合わせて」といった意味で使われています。2節目のThey got the beat は、直訳すれば「彼らはビートを得た」ですが、要は「ノってる」ということなのでこのように訳しました。ここのThey は勿論、第1節に出てきたノリノリで通りを歩いている人たちのことです。第3節1行目には、唐突にkids が出てきますが、このことは明らかにこの曲がティーンエイジャーなどの若者をマーケット対象として作られたことを示しています(通常、kid はハイスクールに入学する前くらいまでの子供のことを意味しますが)。なので、この節を大の大人が聴いても何ら心に響くものはないですね(汗)。3行目のquarter after twelve は、深夜の12時15分のことだと思われますが、なぜに12時15分なのかがまったく分かりません。ひょっとして、その時間にTwilight Zone が放送されてたんでしょうか?(笑)。

第4節は解説不要ですが、第5節はかなり難解。おまけに、Belinda Carlisle がなんて歌ってるのかも聞き取りにくいです(汗)。1行目のGo-go music は、コンガなどの楽器による5拍子と4拍子を組み合わせたGo-go beatと呼ばれるリズムが特徴の音楽の一形態で、1960年代半ば頃からRare EssenceやEU、Trouble Funk、Chuck Brown といった黒人ミュージシャンが全米に広げました。2行目のthe pony は、1960年代にChubby Checker がリリースしたPony Time という曲と共に広まったダンスのこと。3行目のthe watusi も、同じくChubby Checker がリリースしたThe Wah-Watusi という曲と共に広まったアフリカの民俗舞踊風のダンスのことです。watusi を踊ることでどうしてgive us a chance になるのかは僕には良く分かりません(汗)。watusi をwhat you see と理解するネイティブ話者もいるようですが、ちょっとこじつけが過ぎますね(笑)。2行目も3行目もDo になっていますが、文法的に正しく言うならばDoingでしょう。第6、7節も解説不要。第8節のアウトロ部分も特に難しい部分はありませんが、6行目だけはかなり謎です。この部分の歌詞は意見が分かれていて、多くの人が支持しているJumping, get down に一応しておきましたが(この表現も違和感があって、Jump and get down なら分かるのですけども…)、jump back, kick round という説も根強いですし、何度繰り返し聴いても僕にはjump up, keep it round にしか聞こえませんでした(汗)。皆さんには何と聞こえますか?

このWe Got the Beat という曲、全米でヒットしたのは1982年ですが、実は最初にリリースされたのはその2年前の1980年のことでした。当時のアメリカでは、キワモノ扱いのガールズバンドが音楽業界で注目を得るのは難しく、ガールズバンドが隆盛していたイギリスでレコードを発売することにし、渡英してツアーも行ったのですが、現地での反応はイマいちでした。ところが、彼女たちがイギリスで発売した曲はアメリカのアングラ・マーケットに伝わり、逆に評価を受けることになったから皮肉なもの。Go-Go’sがアメリカに帰国する頃にはその知名度が高まっていて、今がチャンスとばかりに曲をリメイクしてアメリカで再リリースするや、瞬く間に大ヒット。ビルボード社の週間チャートで第2位に輝くというガールズ・バンドでは初の快挙を成し遂げました。しかし、その人気の陰でメンバー全員が飲酒やドラッグに依存するようになり、1985年、それらの問題が原因でGo-Go’s は解散。Belinda Carlisle なんかは、自分は麻薬中毒から立ち直るまで30年かかったと語っています。ロックバンドに良くある出来事だとはいえ、恐ろしい話ですよね(汗)。

【第100回】Like A Rolling Stone / Bob Dylan (1965)

Oh, my, my, my, listen man…yeah, I finally made it! 古い洋楽のファンが増えることを願って始めたこのコーナー、遂に100回目となりました!我ながら一人黙々と良く書き続けられたものだと思います。誰も褒めてくれないので自分に拍手!パチ、パチ、パチィー(←ああ、虚しい・笑)。で、100回目の記念すべき回に何の曲を取り上げようかといろいろ考えましたが、最終的にこの曲、ボブ・ディランのLike A Rolling Stone を選びました。別に僕はボブ・ディランのファンでもなんでもないんですけども、この曲がフォークソングと決別したディランによって生み出されたアメリカン・ロックの原点という歴史的評価を得ていることから、ちょうどいいんじゃないかと思って選んでみました(←なんだよ、その安直な理由・笑)。1941年にミネソタ州の小さな地方都市ダルースで生まれたディランの本名はロバート・アレン・ジマーマン。その苗字のとおりユダヤ系です。少年期、ラジオから流れてきたHank Williams の歌声を聞いて感動し歌手を志した彼は、二十歳の時にその夢を叶えるべくニューヨーク市に移住、フォーク歌手として本格的な音楽活動を開始しました。折からの公民権運動やベトナム反戦運動の波に乗ってフォーク歌手として徐々に知られるようになり順風満帆だった彼でしたが、やがてカウンターカルチャーを背負うことが重荷となり、自分のやりたいことをやりたいようにやろうとアコースティック・ギターをエレキ・ギターに持ち替えて発表したのがこのLike A Rolling Stone という曲。結果、フォークのファン層からは裏切者扱いされて総スカンを食らったものの、社会に対して求めているのと同様、すべての面において変革を求めていた層には受け容れられて大ヒットし、その名を歴史に刻み込みました。それがどんな曲だったのか、先ずは歌詞を見ながら聴いてみてください。

Once upon a time you dressed so fine
Threw the bums a dime in your prime, didn’t you?
People call, say "Beware, doll, you’re bound to fall"
You thought they were all a-kiddin’ you
You used to laugh about
Everybody that was hangin’ out
Now you don’t talk so loud
Now you don’t seem so proud
About having to be scrounging your next meal

昔さ、君は着飾って
意気盛んに10セント硬貨を浮浪者に恵んでた、違うかい?
皆が君に言ったよね「お嬢さん、気を付けな、人生を転げ落ちてるぜ」って
君は連中が冗談を言ってるんだと思って
笑ってたものさ
その辺でたむろしてる皆のことをさ
だけど、今は昔と違って目立ったりはしていない
今は誇りがあるようにも見えない
人にたかって施しを受けることなんかしてんだから

How does it feel?
How does it feel
To be without a home
Like a complete unknown
Like a rolling stone?

それってどんな気分なんだい?
それってどんな気分なんだい
帰る場所が無いままでいるってことがだよ
まったく知られることがないかの如く
転がる石ころみたいにさ

Aw, you’ve gone to the finest school all right, Miss Lonely
But ya know ya only used to get juiced in it
Nobody’s ever taught ya how to live out on the street
And now you’re gonna have to get used to it
You say you never compromise
With the mystery tramp, but now you realize
He’s not selling any alibis
As you stare into the vacuum of his eyes
And say, “Do you want to make a deal?"

あぁー、ロンリー嬢、君は確かに最高の学校に通ってた
けど、君は単にそこで浮かれてただけだってことが分かってるんだ
誰も君に現実の社会でどう生きるのかを教えなかったし
今はそれに慣れなくっちゃいけなくなってんだ
君は絶対に妥協しないって言ってたよね
謎めいた放浪者に対してはさ、でも君は分かったんだね
彼は言い訳を売ってはいないって
君は彼の空虚な瞳をじっと見つめ
こう言うのさ「取引しない?」ってね

How does it feel?
How does it feel
To be on your own
With no direction home
A complete unknown
Like a rolling stone?

それってどんな気分なんだい?
それってどんな気分なんだい
帰る場所が無いままに
一人でいることがさ
まったく知られることがないままに
転がる石ころみたいにさ

Aw, you never turned around to see the frowns
On the jugglers and the clowns when they all did tricks for you
Never understood that it ain’t no good
You shouldn’t let other people get your kicks for you
You used to ride on a chrome horse with your diplomat
Who carried on his shoulder a Siamese cat
Ain’t it hard when you discover that
He really wasn’t where it’s at
After he took from you everything he could steal?

あぁー、君は決して振り向かなかった
曲芸師やピエロが芸を披露する時に浮かべる顰め面を見ようとさ
それが良くないことだって君が理解することはなかった
君は他人に君のことを楽しませるようにさせてはいけなかったのさ
君はクロム鍍金の馬に乗ってたものだよね
シャム猫を肩に乗せてる外交官と一緒にね
それって辛くなかったのかな
彼が大した奴じゃなかったって分かった時のことだよ
彼が盗めるものすべてを君から奪った後でね

How does it feel?
How does it feel?
To hang on your own
With no direction home
Like a complete unknown
Like a rolling stone?

それってどんな気分なんだい?
それってどんな気分なんだい
帰る場所が無いままに
一人で耐えることがさ
まったく知られることがないかのように
転がる石ころみたいにさ

Aw, princess on the steeple and all the pretty people
They’re all drinkin’, thinkin’ that they got it made
Exchangin’ all precious gifts
But you’d better take your diamond ring, ya better pawn it, babe
You used to be so amused
At Napoleon in rags, and the language that he used
Go to him now, he calls ya, ya can’t refuse
When ya ain’t got nothin’, you got nothin’ to lose
You’re invisible now, ya got no secrets to conceal

あぁー、尖塔の上の王女も愛らしい人々も
みんなが酒を飲みつつ、うまくやったって思ってる
貴重な贈り物を交換しながらさ
でも、君は君のダイヤの指輪を持って行って質に入れなよ
君は面白がってたもんだよね
襤褸をまとったナポレオンと彼が語っていた言葉をね
彼の所へ行きなよ、君を呼んでるんだ、断ることなんてできないさ
何も持ってない時ってのは、失うものも何も無いのさ
今の君は見えない存在、隠す秘密なんて無いんだよ

How does it feel?
Aw, how does it feel
To be on your own
With no direction home
Like a complete unknown
Like a rolling stone?

それってどんな気分なんだい?
それってどんな気分なんだい
帰る場所が無いままに
一人でいることがさ
まったく知られることがないかのように
転がる石ころみたいにさ

Like a Rolling Stone Lyrics as written by Bob Dylan
Lyrics © Special Rider Music

【解説】
歴史的名曲とされているこのLike a Rolling Stone、歌詞の長さに反して演奏時間が長いですよね(笑)。聴いていただいて分かるとおり、その理由はとてもスローなテンポで歌っているから。曲の終了まで6分以上あり、こんなに長い曲を1965年当時のラジオ局がばんばんオンエアーしたというのは異例のこと。この曲の響きが如何に当時の世間に衝撃を与えるものであったかの裏返しとも言えるでしょう。とは言え、エレキギターとハモンドオルガンが響く独創的なイントロはフォークソングとの決別を示すには十分ですが、ロックと呼べるものではありませんね(←個人の見解です・汗)。ぱっと聴いた限りでは、何か小難しいことを言ってはいるものの、結局のところたいした意味はないという多くの迷曲と同じ匂いを感じますが、果たしてどうなのか?ゆっくりと歌詞を見て行く前に、歌詞を理解する上で役立ちそうな情報を先にまとめておきます。

① ディランはマスゴミのインタビューにしばしば応じていますが、この曲の歌詞の意味に関して直接言及したことは一度もありません。いつものパターンですが、歌詞に込められた真の意味は、本人が自ら語らない限り永遠に分からないままで終わりますね。1970年にディランがリリースしたアルバム「Self Portrait」にギターリストとして参加したRon Cornelius は、彼に歌詞の意味を尋ねたところで「He is not going to tell you anyway ・どうせ教えてくれない」と語っています。

② ディランは雑誌のインタビューで、この曲の歌詞は吐しゃ物vomit として書き連ねたものであり(つまりは、心の中に溜まっていたものを吐き出すように書いたということでしょう)、当初はもっと長い詩であったと発言していたそう(10ページ分あったとも20ページ分あったとも言われています)。そんなにも長い詩だったというのは眉唾ですがね(10ページだなんて、詩と言うよりも、もはや短編小説・笑)。

③ 彼は別のインタビューで、Like a Rolling Stoneの歌詞はHank Williamsが1949年にリリースしたLost Highway という曲の歌詞がヒントになったということを認めていまして、こちらの方はなるほどなと思わせるものがありました。その歌詞がこちらです。

I’m a rolling stone, all alone and lost
For a life of sin, I have paid the cost
When I pass by, all the people say
"Just another boy down the lost highway"

俺は転がる石ころさ、独りぼっちで迷っちまった
俺は罪な生き様の代償を払った
俺が傍を通り過ぎる時、皆が言うのさ
「迷い道を行く少年がまた一人」ってさ

Just a deck of cards and a jug of wine
And a woman’s lies make a life like mine
Oh, the day we met, I went astray
I started rollin’ down that lost highway

トランプ一箱とワインの入った水差しがさ
そして女の嘘がさ、人の生き様を作り出す、俺のみたいなさ
あー、俺たちが会った日、俺は道を踏み外したんだ
俺はこの迷い道を転がり落ち始めたんだ

I was just a lad, nearly twenty-two
Neither good nor bad, just a kid like you
And now I’m lost, too late to pray
Lord, I’ve paid the cost on the lost highway

俺は若かったんだよな、22かそこらだ
善人でも悪人でもなかった、君みたいな子供だったんだ
そして今、俺は迷っちまった、祈るには遅すぎるさ
あー、俺は迷い道の代償を払ったのさ

Now, boys, don’t start your ramblin’ round
On this road of sin or you’re sorrow bound
Take my advice or you’ll curse the day
You started rollin’ down that lost highway

さあ、ガキども、当てもなくぶらぶらし始めるなんてしちゃいけねえ
この罪な道でな、じゃないと悲しみや苦しみから抜け出せねえ
俺の助言を聞くこった、じゃないと後悔することになるんだ
だって、おまえは迷い道を転がり落ち始めてんだ

この歌詞のa rolling stone という言葉のコンセプトとディランのLike a Rolling Stone の歌詞の中のa rolling stone のそれとは完全に一致してますね(笑)。どちらの曲でもa rolling stone という言葉が、人がまっとうな人生から転がり落ちていく姿の比喩として用いられていることに間違いはなさそうです。このLost Highway という曲、実はHank Williams が作詞したのではなく、Leon Payne というカントリーソングを歌う盲目の白人歌手が1948年に書いたもので、Payne の妻は、病床の母親を見舞おうとLeon がカリフォルニアからテキサスへヒッチハイクで向かった際、途中で次の車が見つからずに行き詰まってしまい、最後は救世軍(Salvation Army と名乗っているキリスト教系の宗教団体)に助けられた経験をもとに彼はこの曲を作ったと証言しています。そこから推測するに、誰も車に乗せてくれずその先への道が断たれたことによって生じた絶望感にインスパイアーされてPayne はこのような詩を書いたのかも知れませんね。何はともあれ、自らの浅はかさによって人生を転げ落ちていくというLost Highway のストーリー展開が、ディランのLike a Rolling Stoneの歌詞の基盤と重なっていることに疑いの余地はありません(←基盤に重なっていると言うか、一歩間違えればパクリですよね・笑)。それでは、そんなディランの書いた歌詞を細かく見ていきましょう。

1節目、英語としての難解な部分は見当たりません。2行目のin one’s prime は人の最も充実している時期、活躍している時期、最良の時期といったニュアンス。a dime は以前も解説しましたが、米国では10セント硬貨のこと。3行目のdoll は(美しい)女性に対する呼びかけの言葉です。you’re bound to fall の部分は明らかにPayne の歌詞のrollin’ down にインスパイアーされたものでしょう。4行目のa-kiddin’はat kidding のこと。現在進行形の古い使い方で、Like a Rolling Stone の歌詞には、この曲が作られた頃には普通に使われていたのかも知れないけども今はあまり耳にしないという表現が多く使われています。5、6行目はYou used to laugh about everybody that was hangin’ out でひとつの文。7行目のtalk so loud は直訳すれば「大声で話す」ですが、1、2行目のような彼女が全盛だった頃の振る舞いを考えると「目立つ行い」の比喩のように僕は思いましたのでこう訳しました。8、9行目もNow you don’t seem so proud about having to be scrounging your next meal でひとつの文を構成しています。調子よく浮浪者に小銭を恵んでいた女性が、今は人にたかって施しを受けることを恥ずかしくも思っていないとは穏やかではありませんね。そのことがはっきりするのが2節目のコーラス。Payne の歌詞と決定的に違うのはあまりにも有名になったここの部分で、Payne の歌詞は歌詞の主人公が自分を自分で責めることで終わっていますが、ディランの歌詞では歌詞の主人公に対し第三者の問いかけが入るのです。これはそれぞれの節をしめていく上で非常に効果的な手法ですね。そして、How does it feel?の主語が人でないのはどうしてなんだろうと思った方はスルドいですよ。ここがit であるのは「(人が)感じる」という意味で使われているのではなく「(物事が)~の感じを与える」という意味で使われているからなんです。3行目のa home は普通なら「家」のことですが、ここはホームレスになった状態というよりも自分が帰ることのできる場所、自分の居場所が無い状態、つまり、誰からも見向きもされず、転がる石ころのように自分の居場所さえ失ってしまった(根無し草のように生きている)ということであると僕は理解しました。How does it feel?は、それがどんな気分なのかと尋ねている訳です。どうやら彼女はyou’re bound to fallの言葉どおり、落ちぶれた人間になってしまっているようですね(汗)。

第3節も英語的に難解な部分はありませんが、その歌詞の意味となると訳ワカメ(笑)。1、2行目は(A) all right, but (B) 構文です。「確かにA であるけども(その実は)B である(A と反対の事柄)」という表現方法。Miss Lonely は勿論、Lonely という名の女性に呼びかけているのではなく、孤独な女性に対する例えです。get juiced も今なら「(果物などを)ジュースにする」くらいにしか思いませんが、古いスラングではget drunk と同じ意味。(毎日パーティーなどで)酔っ払うということから転じて「浮かれ気分になる」という意味でも使われていたようです。3行目のthe street は「通り」の意味ですが、ここでは実社会や世間の意味で使われていると考えて良いかと思います。5、6行目はYou say you never compromise with the mystery tramp, but now you realize でひとつの文章。そして、ここでネイティブ話者も含めて誰しもが思うのが「はあ?The mystery tramp?誰ですか、それ?」ってことですね(笑)。the misery trump なら「ああ、あのアホ大統領か」と直ぐに分かりますが「謎めいた放浪者」ではまったく想像がつきません。そこで注目したいのが9行目のDo you want to make a deal?という文(あのアホ大統領もdeal が口癖ですが・笑)。ここから浮かび上がってくるのは「洋楽あるある」のひとつであるゲーテの「ファウスト」の引用である可能性です。「ドクトル・ファウストが悪魔メフィストと契約を交わし、自身の魂と引き換えに現世での幸福を得る」というやつですね。The mystery tramp をその悪魔メフィストだと考えれば、すべての辻褄が合います。つまり、主人公は自らの居場所を失っても尚、悪魔に魂など売らないと踏ん張ってはいたものの(その意味ではまともな人間だった訳で、最初の4行は主人公のその初心さを示していると僕は考えます)、you realize that he’s not selling any alibis(自分が今の自分のように落ちぶれてしまったことに対する言い訳は存在しない)と気付き、その言い訳が欲しいが故に結局は悪魔と妥協する(自ら取引を持ちかける)というのが、この節に関する僕の結論。

第4節は再びコーラスに入りますが、2節目のコーラスの歌詞とは微妙に違っています。第5節はまたまた訳ワカメで理解不能なフレーズのオンパレード。ここの1、2行目もYou never turned around to see the frowns on the jugglers and the clowns when they all did tricks for you がひとつの文で、4行目までの文がひとつの詩節を構成しています。ここでポイントになってくるのは、3行目のit が何を指しているのかであり、このit はnever turned around to see the frowns のことであると僕は理解しました。となると「曲芸師やピエロが芸を披露する時に浮かべる顰め面を見ようと振り向かなかったことは良くないことであった」ということになりますが、それでも尚、何を言わんとしているのかさっぱり分かりません(汗)。なので、第3節のthe mystery tramp 同様、the jugglers and the clowns がいったい誰のことなのかが鍵となってくるのですが、僕の頭に浮かんだのは、彼女を取り巻いていた人々(彼女にへつらい、ご機嫌取りばかりしているような種の人間)の姿であり、そこから、この第5節の前半は「取り巻きからちやほやされることでいい気になって彼らの本性を見よう(考えよう)ともしなかったことは間違いであり、そもそも、他人に自分のことをちやほやさせたり媚びさせたりしてはいけない」という意味が浮かび上がってきて僕の中では一気にクリアーになりました(←あくまでも個人の見解です)。

これでようやく第5節の前半が理解できたと思いきや、それに続く後半は意味不明を通り越していて絶望的な気分になります。Your diplomat who carried on his shoulder a Siamese cat っていったい何者なんですかね。そんな人がバイクに乗ってたらコワいです(笑)。今、バイクと言ったとおり、5行目のa chrome horse はバイクの比喩であることは想像がつきますが(実際、ディランはバイク好きで、1966年に愛車のトライアンフT400 に乗っていた際に転倒、大怪我を負っています)、シャム猫を肩に乗せてる外交官というのはさっぱり分かりません。そこで、先人の皆様の知恵をお借りすべくインターネットで調べてみたところ、これは芸術家のアンディ・ウォーホールのことであるという見解が多勢を占めていました。なぜそんなことになっているのかをさらに調べてみると、アンディ・ウォーホールがこの曲のYour diplomat who carried on his shoulder a Siamese cat の部分を聴いた際「これって僕のことだ」と自ら発言した(自伝に記した)ということがその始まりであったと分かりました。なぜ彼がそう思ったのかと言うと、これにもストーリーがあって、Like a Rolling Stone が世に出る前、ウォーホールはEdie Sedgwick(カリフォルニアの名家に生まれ、ニューヨークで社交界デビューした美しいモデルで、1971年、薬物の過剰摂取で死去。享年28歳)という女性と恋仲にあって、その後、彼女はウォーホールのもとを去ってディランと付き合っていたとされています(ディランはEdie と交際していたことを否定していて、彼女のことは記憶にもないと発言していますが、それが真実なのかどうかは当の二人以外、誰にも分かりません)。当時、ウォーホールは自分の母親と十匹だかのシャム猫と暮らしていて、恐らく彼はHe really wasn’t where it’s at after he took from you everything he could stealとSiamese catの部分を聴いて自分への当て付けだと思ったのでしょう。ここで重要と思えるのは、ウォーホールのこの思い込みが「シャム猫を肩に乗せてる外交官=アンディ・ウォーホール」説の原点となっているという事実であり、ディランがそう言った訳ではないということです。実際のところ、何度この曲を聴いても僕にはシャム猫を肩に乗せてる外交官がウォーホールのことだけを指しているとは思えないし、むしろ僕が感じたのは、ここのバイクに乗っているyou とdiplomat who carried on his shoulder a Siamese cat は、前半に出てきたthe jugglers and the clowns と同じ種の人々のことではないのかということでした。ディランはEdie と交際している途中で、彼の恋人であったモデルのSara Lownds と結婚していて、ディラン自身もHe really wasn’t where it’s at after he took from you everything he could steal に該当する男であった訳ですから(要はウォーホールと同じ穴の貉)、ここのyou はまさしく彼自身のことであり、僕にはこの第5節の後半はディランが自らに向けた自己批判ではないかという気がします。じゃないと、この後半部分が単なるウォーホールに対する嘲笑であるのなら、ディランは自分のことは棚に上げて他人を腐すケツの穴の小さい糞野郎だということになってしまいますからね(笑)。

第6節は再びコーラスに入り、ここも2節目のコーラスの歌詞とは微妙に違っています。そして7節目、またしても意味不明なフレーズの羅列。奇天烈というのはこのような時に使う言葉なのかも知れません(笑)。最初の3行は恐らく、競争社会の中で成功し富を得た人々の比喩でしょう。They’re all drinkin’, thinkin’ that they got it made exchangin’ all precious gifts は、そんな彼らの価値観は金がすべてであり、それで満足しているということの暗喩であると僕は理解しました。そう考えれば、4行目にBut you’d better take your diamond ring, ya better pawn it という文が来ていることが理解できます。you’d better という表現は、事実上の強い命令であり、「君は君のダイヤの指輪を持って行って質に入れろ」なんてことをなぜ強く言っているのかというと、金がすべてと考えるような世界とは決別しろということなのだろうと僕は考えました。4、5行目もYou used to be so amused at Napoleon in rags, and the language that he used でひとつの文ですが、これまた珍妙な表現ですよね(笑)。なぜにここで唐突にナポレオンが登場するのか良く分かりませんが、Napoleon in rags は、かつては権勢を誇っていたのに最後は落ちぶれた(流刑されて襤褸をまとうことになった)ナポレオンのイメージ、即ち、成功者たちの世界、富を持つ人の世界から転落した人々の比喩だと理解。the language that he used は「真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者のことである」とか「死ぬよりも苦しむほうが勇気を必要とする」といった類の彼が残した格言の数々のことではないかと思います。7行目のGo to him now のhim はナポレオンを指していると考えるのが自然。ナポレオンの所へ行けというのは、落ちぶれたとしても、崇高な精神を失うことのない世界で生きろというではないでしょうか。なぜなら、そんな世界で生きることは、You ain’t got nothin’, you got nothin’ to lose. You’re invisible now, you got no secrets to conceal な人間だけに許されるからです(You’re invisible は何もかも失って裸同然の姿であることの比喩ですね)。そして、最後にもう一度、How does it feel? Aw, how does it feel のコーラスが入りますが、2、4、6節目のコーラスではHow does it feel?が嫌味にしか聞こえなかったのに、最後のここでは「(落ちぶれたって、まともな世界で生きることができるのなら)それもいいもんだろ?」というふうに僕には聞こえました(←あくまでも個人の感想です・汗)。

と、Like a Rolling Stone の歌詞を最後まで一通り追ってみた結果、この曲はかつては成功者たちの世界、富を持つ人々の世界にいたものの自分の浅はかさによってそこから転落し、自らの居場所も失って根無し草のように生きる孤独な女性の物語であることは分かりました。が、それ以上に意味があるものでも、それ以下の意味しかないものでもないというのが僕の結論。それと、この歌詞の主人公のキャラクターはEdie Sedgwick をモデルにしていることは間違いなさそうですが、主人公=Edie Sedgwick という訳ではなく、この曲では主人公が女性になってはいても、そこにはディラン自身の姿が投影されているような気がしたということを付け加えておきます(冒頭に紹介した「この曲の歌詞は僕のvomit だ」という彼の言葉を思い出してみてください)。なぜなら、世間から注目され続ける成功者の座を捨て、何も持たず、すべてを無にして自分本来の姿で生きたいと思っていたのは、他でもないディラン自身だったのであろうことは想像に難くないからです。まあ、いずれにせよ、この曲の歌詞が世間で評価されているほどに優れたものだとは僕には思えませんでしたけどね(←最後まで上から目線かよ・笑)。

続きは『洋楽の棚⑪』でお楽しみください!と言いたいところなのですが、取り敢えず100回に到達しましたので、ひとまずここで筆を置くことにしました。継続の要望が多く集まるようであれば再開したいですけどもが、それには何よりも書く時間が必要ですので、皆さんからのカンパをお待ちしております。

河内レオン