今回、傑作選に選んだのはレナード・コーエンという現代詩の詩人であったカナダ人が作詞した曲です(コーエンは後にシンガーソングライターに転向。同じユダヤ系だからなのか、それとも共通の先祖でもいるのか、ダスティン・ホフマンにかなり似てる人ですね・笑)。詩人が書いた歌詞だけあって、流石というか、そのあたりのへっぽこ歌手が書く単純な歌詞とはレベルが違うので、その内容は非常に難解。この曲の歌詞も、どう理解して良いのか大変苦しみました。
【第28回】First We Take Manhattan / Jennifer Warnes
カナダつながりでもう1曲。Bryan Adams 以外のカナダ出身のアーティストで僕の頭に浮かぶ人と言えば、Neil Young、Joni Mitchell、Leonard Cohen くらいですが、今回紹介するのはその中のLeonard Cohenの曲です。と言っても、この曲を歌っているJennifer Warnesはカナダ人ではなくアメリカ人なんですが(汗)。「Jennifer Warnes?誰ですかそれ?」って思った人は、リチャード・ギアが主演した映画「愛と青春の旅立ち」を思い出してみてください。あの映画の主題歌をJoe Cocker とデュエットしていたのが彼女です。Leonard Cohen はシンガーソングライターである以前に本業が詩人という人だけあって(10冊以上の詩集を出版しています)、その歌詞は非常に難解。さてさて、うまく和訳できるでしょうか…。
They sentenced me to twenty years of boredom
For trying to change the system from within
I’m coming now, I’m coming to reward them
First we take Manhattan, then we take Berlin
奴らは僕に20年間に渡って退屈しろって言い渡したんだ
思考回路を内側から変えようとしてさ
僕は今、やつらに報いてやっている、報いてやってるんだ
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ
I’m guided by a signal in the heavens
I’m guided by this birthmark on my skin
I’m guided by the beauty of our weapons
First we take Manhattan, then we take Berlin
僕は天のメッセージに導かれてるんだ
肌にあるアザに導かれてるのさ
武器の美しい輝きに導かれてるんだ
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ
I’d really like to live beside you, baby
I love your body and your spirit and your clothes
But you see that line there moving through the station?
I told you, I told you, told you, I was one of those
ほんとは君の傍で暮らしたいんだよ
君の身体も魂も着てる服も好きなんだ
けど、君には駅を通り抜けてくあの列が見えるだろ?
言ったよね、言ったよね、言ったよね、僕はそのうちの一人だったって
Ah you loved me as a loser, but now you’re worried that I just might win
You know the way to stop me, but you don’t have the discipline
How many nights I prayed for this, to let my work begin
First we take Manhattan, then we take Berlin
君は敗者としての僕が好きだったんだろうけど今は恐れてるよね、僕が勝者になるかもしれないってさ
そんなことだから、分かってても僕を止めることができないのさ
いったい幾晩祈ったかな、僕の仕事を始めさせてくれってさ
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ
I don’t like your fashion business mister
And I don’t like these drugs that keep you thin
I don’t like what happened to my sister
First we take Manhattan, then we take Berlin
I’d really like to live beside you, baby …
僕は流行りの服を追うような君の仕事は嫌いなんだ
ドラッグで痩せた身体を保とうなんてすることもさ
僕の妹に起きてることが嫌なんだ
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ
ほんとは君の傍で暮らしたいんだけどね
And I thank you for those items that you sent me
The monkey and the plywood violin
I practiced every night, now I’m ready
First we take Manhattan, then we take Berlin
君が送ってくれたものには感謝してるよ
猿とベニヤ板のバイオリンのことさ
毎晩練習もしたし、今や準備は万全だ
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ
I am guided
僕は導かれてるんだものね
Ah remember me, I used to live for music
Remember me, I brought your groceries in
Well it’s Father’s Day and everybody’s wounded
First we take Manhattan, then we take Berlin
あー、僕のことを覚えてるかい、音楽の道で生きてた僕を
覚えてるかい、食料品をせっせと運び込んでた僕をさ
さあ、父の日だ、皆が傷ついてるね
僕らは最初にマンハッタンをやっつける、その次はベルリンさ
First We Take Manhattan Lyrics as written by Leonard Cohen
Lyrics © Universal Music Publishing Group, Sony/ATV Music Publishing LLC
【解説】
Leonard Cohen の歌詞、如何でしたか?やはり詩人の書くそれは、そのあたりのへっぽこロックスターが書くようなクサい歌詞とはレベルが違うと言わざるを得ないですよね(笑)。英語で読んでも日本語で読んでも何が言いたいのかよく分からないこの曲の歌詞ですが、Cohen はそれを理解する為の最高の手掛かりを残してくれていました。インタビューでこの曲の歌詞について尋ねられた彼が「I think it means exactly what it says. It is a terrorist song. I think it’s a response to terrorism. There’s something about terrorism that I’ve always admired」と答えていたという事実がそれです。彼のこの言葉に偽りがないのであれば、この曲はテロリストの歌ということになります(汗)。実際、この曲のイントロには緊迫した感じの口調のドイツ語のアナウンスみたいなものが入ってまして、ドイツ語はほとんど分からないので確かなことは言えませんが、聞き取れたin Berlin やAnschlag, Polizei といった言葉から想像するに「ベルリンで起きたテロで警察がなんちゃらかんちゃら」と言っているみたいなんです。やはり、この歌はテロリストの歌で間違いなさそうですね(但し、コーエンの真意はテロリズムをadmire しているのではなく、テロリズムの「決して妥協はしない」という基本原理をadmire しているということのようですが)。実のところ、この曲の歌詞の構文は英語として難しい部分はありません。なので、今回は英語の解説ではなく、英語歌詞の裏に潜む意味を中心に紐解いていきたいと思います(←で、できるかな・汗)。
先ず第1節のThey sentenced me to twenty years of boredom というフレーズを聞いて僕の中に思い浮かんだのは、男(女かもしれませんが、ここでは男とします)が裁判で20年の刑を言い渡されている姿です。For trying to change the system from within は和訳のとおりで、この最初の2行は、独房で20年間、退屈な日々を送らなければならないし、その間に権力者は受刑者を洗脳する気だということの比喩でしょう。3行目のI’m coming now, I’m coming to reward themは、刑務所にぶち込まれてるのに、ぶち込んだ相手をreward するというのは矛盾しているようにも思えますが、reward には犯人を捕らえた人への褒賞金という意味もありますので、男が自らの体で権力者に報奨金を払っている(自由を奪われるという代償を払っている)と考えれば納得できます。男が刑を言い渡した権力者に仕返しに向かっていると取れなくもないですが、収監中の男にはそのようなことはできないので話の整合性が取れません。4行目のFirst we take Manhattan, then we take Berlin はこの曲の歌詞の最大の難関です。この難関を突破するには、この歌詞が書かれた1986年に目を向けなければならないでしょう。その当時はまだソ連邦が崩壊しておらず、ベルリンの壁も取り払われていない東西冷戦の時代でした。そんな時代背景を頭に入れた上で、資本主義経済の中心地であるニューヨークのマンハッタンを資本主義のシンボル、壁で東西を強制的に分断した共産主義のシンボルをベルリンと考えれば、このフレーズが当時の世界を支配していた二大勢力(権力)である資本主義と共産主義への敵意と理解できます。ここの主語がwe になっているのは、前述のとおり男は収監されていてもはや何もできないが、志を共にする同志たちがそれをやるだろうということではないでしょうか。この後、僕は最後まで一気に歌詞を聴いてみましたが、僕の達した結論は、第2節以降は男が自らの行動によって20年の刑を受けるに至るまでの回想であるということでしたので、その結論を前提に話を進めます。
第2節は和訳のとおりで、男を行動へと向かわせた要因の比喩であるとしか考えられません。I’m guided by this birthmark on my skin のbirthmark はその綴りのとおり、生まれた時からある印であり、同時に生まれる前から自らの体に与えられた印であって、何者も変えることができないものです。そこから考えると、この単語が「運命」といったものの代替語として使われているのではないかと推測できます。I’m guided by the beauty of our weapons のweapons も、Armed with logic(理論武装)ってな言葉もあるように、銃器といった実際の武器だけでなく思想なども含めた包括的な武器を意味しているのではないでしょうか。第3節では、I’d really like to live beside you, baby, I love your body and your spirit and your clothes という言葉が唐突に出てきますが、これはテロリスト(ここで言うテロリストは、自らの信念に従って行動を起こす人という意味でです)になってしまった男が、ほんとは元の暮らしに戻りたいということを言っているのではないかと思いました。また、この曲の歌詞に出てくるyouは二人称としてのyouではなく、対象を限定しない一般人称としてのyou でしょう。そう考えれば、後に続いているBut you see that line there moving through the station? I told you, I told you, told you, I was one of those もしっくりときます。テロリストになる前は、男も通勤で駅へと向かうようなごく普通の人間の一人であったということです。4節目もかなり難解ですが、you loved me as a loser, but now you’re worried that I just might win から僕の目に浮かんだのは、自らの信念に従って行動を起こそうとしている男を、そんなことできる訳ないだろうと高を括っていた周囲の人間たちの姿で、You know the way to stop me, but you don’t have the discipline は、直訳すれば「君は僕を止めるやり方が分かってるけど、僕を律する気はない」ですが、男をみくびっていたせいで止めることができないということを対義語的に言っているのではないかと思いましたので、このような訳にしました。How many nights I prayed for this, to let my work begin も同じく反義で、本当は止めて欲しかったという男の心情を表しているのではないでしょうか。
第5節の1行目から3行目のフレーズも、なぜこのような言葉がここで出てくるのかという唐突感が否めませんが、資本主義の恥部のひとつである行き過ぎた商業主義を批判しているということ以外の答えが僕には思い付きませんでした。男は行き過ぎた商業主義のひとつの例としてファッション・ビジネスを引き合いに出しているのであり、そのビジネスの広告塔であるモデル女性たちが、自らの価値(痩せた身体)を維持する為にドラッグに走っているなんて言語道断だということではないかと思います。I don’t like what happened to my sister は、そんなことが身近なところでたくさん起こっているということの比喩でしょう。第6節でも意味不明なフレーズが続きます。1行目はまあ良しとして、2行目のThe monkey and the plywood violin っていったい何のことなんでしょう?僕には皆目見当もつかず、いろいろと調べてみた結果、どうも東欧のジプシーのことを言っているのではないかということが分かりました。中世の東欧では、猿や熊を安物のバイオリンの音色に合わせて踊らせることで見世物にして生活の糧を得ていたジプシーが存在していたようで、ここのThe monkey and the plywood violin は「商売の道具」という言葉に入れ替えることができるのではないかというのが僕の結論です。つまり、友が送ってきたitemsというのは、テロで使う道具であったのでしょう。それがライフルや拳銃などの銃器だったのか爆弾の材料だったのか何だったのかは分かりませんが、男はその扱い方の訓練を繰り返し準備完了となった。そう考えれば、ここの節はすべてクリアーになりませんか?そして、最後の節で男はRemember me, I used to live for music, Remember me, I brought your groceries inと、自分が普通の人間の一人であったことを覚えておいてくれと言い残し、ついに行動に移ります。男が選んだのは父の日(家長優位的な社会への挑戦であったのかもしれません)、銃を乱射したのか爆弾を爆発させたのかは分かりませんが、多くの人が怪我をすることeverybody’s wounded となりました。そして、男は逮捕され裁判で判決を受けることになります。それが第1節の最初に述べられていることではないかというのが僕の考えです。以上、何だかミステリー小説の謎解きみたいになってしまいましたが、皆さん、楽しんでいただけましたか?(汗)。
このFirst We Take Manhattan という曲は、Jennifer Warnes のFamous Blue Raincoat というアルバムに収録されています(曲はすべてLeonard Cohen が作詞)。このアルバムの完成度は非常に高く、他にも素晴らしい曲がこれでもかというほどに詰め込まれてますので、聴いたことがないという方はこれを機に是非とも彼女の美しい歌声を聴いてみてください。聴いて絶対に損はないです。僕がこれだけ言うんですから(←しつこいぞ・笑)。
本ホームぺージ内の『洋楽の棚』では100曲以上の洋楽の名曲を紹介していますので、興味のある方は覗いてみてください!